ウィグランド・アジェーレその2
城に戻り、キルエスを軍師にした。
本来であれば、正式に軍師として軍に招き入れたかったのだが、キルエス本人が何故だか反対し、表に出ない軍師となった。
私はめんどくさいから嫌だと言ったのだけどな。
更に、キルエスは色々と条件を付けて来た。
例えば、私の呼び方を、俺から私に変えろだとか、他には……そうだな。
「あと、ウィグランドは妃を娶ってください」
これを言われた時は面を食らった。
「いや、それはだな……」
あまりにも痛いところなので、しどろもどろになってしまう。
「ていうか、なんで妃がいないんですか?いい歳ですのに」
喋りに遠慮を失くせと言ったのは俺だが、急に遠慮を失くし過ぎである。
しかし、ここだけは放っておいて欲しかった。
後悔はしているのだ。
「ああ、昔の俺は……」
「私です」
ぴしゃりとキルエスが訂正した。
私は咳払いをして、続ける。
「私はな。モンスター狩りが好きだったのだ」
「それは見ればわかりますよ」
キルエスは急に関係のない話が始まって、困惑した顔をしている。
「父に縁談を組まれてもな。その日にアシム……部下だな。部下を連れて、モンスター狩りに出てしまうことも多くてな」
「そう言う事ですか……」
キルエスは呆れた顔をしている。
俺だって、こんな話を聞かされたら呆れる。
「まあ、そう呆れるな。若かったんだ」
「今もそう変わらなそうですが……」
「いや、父も母も死に、弟達も皆戦場で死んだ。親族がいなくなった今。後悔しかないよ」
弟達にも、子供はまだいなかった。
アジェーレの血は、もう私しか残っていないのだ。
「今からでも遅くありませんよ?」
そう言われても困る。
「いや、だがな……」
色々理由はあるのだ。
「何かと言い訳していそうですね。相手の身分とか、戦争中とか」
心を見透かされてしまった。
優秀なのも困りものである。
「まあ、それは追い追いとしておきましょう。まだまだ言いたいことはありますからね」
「ああ、お手柔らかに頼む」
♦
こうして、軍師となったキルエスには、本当に助けられた。
まずは、軍の再編成をしてもらった。
「こんな基本的な事もしてなかったんですか」
そう、小言を言われた。
誰もやらないんだからしょうがないだろ。
他にも戦線を作った。
今までは曖昧だったのだ。
「ここからここまでは人間領と決めて、必ず守りましょう」
ということだ。
軍の再編成も相まって、守りに動くのに効率化ができ、戦線を維持する事に成功した。
だが、その人間領に、ガーレム領は含まれていなかった。
「あとは他の国との連携ですね。他の国への使者はどうなってますか?」
そんなものはいない。
「え?いない?まさかそんな……冗談ですよね?」
本当に決まっているだろう。
「他の国も我々が抜かれたら、次は自分の国ですからね。渋々でも協力はしてくれますよ」
「だが、今まで何もしてこなかったぞ」
こう言っては何だが、我が国は自分勝手な国という認識だろう。
まさに、愚王である俺のせいである。
「頭を下げるしかないでしょう。僕が行きますよ。まずは魔法の国、メグスメナ王国ですね」
そうして、魔法の国メグスメナ王国と、傭兵国家エイレスト帝国からは援助を得ることができた。
教会都市クメルシス王国からの援助も欲しかったのだが、向こうも前線であり、協力はせども、援助はしてくれなかった。
こうして、軍師キルエスの元、着々と軍備が進み、狩猟国家アジェーレは、軍事国家アジェーレへと呼ばれるほどになったのだ。
キルエスは謙遜して、基本的な事しかしていないと言い張っていたがな。
♦
おかげで、長きにわたり、魔王軍と戦うことは出来た。
だが、兵は消耗するのだ。
ついに我々は押され出した。
正直に言うと、私でも途中からわかっていた。
このままでは、いつかは負けると。
キルエスのせいではない。
むしろキルエスがいなければ、もっと早くに我が国は滅んでいただろう。
だが、まだ滅んだわけではない。
最後まであがかなければいけない。
「キルエス。すまんが――」
だが、ある日突然、キルエスは姿を消してしまったのだ。




