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お泊り会3

レフィリアは安心しきった顔で寝ているヴィータの隣に座った。そして静かに、ヴィータを起こさないようにしながら、頭を持ち上げ自分の膝に置いた。


「……スカー……スカー……」


「ふふっ、ヴィータさんの寝顔。普段とは違う、戦場にいた時とも違う、可愛い」


ヴィータは子供に戻ったようにレフィリアの膝の上で寝ていた。レフィリアはそのヴィータの頭を優しく撫で続ける。視察として城から出る時や、聖女として各地を巡っていた時にも時々子供の頭を撫でていたレフィリア。その子供の頭を撫でている時とは違う感情が渦巻いている。


初めて自分の愛する人を膝枕し、初めて自分の愛する人の頭を撫でる。ヴィータにお願いされたわけでも、ヴィータに許可を取ったわけでもない。ヴィータさんが目を覚ましたらどうしようとか、エレノアに気付かれたらどうしようと悩み、そんな悩みが背徳感を刺激し、気恥ずかしさに顔を赤くし、緊張で手が震えていた。


何度も何度も頭を撫でる。どれだけ時間が経っても2階には誰もやってこない。ヴィータは眠り続けている。いつまでもいつまでもレフィリアは撫でるのを止めない。


2人だけの時間。2人だけで話したことはそれなりにある。けど膝枕は、こうした特別な時間は初めてだった。


「……ムニャムニャ……フガッ!」


くすくすと笑うレフィリア。

喉を鳴らしたことでヴィータが静かに目を開けた。なぜか自分の視界にはレフィリアの優しく微笑む顔があり、頭には柔らかい感触があった。枕とは違う、ヴィータがどこか懐かしさを覚える不思議な感触。それはヴィータが幼い頃に母親にやってもらったことがある膝枕の感触と似ていた。


口を開けて寝ていたヴィータの口からは涎が垂れていた。レフィリアと見つめ合いつつそっと涎を拭う。目が覚め、頭が覚醒し、次第に今の状況をゆっくりと理解していく。顔が赤くなり、そして青くなったヴィータが急いで離れようとするがレフィリアがそれを阻止した。


「レ、レフィー!?」


「だ、ダメです! 大きな声を上げないでください。エレノアに気付かれたら大変なことになります」


「あ……あぁ……うん。でも」


「ヴィータさんは私の膝枕は嫌ですか?」


「い、嫌じゃないよ」


「ならこのままでいいじゃないですか。ね?」


動揺を隠せないヴィータに諭すように言うレフィリア。ヴィータはゆっくりと頭をレフィリアの膝に戻す。先程までとは違い、ほんの少しだけ頭を乗せた状態だ。


「そ、その……ヴィータさん」


「な、なに?」


「それだと……そ、その……頭が疲れてしまいませんか?」


「い……いや……その……」


「え、遠慮せずにもっと深く頭を乗せていいんですよ?」


「でで……でも」


「やっぱり私の膝枕は嫌なんですね……」


「ち、違うよ!」


「ち、違うなら……そ、その……証明して……ください」


「……わ、わかった」


2人の声は緊張と気恥ずかしさと、初めて経験する雰囲気で震えている。ヴィータは静かに先ほどよりも深く頭を乗せる。レフィリアの太ももに肩が触れるほどに。


2人の顔は真っ赤に染まり、恥ずかしすぎて滅多に目を合わせようとしない。目が合えばまた恥ずかしそうに目を逸らす。ヴィータが目を覚ましても膝枕を続けたことで、レフィリアの手は緊張で更に震える。それでもレフィリアは頭を撫で続ける。


ヴィータはそれを甘んじて受け入れる。恥ずかしさで顔を真っ赤にし、心臓はバクバクと高鳴り続けている。家の人に見つかったらどうしようと体を震わせている。それでもヴィータはやっぱりやめようと提案することをしなかった。ヴィータの中に不思議な気持ちが芽生えている。その気持ちがレフィリアとの時間を大切にしたいと、このまま膝枕を続けたいという感情をもたらしていた。


