閉じた女
おれは三日間眠り続けた後、目を覚ました。
おれが起きた後もフェニーチャーは眠ったままだったけど、おれの体はすっかり元気になっていた。
今なにしてるか? ジャックと一緒に中庭で寝転がって、ヘルェルの話をしてるだけだよ。
周りじゃおれを見てコソコソ話してるやつらばっかり。討伐会でガイアブレスを暴れさせたせいでおれの信用度は地に落ちた。ていうか、たださえ地に落ちてた信用が地にめり込んだ。もう掘り返せないくらい深く。
「結局、ポールの人気は上がる一方。反対におれたちの信頼度は下がる一方だな」
ジャックが言った。ジャックはニヤニヤ笑ってるけど、言ってることは本当だ。レーナを助け出したことで、おれの討伐会でのことをダシにして人気が上がった。今だって、ちょっとそこを通っただけでいつもより七割増しで歓声が上がる。
「そろそろ夕飯だ。おれたちも大広間に行こう」
ジャックは立ち上がっておれに手を伸ばした。おれは手を掴んで立つ。背中やお尻の土を払った。
「ショート!」
レーナがスカートギュッと掴んでおれを見ていた。一瞬目があったけど、おれは気まずくなってすぐに目をそらした。
「行こう」
おれはジャックの腕を引っ張った。レーナが後ろで待ってと呼んでいる。
「おい、返事はいいのかよ」
「どのつらさげて?」
「は?」
「どんな顔してレーナと話せばいいかわからない。必ず助けるって言ったのに、結局何も出来なかった。おれはただレーナに怖い目を合わせただけだ」
「まぁ、それもそうだけど」
レーナをおいて大広間に入ると、一瞬みんなおれたちを見て静まり返った後、すぐに話を再開させた。オーケー。おれって相変わらずの人気者。
席に座ると、視界を誰かの指で塞がれた。
「誰でしょう?」
この声には聞き覚えがある。おれは手を振り払って、後ろを向きながら言った。
「ソニアだろ」
「正解だよ、少年」
そう言って、ソニアはウインクした。おれは付けていた腕輪を外して渡した。
「これ、ありがとう。ほんとに、助かった」
「あはは、気にするんじゃない」
そう言って、ソニアは席に戻ろうとする。おれは思わずソニアを見つめてしまった。ソニアはふしぎそうに首をかしげた。
「なにか忘れてないか?」って言いそうになって、口をつぐんだ。まるでそれじゃ、おれが期待してたみたいなじゃないか。大体、おれはレイチェルがいいなって思ってるんだから。
けど、ソニアはおかしそうに笑って言った。
「あはは。そんな顔しなくても、もちろん覚えてるって」
おれの唇に、ソニアの唇が重なった。森で頬にされたときとは比べ物にならないくらい、顔も体も熱くなった。ほんの一瞬だけだったけど、今までで一番疲れたかもしれない。見ると、ソニアも笑って誤魔化してるけど顔が真っ赤だ。
「おれ、初めて……」
「気にするなって。私もだから。じゃあね!」
ソニアは今度こそ去っていった。その後ろ姿から目が離せない。心臓はまだうるさい。誰かが口笛を吹いた。ジャックだ。ニヤニヤ笑っておれを見ている。
「ソニアかぁ……。まぁ目は鋭いし男っぽいけど、顔は悪くないしなぁ」
「別にそんなんじゃ」
「どうかしら」
声が聞こえて後ろを振り返るとレーナがおれをにらんでいた。
「私やノーマンはもうどうでもいいってことでしょう?」
「はぁ?」
「話もまともにしようとしないくせに、ソニアとはき、き、キ……ス、しちゃって」
「言うだけで真っ赤になるなよ」
ジャックがレーナをからかった。レーナは肩を震わせて叫んだ。
「うるさい! 隣の変態とみじめに仲良くしてれば!」
レーナはカンカンに怒ってポールのところに戻っていった。
それを見ながらジャックが呟いた。
「意外とウブだよな」
おれは黙ってうなずいた。おれはもう、レーナやノーマンと仲直りすることは一生無理なのかもしれない。
何気なく、目の前にあったスパゲティに向かって手を向けて唱えた。
「レクシィ」
スパゲティが燃え上がった。周りのみんながいっせいにおれたちを見た。ジャックは慌てて火を消して、わざとらしく大声で言った。
「やっべー、うっかり燃やしちゃったよ! あはははは!」
