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洒落怖・閲覧注意まとめ  作者: はまゆう


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137/170

第136話 茨城の水神社

431:本当にあった怖い名無し:2026/07/26(日) 22:07:14.38 ID:W8kL3pYq0


母方の叔父が、茨城の水神社で「神主さん」と呼ばれていた時の話。


先に言っておくと、叔父は神職の資格を持っていなかった。


正式な宮司は近隣の大きな神社が兼務していて、叔父は境内の掃除や供物、参拝者の応対をする住み込みの世話人だった。


でも二十年以上そこにいたから、集落の人はみんな叔父を神主さんと呼んでいた。


なぜ叔父が縁もゆかりもない土地の水神社に住むことになったのか、子供の頃に一度だけ本人から聞いたことがある。


432:本当にあった怖い名無し:2026/07/26(日) 22:08:03.71 ID:b2Nq7HRc0


水神系か


433:本当にあった怖い名無し:2026/07/26(日) 22:08:42.55 ID:J5vM1eXa0


続けて


434:431:2026/07/26(日) 22:11:26.94 ID:W8kL3pYq0


叔父は若い頃、霞ヶ浦で漁師をしていた。


漁協に所属して、ワカサギやシラウオ、コイなんかを獲っていたらしい。


叔父が三十代の頃、湖畔の料理旅館から、大きなコイを二匹頼まれた。


宴会で出すから、なるべく同じくらいの大きさのものを揃えてほしいと言われたそうだ。


ところが、その頃は不思議なくらい魚が獲れなかった。


何日網を入れても、まともな魚が一匹もかからない。


燃料代ばかりかかり、叔父は酒を買う金にも困っていた。


その夜も、古い平屋で一人、焼酎も飲まずに飯を食べていた。


すると九時過ぎに、玄関を叩く音がした。


435:431:2026/07/26(日) 22:14:02.17 ID:W8kL3pYq0


玄関に立っていたのは、小柄な男だった。


三十歳くらいに見えた。


肌が妙に白く、髪も眉も濡れているのに、服は少しも濡れていなかった。


近所で見たことのない顔だった。


男は、


「この辺へ越してきたので、挨拶に来た」


と言った。


こんな時間におかしな奴だと思ったが、叔父は人付き合いに細かい方ではなかった。


家へ上げて、麦茶を出した。


男は部屋に干してある網を見て、


「漁師なのか」


と聞いた。


叔父が、魚が獲れなくて困っていると話すと、


「コイの二匹くらいなら、今からでも獲れる」


と言った。


436:本当にあった怖い名無し:2026/07/26(日) 22:15:11.48 ID:Q4fZ9sDb0


密漁では


437:431:2026/07/26(日) 22:17:46.32 ID:W8kL3pYq0


叔父もそう言った。


漁業権もあるし、漁場を知らない人間が勝手に網を入れるなと。


すると男は、


「お前の船で、お前の網を使う。獲れた魚は全部お前のものだ」


と言った。


叔父は冗談だと思って、船外機の鍵を渡した。


男は網を担いで外へ出た。


しばらくすると、湖の方から船外機の音が聞こえた。


叔父が岸まで見に行くと、男は本当に一人で船を出していた。


免許も操船経験もないはずなのに、暗い湖を迷わず沖へ進んでいった。


一時間もしないうちに男は戻ってきた。


船の中には、頼まれていた大きさのコイが四匹と、フナやナマズが何十匹も入っていた。


438:本当にあった怖い名無し:2026/07/26(日) 22:18:39.06 ID:y7Lt2KpE0


魚の神じゃん


439:431:2026/07/26(日) 22:21:08.53 ID:W8kL3pYq0


叔父は翌朝、コイを旅館へ持っていって金を受け取った。


残りは知り合いの料理屋に売り、その金で焼酎とつまみを買った。


その夜、小柄な男がまた来た。


二人で朝まで飲んだ。


叔父が名前を聞いても、男は、


「名前なんかなくても飲めるだろ」


としか答えなかった。


それから男は、月に二、三度叔父の家へ来るようになった。


叔父の漁がうまくいかない時は、船を出して魚を獲ってきた。


男がどこへ網を入れたのか、叔父には一度もわからなかった。


漁師仲間に聞いても、そんな男を知っている人はいなかった。


それでも何年も一緒に飲んでいるうち、叔父は素性を気にしなくなった。


440:431:2026/07/26(日) 22:24:31.67 ID:W8kL3pYq0


三年ほどたった夜、男が叔父に聞いた。


「俺を何だと思ってる」


叔父は、


「人間じゃないだろうとは思ってる」


と答えた。


男は笑って、


「俺は水の中にいるものだ」


と言った。


河童なのかと聞くと、


「違うが、人間から見れば似たようなものだ」


と答えた。


それから男は、人間になりたいと言い出した。


叔父が方法を聞くと、翌日の昼、湖畔の道を若い男が自転車で通るという。


「風でスマホを水際へ落とす。拾いに降りてきたところを引き込んで、体を借りる」


小柄な男は、何でもないことのように言った。


441:本当にあった怖い名無し:2026/07/26(日) 22:25:22.94 ID:b2Nq7HRc0


借りるって返すのか?


