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エインダルトその7

 遠い、遠い昔の話だ。

 かつて魔王様が存命だったころ、私には名前すらなかった。

 魔族は皆、魔王様がつけた番号で呼ばれていた。

 ある意味、親にもらった番号なのだから、それが名前だともいえるだろう。

 

 だが、その親である魔王様は突然死んだ。

 理由は今でもわからない。

 間違いないのは、誰かに倒されたということだけだ。

 それが勇者なのだろうが、影も形もない勇者である。

 だが、強大な魔力を持つ魔王様を倒したのだから、その勇者もまた途轍もない力を持っていたのだろう。

 

 そして私は、魔王様が死んだと聞き、多くの人間を道連れにして私も死のうと思っていた。

 これは私だけでもなく、魔族全員がそうだったし、実際にそうなったものばかりだった。

 だが私は諭されてしまった。

 今の魔王に。

 もう一度、戦える舞台を用意すると。


 そして、再起してすぐに、私は騙されたと思った。

 つまらない戦ばかりだったからだ。


 別に人間が弱くなったわけではない。

 魔王様が生きていた頃も、魔王様が亡くならなければ人間には勝っていた。

 ただ、逆に我々が強すぎるのだ。


 失望すれこそ、戦をやめることはなかった。

 そうして、人間の領土を半分以上取った辺りで、ついに戦の進行が鈍りだした。

 私はやっとかと歓喜した。

 やっと、まともに強い人間が出てきたのだ。

 そいつらは、アジェーレと言う国の軍隊である。


 特に奴らの王である、ウィグランド・アジェーレは強かった。

 だが、所詮は人間である。

 我が軍は一切敗北せずに、侵攻し続けた。

 ウィグランドも強いが、私よりはっきりと弱い。


 結局は、すぐに勝ててしまうと思っていた。

 だが、そんなことはなかった。

 アジェーレの軍は、急に強くなったのだ。

 

 理由はわからないが、当然私は喜んだ。

 

 それから、長い戦いが始まった。

 我が軍が優勢ではあったが、思い通りにいかないことも多かった。

 だが、それも終わりの時は来る。


 気が付いたら、我が軍が圧倒的に優勢となり、いつアジェーレを滅ぼしてもおかしくないところまで来てしまった。

 

 そこで、私は進軍を緩めた。

 躊躇ったわけではない。

 期待していたのだろう。

 もう一あがき出来るだろうと、そう思ったのかもしれない。 


 そして、その期待は現実となった。

 奴ら、歌姫とやらを盲信し、死兵のように戦いだしたのだ。

 その甲斐あって、まだ戦場は拮抗しだしたのだ。


 たかが歌姫と言う、ただの一人の人間の力で信じがたいものである。


 とはいえ、最後のあがきである。

 結局は我々の勝利で終わるはずであった。


 だが、"不確定要素"でもあったのか。

 我々の戦線は一気に押され、その勢いは、私の喉元にも届くものであった。


 だから、私も切り札を切ったというわけだ。

 その切り札である兵器で、アジェーレ軍は滅びるはずだったのだが、信じられないことに、アジェーレ軍はその切り札すら凌いでしまった。

 しかし、相応にアジェーレ軍も深手を負ったようで、結局はまた戦力が拮抗した、振り出しに戻ったわけだ。


 予想が出来ない事ばかりだが、これこそが戦である。

 予想通りに勝利する戦は、ただの蹂躙だ。


 私は戦が好きだ。

 私は戦が出来て嬉しいのだ。

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