ジャックがおれの首を掴んで人の目から隠れるように後ろを向く。
「おまえ、天術使えるようになったのか?」
「いや、そうみたい。ていうか、白凰堂で使えてたんだけど、まさか今も使えるとは思わなくて」
「そっか。なるほどな……」
ジャックは顎に手を当てて何かを考えるふりをした。
「けど、なんでおまえが火をつけたことにしたんだよ」
「いや、ちょっと考えてることがあってな」
「考えてること?」
ジャックがおれを真っ直ぐ見つめた。
「おまえ、ノーマンやレーナと敵対する覚悟はあるか?」
「は?」
「あいつらごとポールを蹴落とすんだ。どうだ?」
「蹴落とすって……」
おれはポールを見た。
「よくわかんないけど、ノーマンたちとこれ以上喧嘩するつもりはない」
「そっか。じゃあいいや。ただ一つだけ」
「なんだよ」
「おれはいつまでもバカにされて我慢できるほど気は長くないぞ。ポールがどのくらいすごいかなんて知ったことか」
ジャックはポールを見てべっと舌を出した。おれもポールを見た。ノーマンやレーナ、メア。他にもいろんなやつらと仲良く話している。おれはいてもたってもいられなくなって、ポールのそばに歩いた。
「ポール」
名前を呼んだら、ポール以外のみんなもおれを見た。
「今日、特訓会は?」
「もちろんあるけど。それがどうかした……?」
「なら、おれも今日はそれに行く。いいよね?」
「もちろんいいけど」
「オーケー」
「ちょっと待って」
おれが離れようとしたらポールがおれの体を引っ張った。
「医務室でのこと、変なこと言ってごめん。白凰堂、助かったよ。来てくれなかったら危なかったかも」
「あっそ」
おれは腕を振り払ってジャックの隣に戻った。
◇◇◇
その夜。おれはジャックと競技場に行った。競技場にはほとんどのミカエル寮生がいる。ていうか、他の寮生もけっこういる。
ジャックはついて来ただけで参加するつもりはないから、競技場の端でスマホをいじってるだけ。
おれがみんなの中に入ると、ふしぎそうだったり、怯えた目で見られた。
特訓会は別に特別なことをするわけじゃなかった。グループを組んで天術を使ったり、ペアを組んで剣や弓、それから肉弾戦の練習だ。まぁ、誰ともおれと組もうってやつはいないし、おれもそれでちょうどよかった。
一通り特訓が終わって、ついに終盤。最後はトーナメント形式で一対一の天術なしの対決。ポールは最後のシードらしい。
試合が始まる前に、おれは人混みをかき分けてポールの前に立った。
「どうかした?」
いつものニコニコ笑顔。その顔に腹が立って仕方ない。おれは拳をギュッと握った。
「今からおれと勝負だ。天術と天啓をまとうのはなし。剣で一対一でどう?」
「ぼくとショートが? やめた方がいい」
ポールがおれの頭をポンポンと優しく叩いて言った。
「ただの組み手ならともかく、剣は下手に扱えば大怪我につながる。ぼくは剣が一番得意だし……。どうだろう? 君は武器あり。ぼくが素手ってことなら」
おれはポールの手を叩き払った。キッとにらんで、声は自然と低くなる。
「剣ならおれも得意だ。バカにしてると自慢の顔に傷つくぞ。それとも、負けたときの言い訳が必要か?」
ポールはおかしそうに笑った。
「わかった。そこまで言われちゃ断れない。ただし、君の剣は授業用のだろ? ぼくもそれに合わせるよ。それくらいいいだろ?」
「まぁ、しぶしぶね」
すぐに競技場中の騒ぎになった。
半径五メートルくらいの円形で俺とポールを囲った。この中で俺の応援はゼロ。皆んなポールだ。スマホを構えてるやつもいる。
「ルールは?」
「時間は無制限。さっきも言った通り、天術も天啓もなし。あくまで剣での勝負。無駄に勝負を引き伸ばさないためだ」
「勝負は?」
「どちらかが気絶するかまいったを言う。……もしくは、死ぬまでだ」
レーナが小さく悲鳴を上げた。
「無理に決まってる。そんなルール」
「黙れ!」
おれはレーナをにらんだ。ポールがおれを小さな子供を見る目で見て、ため息をついた。まるで「子どものやることだし仕方ないか」って感じ。
バカにして……!