442:431:2026/07/26(日) 22:27:48.60 ID:W8kL3pYq0


叔父も同じことを聞いた。


男は、


「体の持ち主は死ぬ。でも俺がその人間として生きるから、周りにはわからない」


と答えた。


叔父はやめろと言った。


男は返事をせず、いつの間にか帰っていた。


翌日、叔父が網を修理していると、湖畔の道を若い男が自転車で走ってきた。


その時だけ急に風が吹いた。


自転車のハンドルに取り付けてあったスマホが外れ、水際の草むらへ飛んだ。


若い男は自転車を止め、護岸を降りようとした。


叔父は走っていって、


「そこへ降りるな。足場が崩れてる」


と止めた。


若い男は不満そうだったが、叔父が網の柄でスマホを拾って渡すと、礼を言って走り去った。


443:431:2026/07/26(日) 22:30:31.18 ID:W8kL3pYq0


その夜、小柄な男はひどく怒っていた。


「何年も魚を獲ってやったのに、なぜ邪魔をした」


と叔父を怒鳴りつけた。


叔父は焼酎をつぎながら、


「お前が人間になりたいのはわかる。でも、そのために今いる人間を殺したら、人間になったことにはならないだろ」


と言った。


男は、


「一人くらい目をつぶればいい」


と言った。


叔父は、


「一人くらいと思うなら、お前が人間にならなくてもいいだろ」


と返した。


男はしばらく黙っていた。


叔父が酒を勧めると、結局いつものように座って飲んだ。


それから三年ほど、二人はまた同じように付き合った。


444:本当にあった怖い名無し:2026/07/26(日) 22:31:28.17 ID:Y9dC5uNm0


叔父さん強いな


445:本当にあった怖い名無し:2026/07/26(日) 22:32:03.89 ID:Q4fZ9sDb0


説教した後も普通に飲むの好き


446:431:2026/07/26(日) 22:35:17.52 ID:W8kL3pYq0


六年目の夏、男はもう一度、人間になると言い出した。


近くの家で夫婦喧嘩が起きる。


妻が夜中に家を飛び出し、湖へ入ってくる。


そこを引き込むという。


叔父は、


「今度も止めるぞ」


と言った。


男は、


「あの女は自分から死のうとしている。俺が殺すわけじゃない」


と答えた。


翌晩、叔父は男に言われた時間に湖畔を歩いた。


しばらくすると、裸足の女性が走ってきた。


部屋着のままで、片方の腕から血が出ていた。


女性は湖の前で立ち止まり、そのまま水へ入ろうとした。


叔父は後ろから抱き止めた。


女性は泣き叫び、叔父の腕を噛んでまで水へ行こうとした。


そのうち夫や近所の人が追いつき、女性を連れて帰った。


447:431:2026/07/26(日) 22:37:54.63 ID:W8kL3pYq0


男は叔父の家で待っていた。


「死ぬつもりだった人間まで、なぜ助ける」


と聞いた。


叔父は、


「今死にたいと思ってるのと、本当に死んでいいのは別だ」


と言った。


男は、


「お前は俺の気持ちを一度も考えない」


と怒った。


叔父は、


「考えてるから止めるんだ。人を殺して人間になったら、お前は二度と俺のところへ酒を飲みに来られない」


と答えた。


男は何も言わなかった。


叔父が酒を出すと、その日も二人で朝まで飲んだ。


448:本当にあった怖い名無し:2026/07/26(日) 22:38:43.29 ID:J5vM1eXa0


なんかいい話になってきた


