38.改ましての自己紹介
固まっていたパージバルさん。分かりやすいように、ベールを上へあげて顔を出す。ベールはまだ全面解除になっていないので常につけているのだ。
「王女、殿下、ですか…?」
「えぇ、はい。すみません、出ます。」
パージバルさんは私の顔を知らないので、その問いも当然だと思った。
「どういうことですか…?」
「かくれんぼ中なので、隠れていたんです。」
「あ、いえ、干草の中にいたことではなく…。」
私は干草の中から出て服をパンパンと叩いて草を飛ばす。
思ったより、気持ちが凪いでいる。恥ずかしいところを見られた動揺が全てを上書きしたようだ。
「お久しぶりです、パージバル公爵令息様。改めて自己紹介を。ハヴィアート王国国王が娘、王女のクリスティーナです。よろしくお願いします。」
醜態を無かったかのように、キメ顔でパージバルさんに挨拶する。
「あ、はい。パージバル公爵家、嫡男のセオドアです。」
慌ててパージバルさんも自己紹介をして頭を下げてくるので「頭が高い。」と王女らしく鷹揚に言ってみた。きっと「頭を上げてください」との言葉を予想していたんだろうパージバルさんは、私の言葉に反射的に頭を上げたが、一瞬呆けた後、再び頭を下げた。
「冗談ですよ、パージバルさん。頭を上げてください。」
「びっくりしました。」
ふぅ、汗を拭うパージバルさん。なんだか懐かしい感じがして私はへらっと笑った。
「そういえばどうしてここが分かったんですか?」
教会に行くことは調べたら簡単に分かるかもしれないけど、干し草の中にいることまで分かるのはちょっとおかしい。
「王子殿下からもらった石がここで反応したので…。」
そう言ってパージバルさんが見せてくれたのは、黒い、ぱっと見はなんの変哲もない石だ。しかし私が聖力を込めたことによって、磁力のような特性をもった石となっている。
「お兄様がこれを渡したんですか。」
よっぽどパージバルさんを信用してるんだなぁ。
「お兄様…。」
「呼び方変ですか?キャラじゃないですかね?」
「いえ、貴方と王子殿下が兄妹であるという事実を噛み締めていました。」
意味がわからない。
「で、今日はどうしたんですか?」
「どうしたって貴方と…。」
「私と?」
パージバルさんの顔を覗き込んで訊くと、彼は顔を真っ赤にして蚊の鳴くような声で答えてくれた。
「…会いたかったのです。」
私も会いたかったです。
そう言いたくなったけど、避けていた私が言っていい言葉ではないだろう。私は聞かなければならなことがある、とぎゅっと手を握りしめた。
「変身していない私はどうですか?可愛いでしょ?」
精一杯の強がり。
「とても、その、可愛いらしいのですが…」
『ですが』、かやっぱりタイプじゃないんだろうな。
「訳が分からないんですが。」
「何が?」
顔を真っ赤に染めながらも眉を顰め困惑している様子のパージバルさん。
「今、変身されてないのですよね?」
「はい、素のクリスティーナです。」
「???」
顎に手を当て首を捻るパージバルさん。
「何をそんなに戸惑っているんですか?」
「いや、だって…学校に通ってた時から何も見た目が変わってないじゃないですか。」
「???」
今度はこっちが首を捻る番だった。




