表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

83/228

レミトル・サメクその6

 戦はそのまま進み、ついに我々の軍は魔王軍への砦へと辿り着いた。

 この砦は、魔王軍に囚われ、奴隷となった人間達が作った砦である。

 奴隷達が、いつか来る人間の軍のために、わざと脆く作ってくれているといいのだが、望み薄だろう。


 ベナミス殿の話では、奴隷の扱いは酷かったというからな。

 真面目に仕事をせねば、拷問を受けるという。

 ベナミス殿の軍は傷だらけの者が多い。それらは全て拷問の痕だというのだ。

 あんな凄惨なものを見せられては、とても手を抜く人間がいるとは思えない。


 そして、その考えの通りに、砦は強固で、とてもすぐに落とせるようなものではなかった。


 だが、ウィグランド王もそれはわかっており、砦を囲み、じっくりと落とすつもりのようだ。


「レミトルよ。今日の所は帰るぞ」


 だから、ウィグランド王はこんなことを言いだしたのだ。

 早朝から攻めていたおかげで、まだ陽も傾きだしてはいない。これからが大事と言うところだろう。

 つまり、この最初の段階で、敵はあがいてきそうなものだが……。

 そう思っても、私は王に提言などしない。

 "ウィグランド王の判断"を信じているからだ。


「はっ!ご命令のままに!」


 

     ♦



 城に戻ると、すぐにウィグランド王に呼び出された。

 すぐに向かうことにする。


「おっと」


 すると、その途中ベナミス殿に遭遇した。

 彼も城に戻っていたのか、と思うと同時に、疑問が湧いてくる。

 ベナミス殿が、城にいること自体は変ではない。

 問題は来た方向だ。

 あちらはウルスメデス様の部屋がある方である。


「どうしてそちらから?」


 当然だが、歌姫様は、この国の重要人物である。なんなら王よりも厳重な警備をされている。警備以外の者は、部屋に近づいてすらいけないのだ。


 ……私はいいのだ。軍団長としてしっかり警備を見て回らないといけないのだから。


「ああ、すまない。迷ってしまってな。怒られたよ」


 ベナミス殿は、まだこの国に来てから浅い。ましてや城に入ることも少ない。迷ってしまうのも仕方がないだろう。

 それに、怒られたというのであれば、私が重ねて注意する必要もないだろう。


「そうか。それは災難でしたな。どちらへ?」

「ああ、ウィグランド王に呼ばれてな」


 私と同じである。

 何の用事かはわからないが、同じ用件だろうか?


「それなら、案内しましょう」


 どうせ私も向かうのだしな。


「おお、それは。毎度申し訳ない」


 ベナミス殿はいつ見ても腰が低い。

 とても戦場で、鬼神の如き戦っている人物とは思えない。

 あれ?戦っているところをみたのだったか?

 いや、まあいいか。


「それではいきましょう」


 そうして、ベナミス殿を連れて歩いていると、途中でメネイアに会った。


「……」


 メネイアは寡黙な女性騎士だ。

 兄が戦死し、復讐をするために志願してきたという。

 というと言うのは、私が彼女が喋っているのを見たことがないからだ。

 元々家柄もいいし、そもそも人手不足なので、すぐに部隊長まで昇格した。

 それでも、厄介払いのような兵ばかりを押し付けられて、目立った活躍はしていなかったのだが。


「おお、メネイア。お主も、王の間に向かうのか?」

「……」


 メネイアは無反応だ。

 相変わらずであるので、特に咎めたりはしない。

 私が歩き出すと、彼女は勝手に着いてきた。


 そして、すぐに王の間に着く。

 実はすぐそこだったのだ。


「失礼いたします」


 私は慣れた手つきで、扉を開けた。

 しょっちゅう呼び出されるからな。


「おお、来たか」

「はっ!」


 私は元気よく返事をする。

 用件は今回の戦の功労だろう。


「此度はよく頑張ってくれたな。礼を言うぞ」


 やはりだ。

 だが、こんなに早くすることもないだろうに。

 なにか理由があるのだろうか?


「それで早速で悪いのだが、ベナミスよ。貴殿の部隊には名前はあるのか?」

「いえ、我々は解放軍と呼んでいましたが、もうそれも終わりました」


 奴隷からの解放という事だろう。

 だが、もう解放された後なのだ。


「そうか。それなら、これからはデミライト隊と名乗ると言い」


 なるほど、王の目的はこれだ。

 正式な命名をすることによって、デミライト隊を担ぎ上げ、軍全体を盛り上げたいのである。

 これは確かに、早い方がいいかもしれない。


「……はっ!ありがとうございます」


 ベナミス殿は口ではそう言ったが、あまり嬉しくなさそうな感じだ。何故だろう?


「それでは、褒美を取らす。何でもよいぞ」


 ベナミス殿は黙る。何でもと言われると迷ってしまうだろう。

 私なら迷いなく、ウルスメデス様の歌を聞かせてもらえるように頼むが。

 と言うか、私にも同じ質問がくるのだろう。

 とても、とても、とても嬉しい!


「それでは、仲間の報酬の上乗せをお願いいたします」


 なんと欲がない事だろうか。

 ウィグランド王も笑っておる。


「ふっ、そうか。貴様の様な素晴らしい隊長を持って部下は幸せじゃの?」

「そんなことは……」


 そんなことはあるだろう。

 私は部下の為にそんなことをしたことはない。


「それでは次に、メネイアよ褒美は何がいい?」


 流石に、ウィグランド王の前ともなればメネイアも喋るだろう。


「……」


 そう思っていたのだが、メネイアは黙ったままだった。


「……」


 長い沈黙が訪れる。

 私にとっては、特に長い沈黙だ。

 次は、私の番だからな。


「ふぅ……まあよい。褒美は適当に渡すとしよう」


 それでよいのだろうか?

 いや、良いのだろう。

 早く進めよう。私の番だ。


「それでは――」


 私は喋る準備をする。


「解散とする。皆よくやってくれた。快挙である。だが、油断だけはするな」


 それだけ言うと、ウィグランド王は"ドカリ"と椅子に座ってしまった。

 おかしい。何か言い忘れているのではないだろうか?

 だが、メネイアはもう去り、ベナミス殿は固まっている私に何か話しかけてきている。

 それでも、私はしばらくその場に硬直したままだった。


 

     ♦



 しかし、その日の夜である。

 どこからともなく、歌姫様の歌が響いてきた。

 歌姫様が、夜に歌うなんてとても珍しい。

 私はその歌を聴きながら、満足して寝ることが出来たのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