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ヘルゲーム再び

その後、アンジュ、シン、カナンダの3人は研修生として黄泉国へと招き入れられる事となった。

「うわあ・・・すげえな。」

「おいアンジュ。あんまりジロジロ見ると田舎者だと思われるぞ。」

「黄泉国へ来るのは初めてかい?」

 牛頭鬼の案内で日本の地獄を巡る3人。初めて見る光景に、アンジュとシンは言葉を失う。

「あ・・はい。俺とアンジュはナラカから出た事が無いので・・・。」

「シン、見てみろよ。この国の獄卒はイカツイ顔してんな。怒ってるじゃねえか。」

 作業をする獄卒を指差すアンジュ。その指を押さえ付け、制止するシン。

「ば、馬鹿。指差すんじゃねえよ。」

「ははは。二人とも、良く見ておくんじゃ。文化も違えば拷問内容も変わるからな。」

 3人の中で唯一、落ち着きを見せるカナンダ。

「カナンダ殿はこちらへ来たことがあるのですか?」

「何、昔の話じゃ。医者なんてやっておるからな。国を出る機会はあるさ。」

 テンションの上がったアンジュを見ながら昔を思い出すカナンダ。

「牛頭鬼様!!これは何をやられているのですか?鉄の板を熱していますが。」

「ん?これか?これは拷問に使う鉄板だ。ここ、『黒縄地獄こくじょうじごく』では、この熱した鉄板の上に罪人を乗せ、熱せられた特製の黒縄で線を引く。」

「黒縄ってなんですか?」

「大工の器具だよ。本来は、木材に線を引くのに使うそうだ。それだけでは無いぞ。その後、刃物で切り刻み、熱した鎖をぶら下げさせ、風の強い場所に連れて行くんだ。」

「風の強い場所?」

「そう、傷口を風が刺激し、更に風で熱せられた鎖が体中にまとわりつく。もちろん、座る事は許されない。ここでは死ぬに死ねないため、罪人たちは逃げることも出来ない。」

「へえ。地獄が違うとやはり拷問内容も違うのですね。」

 この場合の『逃げる』とは、『死』を意味する。アンジュもその事を理解し、牛頭鬼の説明を真剣に聞く。

「黒縄地獄は八熱地獄の内の一つだ。大きく分けて、八熱地獄、八寒地獄、孤地獄の3つ。さらに小地獄も入れればその数は200を超える。」

「ひええ・・。この国はそんなに罪人が多いんですか?」

「うーむ。それもあるが、時間の流れが他に比べて遅くてな。地獄は人間界より時間の流れは遅いが、ここは更に遅い訳だ。その分、受け入れる人数も自然と多くなる。」

 アンジュを見下ろし、彼女の小さな頭を優しく叩く牛頭鬼。

「さて、地獄めぐりはもう良いだろう。君たちには会わせたい人物が居る。」

 そう言って3人を案内したのは何もない部屋。物置と言うには、掃除も行き届き、あまりにも綺麗。だが、家具の一つも無い事から、誰かの部屋という訳でも無い。あるのは次の部屋に繋がっているのであろう木製のドアだけ。

「このドアの向こう側だ。少々気難しい方でな。扉の向こう側にあるのは部屋では無く、彼女が作り出した世界だ。」

 そう言ってゆっくりとドアノブを回し、扉を開ける。

「うわあ・・・。」

「すげえ・・・。」

 扉の向こう側。白く広がる世界に思わず声を上げるアンジュとシン。

「これは・・・。凄い・・妖術の一種か?一体、どこまで続いているのか。」

果ての無い世界に圧倒されるカナンダ。2人とは違い、世界を作り出した魔物に興味を抱く。

「立ち話もなんだ。こちらに来なさい。」

 牛頭鬼が案内した先。ドアの裏側に存在する小さな部屋。本棚が並び、アンティーク家具が並べられ、その中で煌びやかな着物を着た金髪の女性。胸元まで伸びた髪を軽く掻き上げ、3人を見つめる。

「きれい・・・。」

妖しさを持ったその動きに心を奪われるアンジュ。

「ごきげんよう。連れて来たよ。」

「ふふっ。おつかれ。まあ、そこに座りな。」

 椅子に座るアンジュ達を余所に、茶器をカチャカチャといじり、慣れた手つきで紅茶を作る牛頭鬼。

「ご、牛頭鬼様。そういう事は俺達がやりますから。」

「構わないよ。やらせておけば。こいつは茶についてはこだわりがあるから。」

「!!」

(ご、牛頭鬼様を『こいつ』呼ばわり。この女、何者だ?)

