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第40話 切り裂きジャック

『現代アメリカに甦った“ジャックザリッパー”の犯行はこれで12件目となります。米国国民の皆さまはくれぐれも、どの州に居ても決して油断をしないでください。特に妊婦の方は細心の注意を払って、外出する際には必ず同伴の人を……』


■■■ 存在(ファントム)しない階層(フロア) 地下30階 Sirの私室


「やあ、顔を合わせるのは初めてだね。遠路はるばるアメリカまでようこそ。Ms.切羅。君には全部筒抜けみたいだから、なんか相対しているだけで恥ずかしいな」

「Sir。別にあなたの性癖を見通すために彼女を連れてきたんじゃありませんよ。そんな一銭の価値にもならないことのために」

「……あれ? Mr.銀次。前より私に当たり強くない?」

「……そんなことは無いですよ。ただセクハラというのが男性に対してでも適用されるというのを知ってもらいたいですね」

「まあまあ……銀次さん。Sirさんも落ち着いてくださいよ。まずは適当な団らんでもしながら交流を……」


「団らんか。私はMr.銀次とそれなりに話すが、最近の若い子がどんな話題に飛びつくのか知らないからなあ……。こんど娘にも聞いておくか」

「それならば、まず私の部屋なんですけれど……」

「ああ……それだったら、存在(ファントム)しない階層(フロア)28階。銀次の私室の横に部屋を設けておいたよ。君ならばきっとMr.銀次の近くがいいと思ったからね」

「……銀次さん。この人……。めっちゃいい人じゃないですかあ!」

「落ち着け切羅。見かけに騙されちゃいけないよ」


「心の読める彼女に、その言葉はギャグだね……うん」

「それで、能力者登録だな。『読心』は非常に有用な能力だ。アメリカとしても有能な人員には寝返られると困る。十分な報酬を約束する」


「あー、それなんですけどね」


 銀次が手をあげてSirの話を遮る。


「彼女は殺すことにします」

「は?」


 切羅もその発言を聞いてにこやかな笑みをしている。聞き間違いかと勘繰り、質問する。


「今なんといった?」


 悪びれる様子もなく銀次は真顔で答える。


「黒崎切羅は殺します」

「うん……。私も殺されるならば銀次さんにって決めていたんですよね」


 Sirの目の前の狂人二人は、殺し殺されの関係であるにもかかわらず。その様子は付き合いたてのカップルのようにイチャついている。


「……説明が必要ですか? Sir」


 意地の悪い笑みで紅瞳を細めるのは米国の最高戦力。『(ぎん)()』という異名そのままに彼は化け物だった。が、鬼と呼ぶには余りにその笑顔は妖艶だ。


「よろしく頼むよ……。頭がついていかない」

「ふふ……いつものお返しですよ。何、難しいことではないです。書面上彼女を死人にするということなので」


「『読心』という能力の性質上、恨みを凄く買いやすい。挙句、戦闘能力は皆無」

「僕が守るにしても限度があります。米国の上層部も内情を探られる彼女の能力にいい顔はしないでしょう」


「つまり、彼女は暗殺されたというテイで上層部に報告しろと?」

「そうですね、可能ですか?」


 しばらくの間Sirは何も答えない。その行為は上への裏切りに等しい。もしもばれた場合のリスクや切羅のこれからの運用、いくつも問題は重なっている。


「証拠はどうするつもりだ? 『死にました』『はいそうですか』となるほど単純じゃない」

「お忘れかもしれませんが、私は『変態』ができます。死の偽装ならば簡単です。幸いシエラ隊もこの案には賛同してくれていますし、切羅の能力で裏切りは不可」


 瞬きの間にSirの目の前には黒崎切羅が二人いた。どっちが本当の切羅か見分けがつかないほど精巧に擬態していた。が、妖しく笑っているほうが銀次なのは予想がついた。


「わかった。Ms.切羅の運用は君に頼むよ。人生を賭けた博打になるが乗ろうじゃないか」

「物分かりの良いことは、Sirの美点だと思います。さて団らんも済んだことだし本題に入りましょうか」


 Sirの私室の無骨なテーブルに、銀次と切羅が腰を掛ける。わざわざアメリカまでシエラ隊と別行動で銀次たちを呼び出したのは、何も能力者として登録するためだけではないことは『読心』を持たない銀次でさえ容易に予想できた。


「勘がいいね、今日は君たちの他にもお客人を呼んである。存在(ファントム)しない階層(フロア)には当然入れないからペンタゴンの地上の一室であう手筈になっている。それなりの発言力を持つ大物だ。くれぐれも粗相のないように」


