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待っていた王子

 目を覚ましたら朝だった。運のいいことに予知夢は見なかった。

 隣では頭に包帯を巻いたグアルディーが椅子に座って寝ていた。おれの看病をしてくれてたんだ。


「ショート様。お目覚めですか」


 もちろん、リゼフは寝ることなく普通にそばに立っていた。


「うん。おれ、どのくらい寝てた?」

「まだ一日も経っていませんよ」

「そっか。よかった」


 グアルディーがパチリと目を開けて、立ち上がった。


「アルマス! よかった……、あなたは本当に重症だったのですよ? この前ほど生命力は無くなっていませんでしたが、傷がとにかく多くて」

「すみません」

「いえ。謝罪も、感謝も、全て私の方です。教師でありながら、ほとんどをあなたに頼りきってしまった。全ては私の不甲斐なさ」

「いや、そんなこと……」


 突然、医務室のドアが勢いよく開いた。ポールが入ってきた。ポールは、ものすごい形相でおれをにらみながらどんどん近づく。


「やぁショート。元気かい?」


 文面にすると穏やかだけど、表情は強張ってるし、言い方には棘がある。ポールはおれのそばに来ると、胸ぐらを掴んだ。


「君が余計なことをしなければ、ぼくはレーナを救えていた!」

「きさま、離せ」


 リゼフが低い声で言った。今にもポールを消しとばしそうだ。


「リゼフやめろ! いいんだ……」

「なにがいいって言うんだ!」


 ポールはおれをベッドに叩きつけた。

 医務室にはさらに人が入ってくる。ジャック、ソニア、ノーマン、メアだ。


「君がドラゴンを連れ出して暴れて、挙げ句の果てにはまた暴走だ。レーナは救えたはずなのに、君が余計なことをしたばっかりに」

「ポール!」


 ソニアがおれの前にかばうように立った。


「なにも知らないくせに勝手なこと言うな」


 ジャックも続いた。


「姉貴もポールも──」


 チラリとノーマンを見る。


「ノーマンも。ショートは多くのやつを救ったんだぜ?」

「多くの人? それはどこにいるんだい?」


 ポールは医務室を見渡した。


「ここで治療を受けているほとんどが、ドラゴンとショートの暴走によって怪我を負った人たちじゃないか!」

「一番ひどい子で、両足の複雑骨折だそうよ」


 メアが言った。


「いい加減にしなさい!」


 グアルディーが怒った。


「ポールもメアもどうしたんですか。あなたたちらしくもない」

「先生こそどうしたんですか? いつもなら罰しているところでしょう? それとも、大英雄の息子だからって許されるんですか? 人の大切な友だちを奪っても」

「なんてことを……。いいですか、アルマスは──」

「先生!」


 おれは言った。


「いいです。ポールの言うとおりです。おれが甘かったんです……なにもかも。おれは自分が強いと思ってた。天術の一つも使えないのに。敵を倒すことはできても、誰かを助けることはできない」


 夢を忘れていたのも、レーナよりもレイチェルを優先する判断をしたのも、レーナをほっといてブルルスグルフの元に行ったのも、ガイアブレスに乗って戦ったのも、全部おれの考えが甘かったからだ。


「先生、ぼくたちがレーナを助けに行きます」


 ポールが言った。グアルディーが答える。


「そう簡単じゃありませんよ。今も捜索隊が彼女の居場所を探しています。ここは大人を頼って」

「白凰堂です。レーナは白凰堂にいます」


 白凰堂……。リゼフと最初に天界に来たときに、着いた場所だ。たしか裁判所みたいなとこだったと思う。


「白凰堂?」

「はい。ワンサイズの黒燕を何羽か敵につけておきました。さっきそのうちの一羽が帰ってきて、場所を聞いたら白凰堂だと」

「まさか。それが本当だとすると……」


 グアルディーが顔を青くしてうつむいた。みんな深刻そうだ。意味がわからない。おれはリゼフに聞いた。


「どういうこと?」

「もし、ポール君の言うことが正しいとすれば、それはつまり、天使側に裏切り者のスパイがいるということです」

「しかし……」


 グアルディーが言った。


「それならなおさら、あなたに行かせるわけにはいきません」

「でも、誰が、どのくらいスパイがいるかわからない現状じゃ、報告することもできませんよね? 全部秘密裏にやらなきゃいけない。先生たちは特に警戒されてる。生徒の数人減ったところで敵は気づかない」