449:本当にあった怖い名無し:2026/07/26(日) 22:39:16.84 ID:y7Lt2KpE0


でも水の男は普通に二人殺そうとしてるからな


450:431:2026/07/26(日) 22:42:08.41 ID:W8kL3pYq0


それからまた三年たった。


ある春の夜、小柄な男が、眠っている叔父の枕元に現れた。


「お前が二度止めてくれたおかげで、人を殺さずに済んだ」


男はそう言った。


「俺は今度、川の神として祀られることになった。もうここへは来られない」


叔父が、どこへ行くのかと聞くと、男は関東北部の小さな集落の名前を教えた。


利根川の支流沿いにある場所だった。


「そこに新しい水神社がある。俺のところへ来い。お前も年を取った。もう漁を続けるのはきついだろ」


叔父が返事をする前に、男は消えた。


それから男は来なくなった。


同時に、叔父の網にも本当に魚がかからなくなった。


451:431:2026/07/26(日) 22:44:52.76 ID:W8kL3pYq0


その年の秋、叔父は船と家財を処分した。


電車とバスを乗り継ぎ、男に教えられた集落へ向かった。


聞いていた停留所で降りると、大きな川の堤防があった。


堤防沿いを歩くと、林の中に真新しい石段が見えた。


上には、小さな木の鳥居と社があった。


地図にも観光案内にも載っていなかった。


叔父が賽銭箱の前で頭を下げると、社の中から男の声がした。


「遅かったな」


姿は見えなかった。


叔父は縁側へ座り、持ってきた焼酎を紙コップに二つついだ。


片方の酒だけが、少しずつ減ったという。


452:本当にあった怖い名無し:2026/07/26(日) 22:45:39.08 ID:g6Pr3LaV0


ちゃんと飲むんだな


453:431:2026/07/26(日) 22:48:26.77 ID:W8kL3pYq0


日が暮れる前、男は叔父に言った。


「集落へ行け。河川敷にいる人たちへ、今夜水が出るから、車や農機具を堤防の内側へ移せと伝えろ」


叔父が空を見ると晴れていた。


雨の気配はなかった。


それでも叔父は集落へ行った。


河川敷では、農家が軽トラックやトラクターを置いて作業していた。


叔父は一軒ずつ回り、水神のお告げがあったと伝えた。


当然、ほとんどの人は信じなかった。


ただ、牛を連れて歩いていた老人だけが、


「新しいお社の人が言うなら、念のため知らせてやる」


と言って、自治会長へ連絡してくれた。


何軒かは車や農機具を移した。


残りはそのままにした。


454:431:2026/07/26(日) 22:51:19.44 ID:W8kL3pYq0


その夜遅く、上流域で局地的な豪雨が降った。


集落ではほとんど雨が降っていなかったため、川の増水に気づくのが遅れた。


日付が変わる頃に避難情報が出て、その後、上流のダムが緊急放流を始めた。


川は短時間で増水し、河川敷に残っていた車や農機具が流された。


人的被害はなかった。


叔父の話を信じて移動させた家だけは、大きな損害を免れた。


翌朝、住民たちが水神社へ行くと、前日に洪水を知らせて回った叔父が拝殿で眠っていた。


境内には、叔父が持ってきたはずのない米と酒が供えてあった。


それ以来、叔父は水神社に残った。


455:431:2026/07/26(日) 22:53:42.30 ID:W8kL3pYq0


正式な神職ではない。


近くの神社の宮司が水神社を兼務し、叔父は住み込みで管理をすることになった。


ただ、洪水を事前に知らせた人だから、村の人たちは叔父を「神主さん」と呼んだ。


