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選ばれた3人

「うっ・・・。」

 木漏れ日が目に入り、思わず声を上げるシン。飛ばされた先は森の中。初めて見る新緑の世界に段々と気持ちが高まってくる。

「すっげえ!なんだよ、この立派な木。それに弾力のある土。ナラカとはえらい違いだ!!」

 始めてみる景色に興奮するシン。そんな彼の前に一人の男が現れる。

「おい、おまえ、ここの住人か?変な格好しやがって。」

「なんだ、お前。・・・そうか、お前が俺の駒か。ちょっと手を見せろ。」

 突然現れた人間の男。彼の手を取り、指を見るシン。

「な、何しやがる。」

「!・・あった。銀の指輪だ。やっぱりお前が俺の駒か。」

 男が付けている銀の指輪を見て、確信するシン。反対に、男はシンの失礼な振る舞いに、憤りを覚える。

「てめえ!舐めてんのか!?」

『ガコン!!』

「っ・・・痛ってええええ!!!」

 男の拳がシンの頬を捉えた。だが、痛みが走ったのは男の方。鉄でも殴ったかの様な衝撃に、思わず叫び声を上げる。

「ははは。馬鹿だな。人間の拳なんか聞く訳無いだろ。そんな柔らかい拳が妖怪に効く物か。」

「よ、妖怪?」

「そう、妖怪。お前は俺の駒。殺し合いの手伝いをしてもらう。」

「何者だ?てめえ・・・。」

「だから妖怪だって。お前の事は知ってるぞ。『望月もちづき 洋一郎よういちろう』だろ?えっと、元日本ぷろぼく・・何たらかんたら6位くらい。」

「・・元日本プロボクシング ライト級6位。」

「そうそう、それそれ。よく分かんねえけど、すげえんだろ?それ。お前を選んだ理由がそれだ。その後、ヤクザとか言う銃を扱った専門職に就職。いやー。牛頭鬼様のノートを見て、ピンと来たね。こいつしかいないって。」

「?ほんとに何だ?お前。舐めてんじゃねえぞ!!」

 高速でパンチを繰り出す望月。肝臓、みぞおち、顎と急所を捉えるが、手応えが全く感じられない。

「無駄だって。威勢が良いのもいいが、少しはこっちの話も聞けよ。」

『バチイイイイッッ!!!!』

「!!」

 電流が望月の体を走る。突然の衝撃に、耐える事が出来ず地面に倒れ込む。

「へえ。あんまり送ってないんだけどな。なかなか便利な指輪だな。」

「な、なんだ?」

「言っただろ?お前は俺の駒。その指輪がそれを証明してる。」

「指輪?これか!!」

 必死に指輪を外そうとする望月。だが、銀の指輪は体の一部の様にピクリとも動かない。

「無駄だって。言っておくけど指を切っても無駄。そんな簡単に外れる物じゃないの。お前は俺の家来。死にたくないなら俺に従いな。そうしたら現世に帰してやる。」

「現世?」


・・・・・


「・・・なるほど、つまりこのゲームに生き残れば俺は帰れるわけか。」

「それは間違いない。詳しくは分からないが、過去の賞品ではそれが約束されてたからな。お前、銃で撃たれて死んだんだろ?」

「ああ、そうだ。やっぱりあれから記憶は繋がってんのか。いきなり森に飛ばされて呆然としていたが、俺は死んだのか・・・。」

「そう。このまま行けば、お前は地獄行きだろう。だが、下手すれば行き先を帰る事だって出来るかも知れない。どうだ?やらないよりはやった方がいいと思うが?」

(地獄行きかは知らないけど。まあ、どっちにしろ拒否権は無いんだけどさ。)

「人間界に未練が無いなら潰れても良いが、どうする?やるか?」

「・・・やるに決まってんだろ。」

「・・・だよな。」

 ニヤリと微笑み望月という駒が出来たことを喜ぶシン。


 