□□□ ペンタゴン 地上二階 特別会議室


切羅を存在しない階層に置いてきたまま、Sirに地上で最も密談に適している部屋へと案内される。


「初めまして、君が噂に聞く、能力者だね」


 骸骨のように頬のこけた老齢の男性が挨拶をしてくる。握手に対して、快く答える銀次。


 手早く彼は用件に入る。取り出したのは「国際マフィア」の資料。


「このマフィアどもはまだ年端もない女子供を殺して、金銭を奪っている」


(どう出る小僧。義憤にでも駆られるか)


 たっぷりと間を空ける様子はやや演技掛かっていたが堂に入っており、政治家というよりはフィクサーのようだった。


「これを、政治家としても、私個人としても、見逃すわけにはいかない。悪を根絶しようとは思わん。だが、余りにも醜い。命の輝きも、あるいは金の輝きも、一緒くたに泥塗れの汚い手で触れ回る」


(義憤じゃあない、か。そういう奴ではないと。美醜ならどうだ)


「人も物も世界も、清濁併せてパーフェクトだ。だがこの醜さは、許せん。そう思わんか」


「で? それがなんだと? 確かに醜い。しかし清濁というのならば、これはその濁りでしかない」


(美醜でもないか。これは掴みきれんかもしれんな)


「ギャングもマフィアもそれが生業でしょう。私は与り知らぬことですが、目的が見えないな」


 老齢の男性は、注意深く見なければ気付かぬほど僅かに、相好を崩した、ように銀次には見えた。


「言ったはず。醜さにも限度があるわい」


「こんな高額な金額を? 街の掃除にしちゃ高過ぎる。しかも公費じゃない。私費でだ。どう見たって金勘定のできない人にも見えない。何か都合が悪い相手でもいるのでは?」


「根拠はあるのかね」


「ま、言いがかりなんですけどね。ぶっちゃけどうでもいいんですよ。悪とか正義とか。一般的な倫理観で言えば私みたいな暗殺者は悪でしょうけど。飯食うためにやらにゃぁならんからやってるわけで」


「ならば、文句はあるまいよ。これだけの報酬だ」


(まあ、金か。思うたよりシンプルだの)


「怖い」


(なんだと?)


「何?」


「マフィア、怖い。ので返事はお待ちいただけますか? 少々下調べをする必要がありますので。今日のところはお帰り願えますか。いい返事を用意できるかどうかはそれ次第ですが」


「わかった。よろしく頼むよ」


 老人は鬱陶しそうな眼で銀次を一瞥し、去っていく。彼が退室すると同時にSirは深いため息をつく。


「どうして君は相手を逆なでするようなことを言うんだ。肝が冷えたよ。君は金さえもらえればどんな仕事も引き受けてくれると思っていたが」

「……先ほどの老人。本音で話していない。私のことを抗争の道具としか見ていなかった。少し気に入らなくて」


「にしても、マフィアが怖いというのは演技だろう?」

「違いますよ。マフィアが怖いのは本当です」

「冗談はよしてくれよMr.銀次。銃火器でも。毒でも炎でも、窒息さえ用いても殺せない君が。軍でさえ太刀打ちできない君が。何を恐れると……」

「Sir。私が怖いのはマフィアの不透明性。どんな能力持ちがいるかもわからない。“天敵”がいた場合、私は詰みうります。準備さえ整えば仕事にいきますよ。私の人生をより充実させるために」


「そしてこのマフィア殲滅に協力してほしいのは私も同じ意見なんだよ」

「おや、先ほどの老人からお金でも受け取りましたか?」

「違う。今、米国を震撼させている『第二のジャックザリッパー事件』これの収束に当たってほしい」

「なるほど……。それが本題ですか。待ちぼうけを食らっている切羅も可哀想なので下に戻りましょうか」


■■■ 存在(ファントム)しない階層(フロア) 地下30階 Sirの私室


「銀次さん、お帰りなさい。先ほどの老人ですけど、国際マフィアを潰した後、麻薬市場を乗っ取りたいみたいですね。貴方に渡した巨額の金額は、一年でペイできるものだったらしいですよ」

