23話 記入したよ
ギルド長に連れられてやって来たカウンターでは受付嬢と思わしき女の子が二人。
同じ顔をして首を傾げ、左右真逆のサイドテールを揺らす。
双子だろうか?
ぴこぴこ動く長い耳が、彼女達が人間ではない事を示していた。
「「いらっしゃいませ!ケセルナギルド窓口へようこそ!!」」
二人は息もピッタリにぺこりとお辞儀をして挨拶する。
「ミルに」「ムルと言います」
「「よろしくおねがいしまーす!」」
「よ、よろしく」「わん!」「ぴゃあ」
「挨拶は済んだね?今からこの坊主の登録を頼むよ。所属はあたしの錬金術師協会だ」
「はーい!身分証明をお願いしまーす」
アインさんに貰った書類を渡すと、書面の中身を確認して頷いた。
「タリオンさんですね!それではこちらにお名前をお願いします」
「......」
自分の名前を書くだけなのに緊張するなあ。
...それにしても名前か。
今の俺はタリオンだけど、前の名前は...なんだっけ?
別に執着する訳ではないけども、あるはずのものが思い出せないなんとも言えない違和感がある。
例えるなら今まで書けてた筈の簡単な文を書こうとして詰まったような感じだ。
でも、それでいい。
俺はこれから先もずっと、この違和感を飲み込んでいく。
「はい、ありがとうございました!」
書面の内容は一切わからないが、名前を書き上げる。
後ろから手元を覗き込んでたアルナさんが、眉を吊り上げて苦笑いした。
「下手くそな字だねえ...こりゃ文字の練習もしっかりやらなきゃだめだね」
「お、お手柔らかに頼みます...」
大学まで出てまた勉強...しかも文字か。
こうして自然と話し合って細かなニュアンスまで感じ取る事は出来ている筈なのだが、文字はどうなるのだろう?
教えられるとはいえ先の門番のこともあって中々スリリング...いや、落ち着け。
何も錬金術師の偉い人本人が、いきなり何処からともなくやって来た馬の骨に直接指導する程暇なわけでは──
「ほっほっほ...あたしゃ教える時はみっちりやるからね。覚悟しときな」
なん...だと...!
優しくて綺麗で眼鏡の似合う女教師を期待してたのに裏切ったな!?
「つ...詰所ではお忙しいと、聞いたのですが?」
「あぁ、言ったね...最近は寝て、起きて、飯を食うのに、とっても忙しくってねえ?」
人は、それを暇といふ...
「ついでで魔法もきっちり仕込んでやろう。直弟子のルンナに追いつけるように並行で飛ばしてやるよ」
...
おぉ、もう...
ギルド長の哀れむような顔がとても印象的だった。
なかなか残業がなくならない...
此処まで読んで頂きありがとうございナス!(´ω`)




