第113話 カレリア地峡
「例の件はどうなっているのかね?」
クレムリンの大会議室は緊張に包まれていた。
その場に居る者全てが、目の前のソ連書記長ヨシフ・ヴィッサリオノヴィチ・スターリンを恐れていたからに他ならない。
「同志スターリン、工場移転はほぼ完了しております」
「一部の工場では既に兵器の生産が開始されております」
「現地からはこれと言って問題は報告されていません」
閣僚たちは慎重に言葉を選びながらの答弁に終始する。
迂闊な事を言おうものならシベリア送りにされかねないが、何も言わなければ会議は進まない。
今回の議題は兵器工場移転の進捗であった。
来るべきドイツ帝国との再戦のためには軍の再建は必須。そのためには兵器の生産は欠かせない。
ウクライナを失陥したソ連は深刻な工業力不足に陥った。
モスクワ周辺の中央工業地帯でカバーすることも考えられたが、独墺ソ不可侵条約による暫定国境がモスクワに近いために防衛上の不安があった。
この問題を解決するためにウラル山脈以東への工場の疎開を進められた。
来るべきドイツ帝国との再戦の長期化を見越したというのもある。
曲がりなりにも平時だったので工場移転はスムーズに進んだ。
1943年8月の時点でほぼ完了していたのであるが……。
「……具体的な生産状況は現場責任者に確認する必要があるでしょう」
「あいつか」
スターリンの表情が微妙なものとなる。
現在のソ連の生産を現場で仕切っているのは、彼が最も苦手する人間であった。
「邪魔するぞっ!」
唐突に大会議室の扉が開け放たれる。
ズカズカと無遠慮に入って来たのは、作業着を着用した老人であった。
「同志フォード。君を呼んだ覚えは無いが……」
「むしろ何故呼ばない!? 儂の出番じゃろうが!」
スターリンのこめかみが引きつる。
しかし、目の前の男はそんなことは歯牙にもかけなかった。
(((救世主来たぁぁぁぁぁっ!)))
その一方で、出席している閣僚たちは快哉を叫んでいた。
乱入してきた老人は絶対権力者に物怖じしないどころか、積極的に意見出来る宝石のような人材だったのである。
「儂から直々にウラル山脈工場の生産状況を教えてやろう。耳をかっぽじって聞くが良いぞ!」
作業着の老人――御年79歳のヘンリー・フォードは意気軒高であった。
頭部の生え際はだいぶ後退してはいたものの、その佇まいはエネルギッシュそのもの。血液の代わりにマムシドリンクでも入っているのではないかと疑いたくなる。
「まずは戦車だな! 85mm砲を載せた戦車の量産が本格的に始まったぞ!」
T-32の改良型であるT-32-85の生産が本格化したのは7月に入ってからであった。この戦車はT-32の改良型という位置づけではあるが、車体のターレット径を拡大して新型砲塔を載せたことで各段に戦闘能力が向上していた。
「無線付きの3人乗り砲塔や車長用ペリスコープの採用などで手間取ったんだがな。問題は全て解決した。月産2500台を達成してやろうぞ!」
そう言って、呵々大笑するフォード。
史実のT-34-85に相当する戦車をオリジナルの倍以上のペースで生産するとか無茶苦茶であるが、この男ならやりかねない。
「あー……確か、Il-2だったか? こいつの本格生産も始まったぞ! 儂の独断で設計変更したが問題はないなっ!」
さらっと、とんでも発言をするフォード
その様子はランチの注文をするが如しであった。
「わたしはそんなことを許可した覚えは無いぞ!?」
「なんてことしてくれるんですか!?」
「そんなことをしたら重量過大で性能低下が……!?」
フォードの暴挙には、居並ぶ閣僚たちも黙ってはいられなかった。
口々に非難したのであるが……。
「素人は黙っとれ!」
「「「ひっ!?」」」
フォードの大喝で黙らされることになった。
あの筆髭すらも彼に文句を言えなかった。
「コクピットと銃座で装甲圧が違うなど生産に悪影響じゃろうが! 同じにしたほうが1機でも早く生産出来るんじゃいっ!」
「性能が落ちるだぁ? 資材が足りないだとぉ? スケールメリットで考えればこっちのほうが効率が良いんじゃ。それくらい分かれバカタレども!」
「この設計改変で月産1000機を達成出来るんじゃぞ!? 文句を言うやつぁ表出ろ!」
「貴様らに足りないものは情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ! そして何よりも量産するための心意気が足らん!」」