「ですが」

「公共機関は使えないし、救出もスピーディーに行わなきゃいけない。ぼくのペットは黒燕。この学校の中じゃ一番速い。条件はクリアしてると思います」

「あなたが優秀であることは認めます。しかしやはりレーナ救出は認められません」

「なぜですか! 敵の狙いは知りませんが、用がなくなれば殺すかもしれません。時間はないんです」

「その通りです。ですから寮監として、また、彼女を助けられなかった者として、私が行きましょう」

「それは無理そうだ」


 ゲログンが怒り満々って感じで入ってきた。


「たった今、レーナの正式な処刑が決まった」


 一瞬、時間が止まったかと思った。おれは震える声で言った。


「処刑?」

「なんでも、ゴブリンが学校に侵入する手引きをした容疑らしい」

「バカバカしい」


 グアルディーは言った。


「そんなもの、レーナの記憶を少し探ればすぐにわかること。おそらくはスパイによるでっちあげでしょうが、他の者はなんの疑問も持たなかったのですか?」

「もちろん、おかしいと思ったやつはいるし、事実レーナの記憶を見ようとしたらしい」

「見ようとした?」

「記憶にロックがかかって、優れた術師でも見れなかったらしい。それだけで十分不審と判断し、処刑が決まった」

「バカな。そんなの少し考えれば、ゴブリンたちの仕業だとわかるはずです」

「おれに言われてもな。それに、それこそゴブリンがそんな回りくどいことするはずがないだろう。殺すなら自分たちが勝手に殺せばいいんだから。とにかく決まったことだ。そしてすでに、この学校にも見張りがいる」


 ポールが首を傾げて言った。


「見張り? どういうことですか?」

「おれたち教師陣がレーナを脱走させないように、らしい。十中八九これもスパイの指示だろうな」

「そうですか。ならやっぱり……」


 ポールはグアルディーを真っ直ぐ見た。それはなにかを決意した顔だ。


「ぼくが行きます。同行者はノーマンとメア。先生たちは見張られているんですから、どのみち生徒が行くしかない。ぼくが一番の適任です」


 ポールはグアルディーの返事を聞く前に、ノーマンとメアを連れて出て行った。

 おれはベッドを殴った。単純に悔しかった。認めたくないけど、ポールはすごい。例えばもし、ポールがおれだったなら、レーナもレイチェルも両方救えたし、たぶんなにもかも上手くやれてたはずだ。おれじゃポールに勝てるものなんて一つもない。


「リゼフ。命令だ」


 悔しくて仕方がない。けどだからって、なにかをあきらめるつもりはない。レーナを助ける。そう本人と約束したんだから、おれは行く義務があるって思った。

 リゼフはおれに膝をついた。


「なんなりと」

「おれと一緒に白凰堂に行くんだ。レーナを助けに行く」

「あなたまで!」


 グアルディーが怒った。


「あなたはポールと違い一年生。それに、身体的にも体力的にもボロボロです」

「ゲログン、ドラゴンシャドーある?」

「お? おう。待ち合わせはこんだけだが」


 ゲログンはドラゴンシャドーを三個出した。おれはそのうち二個をかっさらって、口の中に詰め込んだ。体が燃えるように熱い。呼吸は苦しい。力は湧き出てくるけど、副作用が大きい。もう一個、欲しくなってきた。おれは伸ばす手を抑えて頭を振った。


「なんて無茶を……」


 ゲログンがコップにアップルティーを注いだ。おれはほとんど味わいもしないで流し入れた。少しは落ち着いたけど、まだ体が熱い。


「これで体力は問題ない。行こう、リゼフ」

「いえ。私なら瞬間移動ができますので、島から出れさえすれば一瞬で着きます。もう少しくらい休んでも問題ないでしょう。君は寝たほうがいい」

「いやでも」

「いいから。横になりなさい。時間になったら起こします」


 そう言って、リゼフに無理やり横にされる。心配で寝れるわけないって思ったけど、すぐに意識がなくなった。


 予知夢を見た。今度のおれは、残念なことにポールだった。白凰堂の地下にある留置所で、牢屋の中にレーナがいる。しくしくと泣いて、おれの名前を呼んでいる。ここで言うおれは、ポールのこと。ショートじゃない。


「レーナ!」


 おれが叫ぶとレーナは気づいて、唖然とした表情でこっちを見る。


「助けに来たよ」


 おれは後ろのノーマンとメアを指した。ポケットから、さっき盗んだ鍵を取り出す。


「今開けるよ」

「うわっ!」


 後ろでノーマンの悲鳴が聞こえたかと思ったら、目の前をものすごい速さで通過して柵に背中を打ちつけた。ずるずると力なく倒れる。気を失ったんだ。おれは素早く振り返った。剣を構える。

 そこにいたのはゴブリンだった。ウェントワースだ。メアも隣で剣を構える。

 おれは今すぐ逃げ出したかったけど、これはポールの体だからどうにもならない。だって、今のおれは勇気に満ちあふれてる。本当はノーマンに駆けよりたいし、メアにもやめろと忠告したい。けど、ポールは冷静でノーマンは後回しにして敵に注目してるし、メアのことも信頼してる。

