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子育て?超越者(ヒュペリオン)  作者: 樽腹
第四章 超越者
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第33話 竜と拳


手の震えが止まらない。



この世界で生きる為に数えきれない他の命を奪った筈なのに。



人を一人殺すというのは、こんなにも違うというのか...



あの場から遠ざかり、ようやく身体がその行動の意味を理解したようで。


気を抜けば震えは腕から身体中へと伝播して、その場に座りこんでしまいそうになる。



《終わりましたね》



そんな俺の心の内を知ってか知らずか、エアが上空から俺の顔を覗き込むように顔を合わせた。


逆さまな竜の顔がにゅっと俺の視界に入って、薄っすらと目を細める。



「あぁ、これでお役御免ですかね?」



竜の笑顔を見た者はこの世にどれだけ居るだろう?


立ち止まったまま右手の震えを悟られぬように、腕を回して肩を鳴らす。



《...そうですね。一先ずはこの世界の危機を免れたので良しとしましょう》


()()()、か...」

《ええ、()()()です》


まだまだこの世界には、何かしら爆弾になりそうな案件があるという事か。


流石に俺がまた行くという事はないだろう。


この世界にもイルダナフさんのような英雄が居れば勇者も居るだろうしそう言った人が解決してくれるさ。




居るといいなあ...



エアはゆったりと長い身体をくねらせて旋回すると、俺の前で止まった。


《私の身体もこのように再生して頂いて、本当にありがとうございます...お陰でこの構成体を元に女神様の手で完全に復活し、再び抑止力として働く事が出来る》


その目を閉じて頭を下げる。


それでも見上げる形に変わりはないが、彼(あるいは彼女?)の気遣いが伺えた。


《善なる超越者に多大な感謝を...》


抑止力たる竜の丁寧なお辞儀に、ほんの少しだけ震えが止んだように思えた。


「仕事熱心ですね...今くらい休んでも、バチは当たらないと思いますが」

《ふふ...私の穴を埋める為に働く女神様と他の竜を差し置いてそれは出来ません》


あの世というべきか、神の世界とも言うべき場所での仕事とか役割があるのなら、それは仕方ない事なのだろう。


《貴方は女神様から褒美を賜るでしょう。後日改めて天の使いが伺います》


「褒美...」


まさかお金?


そういえばアルナさんに頂いた金貨二枚を除いたら、本当にすっからかんになってしまったな。


《御安心を...此度の神敵討伐の功績で女神様から多大な恩賞を得られる筈ですが、その際に使われた必要経費は全て一緒に御返し致します》


「あの、お二人には?」


其処が気になった。


二人は家族を残して亡くなった。


それだけじゃない。


狂わされたとはいえ、この竜の手によって何人も死んだのだ。


それに対する女神のスタンスがどうなっているのか。



俺は、ともすればこの抑止力とその背後にある女神達とも──



《あの二人には数年間に渡ってあの超越者の尖兵を葬って頂きました。おそらく再び此の世に生を受ける権利と、幾ばくかの宝が与えられるでしょう》


「此の世に生...転生の事ですか?」


《...其処はまだ何とも言えません。ですが、悪いようにはならない筈です》


詳しくはエアも分からないと言う。


《無論本来死ぬべきではなかった者達の遺した家族に報いる為、あの御方は今日も信徒を通じて奇跡を起こすでしょう...私は女神様と殺してしまった者達へ償う為にも一刻も早く戻らねば》


──俺はさっきまでの自分の考えが浅はかで愚かな事を自覚し自己嫌悪に陥った。


神といえど、我儘が許される訳では無い。


抑止力とて間違いを犯したのなら、その罪を贖わなければならない。


たった一人の超越者の悪意によって、しなくても良かった事をエアと女神はやらなければならないのだ。



...ああ。


なんか何処か似てると思った。


俺はどうやら勝手に評価して勝手に嫌悪する...前世でもっとも嫌な存在になっていたようだ。


伝え聞いた正確ではない情報で勝手に想像して、勝手に評価する。


間違いを犯せば裏切られたと勝手に憤る。



勘違いするな、俺。



女神という存在に、俺は八つ当たり出来る立場じゃない筈だ。



止むを得ず人を殺した俺の...やり場のない鬱屈としたものが、

八つ当たりの先を何の落ち度もない女神とエアに変えようとしていたなんて。





俺...弱いな...



そんな俺の気持ちを知ってか知らずか。


エアは前方からその長い身体を捩って俺のすぐ横にやって来ては、その凶悪な爪を握って目の前に差し出した。



つまりは俺のすぐ目の前に──



エアは俺の顔を盗み見るようにしては、俺の手と自分の爪に視線を合わせている。


ええと?


《その、ですね...最後になりましたが、私も...彼のように》

「彼?」



なんだろう?


《オークジェネラルですよ!あの時の...!》

「首領の......」






...ああ、そうか。


まだほんの少し...震える右手を握りしめて。


無理矢理抑え込むように拳を作ると、そのままエアの握った爪に押し当てるよう、こつりとぶつける。


「ありがとうございました。きっと俺達だけでは、あの場でキリルを倒す事は出来なかった」


《! えぇ...!こちらこそ!》



俺たちはひとしきり笑い合って、合わせた拳をゆっくり離した。



──いよいよお別れだ。



エアの身体がゆっくりと浮かび上がる。


先程まであんなにも穏やかだった風が、次第に打ち付けるように強くなって。


竜の巨体が、吹き荒ぶ風に乗って瞬く間に舞い上がった。



《──やはり、似ていますね......》

「うん?」


風の音に遮られたかのように、聞き取り辛い思念を残して。


《いいえ...それではタリオンよ、またいつか会いましょう!》



風竜エアはあっという間に、空の彼方へと飛んで行ってしまった。




震えは、いつのまにか収まっていた。


此処まで読んで頂きありがとうございます!

ブクマ評価レビュー感想お待ちしてます!(´ω`)ゞ

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