最終話 恋人の消えた世界に。
……朝だ、 起きなきゃ。
でも怠い、 いや体調が悪い訳ではないんだけど身体中が怪我で痛いしどうしても気分がすぐれない。
「……とりあえずココアの部屋にでも行くか」
前回、 ヨノギ達との戦いから18時間経っていて今は朝の5時だ。
俺は帰ってすぐ疲れてたのか、 寝てしまってその間の記憶は無い……いや、 単に寝たかったんだろうな。
ココアの部屋の前に着いた俺はロプトが居ない事を確認してノックし、 許可が出たので入った。
「アウドラおはよう。 傷は癒えたか? 」
「癒えたら化け物」
ココアは着物に似た服を着ており、 何を考えているのかその様な着方なのか肩を露出している。
お前が女なら結構眼福だぞ──俺は変態か。
俺はリビングに似た大きな部屋のソファに勝手に座り、 肘を置いて拳に頬を置いた。
「……何か聞く事が有るんだろう? 」
「首大丈夫か? 」
……何か聞いたら殴られた、 何で? 俺は思った事を聞いただけなんだけどなぁ。
まあ、 本当に聞きたい事が分かってるんだろうな。
「レインはどこだ……? 」
俺がそう聞くと、 やはり分かっていたのか顔色1つ変えずにココアはもう1つあるソファに座った。
そしてガラスのコップにアイスコーヒーを淹れ始めた。
「彼女は……生きているとは到底思えない。 だが、 死んでるとも思いたくはない状況だ」
要するに『どこにいるか分からない』状況なんだな……やっぱり、 帰って来てないんだな……。
あのまま異世界と共に消えちまったんだよな……。
それより何故俺がシルフォでなくココアの場所へ向かったのかと言うと、 帰って来た直後のシルフォの表情を見るととても穏やかではなかった為危険だと思ったんだ。
「アノムスには聞いたか? まあ言われる事は同じだが」
「そうだアノムス! あいつの事も聞いておきたかったんだ! 」
ココアは眼を丸くしているが、 俺は戦闘中のアノムスの弱さ、 攻撃をしてないのに敵を瞬殺した違和感を話した。
そして必ず戦闘が後半に差し掛かると同時に動き出すという事も。
「……彼は不思議だ、 古くからの知り合いでもある私からも何とも言えないくらい掴みどころがない。 同じ人間なのかと疑った事もある」
やはり思う事はあるらしい。
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そりゃそうだ、 あんな不思議な奴を妖しく思わない奴なんて居ないだろう……すんげー失礼だけど。
「まあいつもの事だ、 戦闘中は真面目にやれとよく言い聞かせるよ。 それにアイツは良い奴だ、 私が保証する」
女の子の様な可愛らしい微笑みを見せたココアを見て、 アノムスを本当に信頼してるんだと分かった。
確かに変人ではあるが、 仲間を詮索したくはないしな……ここで止めとくか。
「悪い、 疑ってた訳じゃねーんだ。 気ぃ悪くしないでくれ」
「全然、 そんな事考えてもないよ」
普段のお堅いココアとは別人みたいに優しいけど、 もしかしたらレインを失った悲しみが強いのかもしれない。
又は彼女を失った俺を気にかけてくれているのか。
ココアはコーヒーを飲みながらユーニの所へ行く様に言った。
自分はこれからロプトと出かけるらしく、 ユーニは俺に話があるらしい。
俺は部屋を後にした。
「ユーニ、 何の用だ? 」
研究室に来ると、 ユーニはビジョン・コントローラーをじっくりと見つめている。
「あ、 アウドラ君。 実はコントローラーに異状を発見してね」
「異状? 」
ユーニは俺を別の部屋に案内し、 巨大モニターにパソコンの中の情報を映し出した。
そこにはビジョン・コントローラーの中がCGで描かれている。
「ビジョン・コントローラーは残像を自由に操れるってだけで時間にはあまり強くない事が分かったんだよ」
映像をカーソルでクリックし分かりやすく説明をし始めたユーニだが、 ビジョン・コントローラーが時間では無く残像、 映像などを操作する物だとはもう理解している。
今更言われても意味がない。
「で、 君1回時間を戻ったでしょ。 それでコントローラー負担がかかって機能が停止しちゃったんだ」
「機能が停止!? でも普通に戦えたぞ!? 」
ユーニの説明によると、 コントローラーが停止させた機能とは時間に関するもので、 暫くとんだりする事が不可能らしい。
まあそのくらいで良かった、 殆ど使わないしなそれ。
「と、 いう訳で君一旦帰れ」
「は? 」
は? 帰れと? 元の世界に? 何でわざわざ帰らねーといかねーんだよ。
説明しろそれこそを。おお? こんにゃろう。
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「直るまでここに居たって君に出来る事なんてせいぜい生活面の一部だけだ、 とにかく即刻出て行く様に」
何で直すだけで即行出てかなきゃなんねーんだよ、 理不尽にも程があるだろ、 まるで追い出そうとしてる様にしか……。
……あれ? もしかして追い出そうとしてる? いや、 多分邪魔とかそう言うのじゃなくて、 親達に合わせる為にとか。
「……んな気遣い御免だね、 必要ねーよ。 ここに残る。 例え飯作りとかしか出来なくても逃げる気はねぇ」
俺は強気にユーニを睨みつけたが、 1つダメな事が有る……俺飯も作れねー、 ここの食材じゃ。
レインが作ってくれたからな……。
「あのね、 人の厚意は快く受け取るものだよ? 出てけ」
「出てかねー」
俺とユーニは暫く口論を続けた──ただ『出てけ』『出てかねー』を言い続けただけだけどな。
お互い引く事は無い、 俺がこいつらだけに任せて1人逃げる訳には行かねー。
母親の事は勿論色んな意味で心配だしレインの事もとても悲しくて辛い。
だけど、 それはコイツらも同じ筈なんだ、 俺だけが逃げてたまるかよ……!