 そうして、段々おれの意識が離れていく。結局、最後に聞こえたのはメアの悲鳴とレーナの叫び声だ。

 リゼフのおれ起こす声で目覚めた。


「ショート様。そろそろ時間です」


 まだ外は明るいけど、夕方と言っていい時間だ。どうやら相当長い時間寝てたらしい。


「行きましょう」


 おれは返事をして立ち上がった。最初の一歩を踏み出そうとしたとき、おれの手首を誰かが引っ張った。振り返ると怖い顔をしたグアルディーが立っていた。


「あなたは止めても行くのでしょう」


 ふっと、いつか見た優しい笑顔になった。


「これを持っていきなさい」


 首にかけてあった、金色で三日月型のネックレスを外して、おれにつけた。


「私が大切な人に貰ったお守りです」

「あ、ありがとうございます」

「ショート」


 ちょんちょんと肩を叩かれる。ソニアだ。


「君、これ落としてたでしょ?」


 昨日使ったおれの剣を持ってぷらぷらしていた。おれが手を伸ばすと、悪戯っぽい笑みを浮かべてさっと手を引いた。


「これ、授業貸し出し用の安物量産型でしょ?」


 ソニアはエメラルドグリーンが埋め込められた銀色のブレスレットを外して、おれに渡した。


「これ、私の剣。ロングソードだし、安物よりずっと使いやすいと思うよ」

「ありがとう……」

「頑張れよ、少年!」


 そう言って、ソニアはおれの頭にキスをした。おれは顔がカッと熱くなって、今すぐ医務室から飛び出したい気分だった。

 ジャックはおれを見て口笛を吹いた。


「……なんだよ」

「へへっ。美味しいもんいっぱい用意しとくぜ」

「オーケー。……リゼフ、行こう」


 おれはリゼフを連れて学校を出た。


「ポールたちは?」

「彼らは少し変装すれば、この島の観光客を装って出ることは可能ですので。公共機関を使わないのならチェックもありませんし」

「じゃあおれたちはどうやって出るんだ?」

「正面突破しかないでしょう」


 そう言って、リゼフは指で輪っかを作って笛を鳴らした。

 空気を泳ぐ魚。リゼフのペットのシャチ、ザーバルが来た。


「さぁ乗りなさい。彼らが気付く前に島を出るのです」

「なるほどね。上出来じゃん」


 大きな監視の天使たちはすぐにおれたちに気づいた。

 というか、たぶん教師の顔とそのペットは全部記憶してるんだろう。おれたちは三人に囲まれて止められた。


「リゼフ・ネージェン。おまえは教育者のはず。生徒を引き連れて一体どこへ?」

「一つ否定しておきましょう。私が連れ出すのではなく、私が連れ出されるのです。申し訳ないが、少し眠っていてください」


 リゼフが手を払うと、監視たちは白目を向いて下に落ちていった。


「行きましょう」

「けっこうけっこう。めちゃくちゃやるね」


 おれたちは島を出た。と言っても、領域から出ただけでなにかが変わるわけじゃない。おれは言った。


「どうした? 早くワープ」

「ショート様。私がいつも君の前に瞬間移動するときのことを覚えていますか?」

「どうって……、なんか火花が散って」

「えぇ。つまり一瞬燃えるのです。多量の天啓をまといながらでなければカイジンになってしまう、高等の天術。君はまだ天啓をまとえない。ですから、フェニーチャーさんの力がいるのです」

「そっか。フェニーチャーがいればおれは燃えない」

「えぇ。彼は?」


 右目が光って、フェニーチャーが言った。


「起きてるよ」


 意識はすぐにおれに戻る。リゼフはふっと笑った。


「では行きましょう。瞬間移動(ボルトシンティラ)!」


 体がグッと熱くなって燃えた。花火みたいに弾けたと思ったら、景色が変わっていた。

 おれたちは白凰堂の中の広間に立っていた。後ろには木が立っていて、てっぺんに金色の鳥。この鷹みたいな鳥が白凰だ。真っ白で大きくて、鳥の中じゃ一番速いらしい。ポールたちの黒燕よりも。