フォードの設計改変によって、この世界のIl-2は複座で後部銃手まで全周防御されたタイプが量産されることになった。機体装甲が操縦席と後部銃座で統一されて生産効率がアップし、低下する飛行性能は装甲部分以外のジュラルミンの大幅採用とエンジンの出力アップで補われたのである。
「……兵器工場のウラル移転が順調なことはよく理解した」
スターリンがやつれているように見えるのは、決して気のせいでは無いだろう。
あの後も人間台風は、クレムリンの大会議室で暴虐に暴れまわったのであるから。
「誰だよあんな歩く爆弾呼んだのは……」
「呼ぶわけないだろ。こうなるって分かってるんだからさぁ」
「あの人妙に鋭いというか、極秘で会議を開催してもやってくるんだよな……」
閣僚たちも不満たらたらであった。
最初は飛び入り大歓迎だったのに、手のひらマッハドリルにも程がある。
とはいえ、フォードの乱入が無意味だったというわけで無い。
重苦しい雰囲気がぶち壊されたので、その後は穏やかな雰囲気で会議は終始することになった。
『あの男が確約した以上、兵器生産には何ら問題無いだろう』
『今ある戦力を動かしても、さほど問題にはならないはずです』
『不可侵条約でドイツ帝国が動けない今が好機と言えましょう』
しかし、肝心の会議の内容は一国の運命を左右しかねないものであった。
世界屈指の陸軍大国のターゲットにされた国には、ご愁傷様としか言いようが無い。
不可侵条約締結から4年余り。
条約の2度めの更新を待たずにして、平和だった欧州に再び戦火が及ぼうとしていたのである。
「このような時間に呼びつけてしまって済まないなマンネルヘイム君」
1943年9月某日20時。
フィンランド大統領リスト・ヘイッキ・リュティは、カール・グスタフ・エミール・マンネルヘイム陸軍元帥を大統領官邸に呼びつけていた。
「先ほどイギリス大使が重大な情報を持ち込んできたのでな。是非とも君に知ってもらいたかった」
リュティの表情は深刻そのものであった。
マンネルヘイムも覚悟を決めて書面に目を通す。
「……これはっ!?」
マンネルヘイムの目が見開かれる。
書面の内容は赤軍の動向とフィンランド政府への警告であった。
極秘裏に動員が進められていたはずの赤軍の動向を察知したのは、さすがは世界最強の情報機関と言うべきか。この世界のMI6の腕はどこまでも長かった。
書面は『いざ有事となれば、イギリスは支援を惜しまない』と結ばれていた。
英国宰相ウィンストン・チャーチル直々のサインもあった。
世界最強国家が支援してくれる。
普通に考えれば頼もしいことこの上ないのであるが……。
「……」
書面に目を通したマンネルヘイムは微妙な表情になってしまう。
内容を既に知っていたリュティも同様であった。
「マンネルヘイム君、コミュスト共がこのタイミングで仕掛けてこようというのは……」
「イギリスが動けないことを見越してのことでしょうな」
二人は英国が約束を違えるとは思ってはいなかった。
史実ならばともかく、この世界では二枚舌では無いのだから。
「経済支援やソ連に対する経済制裁ならば、すぐさまやってのけるだろうがな」
「援軍は当分期待出来ないでしょうな」
しかし、現在の英国の海外展開戦力である英国海外派遣軍はカナダに派遣されていた。フィンランドに派遣出来る部隊を一から編制するとなれば、それなりに時間がかかってしまうのは明らかであった。
「実際にイギリスが援軍を送ってくると思うかね?」
「師団規模は不可能、よくて大隊とかでは? 義勇軍という可能性もありますが」
英国が2個師団をカナダに派遣するために、国内で相当の物議をかもしたことを二人は知っていた。北欧の小国でしかないフィンランドに部隊を派遣するとなったら、どれほどの騒ぎになるか想像もつかない。
「結局、我が国だけでコミュストを撃退するしかないのか。最悪の事態も想定しなければいかんな……」
リュティは自国が敗北するとは思いたく無かったが、大統領という立場はそれを許さない。降伏文書に調印する未来の自分の姿を想像してしまい、沈痛な表情となる。
「大統領。最悪の事態を想定するのは結構ですが、わたしは負けるつもりはありませんぞ?」
マンネルヘイムはリュティとは対照的に平然としていた。
それどころか、不敵な笑みすら浮かべていた。
マンネルヘイムの自信の源は自らが手掛けた要塞線に他ならない。
第1次大戦の東部戦線、さらにはフィンランド内戦で磨き上げた戦術に彼は絶対の自信を持っていた。
