第5話 サウンド・コントローラー
『サウンド・コントローラー』って言ってたよなこのジジイ今。サウンドって言ったら、音か? 音なのか? 音を使うのか?
未知のコントローラーに若干弱気になった俺は、一歩、また一歩とネグロ王から遠退いて行く。
「何をしている? もう戦いは始まっているんだぞ」
「知ってるよ、顔痛いもん凄くな」
マスクマンにも巨漢からも攻撃受けてんだよ。正直ジジイ相手でもしんどいだろうぜぃ。
このジジイ、コントローラーの能力効くよな? でも範囲内にシルフォやココアが居るとそいつらまで巻き込んじまう可能性あるからなぁ。
巻き込めない理由はただ一つで、マスクマンが居るからだ。ビジョン・コントローラーが効かない奴は時間を止めても行動出来る。シルフォがやられちまう。
何か便利な機能ねぇかな。例えば特定の人物は俺のコントローラーの能力範囲から外せるとかさ。流石に無いか。
だとしたら、俺不利なの変わってなくね? 《サシルベ・ブレード》しか使えねーよ。
俺はサウンド・コントローラーに因って王様が身に付ける様なマントが装着されたネグロ王を睨んだ。
「シルフォ頼む! なるべく早く決着つけてくれ!」
「ん? まあ出来るだけ早めに終わらせるつもりだが、何故だ?」
「コントローラー使ったらお前らやられちまうから!」
「そ、そうか。よし、努力しよう」
「ありがとよ!」
「いちいち叫ぶ理由はあるのか? アウドラ」
最後ココアにツッコミを入れられたが、気にすることはない。敵達にも聞こえてしまうがハッキリと伝えたかっただけだ。
ネグロ王のコントローラーの能力はまだ不明だが、音が関係することだけは言わずとも分かる。サウンドだし。
だが、倒せるかどうかと言われれば8割型無理そう。能力使えない上に俺弱いからな。
「なあネグロ王、お前はアシュレイドだろうがよ? 何で王なんかになった。やっぱり俺ら倒すのに有利だから?」
「下らん質問に答えるつもりは毛頭無い」
ネグロ王は俺の質問をハエ叩きで落とした。可哀想な疑問よ。
「ちっ。ま、いいか。とにかくお前を倒すぜ! さあ見せてみろよコントローラーの能力!」
「何か腹が立つ口調だが、望み通り公開処刑といこうか。サウンド・コントローラーのお披露目だ」
「いや俺処刑されたくないからな」
バカじゃね? コイツ、とか考えた俺はネグロ王の攻撃に反応が遅れた。
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パンチとかキックとかスライディングとかの物理攻撃ではなく──掌から放出された見えない音波攻撃だ。
「おわっ! ……と、危ねぇ」
危ないというか、肩に掠ったぞ。俺。何格好つけてるんだよ。
音波攻撃が一つ目の能力ね、了解。さあ後二つ、能力見せてみろよジジイ。なるべく当てようとすんな。
音波攻撃みたいに大気が歪んでいるのが視認出来れば回避も可能なんだが、目で追えないものなら無駄にダメージを負う羽目になるかも知れない。いつでも戦闘に移行出来る体勢でいなきゃな。
次にジジイは拳を強く握り、俺へ突き出した。また音波の類なら、速度と威力が高そうだ。一先ず横に回避して──
「うおぉっ!?」
俺の真横、というかついさっきまで立っていた位置が爆発。思わずきゅってなったぞ。
「ちぃ、反応が早いな」
「お、おうどうだこの野郎」
正直ビビり過ぎて声が震えているが、ジジイがあの攻撃は無効、なんて考えてくれてたら儲けものっつぅか。
「次は逃さん」
寧ろ火ぃ点いちゃいましたね。こりゃシルフォさんが倒し終わる前に俺が倒されちゃってるかも知れないな。
安心しろよジジイ。アウドラ君はあと数秒遅くても当たるよ。モーション分かりにくくしたらきっと避けられないよ。早くしても意味ないからな!
幾度となく突き出される爆発の何かを避け、避け、避けて避けて避けて掠って避けてを繰り返しそろそろ疲れてきた。
「次で終わりだな」
「それをお前が言うのか」
「俺が言っちゃいけないルールでも在るのか?」
「特に無いが、凄くダサいぞ」
「構うもんか。どれかっつったらスーパーボールで小さいの選ぶ派なんだよ」
「いや知らんが」
スーパーボールってさ、子供は誰だって大きめの方が格好良く見えるもんだろ? 上に思えるもんだろ? 俺は小さくていいんだよ。下でいいの。
ネグロ王は更にもう片方の腕も伸ばした。が、今度は突きではないので恐らく別の何がだろう。
伸ばした手を一度密着させて水平に大きく開いた。そして力一杯手と手を合わせた。
鳴り響くクラップ音。勿論ふざけている訳ではない。
「何かヤバい気がするな」
「もう遅いぞ。吹き飛べ」
ネグロ王の自信満々な笑みを目撃し吐き気がした直後、全身の前方が痺れる様な感覚に襲われた。
比喩表現を使うとするならば、全裸に水を叩きつけられた感覚だろうか。痛いだろ?