「牢屋の前に瞬間移動すれば速かったのに」

「いえ。白凰堂はルシフェル島と似たような作りでね。ここ以外には瞬間移動できないのです」


 リゼフが手をフッと俺に振る。フードの着いたローブが出てきて、おれの頭にはまる。


「フードをできるだけ深く被ってください」


 そう言って、リゼフはフードを被った。初めて会ったときと同じで、長い髪とフードの影で顔が見えない。おれもリゼフにならった。


「行きましょう」


 おれたちはそのまま前に進んだ。白凰堂は大きな一本道。真ん中の広間だけ丸くてちょっと出てる。廊下の壁にはドアが何枚も付いている。

 しばらく歩くと、警官帽を被った警備員らしきやつに止められる。


「君たち、身分証明書は?」


 リゼフはおれを指して、落ち着いた声で言った。


「彼はまだ未成年の天使(エンジェルズ)。私一人でいいでしょう」


 おれはリゼフの服を引っ張ってささやいた。


「おれたちが学校抜け出して来たのバレるじゃないのか?」

「大丈夫ですよ」


 リゼフはニッコリ笑ってそう言った。

 ポケットからカードを取り出して警備員に渡す。警備員は一瞬けげんな顔をしたけど、すぐに正気の抜けたぼーっとした顔で笑った。


「けっこうです。お通りください」

「行きましょう」


 おれたちは難なく警備員の横を通った。


「あらかじめファイントさんに証明書に強い幻覚をかけてもらっておいたのです」

「あいつがおれたちに協力したの?」

「彼は確かに性格こそあれですが……、実力だけは確かです。特に幻覚はね」


 ふと、リゼフの足が止まった。目は壁に貼ってあるポスターに向けられている。

 真ん中にハゲのスーツ着たおっさんがいて、周りでおっさんが笑っているポスター。『一緒に作りましょう。明るい未来』って書いてある。


「どうかした?」

「いえ。処刑をこの短時間で決定させるとなると、やはりそれなりに偉いポジションにいるはず。五つの属性は、学校を卒業した後もそれぞれで強い結びつきになる場合が多いのです。特に政党なんかでは、同じ属性だけで組むという話も珍しくない」

「じゃあ、もしかしてこいつら」

「彼らは最近、刑事的役職について高い権限を得たはず。議会では彼らの意思は決定の大きな礎となります。……ルシファーの属性を持つ者のみで組織された政党──リーダーの名はエドウィン・ディーナー」


 フェニーチャーがおれの意識を奪って言った。


「エドウィン・ディーナー。またずいぶんと懐かしい名だなぁ」

「知っているのですか? フェニーチャーさん」

「あぁ、大嫌いだったからな」

「君はほとんどがそうでしょう」

「あ? おれは別に気に食わないことはあっても嫌いなことはねーよ。……やつは戦争時、天使側として戦ってた」

「知っていますよ。それなりに活躍しましたし、それが理由でここまで出世を」

「いや、正しくは違う。戦争が始まる丁度一年前、やつはケラヴロスに捕らえられた。エドウィンは無様にも命乞いして、天使側のスパイとなったってわけだ。早々に勝負を諦めて命乞いするやつはおれは嫌いなんだ」

「なるほど。ビンゴですね。ならばレーナ君の解放はポール君たちにたくし、私たちは彼らを捕らえに行く方が」

「ダメだ」


 おれはフェニーチャーから奪い返して言った。


「この中にいるんだウェントワースが。予知夢を見た。ノーマンたちはみんなやつに殺される」

「ウェントワース……。それにブルルスグルフ」

「知ってるの?」

「知らない者の方が少ないですよ。ゴブリンは本来、そこまで強い悪魔ではないですが、ブルルスグルフは戦争時、その圧倒的な強さで多くの天使達を葬り、魔王自ら将軍と言わしめた男。魔王の手下にいる悪魔は多いですが、その中なら彼はNo.4。そしてその右腕がウェントワースというわけです」

「そんなに有名なのか。けど、グアルディーは知らないっぽかったけど?」

「アネット君はまだ戦争時十歳。若かったからね」

「え、先生って今二十歳?」


 リゼフは少し驚いた顔でおれを見る。


「まさか知らなかったとは。彼女は今年から教鞭を執った、史上最年少教師ですよ。正確には今年で二十歳。今はまだ未成年です」

「嘘。知らなかった……」

「まぁ仕方ないですよ。彼女も自分の若さを恨んでいますしね」

「なんで?」

「戦争に参加できなかったからですよ」

「戦争って……そんなの参加しない方が──」

「本当にそう思いますか? 君らしくもない」

「おれらしい?」

「もし自分がもっと強かったら、もっと産まれるのが早くて、役に立てたら。そう思うでしょう。大切な人が死んでしまって、彼女は自分の弱さ──すなわち若さを呪ったのです」