「さっさと始めるぞ」
「……メア。合図いいかな?」
メアはうなずいて、腕を上げた。
「試合開始!」
かけ声と同時に腕を振り下ろした。
先制攻撃はおれ。おれは剣を構えてポールに突撃した。
叫び声を上げて剣を振り下ろす。ポールは剣で簡単にそれを弾いて剣を振る。おれは横に転がって避けて、すぐさま足首を切りつけた。ポールは素早く剣を逆手に持ち替えて、自分の前の地面に突き刺す。おれの剣を防いだ。
おれは急いで立ち上がって後ろに下がった。
今度はポールが攻めてくる。手数も速さも重さもおれより上だ。これまでのどんな敵より手強く感じた。ポールの剣は怖い。おれは防ぐので精一杯だ。
これは剣の戦いだから、蹴ったり殴ったりもできない。おれはとにかく防戦一方で、このままだと切られるのも時間の問題。おれは一か八か思いっきり強く剣を振った。おかげでポールの剣を一瞬弾くことができた。
おれは何度か切りつけて牽制して、距離を取った。
「言うだけあるね。驚いたよ。まさかこんなに手強いとは」
ポールは笑って剣を構えた。この余裕な態度。ますますイラついた。
おれは雄叫びを上げて走った。
「たしかに強いけど……まだ甘い!」
おれの猛攻を全部受けきると、おれの剣をぐるりと巻いて、剣の腹で持ち手部分を叩き落とした。剣はカランと音を立てて落ちた。
ポールの剣が、おれの首スレスレで止まった。
おれは負けた。それもあっけなく。
「なんで切らないんだ!」
おれは悔しさのままに叫んだ。
「首を切ったら君は」
「どっちかが死ぬまでって言ったはずだ。それに、首じゃなくたって、体を切ればよかっただろ!」
「だったら、まだやるかい?」
「……もういいよ。まいった」
おれは剣を拾って、その場を去った。
途中で誰かがおれを呼び止める声が聞こえたけど、足を止めるつもりはなかった。悔しくて泣いてたかもしれないし、怒りで酷い顔になってかもしれない。それでもおれは、ただ真っ直ぐジャックの元に歩いた。
後ろではいろんな声が聞こえた。
「さすがはポール!」
「やっぱり天才なのよ」
「いくら大英雄の息子でも勝てっこないよ」
「しょせんは落ちこぼれだろ?」
おれを笑ってバカにするのが二割、ポールを褒めるのが三割、おれを貶してポールを褒めるのが五割って感じだ。
逃げるように競技場から離れて、ラビリンスの秘密基地のベッドに寝っ転がった。
ジャックはソファに座ってお菓子を食べながら言った。
「そりゃ悔しいやなぁ。イライラするよなぁ。大英雄の息子で神の子だからって、勝手に期待されて、勝手に比べられて。あげくバカにされて、それをダシにポールが褒め称えられる! おまけに仲のいい友だちもあっちにいって、みんなの嫌われ者」
おれはベッドを殴って立ち上がった。
「おれにポールを引きづり下ろす策があるぜ? どうする?」
「乗った」
ジャックがおれにゆっくりと近づく。
「覚悟は?」
「決まった」
ジャックがニヤリと笑って手を伸ばした。おれも笑って握り返す。
「これでやっとだな」
「なにが?」
「おまえが俺を相棒って認めてくれたのがだよ。最初に会ったときに言ったことを忘れたのか?」
「まさか。忘れてないよ」
「よし! だったら早速作戦会議だ!」
ジャックが指を鳴らして、おれたちはテーブルをまたいで向かいに座った。
「レース・アンド・コラボレーションって知ってるか?」
「天界特有の、ペットに乗ってやるレースだろ? レーナと一緒にテレビゲームをやったことがある」
「そうそう。その中のCBっつう」
「キャッスル・ブレイクだっけ? たしか六対六のチーム戦。お互いに城を立てて、それを先に壊した方が勝ち、だろ」
「そのとおり。ニュースルクスじゃ、毎年CBがクリスマスの近日に行われる。寮対抗で、補欠合わせて八人ずつ選手を選んでな。とはいえ、毎年ミカエルは負け続き。もちろん勝つこともあるんだけど、大体三、四位くらいをさまよってるな。学校外からもいろんな見物人が来るビッグイベントだし、おれ的にはもっと──」