 驚きを隠せないシン。その顔を見て、彼が何を考えているのか気付き、『ふっ』と鼻で笑う。

 数分後、出来上がった紅茶を皆の前に運ぶ牛頭鬼。

「まあ、自己紹介でもしようか。私の名はイザナミ。黄泉の国の主宰神だ。」

「い、イザナミ様。・・・あなたが。」

「ま、マジかよ。超大物じゃねえか・・。」

 椅子が無かったら立っている事すら出来なかっただろう。シンとアンジュの体が震え、力が抜けて行く。

「そこの御老人は驚かないようだね。」

「いえ、流石に正体までは。ただ、世界を繋ぐ扉の大きさや、作られた世界の大きさから、並みの魔物では無いのは分かっておりましたから。」

「へえ。さすがに医者だけあって知識が豊富だね。」

「御冗談を。多少、妖術に心得があれば、これを見て驚かない者などいないでしょう。久々に良い物を見せて頂きました。若い頃を思い出し、この老いぼれも血がたぎりますわい。」

「はははっ。他人との関わり合いが嫌でイザナミが作った世界なのだがな。」

 カナンダの言葉に声を上げて笑う牛頭鬼。

「悪かったね。面倒臭いんだよ。鬼にしろ、神にしろ、他者との関わりってやつが。仕事はこなしているんだから別に良いだろ。隔離した世界を作ったって言うのに毎日の様に来やがって。」

「居心地が良いんだよ。それに、茶飲み友達くらいは居ても良いではないか。」

 雑談する3人とは対照的に硬直したままのアンジュとシン。そんな中、シンが小声でアンジュに話しかける。

「おい、これってそのまま飲めばいいのか?」

「・・多分。牛頭鬼様はそのまま飲んでるし。シンはこの飲み物知らないの?」

「おそらく、『茶』とかいう奴だと思う。草の煮汁って話だけど、初めて見たな。」

 目の前に出された飲み物の飲み方が分からない二人。湯気を立て、ほのかに懐かしい香りを漂わせる謎の液体を前に、固まる二人。底が狭く、上部が広い不格好な入れ物が不思議さを増加させる。

