牛頭鬼2
獄卒の休憩室へと牛頭鬼を招き入れるアンジュ。
「ふむ。ナラカの休憩室はスペースもあり、充実しているな。これはうちも見習う必要があるか。」
休憩室を見渡し、ゆっくりと椅子に座る牛頭鬼。かつてない体重を預けられた椅子の『ミシッ・・』という悲鳴を聞きながら、同じように着席するアンジュ。
「さて、まずは君の名前だ。ジャラム君はアンジュと言っていたが、それで良いのかな?」
「はい。」
「何故、イザナミに興味を持った?」
「私が持ったんじゃありません。興味を持ったのは友達です。それに、正確には興味の対象は『人間の感情』」
「ほう・・。人間の感情か。」
その言葉に興味を示す牛頭鬼。
「君も人間の感情に興味があるのかい?」
「いえ、私はあんまり。むしろ、人間に興味が湧きません。話で聞いただけですが、人間は同族を見下す種族だと知りました。そして、憎しみを持ち続け、必要以上に同族を傷付ける生き物だと・・・。そんな訳のわからない生物に、なぜ皆があんなに興味を抱くのか分かりません。」
「ふむ・・。確かに。君の言い分にも一理あるな。我々からすれば、人間の感情と言うのは理解出来ないだろう。では、なぜ人間を使った遊びに興味を持つ?」
「それは・・・。」
アンジュは友達のシンとナラカの医師であるカナンダが人間の感情に興味がある事を離した。そして、潰れた魂を使い、自分たちなりにイザナミの行った遊びの真似を試みたことも。
「ふふっ・・なるほど、潰れた魂を・・・。だが、あんなもので上手くいくとは思えんが。」
「はい。感情どころか立つ事すら出来ませんでした。ですが、私達に使える魂はこれしか無く、困っていたのです。どうかイザナミ様から私達に助言を頂ける様、お願いします。」
友達を思ったアンジュの頼み。彼女の必死の様子から、シンとカナンダが人間の感情にどれだけ興味を持っていたのかが牛頭鬼に伝わる。
「ふむ・・・。助言か。実は、私もそのゲームに参加しているのだよ。」
「!・・本当ですか?」
「ああ。君が言う様に人間は理解出来ない生き物だ。だが、理解出来ないからこそ、我々の心を昂らせる。少し時間は掛かるが、君がそこまで頼むなら何か考えてみよう。」
「あ、ありがとうございます。」
「だが、他の獄卒には言わないでくれ。特例を作るとうるさいからな。」
「は、はい!!」
「ホントかよ!?牛頭鬼様がそんなことを?」
「ああ、何か考えてくれるらしい。具体的な事は言われなかったけど。」
「お前がいきなり言うからだよ。流石にそんな要望にすぐ返答は出来ないだろ。一つの国の地獄を仕切る方だぞ。そんな方が『考えて下さる』だけでも期待するだろ。」
アンジュの報告を聞き、牛頭鬼が協力的な事に喜ぶシン。だが、まだ『考える』と言ってくれただけで確証は無い。
(『考える』って言葉だけでも色々と捉えられ方が違うんだな・・・。)
期待値の違いを感じ、目前で舞い上がるシンを冷めた目で見るアンジュ。
「いやー。さすが牛頭鬼様だよな。違う地獄の獄卒の話に対して、耳を傾けてくれるなんて。」
「確かに。ジャラムの奴とは器が違うのは分かった。他言はするなって話だけど、明日、カナンダにも報告に行ってくるよ。」
「それなら俺が。」
「いや、お前の場合は話を広げて帰ってきそうだから、私が行く。」
(今のシンが言ったら尾ひれ背びれじゃ済まないだろう。)
野良猫を人食いトラに表現しそうなシンの舞い上がり様。きっとまともな伝言なんて出来ないだろうと判断するアンジュ。
「おいアンジュ!キスしてやるぞ!!」
「馬鹿な事言ってないで仕事に戻れ!またジャラムに怒られるぞ。」
それから数日・・・。
牛頭鬼様から連絡も無く、再び日常に慣れ始めた頃、遂に待ち望んでいた一報が届く。「おい、アンジュ。ちょっと来い。」
「なんだよ?」
作業中、突然のジャラムからの呼び出しに、自分の仕事にミスが無いかを反射的に振り返る。大したミスを犯して無くても機嫌が悪いだけで部下を罵る彼の性格を知っているからだ。
(よし、大丈夫。)
少なくとも昨日と今日は特にミスを犯してない事を確認し、ジャラムの元へと近寄るアンジュ。
「お前とシンとドクターのカナンダを黄泉国への研修に行かせる。」
「研修?」
「牛頭鬼様からの提案だ。ナラカと黄泉国の交流の一環として行う事となった。」
(来た!!)
牛頭鬼の提案と聞き、彼が本当に動いてくれた事に感謝するアンジュ。
「今年の研修は終わったはずだが・・・。まあ、牛頭鬼様も『形だけ』と言われていたから、半分旅行の様な物だ。」
「はい・・。」
「とはいえ、ナラカ国の代表として恥ずかしい行動は慎むように。カナンダは良いが、お前とシンはナラカから出た事も無いだろう?向こうでナラカの評判が下がらないか、俺は心配で仕方がない。」
「・・・気を付けます。」
(てめえが行くよりマシだ。)
心の中で毒を吐くアンジュ。