「ちょっと待って。それ、なにか関係あるのか?」
「まぁそれはいいや」
ジャックは恥ずかしそうに顔を赤くして頭をかいた。
「それでまぁ、その選手の決め方だけどな。夏休み明け一週間後、それぞれ寮ごとにTWA──タイム・ウォール・アタックで選抜される。ゴールした速さ順だ。けど、障害は過酷だし多い。全員が途中でリタイアするから、大抵は速さじゃなくて進んだ距離で決めるんだけどな。だけど昨年と一昨年、圧倒的な速さでゴールしたやつがいた」
「もしかして、ポールか?」
「そうだ。レースに参加できるのは二年生から。ポールは今四年生だから、初出場からなみいる上級生をはねのけて優勝してる。今年も優勝確実だとみんな思ってる」
「それで、どうやってポールを蹴落とすんだよ」
「ポールはスリーサイズの黒燕だ。一番速いし一番強い。白凰を除けばな。おまえ、スリーサイズの白凰の主人だったって言ったよな? わかるだろう。おまえしかいないんだよ。ポールに勝つ可能性があるとすれば」
「けど待てよ。さっき出場は二年生からだって」
「掟は破ればいい! 幸いおれたちにはリゼフとゲログン、二人の教師が味方についてる。可能性はゼロじゃない。それに、想像してみろ。おまえは一年生、ポールは優勝常連の四年生。誰もが勝って当然って思ってる。そんな中で予想外にもおまえが勝ってみろ! 大注目、大人気間違いなし!」
ジャックが夢を見るように上を向いた。おれも想像してみる。ポールに勝って、おれはみんなに見直される。レイチェルもおれを褒めるし……ソニアは、あの子どもみたいな無邪気な顔で笑う。
「いいかも。で、勝つ方法は?」
「さぁ? 特訓とかするしかないじゃないか?」
ジャックはあっけらかんと言った。おれは思わずずっこけそうになった。
「はぁ? 作戦があるじゃないのかよ!」
「おれが考えてるのは盛り上がる方法だ。レースに勝つ方法は知らない。けどまぁ、心当たりはある」
「なんだよ」
「まっ、それは明日になってからだ」
結局、それ以上はどれだけ聞いてもジャックはなにも教えてくれなかった。おれは仕方ないからそのまま秘密基地で一夜を過ごした。
そして翌朝。朝ごはんを食べに大広間に向かう。
「ちょっと待てって」
ジャックがおれの肩を掴んで抑えた。
「昨日言ったろ? 心当たりがあるって。今日は授業はサボり。一日付き合ってもらうぜ」
「それはいいけど、心当たりってなんだよ」
ジャックは大広間全体を見渡した。
「あれだ」
ジャックが指さしたのはミカエル寮のテーブル。一人で本を片手に朝ごはんを取っている女子生徒。それもおれたちの同級生だ。
「チェイミー・シェイク。まずは彼女を仲間に引き入れることからだ」
◇◇◇
チェイミー・シェイクは変わり者。これがみんなの共通認識だった。
長い赤毛の三つ編みで赤目の、真っ赤な女子。すごくクールで、表情が変わったところなんて見たことない。頭は学年で随一。前回の中間試験じゃ、筆記は全教科満点だったらしい。
それでも一番変なのが、いっつも本を読んでいるってところだ。風呂と寝るときは以外はずっと。ご飯のときも休み時間も、もちろん授業中も。先生に何回注意されても読むのをやめたことがない。
優等生は嫌いなジャックだけど、チェイミーはこの通り、とても真面目とは言えないから、珍しくけっこう気に入ってる。
そしておれたちは今、授業をサボってミカエル寮のロビーにいた。チェイミーも普段から授業なんて聞いてないから、サボることに特に抵抗はない。
「話ってなに?」
チェイミーが首をかしげた。顔はけっこう整ってて、頬に薄いそばかすがある。
「おれたちに協力してほしい」
「協力?」
「おれたちはポールを倒したいんだ」
「どうやって?」
「夏休み明けにあるCB選抜戦のTWAで、一位になるんだ」
「ふーん。けど、あんまり興味ないなぁ。そのポールって人も有名だけど、私は倒したいとも応援したいとも思わないし」
「別にそれはどっちでもいいんだ。ただおまえの頭を貸してほしい。おれは悪知恵は働くけど、単純な知恵がない」