叔父は境内を掃除し、参拝者の話を聞き、月に一度、社の中へ酒を二杯供えた。


片方は必ず空になった。


俺が子供の頃、叔父に、


「水の人は、もう人間になりたくないの」


と聞いたことがある。


叔父は、


「神様になったんだから、人間より忙しいんだろ」


と言って笑った。


456:本当にあった怖い名無し:2026/07/26(日) 22:54:37.96 ID:b2Nq7HRc0


叔父さんは最後まで姿見えなかったのか?


457:431:2026/07/26(日) 22:57:18.43 ID:W8kL3pYq0


水神社へ来てからは、声しか聞いていないと言っていた。


叔父は七年前に亡くなった。


葬儀は集落の人たちが出してくれた。


遺品を整理している時、古いアルバムが出てきた。


叔父が水神社へ来た最初の年から、毎年祭りの日に撮った集合写真が貼られていた。


最初の写真の端に、小柄な男が写っていた。


白い肌で、三十歳くらい。


叔父から聞いていた特徴と同じだった。


次の年の写真にも、その次の年の写真にもいた。


服装は毎年違っていた。


作業着、スーツ、浴衣、ジャージ。


でも顔と年齢はまったく変わっていなかった。


458:本当にあった怖い名無し:2026/07/26(日) 22:58:04.61 ID:Q4fZ9sDb0


誰もその男に気づいてなかったの?


459:431:2026/07/26(日) 23:00:36.48 ID:W8kL3pYq0


集落の人に見せたが、知っている人はいなかった。


みんな、親戚か観光客だろうと言った。


ただ、一番古い写真を見た牛飼いの老人だけが、


「この人、水神様の御神体に似ているな」


と言った。


社の奥には、普段誰も見られない木像が納められているらしい。


祭りの時に宮司だけが確認する。


小柄な男の姿をした、古い水神像だという。


水神社は今もある。


叔父が死んだ後は無人になり、月に二度、集落の人が掃除をしている。


去年、久しぶりに俺も行った。


酒を二杯供えて帰ろうとした時、社の中から、


「勘作はどうした」


と声がした。


勘作というのは、叔父の名前だ。


俺は叔父が亡くなったことを伝えた。


しばらく何も聞こえなかった。


それから、


「そうか。人間は早いな」


と言った。


声はそれきりだった。


460:本当にあった怖い名無し:2026/07/26(日) 23:01:42.15 ID:J5vM1eXa0


水神様、叔父さんが死んだの知らなかったのか


461:本当にあった怖い名無し:2026/07/26(日) 23:02:19.83 ID:Y9dC5uNm0


神様と人間じゃ時間の感覚が違うんだろうな


462:本当にあった怖い名無し:2026/07/26(日) 23:03:08.47 ID:g6Pr3LaV0


怖いというより寂しい話だった


463:本当にあった怖い名無し:2026/07/26(日) 23:03:56.28 ID:y7Lt2KpE0


人間にならなくてよかったな


464:本当にあった怖い名無し:2026/07/26(日) 23:04:41.62 ID:b2Nq7HRc0


今度行ったら叔父さんの分も一杯供えてやれ


465:431:2026/07/26(日) 23:05:17.39 ID:W8kL3pYq0


464

そうするつもりです。


読んでくれてありがとう。

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