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迷宮の輪舞(ロンド)  作者: いかすみ
迷宮制作編
9/27

09 市場調査

市場調査



中にはいろいろな人がいた。


一番多いのは剣士だ。


酒場なので、男が多いのは当然かもしれない。


ローブを着た女性も多い。


大抵は仲間らしいグループで席についていた。


白いローブの者は目立つ。


けれども、黒いローブの者の方が圧倒的に多かった。


ただ、剣士にも魔法使いにも見えない者がいる。


その姿でおおよそがわかった。


盗賊だ。


迷宮なら、当然考えられる職業だった。




人種については、人間が主だ。


耳の長いエルフ、がっちりしたドワーフ、それ以外子供のような種族もいた。


おそらく、妖精族だろう。


種族名は覚えていない。


ただ、盗賊に向いていそうな感じだ。


実力は・・・


剣士とは違う意味で雰囲気を纏っていた。


職業は意外にもそんなに多岐にわたっていない。


最初に言った四種類だ。


でも、魔法を使いそうな剣士もいれば、がっちりした魔法使いもいる。


いずれも、女性だけど・・・


その辺は、曖昧なのだろう。


侍とか武闘家などのジャンルはありそうだ。


けれども、それによる装備の変化は無さそうだった。


ただ、重い装備か軽い装備の差はありそうだ。




それ以外気になることがある。


マスターのいる横に掲げられた大きな看板だ。


どう見ても、掲示板に見える。


『この世界にギルドはないのかな?』


そう思って、意識をそちらに移す。


孝之は動いていないのに掲示板の内容が読めた。


「商人の護衛 四人 期間 一週間 食事付き 一人1G」

「荷役搬送 六人 期間三日 成功ボーナス有 一日20S」

・・・


などだ。


どうやら、酒場がそれらの仲介をしている印象。


契約場所が書かれていないのは、勝手に交渉しないような工夫なのだろう。


それ以外、めぼしいものはなかった。




そうやって、立ち尽くしていると女給仕が声を掛けてきた。


「賢者様、どうかしましたか。空いている席にお座りください」


彼女は、『賢者』と言った。


どういう意味なのだろう?


「なぜ、賢者と判った?」


すると、彼女は当たり前のように言う。


「そんな装備をしているのは有名な魔法使いにきまっていますから。よろしか

 ったら名前を教えてもらえませんか」


「隆之です」


「・・・・・・」


「なにか」


「いえ、凄く腰が低いので驚いただけで、失礼しました。どうぞこちらへ」


そう言って案内された場所は奥まった上位の席だ。


騒いでいた冒険者達が声を潜めた。


あの人工知能は俺にどんな格好をさせたのだろう?


そんな疑問を浮かべながら席に付く。




一応、孝之はこの世界ではお客さんだ。


その身になにかあっては大変。


人工知能は、常時防御を発する『賢者のローブ』を用意した。


新しい迷宮を立ち上げるとき、ほとんどの人は他の酒場を見に行く。


世間には、いつしか『賢者のローブ』を着用した者が現れると新しい迷宮が出

来る噂が立っていた。


ちなみに、賢者のローブは人工知能独自のアイテムのため世間には存在しない。


けれども、『賢者のローブ』に似せて作ったアイテムはある。


そして、男は魔法を使えないのにそんなローブを羽織るわけがない。


男で、ローブを羽織るなら『賢者』に決まっていた。




周りの冒険者からひそひそと声が聞こえる。


「おい、あれって賢者のローブだろう?」

「間違いない。光り方がちがうからな」

「今度は、どこに向かうのかな」

「でも、人違いじゃないのか。結構偽者も出てるから」

「前の賢者は美人だったけどな」

「そうそう、奴隷として売りに出ていたな」

「あんな良い女なら・・・」

「馬鹿言うな、賢者候補の女だぞ。保護が掛かっているに決まっている。

 結局は見て楽しむだけだ」

「そうだな。でも、貴族で買い取った奴がいるとか」

「なんでも、制約の首輪を着けたというけど・・・」

「笑っちゃうな。そんなことしても無駄なのに」

「でも10000Gなんて良く買うな」

「言えてる。それだけの金があったら一生遊んで暮らせるのにな」

・

・

・


隆之はその会話の中で気になる言葉を聞いた。


10000Gだ。


今回の迷宮製作の初期費用に当てられた金額だった。


まさか、失敗すると・・・


それと、失敗した賢者の行方を教えられたような気になる。


あの人工知能は何年経っても現実では一瞬だ。


逆に言うなら、失敗すれば死ぬまでこの世界から抜け出せないのではないか?


まして、奴隷として売られて・・・


「すまない、その売られていた賢者の顔を知っているか」


隆之は話していた冒険者に声を掛けた。


「俺たちで?」


まさか、話を聞かれていたとは気付かない二人は恐縮している。


「そうだ、その女賢者の話を聞かせてくれないか」

「へい、黒髪の美女で。それ以外の賢者もいますけど・・・」


女と指定したのですぐに該当者があったようだ。


でも男の話では、まだまだ居そうな雰囲気だった。


「他にも賢者が居るのか」

「へい、今回同時に現れたのはあなたを含めて三人、もう一人はすごく威張っ

 た若作りの方でした。その賢者は行方不明で・・・」


隆之はその言葉で、三人目の該当者に心当たりがある。


隆之を轢きそうに為った若者だ。


ヘルメットを被っていなかったので、顔を見る事ができた。


それなら、黒髪の美女は隆之の目の前に居た女だ。


あの背後霊はあの空間にいた三人をまとめて攫ったに違いない。


隆之は『選ばれてこの場に居た』と思っていた。


どうやら、あの自称神様にもてあそばれている事に気付く。




隆之が怒りを胸に考え込んでいた。


すると、冒険者が声を掛けてきた。


「賢者様、今度はどちらに向かいます?」


どうやら、隆之が向かう場所が新たなる迷宮の発現位置と判っている雰囲気。


それなら、この場で公表する事で一気に冒険者を増やす可能性がある。


内緒にする必要も無い。


「白国の辺境白戸だ」


その言葉で、呆然とする冒険者。


「あんな、何も無い町で?」

「だから、厳しい条件だろうな。泊まるとこも無さそうだ」

「早速移動を開始しないとな・・・」

「早く行ってねぐらを確保しないと・・・」

・

・

・



話題が一気に広がっていく。


隆之の言葉を聞いて動き出す者もいる。




隆之が田舎を選んだ理由だ。


大きな街では人口流入が多い。


そのため、一気に攻略されてしまう可能性があった。


お客が多すぎても経営はうまく行かない。


軌道に乗るまでは少ない方が良かった。




酒場での情報は大したことは無い。


ただ、迷宮が開設されると隆之の考えている通りだ。


まず、冒険者が集まる。


それに呼応して武器屋、防具屋、薬屋などが店を持つ。


そして、人口が増えればそれ以外の職種も増えていく。


この世界の町興しだ。


やっている事はあくどい。


『迷宮』という餌を与えて人を操っている。


でもこの世界ではそれも一つの生活の糧だ。


あの神様なりの考え方なのだろう。




酒場を出るといきなり元に戻った。


戻ったところで、人工知能に声を掛けた。


『失敗したら、奴隷として売られるのか』


「そ・・・・・・」


返事を言いかけて沈黙する。


どうやら伝えてはいけない項目らしい。


そこで、別の質問をする。


「俺は三人目か?」


『そうです』


人工知能はあっさり認めた。




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