醜い逃亡劇
『はぁ……
てめぇ,やっぱり筋金入りのキチガイなんだな
もうちょっと話が通じると思っていたが……』
テリウムはそうやって悪態をつきながら
右拳を強く握り締める
そしたら彼の身体の周りに渦状の炎が
堆うずたかく現れる
『今度はぜってぇ手加減しねぇ』
『嗚呼……
なんかもう面倒くさいので
あなたのお相手は私の部下にしてもらってもいいですか?』
デュプテルスがこう呟いた瞬間,
屋敷の玄関から10数人の男が一斉に乗り込んできた
先ほどまで石畳の道の上にいたデュプテルスの取り巻きたちだ
裾の長すぎる袴を履いており,黒の衣装を身に纏っている
顔並びはみんな全く同じで,
揃って狂人の名を冠するに相応しい顔立ちだ
『それでは〜 これでお暇しますね
私はあの少女の後を追いますね?』
デュプテルスはこう言い残し,身を翻して
書斎を目指し走っていったルナーシュの後を追おうとする
『はぁぁぁぁ!!??
待ちやがれy うおっ……』
テリウムは彼に必死の待ったを掛ける
すると突然
1人の部下の男が瞬きの間にテリウムの目前にまで詰め寄り
手に携えた包丁を彼に振りかざす
テリウムは襲ってきた凶刃を咄嗟の2連続バク宙で華麗に回避した
その激しい動きのせいでテリウムが纏っていた炎はまたもや霧散し
彼は悔しさを顔に滲ませる
『なんだよ…… なんなんだよ!!!
てめぇらは!!
いいさ……かかってこいよ
全員皆殺しだ!!』
『あっはは
それでは頑張ってくださいよ?
さっきも言いましたが私はあの少女を追いかけます?』
デュプテルスは遥か先まで続く長い廊下を
軽快に歩きながらルナーシュの後を追い始めた
『首を洗って待ってろよ!!』
テリウムは背を向け去っていくデュプテルスに
捨て台詞を吐く
彼の後を追おうにも目の前には10数人もの敵が立ちはだかっている
『……さぁ いつでもこいよ雑多ども!!!
俺はてめぇらをさっさと片付けて,
あいつの後を追わねぇといけねぇんだよ!』
テリウムの宣戦布告をしかと受け止めた部下たちは
懐にしまっていた包丁を一挙に取り出して構える
どうやら前回の未来予知で確認できた,全員に突き刺さっていた
包丁のようなものとはあれのことだった
……さて,ここからはこのデュプテルスの部下の男たちを
仮名で”雑多”と呼んでおこう
***
『さぁ 今回は絶対に出し惜しみしねぇ……
スコーチドパーク!!!』
魔法名を叫びながら
身に纏っている炎の渦を掌てのひらの上で1つの塊にまとめ上げ
それを雑多どもに凄まじい速度で放つ
するとテリウム目掛けて一気に襲いかかってきた
雑多どもが炎に包まれ炎上した
『ちゃっちゃかと灰になりやがれ!!』
床に伏して,熱さに悶え苦しむ雑多
それを見下ろしながらテリウムは勢いよく拳を突き上げる
ただ雑多どもの中で1人,燃える服を脱ぎ捨てて鎮火に成功したものがいた
その雑多は上裸のまま包丁を持ち直し
テリウムに襲いかかって来る
『はっ!!!
