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エインダルトその1

 私は戦が好きだ。

 誰よりも戦が好きなのだ。


 それは"魔族"としては珍しくない――と言うわけではない。

 別に魔族は、戦うのが好きというわけではない。


 魔族が好きなのは――人間を殺すことだけだ。

 そのために、好戦的に"作られた"だけに過ぎない。

 つまり、魔族が戦うのは人間を殺すための手段しかないのだ。


 だが、私は違う。

 私は間違いなく戦うこと自体が好きなのだ。


 そして今、私の目の前には、私の好きな光景が広がっている。


 そう、戦だ!


 魔族と人間の戦争である!


 と言っても、私は戦っていない。

 一番後ろの本陣で、戦を眺めながら、酒を一杯やっているだけだ。

 

 何故なら私は、魔族側の"指揮官"なのだから。


 指揮官でもあり、大将でもある。

 私が死ねば、この戦も負けである。

 と言いたいところだが、人間と違って魔族は、指揮官が死んだ程度は止まらないだろうな。


 逆に言えば、人間は指揮官を失えば、一気に崩れるであろうということである。

 だが、この戦いは何年も続いている。

 それだけ相手の指揮官が強いのだ。


 人間の名前など興味がないのだが、そんな私でも覚えている。


 この戦の人間側の指揮官であり。

 我が戦の相手であるアジェーレ王国の王である。

 ウィグランド・アジェーレの名を。


 ウィグランドは手強い。

 俺はいくつもの人間の国を滅ぼしてきた。

 だが、この国は違った。

 国境を作り、俺達を後ろに通さないようにした。

 さらに、隙あらば、魔王領にも押し返そうという気持ちで戦うのである。

 そうなると、こちらも、このアジェーレという王国自体を滅ぼさないといけないという考えに至った。

 それから、何年も戦は続いている。


 そんな、何年にも渡り進展のない戦なわけだが、少し前の一時期は、我が軍が圧倒的に優勢だった。

 我々は消耗する。モンスターには限りがあるし、新しい魔族を生み出す速度だって人間よりは遅い。

 しかし、人間だって消耗する。当たり前だが、死んだ人間は生き返らない。

 魔族の消耗よりも、人間の消耗が勝ったのだ。

 そして、このまま勝利となる――そのはずだったのだ。


 だが、人間は復活した。

 もちろん物理的にではない。

 我らの猛攻に死に体だった奴らが、息を吹き返したのだ。

 

 その原因は今はもうわかっている。だが、魔族には"理解できない"ものだ。

 そして、その原因を取り除きさえすれば、やはり我々が優勢になり、そして勝つだろう。

 しかし、それが出来ていないからこそ、今の膠着した状態の戦場があるのだ。


「エインダルト様」


 私の前に魔族が跪いた。

 副官のベリッドだ。

 こいつとも長い。前大戦からの付き合いだ。

 その頃は上下関係等なかったが、新しい魔王は何かと序列をつけたがる。

 ただ、こいつ自信も進んで副官になりたいなどと言ってきたのだから、変わった魔族である。


「どうした?」

「はっ!妙な部隊が新たにアジェーレに入ったとのことです」


 妙なとは、なんだというのだろう。

 アジェーレの部隊と言えば、3つに分かれる。

 一つは、元々王国にいた部隊だ。元は農民なども多く、強くはないが、死をも恐れぬ兵隊だ。

 二つは、メグスメナ王国の魔法部隊だ。こいつらが使う魔法には手を焼かされる。

 最後は、エイレスト帝国の傭兵部隊だ。ならず者が多いが、明らかに強い傭兵が多い。

 だが、もうアジェーレに入る援軍などいないのだ。

 妙と言われても仕方がないのかもしれない。


 だが、敵は手強い方がいい。

 楽しくなるではないか。


「どんな奴らだ?」

「それが、こちらの奴隷のようでして……」

「何?」


 こちらと言うのは、魔王領の話だろう。

 俺は、直接人間の奴隷を使うことはない。

 だが、魔族領から人間が逃げたことなど一度もないのだ。

 いや、正確には逃げても殺される。生きて出ることは出来ないということだ。

 しかし、そいつらは魔族領から生きて逃げ出したというわけだ。


「グザンの領から逃げたみたいなのですが、当のグザンや魔族は、死体で見つかったそうです」


 グザンか……懐かしい名前だ。

 生き残りの、古い魔族は全員覚えている。たいして多くもないし、一度大戦で負けたときは、全員集まって潜伏していた。

 死んだと言われても悲しいなどとは思わない。それは人間の感情だ。

 しかし、それはつまり、その人間どもは反乱を起こして、グザンを殺して、ここまで逃げて来たということだろう。


「ははは!誰かは知らんが、相当"強者"なのだろう!」


 本当に楽しくなりそうである。

 しかし、強者だったとしても、"運がない"奴らである。

 "こんな時"に、アジェーレに来るなんて。


「もう戦場には出ているのか?」

「いえ、まだのようです」


 なんだつまらない。

 出ているならば、"挨拶"をしに行ってやったのに。


「それならば良い。陽も落ちだしている。今日はもう帰るぞ」


 そう言って、私は立ち上がる。

 砦に帰るのだ。

 魔族からしてみれば、夜になったからと言って、どうと言うわけでもない。

 むしろ、夜の方が有利に戦が進むだろう。

 実際に、夜襲を何度も続けていたこともある。


 だが、"今はいい"のだ。


 ベリッドが伝令に私の指示を伝える。

 

 私は戦場を一瞥すると、その場を去ったのだ。

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