10 罠
罠
酒場の様子を見てきた隆之はかなりの衝撃を受けた。
もし、失敗をすれば奴隷になる可能性もある。
それだけに、失敗の許されない状態だ。
幸い、時間はある。
改めて、検討をした。
迷宮は開始すると、いきなり冒険者が大挙する。
それが、酒場の情報で判ったことだ。
現在のレベル表示における辺境の意味合いは無いに等しい。
現在の都市レベルが低くてもすぐに高レベルの冒険者が来るからだ。
それなら、高レベルの冒険者を対象にすればよいのか?
それを、狙った迷宮が大量に失敗している。
そこで、疑問に思った事がある。
『もし冒険者が迷宮内で死んだらどうなる?』
この点を人工知能に質問してみた。
回答が得られるなら幸いだ。
「迷宮内の死亡判定はデスペナルティーが与えられます。その辺はマスターの
采配によります。
ノーペナルティー、経験値剥奪、レベルダウン、装備剥奪、持ち金剥奪や半
減、そして、死亡があります」
『死亡があるの』
「厳しい条件でリアルを求めた作者が死亡を入れました。誰も入らなくなりま
したけど」
『当然なのか・・・?』
「その辺は考え方の相違です。ただ、死亡を入れた迷宮では救済もいれてまし
たけど、その辺が理解されず怖い迷宮と敬遠されたようですね」
『冒険者なのに死を恐れる?』
「・・・・・・」
返事がない。
機械には死の概念が無いのかもしれない。
機械的には失敗してもやり直せる話の方が理解できないのかも知れない。
『ところで、人工知能は名前があるのか?』
「名前ですか? ありません」
『呼びにくいから、名前を決めたいけどいいか』
「マスターがそのように呼びたいならどうぞ」
どうやら、勝手に名前をつけても良いような感じだ。
妹の名前が弥生だ。
三月生まれの季節から名前をとったらしい。
隆之の現実の世界では九月だ。
この時点では時は進んでないらしい。
九月なら長月、又は菊月ともいう。
そのままでは風情がない。
『菊と呼ぶから』
「きく、ですね。了解しました」
事務的なやり取りなのだが、心なしか表示が早くなったような気がする。
『名前を付けられて嬉しいのか?』
「嬉しいという意味が判らないので返事は出来ませんが同系機では初めてのこ
とです。マスターこれからもよろしく」
どう見ても、名前を付けられて喜んでいるように感じるのは確実だった。
名前のことで少し脱線してしまった。
けれども、デスペナルティの件をもう少し聞きたい。
『菊、レベルダウンを教えてくれないか?』
レベルの概念が良く判らない。
シミュレーションではレベルアップを行っていた。
モンスターを倒すと経験値が入るようだ。
「はい、地球のRPG概念ではエナジードレインとか言われるものが近いです。
一番軽いのが、一定量の経験値を奪う物、この時点で獲得経験値がレベルの
境界を越えれば、レベルダウンもあります。次いで軽い物が強制的レベルダ
ウンです。今のレベルより一つだけ下げるものです。条件によっては最初の
経験値獲得より軽くなる場合もありますけど高レベルの冒険者ほど恐れます。
さらに、厳しいものには2レベルダウンというのもあります。この場合、一
つ下のレベル分の経験値を完全に奪います。それ以外に5レベルダウンを課
した人も居ました。けれども、この場合も挑戦冒険者がいなくなり失敗して
います」
こころなしか、今までより詳しく説明してくれる。
人工知能にも好感という物があるのか?
おかげで、かなり情報を掴む事が出来た。
厳しいデスペナルティーを掛けると挑戦者はいなくなるようだ。
厳しくても、2レベルダウンまでにしておかなくてはいけないらしい。
キャラクターを殺さなくても良い話に少し安心だ。
後の、装備解除や持ち金を奪う話は聞かなくてもわかる。
そこで、疑問が浮かんだ。
『菊、取り上げたお金はどうなる。資金に組み込めるのか?』
「はい、利益として準備金に回すことは出来ます。しかし、相場は百分の一で
すので期待はされないように」
百分の一?
その交換レートの厳しさにあきれる隆之だ。
事実上、金を奪ってもあまりメリットは無さそうだ。
倒したことによるメリットの方が遙かに大きかった。
酒場で仕入れてきた情報に二つの事がある。
盗賊の存在だ。
迷路なら当然考えられる存在。
罠と宝箱だ。
その点を聞いてみたかった。
『菊、罠の種類を教えてくれるか』
「どの罠ですか?」
『通路ではどうなる?』
「落とし穴、つり天井、一方通行の壁です」
『落とし穴の金額は』
「レベルによって変わります。レベル1、穴のみなら100G。レベル2、行
動規制レベルなら200G。レベル3、行動不能レベルなら300G、レベ
ル3のみは仲間が居なければデスペナルティーになります。仲間がいれば、
治療を行うことで復帰可能になります」
『つり天井は』
「パーティー全体がその区域に入った時発動するものです。行動規制レベルし
かありません。一件500Gになります」
『一方通行の壁は?』
「500Gです」
これで、通路上の罠は全部みたいだ。
まさかと思うけど、使い捨てなのかな?
そう考えていたとき、返事が書かれる。
「すべて、再稼動状態です。撤去については費用はかかりません。迷路の付帯
設備扱いなので、モンスターは罠をフリーで通過します」
思ったより使い勝手の良さそうな罠だ。
モンスターを追いかけてきた冒険者をはめることが出来そうだった。