第1話 本当に2
……まあ、 仕方ねーよな。 俺なんかの事信じてくれる奴の方が珍しいしな。
「嘘じゃねーけど、 信じれなきゃそれでもいい。 俺は数日後また異世界に行って戦う事になる」
俺がソファーから立ち上がると、 母は咄嗟に俺の右腕で掴んで引き止めた。
「私も連れてってくれたら早いんだけどね」
「悪い。 それは無理だし、 そもそもそれを許可するのは俺じゃなくて異世界の連中だ」
ゆっくりと腕から手を退けた母に背を向け、 俺は扉を出て自分の部屋へ向かった。
悪りーな母さん……あんたを絶対に巻き込みたくないってのも有るんだ。
腐っても親だしな。
部屋に行くと、 まるで誰かが漁ったかのように物が散らばっていた。
……そもそも、 俺は荷物を戻した覚えはない。
何故に元在った場所に戻っているのだろう……全て預けていて、 それを母が引き出したとしても置く場所は分からない筈だ。
「やっぱ……異変が有るのは間違いないな」
俺は握っていたホログラムメール器を更に強く握り締めたが、 俺の力では壊れないようだ。
石なんか軽く壊すほど怪力の俺の力でも──。
俺が一応母に確認するため1度部屋から出ると、 家の外から違和感を感じた──間違いない、 アシュレイドと同じ禍々しい気配だ。
でも俺は今戦うには力不足……こーゆー時の為のメール器だよな。
「母さん、 外には一切姿を見せないでくれ。ちょっと行ってくる」
人質に取られたりしたら面倒なので念入りに母に言うと、 俺は玄関に向かった。
──外に出ると、 カラスを数匹従えたアシュレイドと思われる人間みたいだがこの世界では化け物の部類に入る男が居た。
「自信が有るようだな。 怖気付かず出てくるとは」
「いや、 どーせ隠れてるならこの方が家壊されなくていいやと思ってな」
俺は上着のポケットに両手を突っ込むという明らかにやる気のないポーズをして何とか時間稼ぎを企んだ──が、 相手の男はカラスを指で指示し、 宙に羽ばたかせた。
さしずめカラス・コントローラーと言ったところだろうが、 コントローラー自体が見当たらないので自身の能力なんだろうという事が想像ついた。
でも何でカラスを選んでしまったんだろう……もっと良いのが有る筈だけどなぁ……。
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因みに背後の家のカーテンがほんの少しだけ開いた事を、 俺も相手も気付かなかった。
「コントローラーを……渡してもらおうか」
男は右手を力を入れず俺に向けると、 カラス達を一斉に突進させて来た。
俺はカラスを殴るだの蹴るだの避けるだのして全て回避し、 家の前の塀に飛び乗った。
「残念ながら今俺は持ってないんだよ。 ぶっ壊れちまってな」
「つまらん嘘だな」
男は信じようともせずにカラス達を再び浮かせ、 投げる様な動作をしてカラス達を突っ込ませる──おいおい、 カラス達が可哀相だぞそれ。
休ませてやれよ、 一応打撃食らってるんだからさ。
俺はカラス達に申し訳無いとも思いながら1羽1羽踏んで戦闘不能にして行った──が、 男は無理矢理にでもカラスを動かし始める。
流石に俺は胸が痛んで、 その男に対し憎しみが生まれてきた。
「お前……分かってたけどクソだな……! 」
「知るか。 使える物はとことん使ってこそだろ」
感情の籠る事の無い真顔で答える奴に対して猛烈な怒りが込み上げ、 変身してないままの姿で無謀にも俺は飛びかかって行った。
──本当に、 命を何だと思ってやがんだ……元の世界をくだらねぇと思っていた俺でも、 命を粗末に扱おうなんて思った事は1度も無ぇ。
俺は突っ込んでいる途中、 カラス達の攻撃をまともに受け到達する前に倒れてしまった。
「……変身をしないとは、 もしや本当にコントローラーを所持していないのか」
