1 拾った
「モモーっ、あれ何?」
「クレープ」
「あれは何?」
「電動キックボード」
「楽しそう……」
「ほらもう行くよ」
「ねぇねぇ、あれは何?」
あーもう、うるさいな。厄介なの拾っちゃったな。
私はある日、男の人を拾った。
──あれは仕事帰りに、酔っ払って帰っている時のこと。
繁華街に男の人が倒れていた。
ここは飲み屋がたくさんあるから、そんな光景は見慣れていた。こんなことは日常茶飯事だ。
ふと周りを見てみると、誰もこの男の人のことを気にかける者はいなかった。
冷たい世の中だな。ま、普段の私もそうだけど。
いつもならそんなのは放っておくけど、何でかその時はその男の人が気になり近づいた。
「大丈夫ですかぁ?」
私は、酔ってうまく回らない口でそう聞いた。
「……腹……減った……」
「ははっ。それで倒れてんの?」
「死ぬ……」
「わかったわかった。立てる?ラーメン食べ行こっ?」
男の人の腕を引っ張って立ち上がらせると、私は近くにあった町中華へと向かった。
夜なのに周りはガヤガヤとしていた。
今からラブホにでも行きそうなイチャイチャしたカップルや、大学生らしきグループが、路上で飲んで騒いでいた。
お店に着き、注文を済ませる。
店内には、私たち以外にもお客さんがまばらにいた。
悪く言うと、少し小汚いお店。よく言えば昔ながらの雰囲気のあるお店だ。店主も愛想がよく、“うまくて安い”を売りにしている。
彼はテーブルに項垂れ、空腹を必死に耐えているようだった。
薄いピンク色の髪の毛……
今時の男の子だな。
そんなことを思っていると……
「お待たせしましたー」
注文したラーメンが届いた。彼はすぐに箸を手に取り、「なにこれうんまっ」と言いながら食べていた。
そかそか。そりゃよかった。
……にしても、食べるの早いな。
「足りない……」
彼は悲しげな顔をし、スープまで飲み干した器を見ながら、そう呟いた。
「チャーハンと餃子も食べる?」
「食べる」
年は私と同じくらいか、少し下かな?
食べ終わると2人でお店を出た。
さっきから思っていたけど……
「あんたそんなに汚れてどうしたの?」
「……ずっと歩いてたから……」
「それでそんなに汚れるものなの?歩いてるだけなのに?」
「……野宿したり……」
訳ありか?
「うちでシャワーしてく?」
「うん」
私は目の前の汚れた彼を放っておけなかった。
たぶん……酔っていたからだ。
──これがいけなかった。
彼は私の狭いワンルームの部屋に住み着いた。まだ彼を拾って3日目だけど出ていく気配がまったくない。
「ちょっと凛、あんたいつ出ていくの?」
朝からテレビに釘付けになっている凛に、そう聞いた。もちろん優しく聞いているわけではない。
「出ていかない」
「なんでよ。ここ2人で住むような所じゃない」
「僕を拾ったのはモモだろ?出ていかないから」
はぁ……
拾わなきゃよかった。
「もしかして帰る家がないの?」
「……」
「あんた何歳?」
「19」
私の1コ下か……。
「学生?社会人?」
「……どっちでもない」
あー……厄介なの拾っちゃったな……。
「実家に帰るか……それができないなら、とりあえず仕事探しな?私あんたを養うほど稼いでないから」
「仕事……」
「そう、仕事」
「ねぇ、モモ明日休みだろ?街を案内してよ」
「私の話聞いてた?」
「聞いてた聞いてた」
……本当に厄介だ。
ふとスマホに目をやる。
もう行かなきゃ……。
仕事に行く時間になり、私は家を出た。
私はファミリーレストランで働いている。高校生の頃からアルバイトをしていて、卒業するとそのまま社員にしてくれた。役職なんかはない。ただの平社員。
お店に着くと、すぐに制服に着替えた。
イスに座り、スタッフのことを待っていると、バイトの吉野くんが出勤してきた。
「おはよー」
「おはよ。立花さんはいつも早いね」
「鍵、開けなきゃなんないからね」
「ははっ。そりゃそっか」
「今日は早番なんだね」
「うん。授業ないから」
吉野くんは大学生で、普段は遅番に入ることが多い。年は私と同じだ。
「今日飲みに行く?せっかくシフトが一緒だし」
「いや……」
帰らないと。
あいつが家にいるから。
「ごめんね?今日は無理なんだ」
「そっかぁ。残念だな。立花さんと飲むの楽しいからさ」
「私も楽しいよ。でもまた今度ね」
とにかくあいつを家から追い出さないと。
仕事が終わり、家に帰ると……
──鬼がいた……。
教科書で見たことのある鬼だ。
頭からツノが生えている。
濃いピンク色の……。
え……?
コスプレか、なんかなのか?
確か鬼は、200年以上前に全滅したと思われるって学校で習った。興味がなかったからそこまで詳しくは覚えていない。
鬼と言っても見た目は人間にツノが生えた程度だ。肌の色も同じ。
鬼は人間を襲っては食べ物や家を奪い、自分たちの村を作っていたと。それで人間を殺すこともあったと……。
でも我慢の限界を感じていた人間たちは、皆立ち上がり、なんとか勇気を奮い立たせ、鬼たちに立ち向かったのだと、そう学校で習った……と……思う。
人間の方が数が多かったから、鬼の勢力は徐々に弱まり、今ではもう鬼の姿を見ることがないと教えられていた……はず。
まさかね……?
そんなわけ……ないよね……?
目に留めてくださり、ありがとうございます。
これから鬼?と人間の物語が始まります。
温かい目で見守っていただけると、大変ありがたいです。
※のんびり投稿になるかもです。