 なんとなく、リゼフの言う意味がわかった気がした。リゼフはニコリと笑うと、すぐに真剣な顔になった。


「ともかく、それならポール君たちの合流するのが最優先です。しかしどこにいるのか……」

「まずは牢屋の鍵を盗みにどこかへ行ってたって」

「ならば保管庫か。私たちもまずそこへ行き、牢屋まで急ぎましょう。途中で出くわすかもしれませんし、私たちの方が早いのならそれでいい」

「そうだね。急ごう。……どうやって行くの?」


 リゼフはふふっと笑った。


「十六番のドアです」


 駆け足で行くリゼフの後を追って先に進んだ。十六って書いてある看板が貼ったドアの前に立って、リゼフが勢いよく開けて、おれたちは中に飛び込んだ。

 白いランプ一つで照らされた薄暗い廊下。スーツを着たいかにも仕事人って感じのおっさんがたくさんいて、そこかしこにある部屋を行き来している。


「一番奥にあるのが保管庫です。中に入るには特別な許可証がいる」

「じゃあ、どうやって入るんだ?」


 奥の扉の前には、ガタイのいいおっさんが四人も張りついていた。

 戦っても勝てなさそうだ。ていうか、仮に勝っても騒ぎを起こしたら負けみたいなもんだ。


「さっきのカードを使うんですよ」

「あれ、効くの?」


 リゼフは返事をしないで、扉の前に歩いていった。


「あんた、許可証は?」

「もちろん」


 リゼフは当たり前のようにカードを渡した。

 四人は、こいつ頭おかしいんじゃないか? って感じの顔でリゼフを見たけど、カードに触るとすぐにポーッとしたマヌケ顔になった。


「どうぞ。お入りください」


 おれは念のため、急いで中に入った。

 リゼフが言う。


「彼ほどの幻術使いは、この世界にはいませんよ。敵に回すと恐ろしい」


 保管庫の中は、さっきよりもずっと暗い。というか、明かりがない。


「……この保管庫には、牢屋の鍵以外にも多くの貴重な物を保管している。それこそ、それ一つで天界を支配できてしまうような物もね」

「あんなザル警備で大丈夫なのか?」

「ザルじゃないから恐ろしいんですよ。ファイントさんは」

「けど、ポールはどうやって入ったんだ?」

「彼にも同じようなカードが渡されているとは思いますが、時間をかけてないので効果は薄いでしょう。おそらく、カードプラス彼の幻術を使ったのでしょう。彼は天才ですからね」


 リゼフがポールのことを純粋に褒めたことに、おれはなんか少し腹が立った。結局のところ、ポールがすごいってのはどうしようもないらしい。


 リゼフが光る玉を作った。これも天術らしい。おれたちはその明かりを頼りに周りを探した。保管庫の中はけっこう広い。そこかしこにわけのわからない物がたくさん置いてある。おれは『五つの秘宝』って書いてある棚を見つけた。五段の棚だけど、不思議なことに何も置いてない。


「これは?」

「五大天使が実際に使った武器ですよ。その威力はすさまじく、天界の秘宝と呼ばれている。多くのレプリカが作られましたが、未だオリジナル以上の威力は持たない」

「でも一つも入ってない」

「彼らは持ち主を選ぶのです」

「武器が?」

「えぇ。自分を所持するのに相応しいと判断した者の前にのみ、それを握らせる。科学者たちはその在り方と保存方法を今も研究していますが、まぁ見ての通り、上手くいっていない」

「ふーん、なるほどね。まっ、とりあえず探すか」


 おれたちは作業を再開した。早くレーナを助けないと、ノーマンたちが死ぬ前に逃げないと、って考えてばっかりで、おれはけっこう焦ってたから覚えてないけど、たぶん五分くらい経ってからだった思う。リゼフが言った。


「どうやら、ここにはないらしい。おそらくすでにポール君たちが取ったのでしょう」

「だったら急いで追いつかなきゃ」

「そうですね。まだ急げば間に合います」


 おれたちは保管庫から出た。

 リゼフは当たり前って感じだったけど、おれは警備のおっさんになにを言われるか怖くてずっとビクビクしてた。


「牢屋に行くには?」

「白凰堂広場とは別の特別棟にありますから、一度屋上に出て渡り廊下を使い棟を移り、地下に行くしかない」

「オーケー。案内よろしく」


 おれたちはワープしてきたドアに戻った。十六番ドアの前に戻っている。


「廊下をまっすぐ走りましょう」


 広場とは逆方向の先をリゼフが指した。遠すぎてちっちゃく見えるけど、真っ白な階段があった。


「あれを登って移動すれば最短で屋上に行けます。おそらくポール君たちもこのルートでしょう」

「わかった」


 おれはリゼフを置いていくくらいの気持ちで走った。

 けど、思った以上におれはボロボロだったらしい。体が重いし、すぐに息が上がる。ていうか、階段をひたすら走って登り続けるのは疲れる。

 結局、おれがリゼフに離されないように走るのが精一杯だった。

 おれはリゼフの指示に合わせて右に曲がったり左に曲がったりしながら階段を登った。


「はぁ、はぁ……。後どのくらい?」

「もう少しだ。頑張れ!」


 曲がり角の左から、聞き覚えのある情けない声とそれを励ます声が聞こえた。おれはリゼフと顔を見合わせて、一気に角を曲がった。ノーマン、メア、ポールが階段を必死に登っていた。


「ノーマン!」


 おれが名前を呼ぶと、ノーマンたちは目を見開いて、すぐに険しい表情で言った。


「どうしてここに?」

「レーナを助けに」


 三人とも納得がいかないって表情だ。


「今はおれたちでとやかく言ってる場合じゃないだろ。急ごう」


 ちょっと上から生意気に言いすぎた気がしたけど、ポールはしぶしぶって感じでうなずいた。


「そうだね。急ごう」

「ポール君」


 リゼフが言った。


「君は牢屋までの道を知っていますね?」

「はい」

「ならば行きなさい。どうやら追っ手が来たようだ」


 カツコツと床を靴が叩く音が連続で聞こえる。しばらくして、ローブを来たおっさんが四人現れた。一人が前に出て言う。


「レーナ・クレイブルの処刑は決定事項だ。おまえたちはわざわざ捕まらに来たのか?」

「君たちの方こそ。エドウィンの手下がずいぶんと偉そうにしているではありませんか。……ショート様、行ってください!」

「ポール、行くぞ!」


 おれは三人を引っ張って走った。後ろでは、青と深紫の電撃が飛び散っていた。

 約一分間、息も忘れるくらいとにかく走り続けて、ようやく空の下に出た。日はもう落ち始めている。おれたちは真っ白な床で倒れて、とにかく酸素を吸った。


『残念なお知らせだ』


 フェニーチャーが言った。


『ウェントワースが空から来るぞ』


 おれは横にいる三人を見た。この中でウェントワースに勝てそうなやつは──いない。いくらポールといってもたぶん無理。相手はあんなに強かったブルルスグルフの右腕だ。時間稼ぎをするならおれしかいない。この四人の中で一番死んでもいいのは、おれだ。