「・・・なるほど、それが『今回』のルールか。」

 舞台に用意された廃墟。外の日光が届き辛い一室でパイプ椅子に座り、カナンダからゲームの説明を聞く小柄な男。

「そう。理解が早くて助かるよ。さすがは優勝者と言ったところか。」

「ふっ。褒めても何も出ねえぞ。まだこのゲームは続いてたんだな。まさかもう一度、このゲームに参加できるとは思わなかったぜ。」

 女性の様に華奢な体と端正な顔立ち。名を『藤村ふじむら 我伊亜がいあ』と言う。

「さて、ガイア君。改めて意志の確認をさせてもらう。君はこのゲームに参加するかい?」

「もちろん。」

 軽い口調で返事をするガイア。2度目の参加である彼もまた、狂気に魅せられた人間の一人である。

「ただ、俺がやっていた時とはルールが違うな。イザナミや牛頭鬼は傍観するだけだったし、魔物と協力する事になるなんてな。」

「今回から初らしい。メンバーも分からない。ただ、君と同じ立場の人間は3人。各自、サポートする魔物が居る。」

「その術は?」

「詳しくは分からんが二人とも獄卒じゃ。サポートにはあまり向かん。アンジュはジオラマを作るくらい、シンは体が強く、戦士の様なタイプで術には長けておらん。」

「なるほど、だが何かしらの対抗はしてくるだろうな。いいねえ。死刑になって絶望していたが、再びこの世界に戻って来れるとはな。つぎの賞品は何かな。2度目となれば多少はこちらの望みを聞いてはくれるだろう。」

「そういう事は勝ってから考えるんじゃな。皮算用など何の役にも立たん。」

「まあ、そう言うなよ。希望を持つ位は良いじゃないか。こちとら、いつ執行されるか分からない死刑に怯えて暮らしていたんだ。」

「頼りにしているぞ。私はお前の異常性を買って選んだのだからな。」

「ふっ。褒め言葉と受け取っておくよ。」


「不思議な物だな。ベッドから動くことすらできなかったのに、嘘のように体が軽い。」

 自分の手を凝視し、体に違和感が無いか確かめる青年。

(しわが目立っていたのに、アイロンにでも掛けられたかの様に綺麗な手だ。20代にでも戻ったみたいだな。)

「体が充実していた頃に戻してくれたんだ。あのままでは戦えないからな。」

 石に腰掛け、青年に話しかけるアンジュ。青年の名は蜷川 弥太郎。現世では74歳と老人の姿だったが約50年前の姿に戻り、さすがに戸惑いは隠せない。

「弥太郎。あんたに渡した銃、それで他の人間と戦ってもらう。同族殺しは嫌だろうけど、それをしないと生き返れない。」

「生き返る?馬鹿な。私はもう十分に人生を堪能した。今更、生に未練は無い。」

「そうかい。ならば死後の扱いについて優遇されるだろう。」

「生に未練は無い・・・。だが、残した事は一つある。」

 生前、彼は一人の女性と結婚した。器量も良く、薄給の自分には勿体ない程の女性だと思った。やがて、一人の女の子が生まれ、その子が2歳になった頃、もう一人の妊娠が確認される。幸せを噛み締め、仕事も順調になったその時、事件は起きた。

 ある日、いつもの様に仕事を終え、マンションに帰宅した弥太郎を待っていたのは、彼が愛した者達の見るも無残な姿。部屋に差し込む夕日に照らされ、動かなくなった彼女達を見て、彼は呆然とする。鼻を刺激する血の匂い、目の前で肉塊となった我が子と妻。

『朝、いつもの様に玄関先で見送ってくれた妻と子供が何故・・・。』現実を受け入れられず、絶望に打ちひしがれ、腰を落とす。


 それが殺人事件だと認定され、目撃情報などから犯人が捕まる。逮捕されたのは同じマンションに住む一人の少年。階も違い、一家とは全く関わりの無い人間だった。

 彼は警察の取り調べで犯行理由をこう述べている。


『女性の体に興味があった。』


 以前から同じマンションで暮らす妻に性的な興味を持った少年は、包丁を片手に計画性も無く押しかけ、中に居た妻に暴行をした。その際、妻に抵抗され、思わず刺したのだと言う。そして、泣きわめく子供の口を閉じるため、隣に居た長女を・・・。

 当時、15歳だった少年は少年法に守られ、実名が公開される事は無かった。また、残虐な事件を起こしておきながら、言い渡されたのは懲役6年という軽い判決だった。


(一人の少年により人生を狂わされた弥太郎。その後、今の妻と結婚し、再び幸せを手に入れる。新たな生活により憎悪の炎は鎮火したが、ここで再び燃え上がるだろう。)

 アンジュは弥太郎の内に、静かに眠る憎しみの炎に賭けた。50年以上も前に誕生した炎は消える事無く、今でも静かに燃え続ける。

「更生という理由により軽減された罪。幼子や嫁を殺しておきながら僅か6年の服役で犯人は戻って来た。遺族も納得がいかないだろうね。ここではそんな法律は無い。現世でやりたかった事をやれば良いさ。だが、弥太郎。お前も狙われている事を知るんだ。」

