第10話 バイブレ・コントローラー2
それより今の攻撃……! どうなってんだ!?
「ヨノギが4人居たぞ……!! 」
「私も、 そう見えた……! 」
俺が疑問を発するとココアが苦しそうに答えた、 喉を押さえているが……もしかしてそんな所に喰らったのか!? 折れちまうよ!!
ココアの口からは少量の血が垂れてきていた。
「振動の能力……? 」
一足先に立ち上がったレインは脳をやってしまったのか、 足が細かく早く震えている。
分かる事は無事では無いという事だ。
それより今言ってたのってまさか、 振動……バイブレ・コントローラーに因るものだったって訳か!?
「せーいか~い! 今のは高速で自分の身体を大きく振動させてまるで4人に増えた様に見せたんだ! 」
ヨノギは正解とでも言う様に拍手をしているが……振動で分身と似た様な事が出来るのか!? スピードならレインとも互角、 またはそれ以上にも出来るって訳か。
相当厄介だぞコイツ……! ガキっぽい癖にコントローラーの事なら熟知してるみてーだ。
それを聞いたココアはまだ喉を押さえたままバックし、 特大ライフルを一旦消した。
そして拳銃程の小さな銃を代わりに装備した。
───────────────────
「こいつ……うるさい」
レインがヨノギに対してより一層引いて睨みつけている。
うん、 確かにうるさいけどお前は我慢という物を覚えろよ、 戦ってる強敵に言う言葉じゃねーからなそれ。
暫くの間ヨノギの笑い声を除けば沈黙が続き、 俺はちらっとアノムスの方を見た。
アノムスは避けてるだけで一切攻撃をしていない、 何の為に戦ってるんだ、 攻撃しなきゃ倒せねーだろが。
「ヨノギ、 お前は罠にはまっている」
「へ? 」
ココアの言葉にその場に居た4人全員が驚いた、 何の罠? いつ罠を張ったのか……と。
ココアは銃のトリガーを引くと、 俺達3人にここから離れるように言い、 ヨノギの周りを撃って逃げられ無いようにした。
「ブラストショット! 」
ココアの掛け声の直後にヨノギの下が盛り上がり、 爆発して噴水の様に炎が上がった。
高さ10mは有る天井まで届く火柱は紅1色で、 華やかとは口が裂けても言えずただの攻撃手段と思えた──いやただの攻撃手段だろうけど。
「凄いね、 どうやったの? 」
「爆発弾を使用して熱鉄を突き上げているんだ、 凄いだろう? 」
火柱を見上げながらレインが問うとココアは自慢気に話した……なるほど、 鉄さえありゃコントロール出来る訳か。
それにしてもココアが炎系の物ばかりを使うのはやっぱ、 水着じゃ寒いからなのかな。
「これで仕留められれば上出来だな」
シルフォは上から物を言うが、 そんなにココアの機嫌を損ねたいのか? ほら見てみ? ココアまた膨れてるよ、 リーダーに写真売ったら高値で買ってくれるんじゃないかな。
「すご~い! 噴水……噴炎だぁっ! ♪ 」
「!!! 」
俺達は火柱の頂上を見て驚愕した……奴は、 ヨノギは噴水の様に上がるマグマに似た炎の上に立っていたのだ。
しかも笑顔で、 無傷で……。
「どうなってんだ! イかれてるぞ! 」
「イかれてるのはあのコントローラーだ……!! 」
元から焦ってた俺とは別に、 少しずつ焦りの色が出て来たシルフォとココア。
そして依然と冷静でいるレイン。
「振動で浮いて……炎を弾き飛ばしてるんだと思う」
レインが冷静に分析すると、 またもや拍手し楽しそうにするヨノギ。
────────────────────
すんごい腹立つのは俺だけか?
「んー……どうしよう」
何かココアがボソッと呟いたな……何か、 さっきより膨れ方が可愛いぞ、 身長高くて美人って何か良いよな──男の娘なんだけど。
……気付かれてたら撃たれる気がする。
火柱が固まると、 ヨノギはそれの天辺を踏んでいる……熱くないのか。
いや、 振動で炎を崩す気だ!
「よーけて! 」
ヨノギは『えいっ』と思いきり右脚を叩きつけると炎柱を四方に飛ばした。
全員それを無我夢中で避ける、 何せ当たったらひとたまりも無いからな。
「まーた掛かったぁ」
「ぐはぁっ!! おえっ! 」
先刻の振動の時と同じく、 今度は炎に耐える俺達を1人ずつ殴り飛ばして行く。
とうとうココアも直撃してしまった。
「ぃぐぅっ……!! 」
……待って、 何か別物に聞こえる……ってのは置いといて、 強烈な一撃を喰らったココアの脇腹は赤くも青くもなっていてとても痛々しい。
内出血に加えて骨も折れてるんじゃないかと恐ろしかった──やっぱそのスーツ、 水着だから防御力無いんじゃねーの?