「みんなは先に行け」


 おれは立ち上がって言った。


「また追っ手が来る。おれが引き止めるから、三人はレーナを助けろ」


 ポールは意外そうな目でおれを見てうなずいた。


「わかった。行こう。メア、ノーマン」


 ポールはたしかに、みんなのやる気を引き出すのが上手い。二人はさっきまでの苦しそうな顔をやめて立ち上がったと思ったら、ポールの後を追って走り出した。


「ショート・アルマス!」


 八咫烏に乗ってウェントワースが現れた。


「ブルルスグルフ様の仇だ」

「こっちだって。レーナの恨みを晴らす!」


 ウェントワースは八咫烏から飛び降りた。おれはソニアからもらった剣を構えて、突っ込んだ。

 流石の反応速度だ。ウェントワースはおれの振り下ろした剣を難なくかわして、おれに雷撃を放った。とっさに横に飛んで避ける。


「リフュムーロ!」


 また無意識だけど、とにかく天術が出た。金色で透明の壁がウェントワースをぶっ飛ばした。おれは今のうちにトドメを刺そうと走ったけど、ウェントワースはすぐに立ち上がって攻撃を繰り出す。おれは避けたり剣で弾いたりしながら近づいて、一気に切りつける。

 今まで一番体がのってた気がするのに、剣は一向に当たらない。ウェントワースの拳がおれの顔の目の前に来た。

 その瞬間、おれの右目から赤い波動が出てウェントワースの拳を体ごと弾いた。怯んだ隙に剣を突く。ウェントワースは後ろに飛び退いた。


「なんだ今のは?」

「は? フェニーチャーのことを知らないのか?」

「十年前に死んだ悪魔の王。それがなんだと言うんだ!」

「ふーん。なるほどね」


 おれはウェントワースをバカにするように笑った。おれの実体験から学んだ相当イライラする笑い方だ。ニヤニヤして鼻で笑ったりとか、クスクス笑ったり。


「なんだ、おまえ。ブルルスグルフからなにも聞いてないのか」

「なんだと」

「けっこう信用なかったんだな」

「きさま!」


 予想通り、ウェントワースは怒っておれに突進してきた。一か八かだけど、今なら使える気がした。おれはウェントワースの足元を狙って叫んだ。


「リフュムーロ!」


 ウェントワースは壁に足を弾かれて、前に倒れながらおれに向かってくる。おれは剣でお腹を突き刺した。

 ウェントワースが血を吐きながら剣を掴む。そのまま雷撃を飛ばした。当たる直前で右目から出た赤い波動がウェントワースと雷撃を飛ばした。


「フェニーチャー!」

『このていどならあと百発は撃てる。死にそうになったらおれが助けてやるから、それまでに殺せ!』

「わかった!」


 ウェントワースがすぐさま雷撃を飛ばした。


「ディフェクト!」


 金色の透明な膜がおれを覆って、雷撃からおれを守った。


「また成功した!」


 リゼフの言ってた大きなきっかけが今なんだ。おれの体力が限界で支配元素が使えないこと。死の間際のこの状況。この二つがたまたまいい感じにかみ合って使えてる。このへんりんは森でゴブリンたちと戦ったときからあった。


点火せよ(レクシィ)!」


 ウェントワースの肩に火がついた。


「このていど──」

炸裂せよ(エクスプロバロン)!」


 金色のテニスボールくらいの玉が無数に現れる。おれはウェントワースにぶつけた。何十回も爆発が起きる。対して効いてないけど、煙で目隠しにいいはずだ。

 おれはウェントワースの後ろに走って切りつけた。一撃目は直撃。背中に斜めに傷がついた。二撃目は振り返ったウェントワースの頬にかすって、三撃目からは完全に避けられた。ウェントワースは爪を突き立てておれを襲ったけど、赤い波動がふっ飛ばした。

 おれはすぐに追撃しようとしたけど、足がまるで動かない。それどころか、倒れるみたいに床に膝をついた。立つのも限界らしい。


「はぁ、はぁ……!」

『おい!』

「わかってる! けど……」

『来るぞ!』


 ウェントワースが飛び出した。ダメだ、足が動かない。避けきれない。波動が辛うじてウェントワースを弾いた。


「ぐっ……だったら!」


 ウェントワースがおれの後ろに回った。

 一瞬だけ両手から炎が出た。推進力で体が回転して後ろを向く。赤い波動がウェントワースを飛ばした。


「ありがとう」

『だがこれでおれの力も限界だぞ』

「わかってる。とりあえず陽動が必要だ!」


 おれは剣を支えに立ち上がって、指を輪っかに笛を吹いた。


『鳥がやつに通用するか?』

「ないよりマシだろ」


 バサバサッ!