「アウドラ君……頑固だね。 いい? これは命令だよ、 出て行け!! 」
「……!! 」
俺は普段のガキっぽさを無くし身長は低くても歳上の人間らしく威圧してきたユーニにたじろいだ。
……そんなに消えて欲しいか、 いや違うよな。
分かってる、 こんな時だからこそ抜けて欲しくは無い事を、 コントローラー保持者が1人居るだけでどれ程心強いかって事も全部分かってる。
それでも心の傷を癒して欲しいって優しさも全部分かってる、 本当にありがたい。
「ユーニ、 ありがとう」
俺は3秒程の間深く深く頭を下げると研究室の中を通過し部屋を出た。
──。
「アウドラ、 よく寝れたか? 」
部屋に戻り荷造りをしようとしたら汗を大量にかいたシルフォがいた、 コイツの事だから負けたとも言える悔しさで1人特訓をしてたんだろう。
俺はここを出て行く事を、 理由を詳しく説明した。
「そうか、 寂しくなるな。 そうだ、 連絡取れるようにしたいんだが……ちょっと待っててくれ」
シルフォが部屋を出ると、 俺はその間にケースを用意して中に適当に要りそうな物を詰め込んだ。
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歯ブラシも着替えも向こうに有るし、 特に何も無いんだけど……あ、 ティッシュは持って行こう、 あの親はティッシュ買わないからな。
俺が荷造りを終え、 ソファで休んでいると先程出て行ったシルフォが黄色い長方形の箱を持って帰って来た。
「ユーニが特別に作ってくれた異世界同士でも繋がるホログラムメール器だ。 片方、 私のアドレスが入っているから受け取ってくれ」
「ああ、 ありがとう」
シルフォは優しい笑みを零した。
でも、 それは嬉しいからなんだろうけどその裏には悲しみの心が隠されてるようにも感じた。
それに、 別れが寂しいのかいつもより近くに居る。
「気をつけろ、 コントローラーが使えないという事は、 アシュレイドの奴等が来ても戦えもしないという事だ」
そうだ、 俺が特に不安なのはそこだ。
もし俺を殺そうと奴等が来ても俺は変身も出来ず戦えないし、 その場には殆ど母が居る筈で共に狙われないかが凄く不安なんだ。
そんな不安を抱えてる事を他の皆もよく分かっている。
「何かあったらすぐ連絡しろ、 例え休養中だとしても貴様を迎えに行ってやる……あ、 間違えた助けに行ってやる」
迎えに来てどうするんだよ……それにしてもコイツ、 最初は台詞噛み噛みで上から目線のメンドクセー奴だと思ってたけど、 今はとても良い奴に思える。
まあ、 実質良い奴なんだろうな。
心配はしてくれるし戦闘中に偶に助けてくれるし。
「シルフォ、 サンキューな。 お前が居てくれて良かったわ」
最初に出会った奴だし偶にコントみたいになるもんな、 主にレインがボケ役だけども。
……ボケが居なくなったトリオはどうなるんだ? 俺がボケ兼用??