1人くらい,ちったは頭を使ってくるじゃねぇ……か!!』
テリウムはタイミングを合わせ,
雑多が振りかざしてくる包丁を手刀ではたき落とす
そして空いた腕を掴み,全身の力を込めて背負い投げをした
背中への大きな衝撃に対し声を出さずに悶える雑多,
テリウムはそいつの胸元に跨またがり,馬乗りになる
したらばその雑多に向かって人差し指を刺し
『大人しく燃えといてくれ
……パーク』
そう彼は呟いた
すると人差し指から火の球体が出現し,
仰向けになっている雑多の体内に入っていく
その直後,そいつの体が炎に包まれた
1つ気になる点が……
それは,テリウムはその雑多と体を接しているのに
一切燃え移っていないことだ
まるで炎が意思を持って燃やす対象を指定しているように
『アアアアアァァァァァァァァァァァ
ァァァァ!!!!…………』
業火に焼かれている雑多の悲痛な断末魔が
空気中に蔓延する
やがて,馬乗りになっているもの含めた
全ての雑多が灰になって完全に燃え尽きた
結果、屋敷の絨毯や板材にはノーダメージだった
床にはかつて雑多どもが持っていた
包丁が各所に散乱するのみだ
『ふぅ……
これでてめぇらがお望みの「あの地」、に行けたぞ
……良かったな』
腕についた埃ほこりを手でパッパと払いながら
テリウムは無人の空間にそう呟く
***
『ザザッーーーーーザーザザーー
ザガガッッッッーーーーーーーーーーーーザザッッッ』
突如画面が暗転し
場面が切り替わった
『はぁはあはぁはぁはあはぁはぁ……
も……うお父さんの書斎って……はぁはぁ
どこだっけ?』
果てのないほど続く廊下を急ぎ足で駆けていくのは
片腕を欠損しているルナーシュだ
脇腹にはプラティの死体を抱きかかえている
『待ーーーーーーってくださいよ??
あなた苦しいでしょ??
今楽にしてあげますからちょっと止まってください??』
彼女の遥か後方から甲高い狂気の声が聞こえる
声の正体はどうせエウステノプテロン・デュプテルスでだろう
そしてその声の根源はどんどんとルナーシュにまで接近してくる
次の瞬間,彼女の目の前にデュプテルスが現れた
つい数秒前まで遥か後方にいたのにも関わらずだ
彼は足を地につけてはいなくて
空中に浮いている焦茶色の棒に乗っている
『……は?』
彼女はあまりのショックに崩れ落ち,膝を地面につく
加えてデュプテルスが乗っている焦茶の棒を
怪訝そうに凝視する
『あゝっ……
あなた……これが気になるのですか?
いいでしょう!!
これから死にゆき、「あの地」へと旅立つ
あなたに! 特別に教えてあげましょうか???』
狂気を纏いながらも,デュプテルスはその棒からさっと飛び降りる
身体能力自体は低いのか
ちょっとの着地で膝を痛めているようだ
『では,では,ではではでは……
あなたがどうしてもと言うので!!
私の賜っている天与、「捩」について
ちょびっとだけ話しますね?』
そう言うと彼は腰を屈めて
へたり込んでいるルナーシュに視線を合わせる
『私の「捩」での能力は全部で2つ、
1つ目はあなたも見た通り「遠隔でものを捩ねじる」
これは両手を前に出して空気を捻るような仕草をするのが
不変の発動条件です
そして2つ目は……
「捩ねじったものを自在に操作する」です
捩ったものを消去したり
自由に空中で操作したりもできます
………つまり
私はあなたを追いかける途中で
あなたのお屋敷の扉を少々拝借し
捩って,それに乗って操縦してここまで来た……ってことです?!!!!』
デュプテルスは両手をバッと広げながら,
彼女が抱えている
プラティの亡骸なきがらをじっと見つめる
『でーーはーー……
早速,あなたのためにも実演してみましょうか?』
デュプテルスは両手でものを捻るポーズを取って
『捩れ』と呟いた
能力の対象は……
プラティの亡骸だった
彼女の体が不自然に捩れていき
限界を迎えた彼女の胴体は亡き別れを迎えた
胴が胸を境に真っ二つにされており,
断面からは夥おびただしい量の血が噴き出している
そして2つに分かれた彼女の身体は
抱えていたルナーシュの腕から滑り落ち,地面に落下する
『え……………?』
ルナーシュはプラティを抱えていた左腕を咄嗟に離す
腕を見てみると,
皮膚には暗い赤褐色の血が大量にこびりついていた
『あーあ
可哀想ですね〜??