 空を切り、大きな音を立てながら体中白い、鷹みたいな鳥の大群が向かってくる。白い鷹の大群が、ウェントワースを襲った。周りを旋回してはくちばしで突いたり、足で蹴ったりしている。


「バカな! こんな天使など聞いたことないぞ!」


 ウェントワースはすっかり翻弄されて、めちゃくちゃに叫んだ。

 レーナのシフォン以上の、めちゃめちゃでかい鳥が一匹、おれの前に止まった。全身真っ白な鷹で、瞳はおれと同じ青色だ。


「我々は白凰。お待ちしておりました。我が主人よ」


 そう言って、白凰は丁寧にお辞儀をした。

 ちょっと待て。白凰? あの? 世界最速の生き物の白凰の主人がおれ?


「主人? 一体どういう……」

「我々白凰は全ての鳥で最も速く、強く、神聖です。そして我が名はヘルェル! 白凰の王子! そしてあなたと血の契りを結んだ下僕(しもべ)

「血の契り? けど、おれそんなの……」

「いえ。自覚はなくともその力を使ったことはあるはずです。昔から、血の契りを結んでもいないはずなのに鳥を操ることができたでしょう」

「そうだけど……それがなんだよ」

「我々白凰は鳥の王。そして私はその王子。ショート様は私の主人。すなわち、あなたは全ての鳥の王であり、従える力を持っているのです」


 おれはグアルディーの授業で話した鷹のことを思い出した。そういえばあいつが言ってた、『王の王』ってこのことだったのか。


「ヘルェル。おれはもう限界だ。立って動けない。おれの足の代わりになってくれ」

「代わり以上ですよ。私はスリーサイズの白凰。他の白凰とは、比べ物にならない速さです。しっかり捕まってください」


 おれはなんとかヘルェルの上に這い上がって、体を思いっきり掴んだ。

 ヘルェルの全長は二メートルくらい。翼開長は五メートルくらいある。とにかく巨大だ。

 ヘルェルは上を向いて「ホォォォー!」と鳴いて羽ばたいた。

 髪をセットしてる人には、ヘルェルの上に乗るのはおすすめしない。後は首に切れ目が入ってる人も。ヘルェルは速すぎる。顔の首が取れるかと思った。


「天啓をまとってください!」


 ヘルェルが叫んだ。そんなこと言われても無茶だ。おれは授業でも成功したことないんだから。けどやるしかない。このままだと確実に首が持っていかれる。

 それに、今は天術が使える。

 おれは目をつぶって、ゲログンが言ったコツをイメージした。なんでもいいから術を使うつもりで力を溜めて、体に止める。

 目をゆっくりと開くと、体を金色の光が覆っていた。成功したんだ。

 おれはウェントワースを見た。白凰の群れに圧倒されて、体は小さな切り傷だらけだけど、まだまだ倒れる気がしない。ウェントワースは雄叫びを上げて、めちゃくちゃに雷撃を放った。白凰は一斉に逃げていく。


「リフュムーロ!」


 金色の壁がウェントワースを襲った。後ろにふっ飛んだ隙に、ヘルェルが突進する。おれは剣を振った。けど爪で弾かれる。

 ウェントワースが雷撃を放った。ヘルェルに直撃する。けど、煙が上がるだけでヘルェルは平気そうに飛び回る。


「このていど、私には効かん!」


 ヘルェルが「ホォォォー!」と鳴いた。口から白い波動が出て、ウェントワースを攻撃した。他の白凰たちもそれに続いて波動を放った。ウェントワースは悲鳴をあげる。


「今だ!」


 ヘルェルがウェントワースに向かった。おれは剣を構える。ヘルェルがすれ違うようにウェントワースの横に飛び、おれは剣を横にして切りつけた。

 ウェントワースが剣を爪で受け止める。そのせいで、ヘルェルの動きが止まったり

 ウェントワースは捕まえたとばかりにニヤリと笑って、雷撃を手にまとった。

 その瞬間、右手から伝わって剣が炎をまとった。おれは意識を集中させた。体中が裂けるような痛み。空気の圧がウェントワースを押しつぶしていく。


「ヘルェル、飛べ!」


 ヘルェルが大きく翼を振った。それに合わせておれも剣を振り切った。切先から放たれた炎が、おれを中心に半円を描く。ウェントワースは胴が真っ二つに切れて、黒いモヤになって消えた。

 おれはそのままヘルェルの体に倒れた。おれもフェニーチャーも、全部出し切った。


「これはこれは、あの大英雄の息子。ショート・アルマス殿ではありませんか」


 屋上にぞろぞろとローブを着た天使が現れた。真ん中にはポスターで見たハゲのおっさん、エドウィン・ディーナーがいた。おれたちを裏切ったスパイの首謀者だ。エドウィンはニヤリと笑った。