「まあ、そんなところだと思ったよ。さて本題に……」

「待て待て待て……。今なんと? カルテルを乗っ取る? ていうかなんで地下に置いてきた君が地上のことを? いやどうでもいい。さっきの人はアメリカ上院議員だぞ?」


 頭を掻きながら、銀次は面倒くさげに、それでもSirの疑問はごもっともだったので丁寧にひとつずつ説明していく。


「まずはこれ」


 ネクタイを持ち上げ、ネクタイピンを見せる。


「このカメラとマイクで彼女は私の行く先々のすべての真偽がわかる。おちおち浮気もできないですよ」


 切羅はそれを冗談だとわかるので、口元を押さえて笑っていた。しかも浮気という言葉を使うということは正式に自分を伴侶と認めてくれたのでは? と思いさらに深く“視る”が別段深い意味はないことに気づきテンションが下がる。


「それは……いいよ。それよりもッ!」

「だから言ったでしょう? 早々に実演できて私としてはラッキーですが、彼女の能力は“火種”になるんですよ。だから早いうちに死んだことにしておきたかった」


 めまいを覚え、ふらふらと椅子に座り込むSir。銀次は触手を伸ばして、冷蔵庫から人数分のミネラルウォーターを運んでくる。手の平を差し出し、それをSirに飲むよう勧めた。勝手に自分の部屋の冷蔵庫を開けたことに怒るような余裕は彼方に消えていた。ふたを開け半分ほど飲んだ後、葉巻に火をつける。


「……私はどうしたらいいと思う?」

「先ほどの老人の処遇ですか? 別にまだ事を起こしていないのだから、犯罪に手を染めてから逮捕なりすればいいのでは? あ。『権力』に守られ手出しができないとなれば、私が『暴力』を以て制しますが?」


 Sirは考えることを止めた。今はあの議員のことなど後回しだ。銀次の言う通り正式な法手続きで裁けないならば、暗殺課の出るところとなる。今話すべきは当初の事件だと。


「現在、アメリカで妊婦が惨殺され続けている。のは知っているな?」

「最近はテレビを見るようにしていますからね……ある程度は」

「腹を裂かれ、胎児が攫われている。そして母体の胎内には黒い長髪が発見された、と報告されている。アメリカではもう12件目の妊婦殺しとなっている」


「アメリカでは? その物言いだとほかの国でも……」

「英国8件。中国19件。ドイツ2件。日本3件。ブラジル6件。だったかな表ざたになっているだけの犠牲者が」

「猟奇殺人ですか。性的なものか、人身売買、はたまた見せしめか……。しかしなるほど。多国間に渡る異常事件だから国際マフィアだと」

「まさに『怪人』切り裂きジャックの再来だよ。そして恐らく『怪人』は能力者だ」

「ほう、断定できる証拠が?」

「断定はできない、が、事件の発生時期は君たちが能力を得た日。Xデーからなんだよ」

「それは確かに、そう考えるのが自然ですね。ただ国際マフィアとしてもこの世界に一個しかないわけではない。どうして先ほどの一味が関係あると?」


「胎内の毛髪からDNA鑑定をしたら、ビンゴ。国際指名手配されているマフィアの幹部のものと一致した」

「馬鹿過ぎませんか? 自分の体の一部を残して、過去の犯罪履歴から洗われるなんて」

「そうだ、クソ馬鹿だ。ただ考えてみてほしい。今までも同様の殺人があったのだとしたら? それを完璧に隠ぺいできていたとしたら? そしてもう隠す必要もなくなったとしたら?」


 銀次の背筋に悪寒が走る。これが能力を手に入れた故の怠慢だとするならば。恐らく自分と同等以上の能力者だと。


「犯人の名は(ワン) 昊天(ハオティエン)。中国人。国際マフィアの人身売買部門の大幹部だ。ゴリゴリの武闘派のな」


■■■


 一人の男性が眠っている。長髪で長身な美形男性。それのどこにもおかしな点はない、と言えるだろう。ただ一つ、彼の枕を除いて。それは女性だった。彼はその妊婦の腹部に包まれて眠っていた。すでに女性の瞳に光はなく、死んでいるのが一目で見て取れる。そんな中安眠している男性は、その一点の異常さをもって、マフィア、ひいてはこの(ワン)の猟奇性を露わにする。



「ママァ……」


♦完璧主義者 (ワン) 昊天(ハオティエン) 能力名【マインドジャック】


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― 新着の感想 ―
[一言] 上院議員は投げるモノ。 時を止める能力者に投げられる最後を迎えるんだろうな。
[良い点] 能力名でわかるチート [一言] ママァ…でコーヒー吹きました
[気になる点] また凄まじい異常者の登場ですが、Deus33の能力を与えた基準が気になります。 それが解るのはかなり先でしょうが、異常者もしくは異常者の素養があるものを選んだのなら、恐怖や慎重さを忘れ…
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