第3話 異世界コード『Missto』
「不味い」
「なっ……!?」
朝一番、シルフォが作った料理……をいただいたが、この世界の食物は俺には合わず吐き気がする。
レインはそれを踏まえて食べれる料理を作ってくれてたんだけど、シルフォにはムリか。てか変える気無いだろコイツ。そのままだよ。
どうせそんくらい食えるようになれって言うんだろうがお前逆に俺の世界の飯食ってみろよ。吐くと思うぞ。
「折角頑張って作ったんだけどなぁ……」
両頬を膨らませて肩を竦めるシルフォに対し何か悪い気がした俺はやけくそで飯を掻き込んだ。
こりゃ戦う前に死ぬわ。おえぇ……。
それにしても、ユニから渡されたこの新ビジョン・コントローラー見た感じ何も変わってないんだけど。大丈夫なのか?
壊れてなければ大丈夫か。うん。
「そうだシルフォ。誰だっけあのロン毛のノッポ」
「アノムスか?」
「そうそう。あいつ今何処にいる?」
「移動して無ければ広間で寛いでる筈だ」
寛いでるのかよ。おい、世界を救うんだろ? 何やってんだよ。
まあ、俺も今はのんびりしてる様なもんなんだけどな。飯食ってるし。
「サンキュ」
俺はシルフォに皿洗いを頼み、襲いかかる吐き気と眩暈と頭痛に耐えながら広間を目指す。
部屋から数分で着く広間がこんなにも遠く感じる事があろうとは……次からは自分で飯作ろう。
広間に着くと、ブロンドの頭がソファーから突き出ている。
ごめん違う違うはみ出してる。
「アノムス。今良いか?」
「ああアウドラか、どうしたの?」
アノムスが気づいてから俺は隣に座り真剣な顔つきに変わる。
それ程重要な話がしたかった。
「レインは今、まだ見つからないか……?」
俺が元の世界に戻る前、バイブレ・コントローラーの持ち主のヨノギ。そしてその仲間であるチビコートと髑髏杖メガネとの戦闘でレインは崩れた世界に取り残された。
つまり、今彼女がどこに居るか分からずも捜索中なんだ。
先程まで何も気にせず明るく振舞っていたアノムスの瞳は細く真面目になり、ゆっくりとモニターを見つめる。
「残念ながら、ユニの衛星を使ってもレインは見つからない。もしかしたら……もう……」
「そうか……」
レインは見つからず、既に一ヶ月が経っている。
あのまま宛もなく生きていても、のたれ死んでる可能性のが高い。それより先に殺された可能性も。
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最初は一方的なレインの一目惚れから始まり、俺とレインは恋人関係となった。
そうして過ごしていくうちに俺も少しずつレインを好きになっていった。
例え鬼の様な強さでも、容赦の無さでも本当に俺には優しく接してくれて何度も恋心を伝えてくれた。
俺はレインに助けられ生き延び、その代わりにレインはこの世界から消えた。
男として、それで良いのだろうか。自分を『愛してる』と言ってくれた者に助けられてばかりで本当に男と言えるのだろうか。
分からない。だけど、俺はそれじゃ納得出来ない。
絶対に見つけて、今度は俺が救ってやらなきゃ──。
「用事は終わったのか? アウドラ」
「ん、ああ。飯サンキューな、ゲロ不味だけど」
「うるさい!」
あ、久し振りに殴られた気がする。そして久し振りに三回転して倒れた気がする。
コイツ少しも成長しないんだな……身体も。
勿論また殴られたけど、何で脳内読めるのかな? エスパー? お前は忍者だろう。
シルフォ、アノムスとは話したけど、ココアとロプトに話す事なんてねーしな。
後はユーニか。
俺はシルフォと一旦別れ、ユーニの居る部屋へと向かった。相変わらず小っちゃい人が椅子に座ってパソコンと睨めっこをしている。
「ユーニ、新ビジョン・コントローラーの性能について聞きに来たんだけど」
「お、そかそか。悪いね遅れた遅れた~」
いや軽いなおい。早く説明してくれ。
小さき者よ。
「基本性能は前回までと殆ど同じなんだけど、壊れにくくなる様に強固にしといたよ! あとは特に何も」
「殆ど変わってねーじゃねぇか。マジで」
結構ワクワクしてたんだけどなぁ、新なんてついてるからよ。どんな機能増えたのかなってよ。
「忘れてる様だけど、コントローラーの殆どは自然が作り出した物だから私じゃどうしようも無いからね? 直せるっちゃ直せるけど」
直せるのも充分凄いけど、そうか忘れてたわ悪い悪い。これ自然の物かぁ~。全然そうは見えないんだけどな。
コントローラーが自然の物って何だよ。