「この入れ物ってあんまり入らないよね?」

「そうだな。使い勝手が悪そうだよな。なんか花の絵が描いてあるけど。」

「アッサムティーは嫌いかね?」

 二人がカップを不思議そうに見ている事に気付き、声を掛ける牛頭鬼。

「あっさむてぃー?って言うんですか?」

「もしや、紅茶を飲むのは初めてかい?」

 牛頭鬼の質問を質問で返すアンジュ。そして、その質問を更に質問で返す牛頭鬼。

「飲み物っていうと、私達は水しか知りませんから。」

「これって『茶』とかいう飲み物ですか?」

「うーむ。『茶』にも色々あってな。これは『紅茶』と言う。そして、その紅茶の中にも色々な種類がある。まあ、気にせず飲んでみなさい。」

「は、はい。」

 言われるがまま紅茶に口を付けるアンジュとシン。

「どうだい?」

「お、おいしいです。何か懐かしい味がして。」

「お湯に味が付いてる。確かに懐かしい味だ。」

 これまで水と魂しか口にしたことの無い二人にとって、初めて知る味だった。

「それは良かった。紅茶の中でも香りが強い方だからね。ミルクを入れる飲み方もおすすめするよ。これが中々おいしい。」

「『みるく』ってなんですか?」

 初めて聞く単語に首を傾げるアンジュ。

「牛の乳さ。」

「うし?」

「・・・・・。」

 牛頭鬼の顔を見つめるアンジュを見て、爆笑するイザナミ。

「アッハッハッハ!!馬鹿だね。そりゃお前の口から『牛乳』の話をすれば、誰もがお前の顔を見るよ。」

 余程ツボにはまったのか、涙を流し、腹を押さえて笑い転げるイザナミに、少しムッとする牛頭鬼。表情は変えないが、無言の様子から不快感を露わにする。

「あ、あの・・その・・すいません。」

「・・なに、君が謝る事は無いよ。」

「ひーっ・・ひーっ・・。はははっ。・・ああ、久々にこんなに笑ったよ。はあ・・。アンジュって言ったね。お前、面白いね。」

 紅茶を飲み、落ち着こうとするイザナミ。先程までの静かな表情から一変、豊かな顔を見せる。

「そろそろ本題に入って良いかな?」

「あ、ああ・・そうだね。悪い悪い。そんなにむくれるなよ。悪気は無いんだ。」

 溜め息を吐き、持っていたカップをテーブルに置く牛頭鬼。コホンと小さく咳をした後、喋り出す。

「さて、君たちをここに連れて来たのはイザナミに会わせるためだ。君たちも知っての通り、ここで私とイザナミは人間の殺し合いを楽しんでいる。まずはどういった風に行っているか見て頂こう。イザナミ。」

「ああ・・。」

 パチンと指を鳴らすイザナミ。現れたのは、ガラスケースに入れられた、精巧なジオラマ。

「この前、使った物だ。作られた無人島。この中に意志のある人間の魂を入れ、殺し合いをしてもらう。」

「す、すげえ・・・。」

「綺麗・・・。でも、どうして水で包まれているの?それに、水が生き物の様に動いている。地面は砂かな?結構白いけど。」

 ケースに手を当て、中を凝視するシンとアンジュ。

「それは『海』って言うんだよ。動いているのは『波』って言うの。人間の住む世界の7割は、その水によって占められている。残りの3割で人は暮らしているのさ。」

「すごい・・・。私が作った物とは全然違う。こんな世界があったなんて・・・。」

 感動するアンジュの後姿を見つめながら牛頭鬼が説明をする。

「イザナミが言った様に、これは人間の世界をモチーフに作られている。ここで幾つかの武器を与え、なるべく戦力差が出ない事に気を使う。希望くらいは与えておかないと人間は動かないのでな。」

「始まった時点での戦力は五分五分だね。人間を若返らせたりして、極力、偏らない様にする。そして、大事なのが私怨。」

「!」

 その言葉に強く引き寄せられるシン。

「皆も興味があるであろう。人間の感情で一番強いであろう人を憎む心。狙うもの、狙われるものにそれを含ませる事で、このゲームが更に極上の物となる。」

「私怨・・。」

(本当に皆が言うほど、凄い物なのだろうか?)

 いまだにアンジュに皆が人間に夢中になる理由が分からない。獄卒である彼女にとって、 人間など、仕事で拷問を受けさせるだけの存在。感情と言う言葉すら結びつかない。

「ジオラマはこちらで用意する。君たちには人材を集めてもらう。着いてきなさい。」

 背後にあるドアを開く牛頭鬼。案内されたのは、天井まで届く本棚が幾つも並ぶ、図書室。大量の本に圧倒される面々。

「うわあ・・・。」

「こりゃすごい。こんなに大量な本が収められた建物、ナラカにも数えるほどしか存在せぬ。」

 目を輝かせるカナンダ。本が貴重な地獄。当然、彼の目には宝の山に見えた。

「だが、残念ながら必要なのはここからここまで。」

 イザナミが数個の本棚を指差し、必要な本が収められている本棚の範囲を指定する。

「この範囲には時期に死ぬ人間が書かれていてね。その中から、『性別』、『年齢』を問わず面白いと思った人間を一人選んでもらう。それを自分の駒にし、ジオラマで戦ってもらう。因みに、戦うのはお前たちの駒だけでは無い。ゲームを盛り上げるために、こちらからも何人か用意しよう。」

今回、長めで投稿させて頂きました。アンジュ達がパートナーを探す事になり、闘う準備が整い始めます。イザナミ、牛頭鬼と前回のキャラが加わり、再び彼らの手のひらの上でゲームが開始されます。新たな挑戦者たち、そしてアンジュ達、魔物がどういった戦いを見せるか。それが今回の見どころです。

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