「あのウェントワースを倒すとは、さすがですね。お初にお目にかかります。私──」

「エドウィンだろ? 知ってるぞ! おまえがケラヴロスの言いなりだってことも」

「ははは、ならば話は早い。少し眠ってもらおう」

「ヘルェル!」


 エドウィンたちは一斉に色んな術を放った。ヘルェルは飛んだり体で受けたりして、必死におれを守ってくれる。他の白凰は波動を出して何人か倒していく。

 けど、エドウィンは強い。華麗に避けて、強力な術を放つ。白凰たちは何匹を気絶して落ちる。このままだと全滅も時間の問題だ。

 おれの目の前に深紫色の光玉が現れた。下を見ればエドウィンが薄ら笑いを浮かべている。しまった、と思ったときには遅かった。玉は爆発して、おれはヘルェルから弾き落とされた。


「いい気味だな、アルマスよ」

「なんであいつにつく? あいつがおまえになにを与えてくれるんだ!」

「力だよ。おまえは死に、あの方は完全に復活なさる。そして、この世界の王となり、私たちは新世界を生きるのだ! より強い力を持ってな!」


 おれは立ち上がって、エドウィンをにらんで叫んだ。


「だったら残念だったな! おれは死なないし、あいつは王にはならない。ケラヴロスはおれが倒す!」

「口を慎め小僧! おまえは今、この私の手によって倒される。あの方には指一本触れることもできない!」

「それはどうかの」


 上空で低い声がしたと思ったら、目の前が爆発した。白いチリが舞って、おれは衝撃で後ろに倒れた。上半身だけ起こして前を見ると、塵煙(じんえん)の中に背の高い男の背中が見えた。風で長い髭が揺れている。

 デルマートが立っていた。

 おれの方を振り返ると、ニッコリ笑って言った。


「騙されて世界の裏側に行ってたよ。みなから連絡をもらい、急いで帰ってきた。さてエドウィンよ。このわしをどうやって倒す?」


 デルマートは口調や表情こそ穏やかだけど、カンカンに怒ってるのはバレバレだ。体中から怒りのオーラが出てる。

 エドウィンは顔を引きつらせて叫んだ。


「撤退だ! 急げ! デルマートには勝てん!」


 そう言って後ろを向いて走り出した。けど、すぐに足は止まる。十人くらいの警備員が屋上にやってきたからだ。

 よく見ると、その中にリゼフもいる。エドウィン軍団の一人が前に出た。


「どけおまえた──」

電撃麻痺(ルィネアフルミネ)!」


 リゼフが青色の電撃を放った。男は焦げて気絶した。


「君たちがスパイということはもうわかっている」


 デルマートが言った。


「レーナもポールたちがすでに学校に連れ帰っている。彼女の記憶のロックも先程取れたそうだ。結果は白。そしてばっちり映っていたよ。君が彼女にロックをかけていたところがね」

「フハハハハッ」


 エドウィンが狂ったように高らかと笑った。


「私を捕まえて情報でも掴むつもりか? デルマート。おまえも知ってるだろう。あの方は失敗した三下を生かしておくようなお優しい方じゃない!」


 パンッ!

 雷が一撃、エドウィンたちに落ちた。

 煙が晴れた頃、エドウィンたちが立っていたところにはカイジンの山だけが残っていた。


「い、今の……」

「やつだよ。ケラヴロスだ」


 デルマートはため息をついて言った。


「もしくはその手下の仕業だ。どうやらやつが生きているというのは本当らしい」

「エドウィンたちは、死んだんですか?」


 デルマートは静かにうなずいた。おれを同情の目で見る。


「君は少し眠った方がいい。聞けば昨日から戦いっぱなしなのだろう」

「先生! し、死んだって……」

「ケラヴロスはそういうやつだ。君のその優しさはすごくいいところだがの、やつらのやっていたことは悪魔と変わらん。君の友人レーナだって殺されるところだったんだ。それを忘れちゃいけない」

「でも──」


 最後まで言い終わる前におれは倒れた。体が動かないし、まぶたが重い。


「ありがとう。君のことは聞いた。わしの生徒たちを救ってくれた。君はジェットにも負けないくらいの英雄だ」

「けど、多くの人を傷つけました」

「たしかにそうだ。だからこそ君は忘れてはいけない。天使だろうと人間だろうと悪魔だろうと、誰かを傷つけたらそれは罪なのだ。君はこれから学校でさらに強くならなければいけない」


 レーナが助かったと聞いて、緊張が解けたのか、体の力が抜けた。超眠い。

 それでも、本当は寝たくなんかなかった。なんていうか、悔しかったんだと思う。結局、レーナを助け出したのはポールだし、その他の複雑なことはデルマートが全部解決した。おれは目の前でエドウィンが殺されるのを黙って見ることしかできなかった。

 悔しさを抱えたまま、おれは意識を失った。




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