緊張と恥ずかしさのあまりお互いに感覚などなかった。でもそれでも2人はこのまま続けていたいという欲求に従い続けた。


「わぁ!? だ、ダメですエレノアさん!!! コン太くん抑えるのを手伝ってください!!!」


「は、はい! だ、ダメだ! お母さんも手伝って!!!」


「……懐かしいわ……あんな時期があったわねぇ……」


2階の階段からそんな声が聞こえてきた。鬼の形相でエレノアが3人を引きずって2階へ、ヴィータとレフィリアの元へやってきた。


「いつまで……いつまで続けるつもりですか!!!!!」


「うわぁ!?」


「きゃあ!?」


「ヴィータ貴様!!! なんて羨ましいことを!!! い……いえ……いや!!! 突然レフィーの前に現れただけの男がどうしてそんな羨ましいことをやらせてもらえるんですか!? レフィーもそうです!!! ここは2人だけの場所じゃないんですよ!!! 時と場合を考えてください!!! 3時間……3時間も続けるなんて……」


エレノアは、ついに本音しか言わなくなった。夜中に3人で語り合ったことが影響しているともいえる。


「ず、ずっと見ていたのですか!?」


「そんなことあるわけないでしょう!!!」


レフィリアが寝ているヴィータに膝枕している姿を見て、2階に上がろうとしていたティアは気付かれないようにそっと1階へ降りて行く。その後もコン太やコン太の母親も2階へ物を取りに行こうとして、2人を見て引き返していった。


ティアが物を取りに行くと言って2階へ行ったのに、静かに引き返してきたのを見て嫌な予感がしたエレノアが2階へ行こうとすると、ティアがそれを必死に阻止していた。エレノアにそんなことをする時は必ずヴィータとレフィリア絡みしかない。エレノアはすぐに止めさせようと動く。


しかしティアにそろそろ子離れしなさいと諭され、必死の思いで我慢していた。だが、一日の仕事を終え、全員で2階へ行くと、まだやっていたのだ。それはもう初々しく。ヴィータはとうに目が覚めているのに離れようとしない。レフィリアも終わらせようとしない。我慢の限界だったエレノアが飛び出していったわけだ。


初めての特別な2人だけの時間、初めての膝枕。緊張したこと、恥ずかしかったこと。それは後のヴィータとレフィリアの懐かしい笑い話になる。


そしてヴィータにとっては、レフィリアのことを初めて姫としてでなく、友としてでなく、一人の女性として意識した出来事。最も大切な守りたい者から、最も大切な守りたい女性に変わる最初の一歩だった。

登場人物について


ドラゴス

ヴィータの鍛冶の師匠として技術を身につけさせる役を担ってもらった。

後付け設定として世界で唯一オリハルコンを武器に変えることが出来たことにしました。歴史に名を残している救国の英雄にそのオリハルコンの武器を渡したと自分の頭の中で勝手に思ってます。将軍の地位を継ぐ者に代々受け継がれている剣がそれです。

ドラゴスが王国にいる理由付けにもなると思います。

適当に打っても変わらない評価を下す人間たちに呆れて手を抜くようになりました。救国の英雄と共に立ち上がった者達の中でドラゴスと気が合った者と協力関係にあったが、それが時の流れでドラゴスを引き留めるための契約に変わり、王国に縛り付ける理由になったと勝手に思ってます。


ヴィータのことを駄目弟子という理由は、ドラゴスが今までとった弟子たちの中で最も出来が悪いからです。ただ、ヴィータの鍛冶に打ち込む姿勢はどの弟子たちよりもいいと評価しています。

だからこそどの弟子たちよりも真剣に教え込み、何年経っても変わらないその姿勢に刺激されてやる気を取り戻すという流れになっています。


ルナ

ヴィータの師匠がいるのに、ティアとコン太に師匠がいないのは寂しいかなという理由で生まれてきました。ただ、細工職人や薬師に関しての話のネタがあまり思い浮かばなかったため、コン太の母親の病気のことを診察して助けようとしていたり、おとぎ話をしてもらったりすることになりました。

自分の中でエルフは器用で博識というイメージがあるため都合がよかったというのも理由の一つです。

ヴィータ達の成長を促すために、ヴィータ達が気付くまで陰でコン太の母親を守っていたり、気付いた時には手遅れだったということが無いように準備していたりと陰の立役者という役回りをしてもらいました。


師匠2人のことを書く予定がなかったためここに書き残しておきます。自分の中で最近浮かんだ脳内設定がほとんどなので需要がないかもしれません。

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