第28話 もう一人の
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何処かで、彼の身に何かが起きたような気がした。
...違う。
『──何かあったわね』
「なな、なにが...?」
鏡の中のわたしが、窓の向こう側にある空を見つめて呟く。
この館にやって来た狩人の男の子は、おばあちゃんに白金貨数枚と真銀で出来たネックレスを与えられ。
その瞳に言い知れぬ思いを秘めたまま、此処から飛び出して行ってしまった。
ラヴィネちゃんとステラちゃんを連れて...
私は後を追うことも出来ず。
おばあちゃんに大事をとって休むよう言われて、こうして部屋にひとりぼっち...
おばあちゃんはあの男の子に、何を見たの?
あの男の子は、一体何と戦おうとしているの?
『...いつも天翁樹の下に居たおじいさまが何処かへ行ったわ。それだけじゃない...ワンダさんもこの街から居なくなってる』
鏡の中のわたしは瞳を閉じたまま。
その指からこの街の小さくて凄く精密な縮図を映し出して呟いた。
いつからだろう...
私が、もう一人のわたしを自覚するようになったのは──
気づけば、彼女は私よりも綺麗な姿でそこに居た。
見られるのが嫌で伸ばした前髪から覗く、そばかす一つない綺麗な顔。
細く、形の整った眉。
長い睫毛にキリッとした口元。
身なりは一緒でも、私にはない美貌を持ち合わせ。
もう一人のわたしは今ある世界の在り方を知っていて。
おばあちゃんのように私の事を考え。
この世のものとは思えないほどの魔術を使い。
私というちっぽけで弱い存在を守ってくれる、姉のような存在だった。
そして、姿が映るものが身近にあるのならば...
例え竜が相手であっても、虫けらのように踏み潰すとわたしは言っていた。
でも眼鏡のような透明なガラスや私の瞳に映る世界では駄目。
あくまで鏡があることが前提なのだとか。
ただ鏡の中か夢の世界でしか会えず、影響を及ばさない為に...
熊と偶然出会ってしまった時に、護身具の事も手鏡もすっかり頭から抜け落ちて。
結果的に、タリオンくんに助けられる事になってしまった。
冷静になった今、思い返してとても恥ずかしい気持ちになっている。
あの時、魔導具か手鏡さえ出せればそれで良かったのに。
そうすれば、あんな......
『──それで、私はどうしたいの?』
「わ、わたし?」
私が朝の事でもやもやしているところに、不意打ちのように囁かれた。
『いつか言ったわたしの言葉...覚えている?』
「うん...」
必ず貴女の事を探し出して捕まえるか殺そうとする者が現れると。
その時、わたしは私の力になる──
...もしかしてタリオンくんは、私を探し出そうとする者との戦いに巻き込まれたのかもしれない。
「...助けに、いきたい...」
熊に襲われて粗相をした私の事を笑いもせず。
そばかすのことでいじめたりもしない。
喋り方がおかしくても、嫌な顔ひとつもしなくて。
...一人の女の子として、ちゃんと敬ってくれる。
会って間もないラヴィネちゃんとステラちゃんの事を、大事に育てて。
とても優しくてとても強い、男の子。
これからどれだけ一緒に過ごせるかわからない。
けど、みんなが一緒なら...きっと今よりもずっと楽しくって明るい日が続く。
そんな予感がして、凄く...ワクワクして、ほんのちょっぴりドキドキして。
でも、もし...私の事で巻き込まれて、何かあったら。
「怖い、凄く...こ、怖いよ...けど──」
助けることができなければ、きっと私は後悔する。
私が此処に居る理由。
唯一の味方であるおばあちゃんにも、秘密にして。
おばあちゃんとココちゃん...そのご家族に、死んだおじいちゃんとワンダさんの幽霊の事を伝える事が出来ず。
半ば知らないふりをしてずっと、生きて来た。
わたしという存在を隠して。
でも
「わたしに全てを委ねなさい」
化粧台の鏡に向かって私は両手を広げて押し付ける。
鏡の中のわたしが同じように私に向かって両手を広げ──
「──立ち塞がる困難、外敵、仇敵...恋敵まで全部わたしが蹴散らしてあげる」
そして、今
「『{【写し鏡】}──』」
わたし達はひとつになった。
(´ω`)此処まで読んで頂きありがとうございます!




