第2話 被害者
この世界は夢か幻か。
記憶の世界という精神に関わる層は、確か現実世界の形を元に像を成して、目の前に映し出される筈だった。
ではこの人の波は何処から来たというのか?
あの神輿の大台に乗って踊る少女は?
今食べてるものは一体何なのか?
見れば、人に紛れて居てはいけない者がいくつも見える。
継ぎ接ぎの跡。
より融合し、戦闘力に傾けた者。
...キリルの手で生み出された屍人の兵だ。
それだけじゃない。
悪魔。
精霊に魔法生物とゴーレム。
より危険な魔獣と竜種。
とある神界の兵までも居た。
それは、あの時戦ったキリルの手駒達だ。
だが彼等は何をする訳でもなく。
人の大きさまで身体を縮め...
この夢と現実の狭間のような世界で、ただ歌に踊りにと、祭りを堪能して居た。
周囲の人々も、それを咎めようとはしない。
思い思いの食べ物や飲み物を手に
共に肩を抱き合い笑い合う。
それもその筈
この場に居る者が、眼に映る全てが。
皆...キリルの被害者であり。
何かしらの加害者でもあった。
例え意識を失い、キリルの手駒であったとしても──
...気付けば俺の持っていた串焼きは全て無くなり、残された二本の串が残った。
「...俺、一個しか食ってないんだけどな」
ステラとラヴィネが、揃って明後日の方を向く。
ええい帰ったらブラッシングの刑だ。
従順になるまでやるからな?
手に持った串を手に当たりを見回す。
見ればゴミを入れる屑篭が、あちこちに置かれている。有り難い。
近寄れば...何故か其処に居たスライムがにゅっと伸びて、俺の手から串を持って再び戻る。
あ、これは丁寧にどうも。
屑篭の中から手?を振るスライムに手を振り、ラヴィネを降ろす。
踊り子さんを乗せた大台は少しずつ動いており、それに釣られて人が動くのでラヴィネを下ろすくらいの余裕が出来た。
大台について行く群衆の中に、道化師の悪魔と指揮者の獣人が見える。
俺も後を追うべきか。
そう言えば、首領達は何処だろう?
中にはスライムの居ない屑篭のゴミを、ひとまとめにして、新たな袋を設置する者達が居る。
...首領達ハイオークだった。
この辺りの屋台で、あの料理の上手いオークが焼きそばを焼いていた。
鉄板の上で麺が具材と共に焼かれ、コテが翻るたびに漂うソースの香りが食欲をそそる。
おまえらどうやって屋台作ったんだ。というか材料...
「よう、お目覚めか」
「あ、ああ...目覚めたっていうかまだ寝てるっていうか」
どっちなんだ?
...今の俺って、どういう状態なのだろう。
「はっはっは。それを俺に聞いた所でどうにもなるまい」
「ですよねー」
木で出来たベンチに座って、ハイオークが持って来た焼きそばを受け取る。ありがとう。
...大盛りがデフォか...いや、食べるけどね。
首領が木の樽のようなコップを仰いで中身を飲む。
葡萄の濃密で芳醇な香りが辺りに広がった。
「ここにある世界。建物に、酒と、食い物まで全て。覚醒したお前の力だ」
「俺の...力...」
記憶の中にあるケセルナの面影を残し、ありとあらゆる世界の建物が並び連なる。混沌の世界。
中空を浮く立方体の集合物があり。街の至る所で木々が其処彼処に生えていた。
祭囃子に合わせて竪琴を奏でるエルフ達。
名状しがたい生物が酒の入った樽の中に浮かんで、料理を掴んで、食べる。
別の場所では手に持ったコップ同士をくっ付けたあと浴びるように飲むスライム。
...あ、其処が口なんだ。
水が逆さまに流れ落ちて逆さまの甕の中へ。
別の場所で横倒しになった甕から同量の水が流れ落ちて川を作る。
その川の上で戯れる小さな妖精達と鮫。
たしかに、現実にあるケセルナとは違う世界だ。
でも、この人たちは?
話はキリルが死んで俺が力と記憶を全て継承した後の事だ。
「俺たちの元にあいつらがやってきてな」
自分達はこれからどうなるのか。
元に戻せ。
キリルの次の超越者は本当に安全か。
普通に死にたい。
生きたい。帰りたい。
自由になりたい。
と、自分勝手にそれはもう酷い有り様だったそうだ。
「オークに何が分かるって言われた時は、流石に腹がたったぜ」
「酷いな」
俺の仲間になんて事言いやがる。
収拾の付かない話し合いを纏めたのは異世界の王族達だった。
彼等は実に冷静で聡明で...
彼等は口々に言った。その言葉に若干の違いはあれど。
「死は覆らない」「生き返れない」「元には戻れない」
この三つを徹底して皆に分からせたという。
そうだよな。
...生き返れない、か...
群衆は途方に暮れた。
意気消沈する中で手をあげる者が居た。
「ならお祭りがしたい」
手を挙げたのはあの踊り子の少女だった。
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