でーも,これでこの小さな少女は安心して
「あの地」へ旅立つことが出来たし……
結果的に良かったですね???』
デュプテルスはこの世に常在している悪意をありったけ
集めたような声色でケタケタと嗤わらう
『ッッッッッッッッッ
こぉぉぉぉぉろしてやぁぁぁるぅぅぅぅぅ!!!!!』
声にならないほどの憤怒と憎悪を込めて
そうルナーシュはそう叫ぶ
『死ぃぃぃぃね!!!
フル!!アァクアリウム!!!』
そう唱えた瞬間,この一直線の長い長い回廊が
水で満たされた
床から天井までが1つの水の塊によって満たされ
デュプテルスもルナーシュ自身もそれに飲み込まれる
『留まれ!!』
続いてこう叫ぶと,
水が下へと流れ込まずにその場に留まった
まるで水の端に”見えない壁”があるみたいに……
その巨大な水の壁にデュプテルスは為す術なく
ただ酸素を消費し溺れるのみだ
『おぼぼ……
あぁなああたぁぁぁぁぁぁ おぼっっっ』
『そんまま溺れ死ね!!!!!』
ただ唯一、水の魔法の発動者であるルナーシュのみは
窒息も水による抵抗も一切受けずにいる
以上の特性はこの世界の普遍のルールである
なので水属性は密室戦闘に於いて相手を一方的に溺死させられるため
無類の強さを誇っている、とのことだ
『あばばばば……
で……も……
む……だ…………ですね?』
デュプテルスの口の中に大量の水が入り込み上手く発声できていない
ただその渦中にいても彼は余裕を見せ,
水の抵抗を感じながらも両手を前に出す
そして”ものを捩るジェスチャー”を取った
『………え? なん……で………』
『ふぅぅーー……
残念でしたね〜??
これも私の「あの地」への想いが
あなたの「あの地」への想いを上回った……
たったそれだけのことです?』
……エウステノプテロン・デュプテルスは「水」を捩ねじった。
多分そういうことだろう
彼が水を捩ったから
さっきまでこの空間を満たしていた水の塊が弾け飛び,
まとまりを失って床へ次々に流れ込んでいった
『私は個体でも液体でも気体でもあろうと
捩ることができる……のですか?』
デュプテルスは喉に溜まった水をぺっぺと吐き出す
したらば高らかに勝利宣言をして絶望に怯える
ルナーシュに歩み,詰め寄っていく
『いや………いゃ
来ないで!!!』
『ごめんなさいね
でもそんなに怖がらないでくださいよ?
確かに……確かにちょっとは痛いかもしれませんよ!?
でもそれさえ乗り越えられたのなら…なら!
全てが完璧な「あの地」へ行くことができるのですよ??』
理解不能な理屈を並べ立てて,尚もルナーシュに歩み寄っていく
そしてあの,ものを捩るポーズを取りかける
『だから…… だから
来ないでって!!!!!!』
そう嘆きを含めた叫びをすると
彼女は咄嗟にすぐ横の飾り台の上に置かれている花瓶を
手に取りデュプテルスに投げつける
『あゝ……』
彼が能力を発動した
捩じられたのはルナーシュの身体からだではなく
デュプテルスの視界に入っていたあの花瓶だった
その花瓶は割れて陶器は無数の欠片となる
したらば運動エネルギーを完全に失ってしまい
そのまま地面へと落下する
『あーあ
私の能力、万能ですけど
捩る対象を正確に視認してないといけないんですよ〜?
途中で何かに視界を遮られると,狙いがブレてしまってね?……
玉たまに瑕きず……ってやつですか?』
『あ……あぁ………………………あ』
『はぁ……では
改めまして…………
「あの地」へ行ってらっしゃい?』
エウステノプテロン・デュプテルスは
割れた花瓶をパリパリと音を立てながら踏み越える
そして彼は再びものを捩るジェスチャーを取った
その瞬間
ルナーシュの胴が胸を境に真っ二つに捩られて、
絶命した
***
その後,テリウムがその現場に到着した時には全てが手遅れだった
朗々と嗤い続けるデュプテルスの姿と
プラティ、そしてルナーシュの死体が
床に転がっているのみだった
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これにて,私、█ █ █ = █ █ █
による能力名『未来予知』で視認することのできた
情報の開示を終了する




