2話 婚約破棄へのカウントダウン
瑠璃ちゃん視点です。
学園で瑠璃の悪い噂が流れ、暫く経った頃の事だった。
「瑠璃ちゃん、お出掛けしましょう!」
白雪は唐突に、瑠璃を街へと誘った。
「お出掛け? ……申し訳ないけど、今はそんな気分じゃ――」
悪意の視線に晒され続け疲れきっている瑠璃は、首を横に振って断ろうとした。
気を使ってくれているんだろうけど……今はそんな気分になれないわ。
不安定だった心は一時期より落ち着いては来たが、まだ遊びに行く気になどはなれなかった。
「今だからこそです! それに来月には、全員参加のパーディーもありますよね? その準備をしないと!」
しかし白雪は、そんな瑠璃の態度にもめげず一歩もあとに引かない。
何がなんでも、瑠璃を外に連れて行きたいようだ。
「……パーティ、もうそんな時期なのね」
この学園では年に1度、在校生全員が参加するパーティが開かれる。
そしてこのパーティは内部のみでなく、生徒の保護者も訪れる一大イベントだ。
多くの生徒が楽しみにしており、近頃耳にすることも多い。
しかし瑠璃にとってこのイベントは、全く違う意味を持つ。
何故なら――
在校生全員が参加するイベント…………それって、悪役令嬢水城 瑠璃の婚約破棄の舞台だわ。
……私も、同じように婚約破棄されるのかしら?
婚約が破棄されるのはいい。
いや、国的にはよくはないが、一輝の瑠璃に対しての露骨な嫌悪を見れば、結婚しても破綻は目に見えている。
ならば、早い内に結論を出してしまっても問題はないだろう。
お父様と、お母様には申し訳無いけれど……
それでも彼を縛り付けることなく、彼の思うまま愛した人との道を応援してあげることが瑠璃は水の国にとっていいことであると考えている。
ゲームのようにヒロインを虐め、暗殺までしようとしていたのなら、光の国と拗れてしまうことが目に見えて分かるからだ。
……第一王子は側妃の子で、弟王子はまだ幼いから、王太子が、この先変わることはないのでしょうね……
ならば自分が水の国に居続けるのは、両親に迷惑をかけるかもしれない。
苛めなどは一切していないが、一輝やヒロインである七星 ひかるは勘違いをしている。
優秀な彼等ならきっと暫く時間をおけば、瑠璃が無実であるということは理解できるだろうが、だからと言って仲良くなど出来る筈がない。
婚約を破棄した後で学園を卒業したら、瑠璃は暫く国を離れた方がいいだろう。
瑠璃はこの時、そうであって欲しいと思い込もうとしていた。
自分を支える為に、自分に嘘をついた。
――本当は、分かっていたのに。
この時既に、断罪へのカウントダウンは始まってたのに。
けれど、それでも幸せな未来を信じようとしていた。
……そう言えば、白雪達の住まいは何処の国なのでしょうか?
水属性だけれど……多分、水の国の出身ではないわよね?
……一緒に、付いていきたいと言えば、白雪は許してくれるかしら?
瑠璃は白雪との会話を忘れ、ぼぉっと思考を巡らせた。
瑠璃にとってこの1年半は、今までの人生で1番特別で大切で愛しい時間であった。
学園を出れば瑠璃は王族であり、身分に縛られるようになる。
そうなれば滅多に会えなくなるかもしれない。
それは、瑠璃にとって許容できることではなかった。
……それに、……翔君……私はこの感情が何なのかを知りたい……
翔といると心臓が高鳴って落ち着かなくて、苦しいけれど離れたくない。
そんな不思議な感覚になる。
もし瑠璃自身がそれを手放せば、2度と得ることは出来ない。
そんな気がするのだ。