「うぅ……いっ……っっ!! 」
何か、 ビクンビクン魚みたいに跳ねてるけど、 そんな状態になっちまう程痛いのか? やっぱ骨折れてんじゃねーの? やべーぞおい。
「おっ」
「そんな簡単にやられる訳ないでしょ」
ヨノギの金棒を細い剣で受け止めるレインだが、 必然か剣の刃は砕け散ってしまった。
その後の追撃をレインは飛んで躱す。
「やっぱ君圧倒的に強いね~♪ 楽しめそう! ね、 1対1で1回やらない? 」
「いいよ」
レインは流石に辛いと思ったのかシャイン・コントローラーを出し、 装着。
そして変身した。
「わおっ! ドレス!? 綺麗~」
「……調子狂う」
レインは無言で《シャイニングソード》を出し、 ヨノギの背後に光速で移動する──が、 ヨノギはそれよりも速く空中に飛んでいる。
そして黒く光る金棒を力一杯振り下ろすが、 レインはそれを軽いステップで避ける。
「そんなスピードじゃ蚊も潰せないよ」
「いやぁ蚊は小さいもんね~」
何だろう……バトルは超光速で見にも止まらない速さなのに台詞が凄くどうだってよく聞こえる。
何で蚊の話してんだ。
────────────────────
レインは金棒を受け止めたが力負けして吹っ飛ばされて来た。
受け止めると眉を曲げて不機嫌そうにしている、 劣勢なのが気に食わないみたいだ。
……この作品の女は機嫌が悪いと膨れるのかな、 ヤバいぞ可愛い。 あ、 ココア男だった。
「楽しいね~! 僕本気出しちゃおうかな! 」
「何が楽しいんだよ」
思わずツッコんだけどアイツは気にしてなさそうだ、 てか聞いてなさそうだ。
ヨノギは金棒を天へ向けると、 また目を見開きあの悪魔の様な表情と化し、 笑顔を見せる。
「バイブレクラッシュ」
ヨノギが恐らく技名であろう言葉を口にすると、 再度建物が振動する……が、 これはさっきの数段激しい揺れでもう崩れてしまうんじゃないかと思うくらいだ。
このままじゃ建物が壊れる……!
「はは、 建物だけじゃないよ? この世界、 崩れるかもぉ~。 ちょっと本気出し過ぎちゃって」
「「「「は!!?? 」」」」
世界ごと崩れる!? 嘘だろ!? ……ん? だとしたらコイツの事見逃して逃げた方がいいんじゃね?
俺が考え込んでいると、 それを読んだのかシルフォがチョップして来た。痛いよぉ。
「そんな事してこの世界から脱出させてみろ! 更に脅威となって戦う羽目になるぞ! 」
そっか、 いやだとしたらどうすんだよ、 これ。
世界崩れてる時に俺らここに居たら一緒に滅んじまうんじゃねーのか? それ俺絶対ヤダからな!?
「あと5分以内に、 倒す……! 」
「5分経ったら終わりと考えろ……! 」
ココアとレインは即戦闘態勢となりヨノギに向かって行く。
ヨノギはまるで時間稼ぎでもしている様に2人の連携攻撃を避けている。
「……そうだな、 やるしかないか! 」
シルフォはクナイを浮かせ、 レイン達に当たらない様に飛ばし始め自分自身も突っ込んで行く。
アノムスも漸く倒し終わった様でゆっくり歩いて来る。
おい、 マジかよ。
何で諦めて帰らねーんだよ、 そんなにコントローラーが大事なのかよ? 命は大事じゃねーのかよ!?
そもそもコントローラーをGETした所で帰れないでそのまま消えたら意味無いんじゃねーのかよ!?
お前らは何でそんな必死にそいつと戦ってるんだよ……! 何で逃げないんだよ……!!
「ちくしょう……」
─────────────────────
俺も覚悟を決め、 ヨノギの方へ向かって行くが決して余裕が有る訳でも無く怯えていない訳でもない。
あの強さ、 コントローラーを持つヨノギ相手に5分で勝利奪還は難し過ぎる、 不可能だって分かってる。
だけどコイツらと共に戦わなきゃいけない気がするんだ──例えこの身が消え去る事になるんだとしても、 コイツらが考えてるのはそういう事だと思うから。
「シャドウ・ビジョン! 」
俺はもう1人の自分を出し、 消えながらヨノギに突っ込んで行く。
だが解られているのか見えていない筈の俺の攻撃を軽々と避けるヨノギ。
「いっくよ~! 」
ヨノギは以前見た時の様に高々と金棒を揚げ、 そのまま床を叩き割り振動を全体に響かせる。
この攻撃には未だ慣れず、 やはり隙を突かれ殴り飛ばされてしまった。
痛え、 痛えけどまだアイツらが立ち上がってる……負けてねぇ、 大丈夫……じゃないけど戦える!
俺達は再度立ち上がりヨノギに向かって行く。
「喰らえっ!! 」
「きーかないっ」
ココアの放った火炎弾を振動の力で方向転換させ、 ヨノギが避けた時だった。
「あれ? 誰も死んでねーしヨノギも生きてらぁ」
「!!? 」
崩れた天井から何者かが2人見える、 片方は身長が高くメガネをした目付きの悪い黒髪の男で、 もう片方は小学生レベルに身長が低く金髪がカールした藍色のコートを着た少女だった。
「あ、 先輩達~」
「先輩……!? 」
ヨノギが先輩と言った2人はゆっくりと空飛ぶ絨毯から降り、 俺達の前に着地した。
2人共生気の無い目でこちらを睨んできている、 何かマズい予感がして来た。
「何で崩壊現象が起きてんのかは知らねーけど、 コイツら殺しゃあそのまま帰れるんだな? 」
少女の方がとても良いとは言えない口調でヨノギに問うと、 ヨノギはやはり笑顔で頷いた。
そしてクールで真面目そうなメガネの方が髑髏付きの杖を突き出して来た。
「せっかくだ、 前の御礼と行こう」
前の御礼……? メガネの向く方にはシルフォが居る、 もしかしたら過去に負けた事でも有るのかも知れない。
少女の方は頭を掻き、 首切り包丁の様な巨大な剣を担いだ。
「さーてと、 地獄の3分間……始めようぜビワ……! 」