「だからそう言ってんだろ」
「なら用はない、 消えろ」
男が掌を向けて来ると、 口から血を出し羽は折れ、 震えているカラス達が俺に嘴を向ける。
何とも痛々しい景色だ……。
カラス達を避けたらカラス達はお互いにぶつかり地面にぶつかり死んでしまうかも知れない。 だから俺は避ける事を諦めた。
──信頼出来る仲間が来る事を信じて。
カラス達の嘴が弾丸の様に襲いかかって来る。
時間の問題的に、 これらは多少受けなければならないと覚悟した俺は頭のみを必死にガードする。
「はあああああっ!!! 」
カラスの嘴が到達する前に停止した……まるで機能停止したかの様に。
「ぐおっ! 」
そしてアシュレイドの男は後方に吹っ飛んだ。
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──待ってたぜ、 シルフォ。
「アイツが敵か……可哀相に、 動物は大事にするべきだ」
俺は家から出るちょっと前、 母に忠告をする直前までにホログラムメール器でシルフォに助けを要求していた。
そして有り得ない早さで場所を特定し、 シルフォは助けに来てくれた。
ある意味怖い。 早いよ、 助かったけど。
てかシノビ・コントローラーの露出って、 脚フェチの人には嬉しいかもな。
綺麗にすらっと伸びたシルフォの生脚は丸見えだ。
別に俺は何とも思わないんだけどな。
「アウドラ、 久しぶりだ。 会えて嬉しいぞ。 ……それにしてもここがお前の世界か、 本当に廃化している様だな」
「ああ、 だろ? 元はこんなんじゃ無かったんだぞ」
まあ、 仲間に会えたのは嬉しい事なんだろうけど、 久しぶりっちゃ久しぶりでもたったの2週間だぜ? そんな感動する事では無いだろ。
めっちゃ笑顔だけど……何かシルフォと思えないくらい笑顔だけど、 俺が居ない間何か良い事でも有ったのか?
「……何だそのコントローラーは。 見た事も無い程歪だな」
「いや額当て」
「ユニの作成した物だからな」
相手が苦しみながら真剣に問うて来ても俺とシルフォは適当に無表情で答える。
もしかして今の俺達めちゃめちゃ腹立つんじゃないでしょうか。
顔が。
男が手を翳そうとした瞬間にシルフォはクナイを手に取り、 それを勢い良く平行に並べて投げつけた。
それは逃げ遅れた男の両足首に刺さり、 お馴染みの青い血が少量出てきた。
いつ見ても気持ちが悪い。
「逃がさん。 アウドラに攻撃した罪と、 動物を粗末に扱った罪だ」
俺に攻撃しただけで殺生を決められる罪に問われる事に陥るなんてそんな馬鹿げた話が有ってたまるものか。
それと貴女以前の戦いでカンガルーなんだかライオンなんだか兎なんだかよく分かんねーもん惨殺したでしょ。
まあアレは敵だけど。死ぬ前にアハアって言ってた奴だけど。 カンガロンだけど。
……あ、 シルフォが冷めた目で見て来てる。
「見てろアウドラ、 瞬殺してやる」
その台詞、 下手したら俺に言ってる様に聞こえるよね、 恐ろしいね。
よく考えて言葉選んでパンチラクイーン。
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「やられるか……!! 」
とうとうカラスを使う事を辞め、 持っていた1本の刀を構え、 走ってくる型は何とも滑稽だ。
これを運動神経が悪いって言うんだろうな……カラスばっかに頼ってるから身体が鈍っていくんだよ。
ほら見て、 シルフォは可哀相って顔でお前の事見てるから。
シルフォと俺はカラス男の攻撃を軽めに避け、 俺は足掛けをし、 めっちゃ普通に転ばせた。 だせぇ。
そしてシルフォは立ち上がらない様に地に顔を押し付け、 そのまま短刀で首を切りつけた。
うわぁ……何て言うか、 グロい、 惨い。
「よし、 終わったな」
「……そうだな」
