選別
・・・3人が図書室に籠り、数時間が経つ。牛頭鬼とイザナミはいつも通りのティータイムを楽しむ。
「久々にアッサムティーを飲むが、中々癖になるな。」
「そうかい?私はミルクティーにする方が好きだねえ。どうも強くて飲みにくい。それよりどうだい?あの子たちは良い人材を見つけられると思うかい?」
「ふむ。改めて君には礼を言うよ。協力に感謝する。」
「なに。お前の言う事だ。それなりに楽しめると考えている。だが、私も色々忙しくてね。一緒に楽しむ事は出来そうに無い。後で録画した物を見させてもらうよ。」
「ああ、そういう約束だからな。暇が出来たら顔を出すと良い。その間の事は責任を持ってやらせて貰う。運命の糸は赤だけでは無い。意外と良いパートナーが生まれるかも知れぬ。」
「ふっ・・。部屋は自由に使いな。もっとも、ゲームが始まればここに残るのはお前一人だろうけどね。」
「うーむ・・・。」
本をペラペラと捲り、集中力の切れた様子のアンジュ。興味の薄い彼女には、今一つ気持ちが湧いてこない。その様子を見かねたシンが、アンジュに話掛ける。
「お前な。せっかくのチャンスなんだぞ。此処までされて何もしないなんてもったいないにも程があるだろ。」
「そういうお前は目星がついてるのかよ。どれを見たって似た様な境遇じゃねえか。」
「牛頭鬼様の勧めてくれた本を見たか?過去の勝者から絞ってみたらどうだ?」
帰り際、牛頭鬼が手渡してくれた一冊の本。それには、イザナミと牛頭鬼が行ってきたゲームの参加者と優勝者が書かれていた。
「見たよ。でも、あの本を見る限り、ゲームの参加者には『何かしらの力』が与えられていたな。そう考えると今回も普通の状態では戦わせないのかな?」
「ああ、『ケイタイ』とか言うヤツな。よくわかんないけど。カナンダさえ知らないんだ。ナラカの獄卒は誰も知らないんじゃないか?」
その本に度々出てくる『ケイタイ』や『バクダン』と言った単語がよく分からない。だが、資料を見ているとこれがゲーム上の強い武器なのは間違いなかった。
「でも、言ってたろ?勝負は五分五分。スタート地点で戦力差は無いはずだ。」
「うーん。さっきも言ったけど分からないんだよな。過去の勝負を見ても、勝てそうもない人間が勝ってたり、意外な人間が惜しい所まで行ってたり・・・。」
「それが人間の戦いじゃ。」
聞き耳を立てていたのか、会話に加わるカナンダ。見ていた本をパタンと閉じ、アンジュに近寄る。
「すべての人間が肉食動物の様に必死に襲いかかる訳でも無く、そして草食動物の様に逃げ回る訳では無い。やつらの思考は自分達でも分からぬ。何千年経とうが、あてはまる習性や本能が少ない。」
「それって知能が高いって事か?」
「分からぬ。ただ、あいつらは仲間と接する時とは別に、心の中に本心を隠しておるからな。それを如何に見抜くかが勝利のポイントになるかも知れぬ。」
「めんどくさい生き物だなあ・・・。」
「おかえり。決まったようだな。」
ドアを開け、入室するシンとカナンダ。二人とも、片手に本を携えている事から、参加者の目途を付けたと判断する牛頭鬼。
「はい。『俺達』は。でも、まだアンジュの奴が。」
「なに、ゆっくり決めれば良いさ。待機する部屋も用意してある。それが『拠点』となるのでな。」
・・・・・
「うーん・・・。うーん・・・。」
唸り声を上げながら一度見た本に再び目を通すアンジュ。
「恨み・・ねえ。虐待された人間は何人もいたが、戦えるかどうかは分からないんだよな。」
無意識に独り言が増えるアンジュ。口に出した不安を拭う事が出来ず、選別に行き詰った彼女だが、あるアイディアが頭を過ぎる。
「・・・ちょっと待てよ。たしか、人間って恨みを忘れる事の出来ない生き物だよな。という事は・・・。」
(何十年も前に、心に深い傷を負った物ならば勝利に強い執念を見せるんじゃないか?確か、年齢を調節するとか言っていたな。そう考えると、人間界で老人の奴でも今回の戦いでは十分な戦力になる可能性が・・・。)
別の視点からもう一度資料を見直す。そして・・・。
「あった・・。なになに、『蜷川 弥太郎』74歳。死因は脳梗塞か。・・・ふむふむ。いいねえ。興味が無くても分かるよ。他の奴等に比べて心の傷はでかい。原石ってのは思わぬところに眠ってるもんだな。」