「6年前よりもはるかに我が軍は強化されておりますぞ。なんたって、大量の日本製兵器がありますからな」
日本製兵器もマンネルヘイムを強気にしていた原因であろう。
武器輸出の打診を日本が快諾してくれたことで、フィンランド軍は大量の日本製兵器の購入に成功していた。
『武器輸出は実績となる。米国は満足に動けないし今がチャンスだ!』
妥協と諦観の産物とまで言われていた当時の総理大臣鈴木喜三郎は何よりも実績を欲していた。そんなときにフィンランドからの武器輸出の打診があったら全力で応えるしかない。
『フィンランドが武器を買ってくれるだと!?』
『政府も全面的に支援するとのことです』
『在庫を捌くチャンスだ!』
当時の日本は軍縮傾向であり、国内の兵器産業は不況に喘えいでいた。
そんなときにフィンランドからの武器輸出の打診があったら全力で以下略。
『戦車に対戦車兵器、重砲まで売ってくれるのか!?』
『軍事顧問団まで派遣してくれるだと!?』
『く、駆逐艦だけでなく巡洋艦までリストに……ほ、欲しいけど予算と人員がぁぁぁぁぁ!?』
在庫一掃セールも兼ねた日本側の兵器売り込みは熱烈なものであった。
どうにかして手に入れた中古品を必死に整備して使っていたフィンランド軍関係者が嬉しい悲鳴をあげたのは言うまでも無いことであろう。
『イギリスが低利で貸し付けしてくれるそうです』
『あの国に借りを作ると後が怖いが、この際そんなことを言ってられる状況ではないな』
『絶対に何かたくらんでいるぞ……』
ソ連の動きを掣肘したい英国も日本の動きに同調しており、多額の資金を低利でフィンランドに貸し付けることで支援をした。当時の政府関係者には懸念する声も大きかったのであるが、既にそのようなことを言っている場合では無かったのである。
『予算を気にせず買い物出来るってサイコー!』
『他人の財布で買い物をするのがこれほど気持ちよいとは……!』
『誰かが贅沢は素敵って言ってたけど、これは真実だな』
英国の財布で兵器が買えると知った軍関係者の物欲は止まらなくなった。
その様子は旦那のカードで買い物をする専業主婦の如しであった。
『ライミ―の財布が使えるんだら海軍をテコ入れしたい』
『新しい海防戦艦が欲しいな』
『日本の造船所に相談してみようか』
万年貧乏なフィンランド海軍は、喉から手が出るほどに新造艦を欲しがった。
予算の目途が付いた瞬間に、イルマリネン級海防戦艦の後継艦を日本の造船所に発注していた。
『え、戦艦を売ってくれる!? じょ、冗談だよな?』
『いや、日本側の担当者が本当に戦艦を売るって言ってました。4万t超の高速戦艦だそうです』
『どう考えても我が国にはオーバースペック過ぎるだろう!? あぁでも戦艦は欲しい。でも、予算が……』
当時の関係者の証言では、海防戦艦の代わりに長門級戦艦の購入を打診されたらしい。さすがに持て余すということでご破算になったとのことであるが、議事録には残されてはいないので流石に眉唾であろう。
「……兵器もあるし、兵士の練度も問題ありません。当面の間はコミュスト共を蹴散らしてみせましょうぞ!」
マンネルヘイムが強気なのは、充分過ぎるほどの勝算があるからに他ならない。
開戦予想時期が10月以降になることも彼の自信を後押ししていた。
(問題は当面の間とやらが、いつまで続くかということなのだがな)
防衛戦一辺倒では、いずれ限界が来る。
その時に自分が大統領の椅子に座っていないことをリュティは祈るしか出来なかった。
フィンランド全土に総動員令が布告されたのは二人の密会の翌日のことであった。カレリア地峡の緊張は急速に高まっていったのである。
「さすがに寒いな……」
「おい、ぼやっとするな。今日も始めるぞ」
「へいへい……」
10月のカレリア地峡は朝5時でも深夜の如く暗い。
そんな時間だというのに、フィンランド軍の兵士たちは動き出していた。
兵士たちが向かうのは、周囲の景色とは完全に場違いな冷凍倉庫であった。
扉を開けると強烈な冷気が漏れ出てくる。
「……よし、しっかり凍ってるな」
「いきなりハンマーでぶっ叩くことないだろ!?」
「万が一凍ってなかったらヤバいだろ。余計な心配だったがな」
冷凍倉庫には大量の容器が貯蔵されていた。
その中身は完全に凍結しており、ハンマーでぶっ叩いてもびくともしない。
彼らが作っていたのはパイクリート製のブロックであった。