「簡単に言うと魔法少女の変身アイテムとか」
「マジで? 俺魔法少女だったの? いやいやいや」
誰もそうとは言ってない、と睨まれた。どんだけ嫌なんだよ俺が魔法少女になるの。
俺も嫌だわ。気持ち悪い。
しかも戦うメンバーに魔法少女が似合う見た目と性格してんの一切居ねえから。全部ゴリラだから。
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「じゃあまたな。何か出来たら教えてくれ」
「あ、もう出来たよ」
「お、マジで?」
「新作ラーメン」
……この世界にもラーメンが有るとは驚きだ。
食文化っつうか食物自体が少しも似てないのに。キャベツがナメクジみてぇなのに。
ちょっとだけ気になったから作ってもらったら、案の定異物が出来上がった。
これはラーメンではない。どれかって言ったらミミズ大行進。
食欲が一瞬で失せました。
今日は良く吐き気するなぁ。大丈夫かなぁ。
「おや、アウドラじゃないか。ユーニと話していたのか?」
「ん? ああ」
部屋を出たところでエプロン姿のココアと遭遇した。何でエプロン? リーダーにでも料理作るの?
な訳無いか、ココアはココアしか作れないもんね。
……そうだっけ?
「丁度いい、お前の世界に存在するというはんばーぐなるものを作ってみたぞ。食べてくれ」
いやいやいや、この世界の食材でハンバーグ作っても何が出来るか分かったもんじゃねぇだろ。もしかしたらダンゴムシのサンドが出来るかも知れねぇだろ。
てか何でハンバーグ知ってんの?
拒否しまくってた俺を無視して差し出されたのはお店でよく見かけたハンバーグだった。掌サイズの。
見た目良し、形良し、匂い良し……もしかしたらイケるのか? でも味が良いとは思えん。シルフォので死にかけるし。
「食べろ!」
「無理矢理!?」
あ、美味い。ちゃんとハンバーグの味してる。
見た目も味もしっかりハンバーグになってるけど、そんな食材この世界に有ったっけ?
「ああ、それならお前の世界で色々買って来た。中々美味な物が多くて……う、涎が」
買いに行ってたよこの人。何やってんだ。
ハンバーグ作りたいが為に異世界まで行くなんて驚きだよ本当に。普通の食材使ってくれたのは有難いけど。
──ん? さっき『美味』って言った? 美味かったの? 人によって違うのかな。
レインは元々俺らの世界と同じ物食ってたらしいから分かるけど、ココアまで大丈夫だとはね。
「今度温泉卵買って来てやるよ。お礼に」
「既に食した。アレも美味しい物だったな」
もう食ってたよ。早えよ。何で? どこに異世界で使える硬貨を手に入れてるの?
まさか向こうで働いたとか言わないよね。
「ちゃんと金は払って来たぞ」
「どこの金だよ」
「なぁに、唯の金だ」
意味わからねぇよ。何だ唯の金って。
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なら今度う◯い棒でも買って来てやるか。明太子味のを。俺が嫌いだから。
今日は何か人と良く喋る日だな朝から。めんどくせぇからやめて欲しいんだけど、何人か俺から話しかけてるな。ごめんちゃい。
「ん?」
遠くからシルフォが駆けてくる。あれは広間の方だな。何かあったん?
「行くぞ、ミッションだ!」
ですよね~。
俺はシルフォに連れられ、掌サイズのハンバーグを何個も何個も食べながら歩いた。
皆様、食べ歩きはご遠慮ください。特に俺。
広間に着くとアノムスがやはりモニターの前に立ち、他のメンバーは突っ立っているだけ。俺達が来たの遅いからね。ごめんちゃい。
ん? リーダー思いっきりソファーに座ってんじゃねぇか。
「今回の任務は殆ど全員で出動する。規模がこれまでと比べ物にならないんだ」
確かに今まで行った世界は、何処も端から端までが見渡せる程度しか星のサイズが無かったな。
て事は地球とか並みにデカくて広いって感じか。なるほどね。
だとしたら少数精鋭で行ったら時間かかるしやられる確率も高いわな。
一番強いレインも居なくなっちまったし。
「行かないのは回復や治療が出来るメンバーとユーニ。他は全員出動する。いいね?」
「了解!!」
全員の声が木霊する。うっせぇ。
ていうかよ、モブも一緒に行くんだろ? 出番は全く無いだろうけど。頑張りなさい。知られずに。
「異世界コード『Missto』行くよ!」
ミス……ト? 異世界コードってもっと何か考えて付けられないものなんですかね?