俺がまたアホな事を考えてもう既にボケていると、 シルフォは隣で何やら焦っている。
「んんっ、 ああ。 そんな事仲間なら当たり前の事だろう? さあ行け、 私の事は気にしなくていい」
「ああ、 またな」
俺は部屋を出て、 ビワ国で世話になった人間に挨拶をした。
アノムス、 ココア、 エリナさん……そしてロプト。
全員の温かい見送りを受け、 俺はビワ国から元の世界へとゲートを潜り戻って行った……。
久々に町をぶらぶらしてみるか。
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────アウドラがゲートを潜り始めた頃。
「ヨノギ……お前はミッションを失敗したと? 」
正座するヨノギの前で玉座に座り静かな怒りを向ける全身が漆黒の鎧で包まれた男は呆れながら言った。
ヨノギは一応反省はしているのだが、 軽くのんびりとした話し方の所為で全く反省してるように見えず、 説教を喰らっているのだ。
「意外とやるって相手は1人しか居なかったんですけどー、 隙を突かれて逃げられちゃって」
「世界を消してまで帰って来るから全てが上手くいったのかと思ったんだが、 まさかコントローラーも奪われ誰も殺せず帰って来たとはな……」
ヨノギと共に居た『先輩』と呼ばれていた2人は説教をされる事はなかった。
何故ならあの世界での活動を命じられたのはヨノギだけであり、 あの2人はその迎えを任されただけだからだ。
ヨノギは正座を崩して口を尖らせる。
「油断しちゃったんだもーん、 だって倒れてるから世界ごと消えるかと思ってー」
「真面目にしろ、 正座を戻せ」
ヨノギは足が痺れてるらしく彼の言うことを無視し、 とりあえず頭を下げて謝った。
鎧の男は立ち上がりヨノギの額を指で弾き、 無理矢理正座をさせた。
「嫌ああああああ脚がああああああ!!! 」
ヨノギはどんな攻撃を受けた時よりもダメージを受け、 その場に震えながら倒れ込んだ。
とてつもなく脚が痺れているらしい。
「ヨノギ、 次の失敗があればどうなると思う」
「もしかして襲われるとか……? 」
「俺にそんな趣味は無いわ」
鎧の男は再度呆れ、 溜息を吐くと脚が痺れて動けないヨノギを担ぎ、 その部屋を出て行った。
「ビワ国の戦士達か……やはり甘くはないみたいだな。 俺達も手を抜かずに行くか」
アシュレイドの本拠地──それは異世界ビワ国とも更に別の世界に存在し、 そこを知る者はどこにも存在しない。
知った者は即刻排除されるからである──。
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────。
「んあ……朝か。 そろそろ家に向かうかな」
俺は家と全く別の知らない場所に出されてしまい昨日1日中辺りを彷徨った──正直倒れるかと思った。
そのあとは近くの宿に泊まり、 身体を休めて今に至るのだ。
そしてこれから地図を借りて家を目指す、 それよりもまず町を目指す。
……それよりも思う事が有った。
「まだそんな、 1ヶ月経ったかどうかくらいの筈なのに町の雰囲気が変わったように見えるな、 何があったんだ? 」
聳え立っていた超高層ビルは跡形も無く消えており、 幼い頃から通い続けていた駄菓子屋も廃墟のようにボロボロになっている。
町は傷だらけ、 蜘蛛の巣などが大量に有る。
この短期間で何が起こったのか……。
数時間が経ち、 俺は元の家の近くに辿り着いた。
「あ、 母さん」
「あれ? 何でいるの? 」
丁度買い物から帰っていた途中の母親と遭遇したが、 それは無いだろう。
久々の息子に『何でいるの』は酷過ぎやしないですかねぇ、 まるで居ても何も変わり様なかったような。
「なあ、 この世界何があった? 」
俺が周りを見渡しながら聞くと、 母親は少しキョトンとすると、 すぐに理解した様に頷いた。
「あんたはそうか、 異世界に居たんだね。 なら知る訳ないか、 教えるよ」
何か理解のある母親で助かった気もするけど、 もしやコイツ頭おかしくなって帰って来たのか? とか思ってないよな。
大丈夫だよな。
「特に何も無かった」
「マジかよ」
駄菓子屋の事、 ビルの事について聞いてみたが、 どれにも首を傾げて分かってくれない。
もしかしてこの世界が変わった……? 嘘だろ……。
「傷を癒す為に帰って来た筈なのにより一層悩まされる羽目になったぜ皆……」
もはや崩壊寸前の様な町を一周し、 俺は部屋の扉に寄りかかった。
──勿論、 ここが安全と言う訳じゃないのは誰よりも俺が分かっている……。
だからこそ一気に不安が込み上げて来たんだ──。
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そして更なる出会いが俺を再び苦しめて行く──。
第1章 ー 『完』 ー