「けど、あなたたちに協力する間、私は本を読めないんでしょう? 今だって、けっこう我慢してるの」
我慢、か……。
現在進行形で本を読みながら人の話を聞いているやつの言うことじゃないと思う。
「本なんて、なにが面白いんだ?」
ジャックは心底ふしぎそうに言った。
「別に。あなたみたいなバカには理解できなくて当たり前よ」
チェイミーは静かにそう言った。ジャックはやれやれって感じで肩をすくめてため息をついた。正直、これはジャックの負けだ。笑いそうになるのを必死に堪えた。
おれはチェイミーの向かいに座って肩を叩いた。
「なに?」
「チェイミーって、この学校好き?」
「別に。好きでも嫌いでもないかな。本がたくさんあるから楽しいけど、逆に言えば本さえあるならどこでもいいし」
「おれはね、結構好きだぜ。ニュースルクス」
「ふーん」
「ふしぎだって、思わない?」
チェイミーがチラリとおれを見た。
「あんなにバカにされて、嫌われてるのに。それでもまだ学校が好きだなんて」
「少し思うかもね。けど、別に興味はないかな」
「まぁ聞けって。おれはさ、なんだかんだ楽しいんだよ。だってワクワクするだろ?」
「ワクワク?」
「ジャックとこうやってバカみたいな話をするのも、ちょっと怖い思いして悪魔に襲われるのも。そりゃまぁたしかに、ツラいことのほうがずっと大きいけどさ。それでも人間界にいるときよりずっとワクワクするんだ」
「ワクワク、か……」
チェイミーの本を読み進める目が止まった。
「チェイミーだってそうだろ?」
「私?」
「あぁ。おれも、ゲームや漫画が好きなんだ。シナリオもそうだけど、ワクワクするし。本だって同じなんじゃないか? 読んだらワクワクする。だから好きなんじゃないのか?」
「そうかもしれない……。けど、だったらなにか関係がある?」
「おれたち二人は今、みんなの嫌われ者で信頼度はゼロどころかマイナスだ。そんなダメダメの落ちこぼれ二人が、一番の人気者ポールを倒して成り上がる! どう? 小説みたいな状況じゃないか?」
「…………」
「読んでるってのも十分楽しい。けどさ、実体験ってのも絶対悪くないと思うんだ。おれたち三人なら、どんな小説よりもずっとワクワクして、楽しいことをできる! 一緒にやろう!」
チェイミーが本にしおりをはさんで閉じた。
「私、本は基本フィクションしか読まないの。現実の話なんてつまらないし。けど、それでも一つだけ好きな話がある」
「え?」
チェイミーと、初めて目があった。キラキラ輝いている。
「あなたのお父さん、ジェット・アルマス。あの人の話だけは、すごく面白くて、大好き。ねぇ、本当に?」
「ん?」
「本当に本よりもワクワクするの? 本当に本よりも楽しいの?」
「もちろん! って言っても信じないか……。ジャック、秘密基地に連れて行ってもいいかな?」
ジャックは手を振った。
「前に言ったろ? 別に誰にもバラしてもいいって」
「ありがとう」
おれたちは時計台に向かった。
ラビリンスに入って、秘密基地の中を見たときのチェイミーの反応は予想通り。多少わかりにくいけど、たしかに目を見開いて、小さく「うわぁ」って感激の声を漏らした。
「秘密基地なんて、いかにもって感じだし、悪くないだろ? チェイミーの頭脳が頼りなんだ」
「私の頭脳……」
「そういうこと!」
ジャックが言った。
「おれの悪知恵、チェイミーの頭脳、そしてショートの才能! そりゃ、まだまだ穴の多いボコボコのおれたちでも、三人集まりゃそれなりにいいところに行ける。だろ?」
「そう……かもしれない。わかった。協力する」
「よし! SJC悪戯同盟結成だ!」
「SJC?」
ジャックがニッコリと笑った。
「ショート、ジャック、チェイミーだよ!」
SJC悪戯同盟。ジャックがその場でとっさに付けた名前だけど、おれたちにとってはかけがえのない繋がりになった。
ここから、おれたちの物語の歯車は大きく動き出したんだ。




