祭りの朝
何処か遠くで歓声が沸き起こる。
太鼓をうち鳴らす音や管楽器の音色が混ざり合う。
何処かで行進に合わせて、シンバルが盛大に鳴り響いた。
今日は祭りか。
そういえば何の祭りだろう?
自分達に設えられた寝床から、いつのまにか抜け出し。俺の脇にぴったりくっついて寝る二匹の子供を、起こさないようにゆっくり体を起こす。
しかし子供達は体温と人の動きに実に敏感だ。
ラヴィネは俺が離れたとなると、仰向けで寝て居たにも関わらず、すぐさま起き上がってベッドから飛び降りた。
尻尾をぶんぶん振り回してぴったり体をくっつけて俺を見上げる。
ベッドの上では若干寝ぼけたステラが、伸びをしながら毛布をぎゅっぎゅっと握るように揉みだし...くるくると回って再びその場へと丸まってしまった。
性格の差だろうか...でも、しっかりと耳をこちらに向けている。
だけどトイレに起きて部屋から離れると、後で戻って来た時。俺が勝手に側を離れた事に文句を言いながら尻尾でタシタシされるから理不尽だ。でも可愛いから許す。
しかし、普通のベッドで寝るなどいつのことだろう。
メイドさんが用意してくれたベッドシーツもパリっとして滑らかな肌触りで睡眠を手助けしてくれた。
今頃は皆ぐっすりだろう。
屋敷の本当の主が帰って来たのだ。
それからというもの。使用人は全員右に左に大忙しだ。
腰を抜かして立てなくなったアルナさんを、イルダナフさんが脇に手をさして持ち上げ。
くるくると回った。
あの強面の老魔女のようなアルナさんが顔をくしゃくしゃにして、真っ赤になって。
人は泣きながら、喜びながら、怒る事ができるのだと知った。
イルダナフさんは自分の腕の中で静かに泣くアルナさんを優しく抱きとめ。
その背中を撫で続けた。
釣られてココもルンナさんも泣き出した。
それから、アインさんの事情聴取と被害者の帳尻合わせ。
現場の確保と言伝に走る警備隊。
被害者の宿へ搬送。
キリルの記憶から数年前の出来事を、当事者の記憶も踏まえて話し合った。
知り合いのみの宴であるが、皆で二人の英雄の帰還を喜んだ。
アインさんは終始鼻を啜って泣くまいとしていた。
知らせを受けたワンダの奥さんが子供を背負ってやって来た。
そして来るなり思い切りワンダさんを張り倒した。
そういやココも有無を言わせず殴り倒してたしなあ...成る程親子かと納得する。
張り倒した後はやはり瞬時に復活したワンダさんと抱き合い再会を喜び合った。
息子さんも嬉しそうだ。
でも娘の胸は貧弱なのに、母親の胸は大きくて。
見比べた後にうっかり鼻で笑ったら、
危うくショートソードで殺されそうになった。
多分今迄で一番殺意があったと思う。
あと何故かルンナさんにも怒られた。
解せぬ。
この街の領主もやって来た。
隠れようとしたにも関わらず、俺はアルナさんに捕まって挨拶を交わす事となった。
実はワンダさんの親戚で、この長屋に住んでた弟子の内の一人だそうだ。
気弱な顔に似合わず立派な髭をした犬耳の人だった。
泣いて握手を求められたが、胃腸と肝臓が悪いらしく。
宴には参加せずにお腹を抑えたまま、使用人と護衛を従えてそのまま帰ってしまった。
誰にも気付かれないよう【福音】で臓器を全てこっそり治して置いたので、ケセルナと俺の安寧の為に頑張って欲しい。
良い働きをした...と言うか、なんか狩り以外の仕事が増えてるよな。
...ええ、スポンサー様には逆らえませんとも(泣)
この街を守る為とはいえ、白金貨五枚だもんなあ。
日本円で五千万だよ、五千万円。
白金貨の使い道を聞かずに、街を守ったという事で金貨を渡されるのは...その、すごく辛い。
おまけに熊の肝の代金も合わせて金貨で受け取った。
箱の中の古代金貨やキリルから所有権が移った異世界産の宝を換金しようにも、この国では出来ず。
アルナさんは、白金貨以外での返金を認めないと意地悪く笑っていた。
そもそも返さなくても良いとまで言う始末だ。
けど、イルダナフさんが元に戻って住む訳だし、やっぱりお金はとても大事だ。
女神さんは早うお金返してくれさい。
...返すと言えば。
そういやドルドさんのミスリル大剣も魔力の浸透に変な癖が付いたとかで、結局返品出来ず仕舞いだ。
古代金貨は何故か返って来たが、白金貨で返せと来た。
利子無しで期限は無期限だが、そっちはそっちで白金貨がまた...
前世の借金を思い出して、少し痛む胃を抑えて窓の外を見る。
日の光を遮る雲もなく、絶好の洗濯日和だ。
長屋の外にある橋の向こうでは、淡い光を放つ簡単な魔道具の飾りが、街路樹に煌びやかにかざられていた。
特に知らされて居ないが、本当に何の祭りだろう?
「一緒に行くか?」
「わん!」「ぴゃぁ」
俺は寝間着から着替えて、二匹を連れて部屋を出た。
俺の肩に乗るステラは、いつもより嬉しそうだ。
さっきからずっと喉を鳴らして、道の先を見据えている。
人混みで逸れないようにラヴィネを抱き上げて歩く。
いつもとは違う視点の高さに喜び、ますます尻尾を振る。
何処から来た人達なのか。
老若男女種族を問わず、様々な服を着て楽しそうに街を歩く。
屋台で両脇を固めた道を歩いて通る。
奢りだと手渡された串焼きを一人と二匹で、分けて食べた。
塩っ気の多いものを食べさせるのは、あまり良くない事だ。
あとで診察して、必要なら治してやらないと...
不意に大きな歓声が大通りより溢れて耳に届く。
大人数と馬に引かれた神輿のような大台の上で。
麗しくも艶めかしい服を着た踊り子が、音楽に合わせて楽しく踊りを踊る。
女性の必要な部分だけを隠す衣装に、腕と足の動きに追従するように動く布がまるで生き物のようだ。
大勢の人に見守られて舞う彼女の顔は底抜けに明るく。
はためく布の向こうにある星が煌めいて...
其処でようやく気が付いた。
空に輝く三つの月の下で微笑む彼女は、とても綺麗で。
とても悲しかった。
ここまで読んで頂きありがとうございます(´ω`)




