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行き倒れも出来ないこんな異世界じゃ  作者: 夏野 夜子
陰謀巻き込まれ?編

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帰り道5

「あのね、遊んじゃ駄目って言ってるんじゃないんだよ。周りを見てほしいの」

「ギュッグルッ」

「ほら見て? 水浸しなの。風邪引いちゃったらどうするの?」

「キュー……ギュキュー」

「あとこれ! 靴! 濡れた靴って悲惨だから!」

「クェ……プ、プェ〜!!」


 2メートルある仔竜は鮭大の大きさの鮎っぽい魚を咥えて水から上がり、ビチビチと暴れるそれを食べる間もなく私のお説教に晒され、じわじわと身を低くして今はトカゲのように地面にぺしゃんと伏せながら黄色い目を潤ませていた。卑怯な可愛さである。

 ピエ〜と甲高い声で泣いたのと、おっとり見守っていた巨大竜達がまあまあと鼻先を寄せてきたのと、仔竜が咥えていた魚がデロンと動かなくなってしまったのでそこでお説教を切り上げる。溜息を吐くと、私と仔竜の上にマシュマロがコロコロと落とされた。これを食べて仲直りしろというのか。

 仔竜はそれを食べようと口を開けて魚を落とし、マシュマロを咥えたままそれに気が付いて拾おうとしてマシュマロを落とし、マシュマロが落ちたからと口を開けて……というばかわいいジレンマに陥っている。


 バケツの水を被ったような私とフィカルは一昨日乾かしておいた服に着替え、フィカルはキャンプファイヤーのような立派な焚き火を作った。その火を間近で囲むように丸く伏せているスーの横っ腹に絞った服を伸ばして置いて乾かし中だ。

 巨大竜はそんなことないのだけれど、スーは火竜だからなのか火を全く避けない。そんなところにいたら絶対熱い、という距離で鱗に張り付かせた服を大人しく乾かしながら、すぐ傍で炙っているドライフルーツをしきりに嗅いでいる。


「ほらほら泣かないの、順番に食べたらいいから」


 魚もマシュマロも食べられないエンドレスでまた高い鳴き声を出している仔竜のマシュマロを持ち上げて口に押し込み、次に大きい魚の尻尾の方を握って目の前に出す。大きいので非常に重かった。プルプルと私が持ち上げた魚を、仔竜がンガッと口を開けて待ち構える。


「あれ! 牙、大きくない?!」


 開いた口の中に並んだ牙が先程見たときよりも明らかに大きくなっていて、私は思わずそれに見入ってしまった。手をかけて覗き込むと、10センチを超えた太くて立派な牙が隙間なくみっしりと生えている。その内側には1列だけ、生え変わりの牙がほんの少し顔を覗かせていた。


「うわ〜急にこんなの生えてきたらそりゃ痒かったよね〜。大きいなぁ〜スーの牙くらいある?」

「グガゥ……キュウ」


 涎が凄いことになってきたので、開いた口に魚を入れると仔竜は真新しい歯でバリバリと魚を噛み砕いた。火の近くで炙られるようにして生えているジャマキノコもついでに口に入れてみると、ムシャムシャと食べてしまう。食べ足りないのかもっと、という風に鳴いて、周りに落ちているマシュマロもばくばくと食べてしまった。

 竜の成長って早いんだなぁ、とそれを見ていた私の口にも、ホクホクした甘さが入ってきた。クリのようなサツマイモのような甘さが火で炙ったことで強調されている。見上げると、フィカルがせっせとドライフルーツを千切って待機している。口を閉じたまま見つめていると、フィカルは首を傾げて今度は白湯の入ったマグを近付けてきた。そろりと傾けられて入ってくる温度が体を温めてくれる。


「餌付けに慣れてしまっているような……フィカル、自分で出来るからね」


 こっくりと頷いてはくれるのだが、このやり取りももう何度目なのか。


 仔竜が一応回復したので再出発しようかと考えたけれど、生えてきた牙を使うことに忙しい仔竜が川に潜っては鮭レベルの川魚を咥えて戻ってくるの繰り返しで動きそうにないので、ここで夜営の予定はそのままになってしまった。

 沢山食べたらしい仔竜は、獲ってきた魚を今度は私にくれるようになった。ビチビチと生きのいいデカ鮎を嬉しそうに押し付けてくるので受け取って褒めたら、何度も持ってくるようになったのである。流石に5回目で止めた。


 1匹は今日の晩御飯に、3匹はスーや巨大竜へのお裾分け、残りの1匹は保存食にするために塩やスパイスを切り身に擦り込んでおく。塩はともかくスパイスはほとんど荷物に入っていなかったけれど、そのあたりにあるハーブが結構良い仕事をしてくれたのだ。

 フィカルはその辺にあるもので簡易の燻煙窯を組み立てていた。大きくて表面がツルンとした葉っぱを重ねて小さいテントが出来ていく様子は感動的だ。フィカル、野生で生きていけそう。

 ただ、手が離せないからってフィカルのベルトと私のベルトを紐で繋ぐのはやめてほしかった。ペットか何かだろうか。仔竜が興味深そうに見ているのがいたたまれない。


「えっと、1晩くらい燻すんだっけ」


 日が傾き、細い煙を上げる燻製テントを見ながら尋ねると、フィカルがこっくりと頷いた。保存食を作る方法として燻製も習い、街中でお肉屋さんの手伝いをしたこともある。しかし今ここで自力で作れと言われたら私は出来ない。

 その代わりに作った川魚スープと川魚のキノコ焼きをフィカルと一緒に食べ終わると、巨大竜達がまた大きな岩盤を作ってくれた。これ、そんなに頻繁に作っちゃって大丈夫なのだろうか。地殻変動とか。

 一段高い風上から燻製を見守りつつ休む準備を始めると、スーも私達を囲むように近付いて伏せる。その外側に巨大竜も来て、他の竜たちもそれぞれの場所で丸くなり始めた。

 最後まで燻製を気にしていた仔竜も、呼ぶと飛んできてマシュマロで作ったベッドにダイブする。牙が出来てもまだ子供らしい。


「煙が消えないように確認しなきゃいけないんだよね。交代で眠る?」


 こくり。

 フィカルと交代で夜の番をするのには慣れている。ギルドでの夜勤を懐かしく思いながら、私達はマシュマロに半分埋もれるように座り、スーを背もたれにしてマントを首までしっかり巻いた。マシュマロの中でフィカルが手を握ってくる。

 夜勤でいつも私が前半に起きているので、まずフィカルが目を瞑った。

 夜空には星が多く程よく肌寒かったので眠気は来なさそうだったけれど、手を繋いだままだと燻製の様子を見に行けないのでは、と思った。






ご指摘頂いた間違いを修正しました。(2017/12/15)

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