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「どぉわぁっ!?」
地から足が離れた俺は後方の壁に激突した。何度壁にぶつかればいいんですか痛いんですよめちゃくちゃ!!
そんな俺の無言の怒りを感じもせずに勝ち誇った様に仁王立ちのネグロ王。王様キンタマ殴ったろか。
俺が激突したのに驚いた他の4人から注目を浴びる。あまり見んなよな、たく。
「平気か? アウドラ。無茶をするなよ」
「全然余裕だよ、頭はイテェけどな。あのジジイよくも騙しやがったな?」
ココアは首を傾げたが、実を言うと俺はまだ一つしか能力を受けていない筈だ。三種類の能力全てを喰らったと俺も信じ込んでいたが、そりゃ全部勘違いだ。
最初の音波攻撃は勿論のこと、2回目の爆発も今のクラップ波も全て音波攻撃だ。それだけで様々な攻撃法を見せつけてきやがる。俺が使用不可なのをいいことによ。
ネグロ王の残りの能力は確認出来なかったし予想も出来ない。
だが、音波攻撃は波の周辺が水面の様に揺らめくから進行方向は確認出来る。その上モーションに追いつくのが意外と簡単な為、攻撃のタイミングも予測出来る。
あとは近づくことが可能ならば今の状態では勝機がある。他の能力を使われるまでが勝負だ。
「行くぞジジイ! 冥土の土産に最期まで傍に居てやるよ! なんてな」
「嬉しくもない文句だな。冗談は脳だけにしてくれ」
「脳が冗談なら俺は嘘の塊か何かかおい?」
何はともあれ、ネグロ王が本当にクソなのも俺が周りからしたらアホなことも理解出来た。ジジイは孫が傍に居てくれるだけで幸せなんだろ? 孫代わりになってやるよ。
ただし、自分を葬ろうとしている愛情表現が死神並みに過激な恐怖の孫だけどな。
「行くぞコラ! コントローラーこんなこと出来ねぇか!? 刃にエネルギーを溜めて溜めて~スラッシュ!」
「何を言ってんだ……」
ココアの呆れ気味なツッコミは放っておいて、俺はネグロ王にダッシュして行く。
返答まで暫くかかったコントローラーは、普段通りの愛想の無い棒読みで答えた。
ーーコントローラーにんな機能無いですーー
無いんかいっ! と転げそうになるが、何とか耐え抜いてネグロ王に刃を振り上げていく。
軽めなステップで避け腹に一撃を入れて来たネグロ王を蹴り飛ばして距離を保つ。これは痛い苦しい。
中々やるなジジイこの野郎。
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さてと、共に一撃を受けて均衡状態に……すか。これは中々手強い相手だな。
サウンド・コントローラーの残り二つの能力は何だ? どんなのなんだ。分からない内は迂闊に近づけない。
「何だ? 怖気付いたか」
ネグロ王は眉を寄せて顔を顰める。それに倣って俺も同じ顔をする。
「別に怖気付いてはねぇよ。音波怖ぇけどな。お前のコントローラーの能力が不明だから、派手に立ち回れないってだけだ」
「ふん」
仁王立ちのまま鼻を鳴らしたネグロ王。これは残り二つ能力見せる気無ぇな。
だが、見せる気が無いと分かりゃあ簡単だ。あの音波攻撃さえ避けられれば戦える!
「うっしゃあ!!」
俺はネグロ王の視界から、直線上からわざと外れない様に駆ける。こうすれば音波を緊急回避することが可能だからな!
かと言っても、《サシルベ・ブレード》だけじゃ分が悪い気もする。そこで、一応有るんだよ。時間関係じゃねぇ能力が。
認証音声小さめで頼むぜコントローラー。マスターの指示には従えよ?
「シャドウ・ビジョン」
俺は呟く様に能力をプリーズ。やっぱこれが一番俺に合うぜ。
ーーシャドウ・ビジョン ニンショウシマシターー
「思い切り言ってる!」
普段通りの音声が流れ、もう一人の俺が参上し本体の俺は恐らく周囲からは視認不可能になった。
ただ一人を除いてな。
「今駆けて行っているそいつは偽物だ! 本体は透明になりお前に接近している!」
ビジョン・コントローラーの能力を無効化する怪物マスクマンは、ネグロ王に適切な助言を送る。邪魔しやがって、なんて溜め息も出るが平気だ。俺にも聞こえているんだから進路変更出来んだよ!!
そして! その影は攻撃も出来るからな。ただのダミーじゃねぇ。
「いくぞ俺!」
「ああ」
俺が合図を出し、俺は左からで影は正面からネグロ王に斬りかかる。大抵は挟み討ちされると考えるだろうからこっちが有効だ。
「左だ! 躱せ!」
「ちっ!」
ネグロ王はマスクマンに言われた通り右へ跳び、俺達の斬撃を避ける。あのマスクマンよくそんな余裕あるな。やっぱりシルフォより強かったか?
マスクマンに睨みを利かせていると、前方から不気味な笑い声が聞こえてきた。まるで見透かされている様な、心底気持ちの悪い声だ。
「何笑ってやがるジジイ。気持ち悪いんだよ」
「お前の動き、もうすぐ見切れそうだ」