あんだべなとかクロノス・アホやとか変なのばかりだよ。
俺のコードなんかたまなしだぞコノヤロー。
人数は30人ちょっとで、ゲートを多めに三つ開く。
ゲート三つだから一つのゲートで10人出なきゃいけないんだよ、キツイわぁ。
絶対先に行った奴等バレるわぁ。そして後に行った奴等戦闘の途中かも知れんわぁ。
わぁ。
とりあえずゲートを潜り抜けて行くと、そこには活気ある町が……あれ? 町?
珍しく町が在るぞ。お店も有る……つうか、人が居る。
俺らと全然見た目に違いの無い、この世界の住人達がこちらを怪訝そうに見つめる。
そんなに見つめないで。
「おいアノムス! これはどういうことだ……!?」
シルフォも違和感を感じたらしくアノムスへ問いかける。
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何で一般人まで居るんだ!? 今まで人なんて敵しかいなかったのに。アシュレイドに滅ぼされてないのか!?
「見ての通りさ。今回は国が生きている、人間達が生きているんだ。そしてアシュレイドはここの王に成りすまして過ごしている」
国が生きてる……アシュレイドの王に成りすましてるって事は、恐らくここの王は生きていないだろうな。
でも、これってまさかこの住民を巻き込んでまで戦えってのか!? 下手したら世界自体消えちまうのに!?
「おいアノムス、流石にこれじゃ手の出しようがねぇぞ」
ロプトも一般人を巻き込むつもりは無いらしく、集中出来て無い様だ。
でも今上から……降りてきてんのよね、敵。
「らっしゃああああ!!」
「何じゃあああああ!!」
敵の叫びに呼応してやったけど、意味は一切無かった。何せ誰も当たりそうにも無いから。
え? 何がって? 敵のかかと落とし。
「たく、ことの整理も出来てないのによ」
メディカル・コントローラーを握り締め、ロプトがいかにもアホそうなチャラチャラした外見をした敵に向かって行く。
敵だけを倒して周りを巻き込まなければいい────訳じゃなかった。
「侵入者だああああ! 町民よ逃げろおお!! 殺されるぞおおおお!! ここは俺達防衛隊に任せて早く避難しろおおおお!!」
「きゃー!」
「逃げろー! 早く!」
「大変だ! 直ぐに自衛隊を……!!」
「……え? 何? どゆこと?」
パニックを起こしたのは意外にも敵の方だった。マジでどゆこと?
なるべく騒ぎにしたくないんじゃないの? 違うの? 自分で──ちょっと待て、侵入者?
俺が脳内整理に困っていたら、ココアが全員に固まる様に呼びかけた。
「私達を『敵』と認識させて民衆を味方につけるつもりだ。侵入者……間違ってはいないから否定も出来やしない」
あ、つまりこう言う事ね?
実際はアシュレイドが敵なんだけど、一般人はアシュレイドの事を知らないし王が別人だとも気付いてないから容易に操る事が出来ると。
それで一般人が味方に付けば俺達がコソコソしようと見つかれば通報されちまう訳か。
超めんどくせぇな。
こんな時、どうすりゃいいんですか先生。先生ーーーーー!!!
「仕方あるまい、もう周りの目など気にしてられん。ボスの元へ急行だ!」
「やめとけ、それじゃ事実上ここを救った事になっても滅ぼされたも同然なんだ」
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「くっ……!」
シルフォみたいに突っ切って行くのもダメで、ココアも何も思いつかないみたいだし、こりゃマズイね。
レインだったら関係無くアシュレイド倒しに行くんだろうけど、俺らじゃあんなスピードで掻い潜って行けねぇから目の前の敵共を倒さなきゃならない。
倒したその瞬間から俺達はテロリストの様なもの。最悪な状況だね。
──ん? 待てよ、さっきアノムスはこの世界に人が居る事を知ってた。なのに何で誰にも教えなかった?
