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天馬ゆくところ  作者: 天ノ川清
第五章 アドラ山の夜
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05-01 叛乱


 軍用仕様の動力筏(タグ)に引かれて貨物筏(トレーラー)が到着した。装甲筏(アーマード)が護衛についている。いつも通りの補給便だ。

 倉庫の中に貨物筏が引き入れられ、着地する。反重力場が切られると、(ラフト)がきしみ声をあげた。動力筏の外側は装甲陶板(タイル)(よろ)われているが、操舵室の屋根は日除けの幌が張られているだけだ。しかもその幌は視界をさえぎらぬよう後ろにたたまれていて、上から丸見えだ。乗っている監督兵は三人。いずれも防弾外套(シダル・パルト)は着ておらず、戦闘服の上に簡単な甲冑をつけているだけだ。

 彼らは壁際にのっそりと立っている看守や荷役の坑夫たちにもいつものことで気にとめる様子もなく、小銃を手に筏からおりようとした。そのとき、

「わっ」

 腰を浮かせた監督兵らの頭上に、いきなり裸の電線で編んだ粗い網がかぶさり、水が降ってきた。

「こいつら!」

 びしょ濡れになった監督兵たちは網を払いのけながら、銃口を(はり)の上に向けた。とたんに火花が飛び、三人は濡れた体を痙攣させて跳ねあがった。

「いいぞ」

 祐介は配電盤の電源を切り、梁の上のトゥムルに手をふった。

「荷をおろせ」

 看守の服を着たトゥムルは壁際の仲間に命じ、梁から降りて操舵室に登った。坑夫たちと力をあわせて気絶した監督兵を引きずりだし、地面におろした。待っていた坑夫たちが手早く三人の甲冑を脱がせる。(よろい)は薄い陶板を組み合わせたもので、海老の殻のように肩から胴、腰までを保護している。騎兵の場合はさらに腕と脚をおおうこともある。高級品ほど板の数が増えて動きが自由になるが、これは数枚ですませた安物だ。

「ユースケ、発動機が止まってしまった。動かせるか」

「まかせろ」

 手早く電線を片づけた祐介は操舵室にのぼり、絶縁布で手をおおい、濡れた座席に触れぬよう注意して電源釦(ボタン)を押した。計器が点灯する。さっきの電撃で回路は影響を受けていない。ほっとして操舵席に腰をおろすと、トゥムルが隣に坐った。

「危ないぞ、トゥムル」

「だいじょうぶだ。こっちは乾いている」

「じゃあ、頼む」と絶縁布を渡した。

 トゥムルは絶縁布ごしに電源釦に指を当てた。祐介が感電したらすかさず電源を切る用意だ。

「いいか、三、二、一」

 祐介は起動釦を押した。いきなり発動機が高速回転を始め、とっさに制動板(ブレーキ)を踏んだ。

「やれやれだな」

 祐介は座席に頭をもたれかけた。

「くつろぐのは後にして、はやく着替えてくれ」

「そうだった」

 祐介は急いで看守の服を脱ぎ、兵士からはぎとった鎧を着た。ホンの隊にいたころ何度か身につけたことがあるので着方はわかる。胸がきつすぎるが、調整している時間がないので、脇の留具は外したままにした。格好だけならこれで充分だ。汗臭い(かぶと)をかぶり面頬(めんぼお)をつけ、操舵席に坐る。

 やはり監督兵にばけたトゥムルと坑夫の一人も小銃を持って乗りこんだ。ほかの連中は、服をはぎとられた兵士たちを縛りあげている。大事な情報源なので手荒にせぬよう命じてあるが、皆の眼つきを見ると、兵士らの未来は明るくなさそうだ。

「補給物資はみんなおろしたぞ」作業を指揮していた坑夫が報告した。

「わかっているな、向こうが気づくまで撃つなよ」トゥムルは落着いた声で後席の坑夫に注意した。

「行くぞ」

 祐介は反重力場を発生させ、動力筏と空の貨物筏を浮かび上がらせた。


 管理棟の前では監督兵が六人、長い移動で疲れた腰をのばしている。それでも肩から吊した小銃に手をかけ、周囲に視線を配るのは忘れていない。他にも装甲筏(アーマード)の屋根から二人が半身を出して警戒している。

 本物の看守と、看守の服を着た坑夫たちがそれを遠巻きに眺めている。看守たちの背中には点火装置つきの指向性爆薬が貼りつけられている。硬貨ほどの量だが背中に窓をあけるくらいの威力はあり、妙な真似をすれば遠隔操作で点火すると告げてある。

 祐介は全速で突入したい衝動をおさえ、怪しまれぬ速さで装甲筏に近づいていった。まるで射撃場の標的になった気分だ。五十メートル、三十メートル、二十、あとすこし……。

 いきなり耳もとで銃声がして、心臓が跳び上がった。後席の坑夫がこらえきれずに小銃を発砲したのだ。

「この小心者め!」トゥムルがののしった。

「つっこむぞ」

 祐介は頭を下げ、反重力場の勾配を最大にした。が、すぐには速度があがらない。装甲筏が騎兵との戦闘にあまり使われないのはこの鈍重さのためだ。

 監督兵たちが撃ちはじめた。筏の横腹から火花が飛び散る。後席の坑夫が胸に炸裂弾を受けて座席からはじき落とされた。トゥムルが応戦する。たちまち装甲筏の屋根から二人が頭を引っこめた。

 筏は速度を増しながら装甲筏めがけて突進する。祐介は思いきり舵をきった。ひと呼吸遅れて貨物筏が大きく尻を振り、逃げ遅れた監督兵二人をはねとばし、装甲筏の横腹に激しくぶち当たった。

 トゥムルが立ち上がり、半秒間隔で四発撃った。一人の兵が片脚を吹き飛ばされ、一人が鎧から閃光を発してころがる。残りの二人は装甲筏に飛び込み、扉が閉まった。

 看守に化けて遠巻きにしていた坑夫たちが、倒れた兵士らの銃を拾おうと走りよる。装甲筏の屋根の上で機関銃座がぐるりと回転し、天を仰いでいた銃口が下を向いた。短い連射を浴び、坑夫たちの胸が砕け、腕がちぎれ、腹が破裂した。剥きだしの人体に命中した炸裂弾の凄まじい威力に、坑夫たちはたちまち身を隠す場所を求めて逃げ散った。

「トゥムル、つかまれ」

 祐介は動力筏を発進させ、ついで後退させ、貨物筏の後端を装甲筏にぶつけた。

 反重力勾配を最大にした動力筏と貨物筏の重量に押しこまれ、装甲筏がずるずると横滑りする。機関銃座からでは動力筏の頑丈な軍用仕様の燃料槽が盾になって操舵室を狙えない。かわりに銃眼から小銃で機関部と操舵室に炸裂弾を集中させる。装甲陶板の破片が飛び散る。

 止まるなよ。祐介は床に伏せて念じた。いま発動機がとまったら、おれたちはみんなおしまいだ。

 突然、乾いた爆発音と砂煙に包まれ、装甲筏が横転した。機関銃の銃身がひっくり返った昆虫の脚のように宙を掻く。物陰から坑夫たちが一斉に飛び出し、手製の手榴弾を手に駆け寄ってくる。

「やったぜ、ユースケ」

 トゥムルが祐介の肩を叩いた。

「ああ、手製地雷が効いたな」

 昨日のうちに発破(はっぱ)を装甲筏のとまりそうな何カ所かに埋めておいたのだ。

「筏を前に出すぞ」

 祐介は言って坐りなおした。瞬間、首がもげそうな衝撃に意識をうしなった。



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