3
場所は変わり、人物も変わり、小洒落た酒場にての出来事。
落ち着いた雰囲気のその酒場は、暗闇の中にオレンジの光が漂っていた。木で出来た丸テーブルがいくつもあった。人は多い。二十名はいるだろう。
大勢の者が丸テーブルを囲んで酒を飲んでいた。暗がりの中でその者たちの表情は明るい。
部屋の片側にカウンターがあった。横に伸びた木の机の前に、それまた木製の椅子。
その椅子に二人の男女が座っていた。
不敵な笑みを浮かべる人物がいた。
「エインセ、式はいつにするの?」
邪悪な笑みを見せる女。
彼女の名はエリス・クラーレ。不必要ではないかと思えるほど、たくさん体に付けた装飾品が煌めいている。どれも金色の装飾品。金色がとにかくやかましく主張している。短い銀髪は水気を帯びており、煌めいていた。そして抜けるような白い肌。右手に持ったグラスで葡萄酒を口に流し込んでいる。指輪が光る。銀色の悪魔じみた指輪。
「エリス、君が望むならいつでも」
エインセは笑顔で応えた。
そう、女性、エリスと飲んでいたのは、フォトアを裏切った、エインセ・エーデンブルグであった。彼はいつものように青い礼服を着ている。そして、金髪に合わせるかのように大量の装飾品。こちらも金色。
「まあ!なるべく、早めがいいわ……だって、エインセの話す、ブリッジ家のフォトアが、惨めな姿になるのが、早く見たいのですもの」
「なかなか残酷だね、君は」
「あなたの方こそじゃない」
エリスは笑った。無邪気な少女のようだった。無邪気な悪意。
「フォトアの情報は色々聞いたけれど……そんな才能の無いトロい女は、あなたには似合わないわ、エインセ」
再びグラスを傾けるエリス。葡萄酒の減りが速い。
「君と出会えてよかったよ、エリス。君は家柄も素晴らしいし美人だ。それに剣の特技もある。フォトアが自分の特技を語っていたんだが、なんだと思う?」
「さあ……乳搾りとかかしら?農作のお手伝い。田舎娘じゃない」
「料理だとさ」
それを聞いたエリスは一瞬固まり、そして大笑いした。
「ああ!それは可笑しいわ……料理、料理ね……」
エリスはまだ笑っている。
「君の特技に比べたら、なんだか笑えてくるよな」
エインセも笑っている。自分のグラスに葡萄酒を注いだ。
ろくに料理もしたことがない二人が、フォトアを嘲笑っている。
「私もクラーレ家の者だからね。剣は得意よ……当然の嗜み」
エリスはカップを机においた。そして、エインセが一言。
「凛々しい」
「フォトアが鈍臭いから、そう見えるんじゃない?」
二人して笑っていた。人を馬鹿にする、悪意の会話。
「フォトアに、未練はある?」
「まさかだろ?」
「ふふ、そうね。私がいるものね……私達、国で一番の夫婦になるかもしれないわね。エーデンブルグ家と、クラーレ家。なかなかいい組み合わせじゃない」
「そうだね。僕達の未来は安泰だし、僕は君を愛している」
エインセの口から、すらすらと言葉が出てくる。フォトアにも告げた、愛しているという言葉。
裏切り者。
卑怯者。
「ブリッジ家は終わりかもね。エーデンブルグ家に、捨てられたのだもの……ああ、でも生き残ることは出来るでしょうね。料理で」
エリスがまた笑った。品のない笑い声。
エインセも同じように笑った。
「鈍臭いって、本当嫌になるな」
くすくすと。




