現れた大本命
(しまった!)
確かにピッパちゃんかどうか迷いはしたけど相手は端から私たちをランチとしか思わない可能性が抜けてた。
ぎっちり巻かれて指すら動かせない状態だから魔法鞄から呪符を出すことも出来ない。首も絞められるような巻付きでシャンタルも手出しが出来ないようだ。
瞬く間にヴィヴ、エリック、ジョルジュまでも締め上げられてしまう。ジョルジュなんて躱そうとした動きを先読みされたのだから蜘蛛だと侮れない。
『ちょうど腹も減っていたしそろそろ卵を生む時期だった。お前らは願ってもない獲物だよ。ありがたいねぇ。』
私たちのうち誰かを食べて誰かを子蜘蛛の餌にするのだろう。
何かの本で読んだが昆虫の中には捕獲した虫を麻痺させて動けぬようにし、腐らないように生きたまま幼虫の餌にするものがあるという。
図鑑を見た時は『ふーん、効率的。』とか思ったけれど、自分がそうなるなんて到底認めたくないしなりたくもない。
「主人を卵の餌場など許すはずなかろう。下郎が!」
シャンタルが歯噛みした瞬間、ギリリと糸が締まり私が呻く。
『やかましいわ。主も護れなかったではないか。精霊も長く人と交わると堕ちるものだの。』
蜘蛛のしわがれた高笑いが森の木々の間に響き渡る。
(まっずーい!!めちゃくちゃまずーい!!どうやって逃れよう・・・・。)
頭をフル回転しているけれどなかなか有効な策が見当たらず気ばかり焦る。
ジョルジュたちもそれぞれなにがしか奮闘してるのだけれどはかばかしい成果が見える様子もなかった。
シャンタルとフランの攻撃を私たちを盾にすることで避けながら大蜘蛛がずるずると私たちを巣へと引きずろうとした。
(あかん。暁星堂なんとかする前に蜘蛛のランチ&離乳食でエンドか?)
『私の縄張りに入り込んで勝手に狩りをするなといつも言っているでしょう。』
少しだけ若い声がして薮からガサガサバキバキと音がする。
「新手かよ。」
エリックが舌打ちするがガチガチに固められた私は振り向くこともできない。
(ちょうど半分にされて二体の蜘蛛にシェアされる未来図なんて嫌だあ!!)
『お前はいつも気取って地に満ちる魔力でエサは十分だとほざいているではないか?私が狩って何が悪い?』
『あんたはいつも食い散らかしていくでしょうが。私の縄張りに腐臭をばらまくんじゃないわよ!!』
『その場で新鮮なうちに食うのがいいのだ。ま、そこまで言うのならば今回は持ち帰ってゆっくりと味わうがの。』
(のぉぉぉ!!テイクアウト反対!!)
『・・・今回は人間なの?・・・・懐かしい匂いがするわ・・・。ヴィンスと同じ魔力の匂い・・・』
ずるずると巻き付けた私たちを引きずろうとした蜘蛛に後から来た蜘蛛がふと動きを止めて私たちを見た・・・と思う。目がよくわからないけど。
『なんだ?お前も卵を生む時期だろう?ちょうど半分にしようではないか?子供たちを飢えさせたくはないであろ?』
『ふん。私にそんな予定はないわ。つまらぬ雄との卵などいらぬ。』
『モテぬメスの僻みか。』
蜘蛛たちがなんだか女子バトル?を展開している。
「おい!エマ。新手が来たぞ。こっちがピッパじゃねえのか?」
「ピッパちゃんだとしてもこの状況特に変わらないんじゃないのっ!!」
「エマさま!!今この蜘蛛ヴィンスって言いませんでした?おじい様じゃないですか?」
エリック、ヴィヴ、ジョルジュが口々にがなり立てるので耳が痛い。とりあえず聞く。
「ねぇ。後から来た蜘蛛さん、あなたひょっとしてピッパってお名前じゃない?私はエマ。ヴィンスの孫よ!!」
『まぁっ!!ヴィンスの気配がすると思ったらそういうことなのね。・・・お前、この人間を離してとっとと出てお行き!!』
『せっかく捕まえた貴重な子供らの餌だ、誰が離すか!!』
鼻で笑う先客の蜘蛛目がけてピッパちゃんが激しい勢いで糸を飛ばしつつ飛び掛かり蜘蛛同士のバトルが始まった。
2匹が熾烈な戦いを繰り広げているうちに私は懸命に糸からの脱出法を考える。
シャンタルも近寄って牙を立てようとしてくれたけどやめさせておく。
(蜘蛛の糸、焼いたら一緒に丸焦げだろうし、溶かしたら一緒に溶けるかもだし。切るか、切るしかないのか。乾燥だ!)