命を大切に……なんて戦いお互いを殺し合う俺達が言えたもんじゃないんだろうけど、 何と言うか少しも躊躇いが無いのは多分俺とは別なんだと思う。
そんな普通に殺そうなんて思えねーもん、 俺。
そんな青い血を浴びて普通に居られねーもん、 俺。
……相変わらず俺の仲間達はやる事なす事に躊躇いが無く恐ろしい。
「アウドラ、 今のが敵でその娘が仲間? 」
「ああ、 そうだ……って何で出てきてんだよ!! 」
俺とシルフォでこれまでのあらすじ的なのを納得するまで教え、 説得した。
……が、 俺の母は信じてくれたにも関わらずシルフォの格好で吹き出した。
破廉恥……だってさ。 シルフォが涙目だよ。
お願いだから俺の親は殺さないでね。 謝るからさ。
「アウドラ、 お前はまだこっちに残ると良い。 コントローラーが直り次第呼ぶ」
「ああ、 助けてくれてサンキューな」
「ふっ、 仲間の為だ。 気にするな」
シルフォの笑みは殺す時の楽しんだ顔でも無く、 俺に会った時の満面の笑みでも無く、 包み込む様な柔らかな笑顔だった。
この笑顔を見ると、 この世界が削れた事やレインが行方不明になった事へと気持ちがほんの少しだけでも緩んでくれる。
本当にありがたい事だ。
「お母様、 貴女はまだこちらに関わってはなりません。 ですから、 この事についてはなるべく表に出さぬ様にして頂きたい。 良いですか? 」
「うん、 いいよ」
シルフォの問いかけにいつも通り軽く答えるうちの母は、 多少緊張しているのか身体が強張っていた。
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……まあ、 息子がこんな血まみれじゃ色々とおっかねーもんな。 分かるよ。
シルフォが帰った後、 俺はリビングで母に今までの戦いの大まかな説明、俺がいつビジョン・コントローラーを手にしたかを説明した。
そんな事も有るもんだねぇと染み染みと納得する母を見て、 俺は色々と心配になったがそれは心の中でだけにした。
「実はこの世界も、異変が起きてるんだ。 元在った店が無くなり、 建物はボロくなっているんだよ」
俺がそう言うと、 かなり驚いた表情で固まる母。
やはり普段過ごしてたのと変わらないと言うが、 それこそが記憶まで書き換えられたのかも知れないと俺は仮説を言った。
流石に納得したが、 やはり現実で考えると理解に苦労する内容な為、 暫く母は上の空だった。
──でも数分後にはテレビを見てポテトチップスを頬張っていた。 何なんだ、 軽すぎだろ。
俺は部屋に戻ると、 ふと消えたレインの事を思い出してしまった。
初めて会った時は無愛想な感じだったんだが、 そん時から俺を徐々に好きになって行ったらしく、 料理の作り方も教えてくれた。
戦闘では俺を助けてくれたりとかなり役に立つのが分かってたし、 俺だけじゃなくてビワ国にとっても彼女が居なくなる事は大損害とも言えるだろう。
何たって、 最強の戦士だったんだから……。
「レイン……」
いつからか俺も、 色々と有ってレインに好意を持ったがそれが恋愛方面のものなのか、 信頼の方なのか、 友人としてなのかはよく分かっていなかった。
何故なら、 俺が恋愛方面としてレインを好きになるきっかけが思い当たらないからだ。
なのに恋人になった、 と言うのがレイン自体に知られたら悲しませてしまうんじゃないかと思って言えなかったんだ。
でも俺はどの方面か分からないだけで確実に好意を持っている……それだけでも、 その心だけでも届いてくれたら良い。
他の事は後からちゃんと考える事にした。
だから、 早く見つけ出す──。
本当の事を、 いつか伝える。
レインにも、 母にも……全部俺の本心を伝えるんだ。
──俺がこの世界に滞在するまで、 あと約2週間程度。
更なる出会いが俺を待ち受ける……って訳じゃないけどね。