基本的な形状は直方体だが上面には円筒形の複数の突起があり、底は窪んでいる。
『何そのリアルスケールレ〇ブロック!?』
この場に平成会のモブたちがいたら、そう叫ぶこと間違いなしな形状であった。
実際にレゴブ○ックをパクったのだから当然なのであるが。
「側面を叩け! パックから剥離させろ」
「よし、外れた。トラックに積み込むぞ」
「誰かこっち持ってくれ!? この重さは一人じゃ持てん……」
「俺が持とう。しっかり持ってくれよ?」
完成したパイクリートブロックが、バケツリレーでトラックの荷台に放り込まれていく。1個辺り70kg近い重さ(500×300×500mm)なので完全に人海戦術であった。
「よーし、ここに構築するぞ。地面のならしを急いでくれ」
「一番下のブロックさえ敷いてしまえばなんとでもなる。邪魔な岩とか木の根っこをどかすぞ」
「ここにガンポートを作るから、短めのブロックを持ってきてくれ!」
トラックに積まれたパイクリートブロックは、あらかじめ策定された場所まで運ばれた。まるでレ○ブロックを組むが如く、頑強な陣地が組まれていく。
フィンランドは、コンクリートを作るのに必要なセメントを全面的に輸入に依存していた。史実のマンネルヘイム線で大量のコンクリートを使用出来なかった理由であろう。
パイクリートは強化コンクリートと同等の強度を誇る。
しかも、原料は水とパルプなのでフィンランド国内で全て自給可能。ならば、使わない手は無いだろう。
「コンクリートだと型枠作って養生する必要があるけど、コイツだと組むだけだから楽だよな」
「まぁなぁ。型枠に流しこんで木槌でたたいて浸透させるのはしんどいしな……」
「こらぁ!? くっちゃべってないで手を動かせぇ!」
パイクリートブロックは現場の兵士たちにも歓迎されていた。
コンクリートで陣地を作ると時間がかかるが、パイクリートならば人海戦術を用いれば短時間で陣地を設営出来る。
「今の時期で助かった。さすがに夏場は使えないからなぁ」
「簡単に溶けないといっても限度があるからな」
パイクリートの唯一にして最大の弱点が溶けてしまうことであろう。
安く大量に作れるチート素材ではあるが、氷であることには違いない。
しかし、パイクリートの融点は15℃前後と非常に高い。
夏場のフィンランドでもシートをかけて日光を遮断するか、日陰に置けばまず溶けることは無い。
「でも、少し溶けかかったくらいが一番組みやすいんだよな」
「そうそう。完全に凍ってるとハンマーで叩き込まないと組めないからな」
強いて弱点を挙げるとすれば、溶けることは無くても強度が落ちてしまうことであろう。それでも銃弾程度なら食い止めるし、即席の障害物としては充分な強度はあった。
「そのまま、そのまま降ろせー!」
「よーし、OKだ! 埋めろ埋めろ!」
陣地の構築と並行して、対戦車障害物の設置も進められていた。
これもパイクリート製であることは言うまでも無い。
穴を掘って柱を埋設し、その上から障害物を被せる。
パイクリート製の竜の歯とでも言うべき対戦車障害物は、柱と障害物の二点で構成されていた。
このような面倒な構造になったのは、強度に比してパイクリートが軽量過ぎることに尽きる。この点に関しては、軽くて強ければ良いというものではない。
パイクリート製の竜の歯を地面に置いても、突進してくる戦車の重量で跳ね飛ばされてしまう。地面に埋設することで、はじめて戦車に有効な障害物として機能するわけである。
ちなみに、史実のコンクリ製竜の歯は10~30m幅のコンクリートの床の上に設置されていた。床の下にトンネルを掘って爆薬で吹き飛ばすことができないように、床自体は地中1、2mに作られていた。つまりは、設置してから埋め戻す工程が存在するわけである。
パイクリート製竜の歯ならば、地中に埋設するだけなので埋め戻し工程は必要ない。コストが圧倒的に安く、人海戦術で短時間で施工出来るパイクリート製竜の歯の方が優れていると言えよう。
「えらく小さいが、本当にこんなのがコミュストの戦車に効くのかよ?」
「むしろ、我が軍向けだぞこいつは。こいつが小さいのは戦車のキャタピラのみを破壊するためだからな」
「なるほど。鹵獲して再利用するわけか。日本人は頭が良いな!」
竜の歯設置現場の後方では対戦車地雷の設置が進められていた。
こちらは日本から輸入した九三式戦車地雷を使用していた。