先に知ってたら俺のコントローラーやシルフォの忍術とかで予防可能だった筈なのに……。
何か、引っかかるんだよなぁアノムスは。
前回の戦いでさえ、中々ダメージを食らわなかったしさ。敵も強い筈なのに。
アノムスの謎はまだまだ深いなあ。後でロプトにでも聞くか。
「……よし、アウドラ、ここら一帯時間を停めろ。そして私達だけ解け」
「了解」
ココアの指令通り時間を停め、一人ずつ味方だけそれを解除していく。
全員の解除が終わると、誰にも触れない様慎重にボスが居るであろうドデカイ建物へ入って行く。今回はバリアーはない様だ。
でも何でボスってこんなデカイ建物に住み着くのかな。
「この世界での任務を終え次第、住民にアシュレイドの存在と俺達の目的を告げよう。それで信じるかは分からないが、言わないよりマシだ」
「そうだな、この世界が崩れないかが心配だが……今はまずボスを倒そう」
流石リーダーだけあってロプトは判断力が有る。俺も実際ちゃんと言った方が良いと思う。
で、シルフォ同様俺も心配なのはこの世界が崩れ去らないかってとこ。
そんな事になったら、アシュレイドとやってる事同じだからな。
王……つまりは世界を支配したアシュレイドが死亡すればこの世界は壊れる。
だけどこの世界は完全には支配されていない。上手く行けば大丈夫。そう信じたい。
レインを裏切る訳には行かないんだ。
建物1階は巨大なコンサートホールの様だが、誰も居ない。ほっとしたわ。
結構しっかりしてるから壊したくないしね、なるべく戦いたくもねぇ。
──と、思ったんだけど甘かった。
「伏せろ!!!」
シルフォの大声に反射する様に床に伏せる他のメンバー。そしてビビってしゃがんだ俺。
めちゃくちゃビビったけど、一瞬不可解な動きをしたシルフォの右手には矢が持たれていた。
向こう側に誰か居るよ? アレは敵さ。
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敵だそうです。来ちゃったよ。コンサートホールの中なのに。
まあ流石に分かるよ。ここをわざと壊して俺らを悪者にしたいって訳だろ? たく。クソだなぁ。
てかだとしたらココアは適任じゃないな。ぶっ放すもんライフル。
「ここは俺の出番かね。よし! ココア先導頼む。皆上へ!」
「分かった。気をつけろよロプト!」
「心配すんなって」
弓矢を使う無表情で無口な敵の相手をするのはリーダー・ロプトらしい。
え、何? 弓矢相手に注射器が何か出来んの? ムリじゃね? ここは俺じゃね? 一人じゃ勝てる気しないけど。
せめて何人か残した方が良いと思うのは俺だけかい?
俺が立ち止まっているとシルフォに右腕を引っ張られ引きずられる。
やめてゴリラ腕千切れるから。
「案ずるな。あの変態はやると言ったら必ずやる。心配無用だ」
「……はいよ」
そんなに認める程なんだな。まあリーダーだし分かるけどさ。
そしてそんなに認めてあげてるんならさ、信頼してあげてるんならさ、せめて変態はやめてあげようよ。
確かに変態なのに偽りは無いんだけどさ、リーダーに多少は華持たせてあげようぜマウンテンゴリラ少女。
……コイツ少女じゃねぇや。
1階に一人ロプトを残し、残りのメンバーは上の階へと上がって行く。
何かさぁ、こんなん有りそうじゃね?
強い奴等が1階毎に待ち構えててさ、強い奴等が一人ずつ残ってってさ、ボス戦前には既に主力が居ないとか。
本当にあったら少しも笑えねーんだけど。ゲームオーバーになるんだけど。
──で、二階にもまた一人確認。今度は薙刀を持ってるっぽいね。
これは俺が相手しちゃダメなパターンだ。
二階は部屋が左右に有って、ど真ん中の細い通路が在るだけ。次の階に行くには敵の背後の階段を登る必要がある。
既に水着衣装に変身したココアが一歩前へ出る。
「私が奴を止めている隙に全員突っ切って行け。先導はシルフォに任せる」
「分かった、行くぞ!」
ココアが巨大ライフルをぶっ放して煙立ち込む中を俺達は突き進み階段を上がって行く。
……ねぇちょっと待って? 既にリーダーとココアちゃん居なくなってんだけど? 大して強くねぇメンバー残ってんだけど? コントローラー持ってんのあと3人なんだけど?
……間違いなく罠にハマってるよねって、もっと早くに言えば良かったかな。
3階の食堂らしき場所にまた一人。
「行け!」