「他の者に恨みは無い。なるべく殺さずにしたいのだが・・・。」

「それは無理だよ。最終的には一人しか生き残れない。戦いを放棄して逃げ続けるかい?その間にお前の殺したい奴は、他の奴等に殺されちまうよ。」

「・・・・。」

「歯切れが悪いなあ。憎悪の強い人間は同族も簡単に殺すって聞いたんだけど。」

「そんなものは一部の人間だ。大抵の人間は躊躇をする。」

「言っておくけど、ここに集められたのは、その『一部の人間』だよ。お前の殺したい人間なんて、まだまともな方。恨みを晴らすのも良いけど、生き残る事を考えな。」

「・・・・・。」

 

・・・その日の夜。焚火を消し、横になる弥太郎とアンジュ。

「なあ、起きてるか?」

「ん?どうした?」

「その・・・。人間について教えてくれよ。」

「人間?言ってる意味が分からないんだが。」

「そうだな・・。その、憎悪について。人間って他の生物と違って、必要以上に欲が強いんだろ?その理由って言うか・・・。」

「ああ、そういう事か。お前ってさ、人間に不慣れだろ?」

 昼間の会話で、彼女が人間とあまり接した事が無いと言うのは感じていた。だが、そんな質問をされるとは思わなかった。

「そんなことは無い。ただ、仕事以外で人間と会話するのは初めてだな。拷問をするのが私たちの仕事だし。」

「・・・なんか、怖いこと言ってるな。いいよ、教えてやる。確かに人間は欲が強い。普通の動物は生きていける分だけの食料があればそれ以上は求めない。」

「そうそう、それそれ。なんで必要以上に集めようとするんだ?食いきれないだろ?」

 質問が伝わり、食い気味のアンジュ。その様子を見て、思わず鼻で笑う弥太郎。

「落ち着けよ。まあ、食料はそんなに集めないかな。それよりも集める物がある。」

「集める物?水か?」

「違う。『かね』だ。」

「かね?鐘?」

「人間の世界では『お金』って物があって、それがあれば何でも手に入る。土地も品物も女性も地位も。思いつく物は大抵な。」

「へえ・・。凄いな。」

「そう、そんな便利な物があるんだ。人間はそれを必死に集めようとする。だが、なりふり構わずに集めようとする人間がいる。そこで争いや騙し合いが始まるんだ。」

「なるほど・・・本当になんでも叶うのか?」

「ん?・・まあ、大抵の願いはな。」

「本当に?」

「・・本当に。」

「何でもか?」

「・・・何でもだ。」

「すっげえな。神様みたいだな。その『お金』って。」

「神様?」

「だってそうだろ?そいつがあれば願いが叶うんだから。神様じゃねえか。」

「はははっ。なるほど、神様か。言われてみれば確かに。そんな風に考えた事は無かったな。面白いなお前って。」

「・・・?」

 アンジュの純粋な答えに現状を忘れ、大笑いする弥太郎。今までの硬い表情が崩れると同時に弥太郎の心が和らぐ。

「まあ、神は神でも『紙切れ』何だけどな。」

「紙切れ?」

「そう。お金ってのは紙切れだ。他の生き物には使い道の無い、ただの紙切れ。」

「何だそれ!人間って紙切れで願いを叶えるのか!?」

「そうだ。馬鹿みたいだろ?その紙切れで争い事が起きるんだぜ。」

「訳分かんない・・。それなら、その辺の水や木の枝の方がよっぽど使い道あるじゃないか・・・。」

「ははっ。まあな。だが、これが無いと人間の世界では生きていけない。こいつが無くて死んだ人間なんて数えきれない位いるぞ。」

「へえ・・・。やっぱ人間って変な生き物だな・・。」

「まあな。さて、そろそろ寝るぞ。お前の話じゃ寝なくても平気らしいが、俺は気を休めたいんだ。」

「ああ・・。色々教えてくれてありがとな。また、聞かせてくれよ。」

「別に良いが。」

 弥太郎は再婚してから3人の子供に恵まれた。だが、その3人の子供はいずれも男であった。純粋で無邪気なアンジュと話をして、ふと昔の事を思い出す。

「・・・女の子が居れば、こんな感じだったのかな。」

「ん?なんか言ったか?」

「別になんでもねえよ。」

 寝返りを打ち、アンジュから背を向けて寝ようとする弥太郎。

「『女の子が居れば、こんな感じだったのかな。』とか・・」

「聞こえてんじゃねえか!!さっさと忘れて寝ろ!!」

 赤面し、恥ずかしさが込み上げる。再び寝ようとしたその時・・。


『ドゴオオオオオン!!!』


「何だ!?」


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