トライカー編⑤アパートメント
「ふーむ!ここがナインとわたしのおうちですなー!カランコエがうらやましがりますーなー!」
両手を腰に当てて胸を反らし、ガルデニアは鼻を鳴らす。
商店街から電車を乗り継いで郊外に出て、駅を降りて少し歩いた先にある二階建てのアパートメント。白塗りではあるものの近付くと相応に歴史を感じさせるような見た目だった。
かちゃ、り。
その一階、右端の日陰になっている部屋のドアへ鍵を挿し、自然と左足左肩を引いて、指先の細かな感覚からドアノブにワイヤートラップが無い気配を確かめる。
そ、
指先の表面で撫でるようにドアノブへ軽く摩擦抵抗を加え、振動感知型の爆発物が無いか確かめてゆく。
「ナインは何をやってんだ?」
「時間圧縮…こっちの言葉だと痛覚と連動した体感型のシミュレータですな?ナインは騎士になるまでの訓練過程でざっと57万回ほど死んでおりますゆえ、癖が付いちゃってますなー。」
マチコが質問し、ガルデニアが答えるのを聞きながら、空いた手で2人に下がるよう指示し、そっとドアを開く。
きいぃ。
「限定使用解除申請!─ャ!」
腰のランサーホルスターから黒鉄の鉄芯を引き抜く!
「おどれはあほたれか!」
カコォン!
日々加熱される鉄の加工品、フライパンが「あなた」の頭を叩く!
ぎゃるる!
即座に首を内側に曲げ両膝を抱え込み通路天井、二階側から見れば床に全身をばねのように弾けさせ、跳ねる!
「ぉー、女神ですなー。」
ガルデニアが呑気に挨拶をした。
ずざざ。
「あなた」はその落差に、肩から床へ滑り込んだ。
「んー、悪いがワガハイは女神では無いのじゃ。」
彼女は、どう見ても女神ロータスの…黒髪だった。
「ワガハイは、刹那トラッカーでこの地球に配置された、女神になる前の蓮坂舞、その転写模倣体じゃな。」
彼女は床にキスをした「あなた」の頭を踏む。
「こーんな失礼な者とワガハイのオリジナルはちゅーや結婚までしたのか。」
A、「人がいる気配がしたから。」
B、「もっと踏んで欲しい。」
「あなた」のスマートフォン、アロエが胸ポケットから声を出す。
「舞様、失礼しました。各種のお手続きありがとうございます。」
A、─「んむ、出迎えの準備をしておったが、伝えておらんかったワガハイにも落ち度はある。」
舞は身を屈め、「あなた」を起こす。
「すまんかったの。」
B、─「おーのーれーはー!」彼女の靴下越しのつま先、足指が「あなた」のおでこをぐりぐりといじる!「ありがとうございます!ありがとうございます!」今まで体験した事のない感覚が「あなた」の心を弾ませる!「うわーナインにあたらしー性癖が刻み込まれましたなー。」「これが子持ち亭主のやる事かよ…!」ガルデニアとマチコはドン引きしている。
ぱっぱっ。
「あなた」に付いた汚れを払い、ガルデニアは話を続ける。
「それで、このお部屋に舞ちゃんと3人で住むのですなー?」
「違うぞ。ワガハイはこのアパートメントの大家になるのじゃ。大した事は出来ぬが用があれば声をかけるとよい。」
にゃー。
にー。
白地にグレーの斑点が入った短毛の猫と白の長い毛の猫が舞の肩に飛び乗る。
「ぉー、猫ちゃんたちだー。」
ガルデニアはおじぎをして、
「ほんじつより、こちら様アパートメントに軒先をお借りいたしやす。せんえつながら、おてまえわたしはエルヴィエルナにて産湯につかり、ラプリマにて準ダクトロを拝命いたしやした、ガルデニアと申します。」
選抜騎士寮で見た無声映画の、ナナカマドが弁士として声を当てた挨拶の見よう見まねの挨拶をする。
「はぁ…トモでいいわよ。」
「トモさん喋っちゃだめですよ〜、姫子です〜。」
「これお主ら、一般人も見ておるのに喋りよって。」
「あ、あわあわあわ!猫が喋った!」
マチコが腰を抜かして後ずさる。
ただの一般人である彼女には、ドアを開けてからの一連の流れへの理解が追いついていないだろう。
「あなた」は彼女に手を差し伸べて、「いきなりでごめん、彼女たちはぼく/私の上司みたいなものなんだ。」と伝えた。
「それより、ちょくせつ転写模倣体を送ってくるのはそーとーな理由がありますなー?」
荷物を運びながらガルデニアが声を出した。
「んーむ、今は単に、地球での生活を満喫しに来たと思えばよかろ。それよりほれ。」
舞は「あなた」にチラシを渡す。
「ふむふむ、おー!トライカーの地区予選があるんですなー!」
「ああ、そーいや9月20日に地区大会だ。」
「今日は惑星直列、8月12日じゃからの。まだ時間の余裕もある。ナインも地区大会には出たいじゃろ?」
舞は、面白がるように「あなた」の顔を覗き込む。
手元には散乱したトライカーのパッケージ。このパーツたちは、飛び出す時を待っている。
次の惑星直列、リピニィエーラが迎えに来るのは11月14日。
A、「ガルデニアとのんびり過ごす予定だったんだけど─。」
B、「そこに戦場があるのなら。」
それまで、トライカーに打ち込むのも悪くない。
A、B、─「ふふー、もちろんわたしは、ナインをひとりじめしちゃいますなー!」
ガルデニアが「あなた」に抱き着いて、頭を擦り付ける。
「うおお、これが子持ち人妻ムーブ!」
マチコは、両手を握りしめた。