「ヴィヴ、温熱して!」
「燃やすの?」
「違う!糸を乾かすの!!速く!!シャンタル!」
「分かった!防御だな。」
フランが空中から蜘蛛同士の戦いをフォローして私たちにとばっちりが来ないように守りを敷き、シャンタルがぐるぐる巻の私たちを温熱から守る。
「エリック、ジョルジュ、動けるようになったらお願い!」
「おう!ってあっちいな!毛玉!」
「黙れ、小童!!気が散ると貴様の肉が食べ頃になるぞ。」
「切れましたよ!!」
糸がちぎれるとジョルジュが腕に仕込んでいたらしいナイフで脆くなった蜘蛛の糸をざっくり切る。
素早く動いてまず私を、それからエリック、ヴィヴの糸を切る。
「どうしてエリックが先なのよ!!」
「こんがり焼かれそうだったからですよ!それにあなた詠唱してましたからね!集中乱すと怒るでしょう!」
さすがの緊急事態続行中なのでヴィヴも反論を控えて長杖を構える。ジョルジュ、今の対応を忘れなかったらどうかしら。
「どっちにしろ食われるのは勘弁願うぜ!」
エリックが解れてきた糸を振り落とすと右手に持った戦斧で左から薙ぎ払う。が、大グモは素早くそれから身を躱す。
「ち。さすがに一撃じゃ当たらんか。」
『手出しするな、小童!!』
金色蜘蛛ピッパちゃんが低い声で威圧する。
『これは私たちの戦いよ。人の小僧はすっこんでいなさい!』
『逃げおったか。だがまた捕まえればいいだけのこと。』
『この子は私の可愛い子なの。』
『だから愛でると言ってるであろう。骨の髄までな!!』
ありえないほどバックリと開いた口で威嚇する。
『そう・・・。でももう無理よ。お馬鹿さん。』
いつの間にやったのか先の蜘蛛の足全てに煌めく糸が絡みついている。
『おしゃべりに夢中になりすぎたようだな。私の糸に気づきもしないとは。』
酷薄な声音で金の蜘蛛は笑う。黒い蜘蛛の足に絡みついた糸は木々の間を伝っている。
『ずっと気に入らなかったのよ。これで清々するわ。』
ぐっと金色蜘蛛が糸を引く。何とも言えない破裂音が響き黒蜘蛛の手足が引きちぎれる音だった。
『ふぅ。ようやく片付いたわね。これでこの森も少しは安全になるでしょう。』
警戒心をあらわにする私たちには全く気を払わずに金の蜘蛛は足先から何かを糸にかけてきた。
それがかかると体にまとわりついていた糸の残滓がみるみると溶け落ちていって、私たちは改めて手足を動かして解放感を味わった。
「ありがとう。その意図を綺麗にしてくれて。」
「私は私を好きだけど他の蜘蛛なんて嫌いよ。どうして人間に生まれなかったのかしら。可愛さが足りないわ。蜘蛛なんて。」
先ほどまでの迫力はどこへやら、なんだか拗ねたような口調の蜘蛛に力が抜ける。
「なんだか聞いたことがあるわ。あまりに小さい頃から人に育てられたらその生物としての自覚?が身につかないことがあるって。」
ヴィヴが感心したように言うけれどとりあえず内心はどうであれ目の前にいるのは蜘蛛だ。
「あの改めて質問なんだけど、あなたはピッパ・・・ちゃん?」
「そうよ!その名前で呼ばれたのは久しぶり。あなたヴィンスの孫って言ったわよね。」
「あ・・はい。孫です。おじいちゃんが亡くなったのでお家の片づけをしててここに来たの。」
「そう・・・。ヴィンスは亡くなったのね。前に来た時にお別れだと思うって言ってたけど。」
ショボンとしたように俯く彼女(蜘蛛だけど)に場の雰囲気がしんみりとなる。
「とにかくもう森は飽きちゃった。お家に帰りたいのよ。駄目かしら?」
言葉は可愛らしいが目の前にいるのは金色に光る蜘蛛。悩む時間がほしい。
「街だと森みたいにエサがないよ?」
「ヴィンスは私に魔力をくれたわ。もう大人だし卵を生むことでもない限り魔力で十分よ。」
とにかくもう森にはいたくないのだ、なんあら魔力を使って体も小さくすると切々と訴えられてしまうと無下に断ることもできない・・・気がする。
一応命の恩義はあるし、断っても帰還の魔法陣に張り付いてでも着いてきそうな雰囲気だ。
「家からは出さないし、契約で縛るならいいんじゃないの?ねぇ!!そうしましょうよ。女の子が森に置き去りだなんて気の毒すぎるもの!!」
『ヴィヴ・・・と言ったか。わかってくれるのか!!あなた、いい子ね。あなたの魔力は嫌いじゃないわ。ねぇ、私を使い魔にしなさいな。』
「子蜘蛛を育てて見たかったのだけどあなたなら願ったりよ。むしろ私でいいの?」
『私の気持ちを理解してくれたのはあなただけだったんですもの!受け入れるわ。仲良くしましょうね。』
家主である私の了承もなく話がとんとんと進んでいくのに抗議しようとした私の肩をジョルジュがすっと掴む。
振り返るとジョルジュの背後でエリックが諦め顔で首を左右に振ってるのが視界の隅に引っかかった。
「これ、置いて行ったら一生恨まれるし、ヴィヴさんが別ルートで回収してきますよ。もう諦めましょう。」
ジョルジュの言葉に私はがっくりと肩を落とした。
暁星堂に新たな住民(?)が加わった。お店に顔を出さないように言い含めないといけないだろう。
なんだかんだで落ち着かず、出来上がってからの再投稿が遅れました。
1か月も空くとか・・・・。
お話を考えていたら別ネタが思い浮かんだのでそちらの準備もしていたので。
とりあえずできたのでそちらも明日あたりからボチボチ上げていこうと思います




