開戦前夜
ドアを開け、お茶をする3人の前に現れるアンジュ。
「お、決まったか。その顔から察するに、良いのが見つかったらしいな。」
長考を終え、自信に満ちた様子のアンジュ。牛頭鬼の言う通り、あの中で一番であろう人材に手ごたえを感じる。
「では、ゲームの説明をしようか。間もなくその魂はこちらに運ばれてくる。その中で、お前達にはこの指輪をしてもらう。」
テーブルの上に金の指輪を置くイザナミ。そして、着物の裾からもう一つ、銀の指輪を取り出す。
「これはお前達と駒である人間との服従関係を成立させるための道具だ。金の指輪は妖力をこの銀の指輪に送る。そして、その妖力を人間へのダメージに変換させることが出来る。因みに、一度付けたら外すことは出来ない。その術を知っているのは私だけ。指を切っても駄目だよ。その場合は強制的に失格とさせてもらう。それから、お前たちは妖術を使い人間をサポートしてもらう。だが、直接人間を攻撃する事は出来ない。指輪がそれを抑止する。」
煙草盆を取り出し、刻み煙草を丸めるイザナミ。その作業を不思議そうに見ながら話しに集中するシンとアンジュ。
「ん?ああ、これは煙草と言う嗜好品。あまり気にしないでくれ。」
「コホン!さて、舞台についてだが、新たなジオラマを用意した。だが、残念だがこれは見せる事が出来ない。実際に己の足で調べるが良い。そして、肝心の武器だが・・・。」
(武器・・・。)
その言葉で、アンジュの脳裏に『ケイタイ』の単語が浮かびあがる。どんな代物かは分からないが、これをうまく使いこなす事が、このゲームに勝つコツだと感じていた。だが・・・。
「人間にこれを使わせる。」
テーブルに置かれたのは一丁の銃。
「これは『拳銃』と言ってな。人間が開発した武器を我々が少し改造した物だ。弾数は無限。我々がこれを受けてもたいした事は無いが、人間がくらえば致命傷だ。君たちはあくまでサポート。人間にしか人間は殺せない。それを肝に銘じてほしい。」
「ああ、それとこの指輪は同調しあう。妖力を強めに送りな。近くにそいつを付けた奴が居れば、指輪が小さな電流を流して教えてくれるよ。」
「・・・まあ、こんなところかな。何か質問は?」
「あ、あの・・・。」
アンジュが手を上げる。
「『ケイタイ』とかいうやつは使わないんですか?牛頭鬼様の見せてくれた本には毎回使われていた様ですが。」
「本?お前、もしかして記録を見せたのかい?」
「ん?ああ。」
「『ああ』って。まあ、別に良いけど情報をボロボロ流すのは感心しないね。」
「すまないな。今回、君たちは携帯を使わない。だが、その機能を分散させて各自に持たせることにした。それにより、人間と協力することが必要となる。」
「人間と協力・・・。」
(あんな生き物と・・。)
「どれ、資料を預かろうか。これをもとに参加者を決めるからな。それと、ここから先は情報交換を禁止する。決戦は明日。それまでは用意した部屋で各自、休むがいい。」
「・・・落ち着かない。」
ベッドで横になるアンジュ。堅い床にせんべい布団を敷いて寝ていた彼女には、ふかふかの布団がどうもしっくり馴染まなかった。
「・・・私もゲームとやらに参加するのか。なんか、おかしな方向になっちゃったな。見るだけかと思ってたけど。」
(牛頭鬼様も考えてみるとおかしいな。ここまで特別扱いされると裏を疑う。この戦い、私達も危険に晒されるんじゃないか?)
親切と言うにはあまりにも度が過ぎている。わざわざ自国に招き入れ、尚且つイザナミ様にまで協力を得ている。
「考え過ぎ・・・って訳でもないだろうな。命の危険があるのは、きっと人間だけじゃない。」
「ふーむ・・。中々良い所に目を付けたな。」
3人が選んだ人材を見て、感心する牛頭鬼と、その隣で一杯やりながら煙草を吹かすイザナミ。
「面白い奴は居たかい?」
「うむ。やはり色んな視点から選ぶと面白いな。これなんて面白いぞ。」
「なんだいこれは?老人じゃないか。誰だい、こいつを選んだ奴は?」
手渡された資料を見て驚くイザナミ。写真に写るのは老人。前髪が寂しく、白髪頭が余計に悲しさを感じる。とてもじゃないが、パートナーと言うには明らかにマイナス。
「ふふ・・。アンジュだ。容姿に惑わされるな。経歴は結構面白いぞ。」
「なになに・・。バツイチで、今の妻との間に子供を3人儲ける。普通じゃないか。」
「その前を見ろ。」
「ん?・・・・・へえ。」
「前妻と暮らしていた時に起きた事件が中々面白い。おそらくアンジュはここに目を付けたんだろう。」
「良いじゃないか。この老人の姿は、その時の年齢まで巻き戻してやろう。ここまで深いと 憎悪の火は消せそうにないね。引火するのも容易いだろう。」
満足そうに次の参加者に目を移すイザナミ。そこで彼女の目に思わぬ人物が飛び込んでくる。
「!・・・こいつは」
「さすがに驚いたかい?」
「誰だ、こいつを指名したのは。」
「カナンダさ。精神が狂っていると判断しての採用だろう。ルール上は問題無いが、まさか彼が同じ日に死ぬとはな。」
・・・翌日。
「さて、それではゲーム開始だ。人間には既に銀の指輪を付けてある。だが、彼らはここに来たばかりで理由を知らない。君たちが教えてあげる必要がある。」
「人選に問題は無い。お前たち、面白い人間を選んだね。これから先は全員が敵。精々、頑張りな。それじゃあ行くよ。」
緊張する3人の前で右腕を高く上げるイザナミ。『パチン』と指を弾き、彼らをジオラマの中へと送る。
「・・さて、私の役目は終わり。あとはお前に任せるよ。」
「うむ。協力、感謝する。礼を言うよ。」
「ふふっ。礼には及ばない。録画、忘れるなよ。私も楽しませてもらうんだからさ。さーて、こっちも仕事があるからね。何かあったら言いな。まあ、一段落したら顔を出すから。」
そう言うとドアを開け、別の部屋へと移動するイザナミ。
「・・・舞台は整った。これから、どう動くか。」