奇しくも史実と同様の仕様となった九三式戦車地雷であるが、この地雷は戦車の履帯を破損させて行動不能にすることが役割であった。戦車を吹き飛ばす威力ではなく、履帯を確実に破壊出来る最小の威力を追求したために他国の対戦車地雷と比較して圧倒的に小さい。
この地雷はフィンランド軍にとって非常に都合の良い兵器と言えた。
史実のフィンランド軍と言えば再利用。襲い来る赤軍の戦車を鹵獲する気満々であった。
マンネルヘイム線の準備は着々と進められた。
11月になると完全に臨戦態勢となり、不意打ち出来ると思い込んでいる赤軍を手ぐすねを引いて待ち受けていたのである。
「ようやく完成にこぎ着けたな」
「ここまで長かったなぁ」
「まさか本当に建造出来るとは思わなかったぜ……」
福井県の若狭湾に面する平成造船所。
その2号ドックでは異形の船が産声をあげようとしていた。
この船はイルマリネン級海防戦艦の後継艦として発注された。
しかし、その道のりは決して平たんなものでは無かった。
『海防戦艦? あんなものをわざわざ新規で作れってのか?』
『北極海航路を行き来出来る程度の砕氷性能を付けろだぁ!? そんな特殊な船作ったことが無いぞ!?』
『巡洋艦に大口径砲積んでお茶を濁すわけにはいかなくなったな……』
久々に大型艦が建造出来るということで、国内の造船所が色めきたったのは当然のことであろう。しかし、求められる条件が特殊過ぎて二の足を踏むことになった。
この世界におけるイルマリネン級海防戦艦の後継艦計画は、1930年の時点で存在していた。当初はそこまでの性能は求めておらず、あくまでもイルマリネン級海防戦艦の拡大発展バージョン留められていた。
『北極海航路。そういうものもあるのか!』
『砕氷戦艦というべきなのか? 友好国日本との連絡を考えるとじつに有用だな』
『フュルスト・ビスマルク並みの航行性能は譲れないぞ!』
後継艦計画に大幅な変更が加えられた原因は、1932年に就役した『フュルスト・ビスマルク』の存在であろう。単艦でドイツ帝国のハンブルクを出航したフュルスト・ビスマルクが、北極海航路を航行して中華民国の大連に入港した事実はフィンランド海軍関係者を驚愕させた。
現在のフュルスト・ビスマルクは、北極海の航路啓開任務に投入されていた。
砕氷貨客船で構成されたコンボイの先頭に立ち、ハンブルクと大連を往復していたのである。
スエズ運河を経由するよりも北極海航路は7000km近く航路の短縮が可能になる。多少危険な航路ではあるが、フィンランドにとっては大いに魅力的であった。
『どうするんだ!? あれだけ作れますって大言壮語を吐いたのに、やっぱり出来ませんでしたなんて言えるわけないだろ!?』
『これをしくったら、国際問題化は確実だ。最悪、内閣が倒れかねん。いや、そっちはどうでも良いが俺の首が危ない』
『英国から金が出ているから、そっち方面でも国際問題だぞ!? 嗚呼、どうしてこうなった!?』
国内の造船所が軒並み手を引く事態に外交関係者は真っ青になった。
既に政府レベルで話はついてしまっている。これをひっくり返すようなことになれば、国際問題になりかねない。
『こうなったら内閣調査部に丸投げしよう!』
『貴様、天才か!?』
『あいつらなら英国と独自のコネがあるから、なんとかしてくれるだろう。多分』
すったもんだのあげくに、外務官僚たちが取った手段は内閣調査部への丸投げであった。プライドは無いのかと言いたくもなるが、下手にプライドに拘って外交問題化するよりはマシであろう。
『なんであいつらは毎回毎回面倒な案件を持ち込むんだよ!?』
『頼みの綱のドーセット公は本国で療養中だしどうしろと!?』
『止むを得ん。平成造船に任せよう。あそこには、ああいったゲテモノが大好きな連中がいるからな』
内閣調査部の外務省に対するヘイトは溜まる一方であった。
国際問題をぶん投げられたら、誰だってそうなるだろう。
『砕氷戦艦!? 天○力男が作れるのか!?』
『よっしゃあ! メンバーを招集しろ。まずは詳細なモデルを作るのだ!』
『3年後。本物の砕氷戦艦を見せてやるぜ』
ゲテモノが大好きな連中――『艦隊シリーズ愛好会』は、この注文に狂喜乱舞した。さすがにオリジナルの設定を忠実に再現することは難しいので、ラフスケッチと技術的なディスカッションを重ねることになったが。
ちなみに、艦隊シリーズ愛好会は平成会内部の一派である。
史実の某SF作家の大ファンであり、艦隊シリーズや要塞シリーズに出てくる艦を再現することに情熱を燃やす狂信者集団であった。
『さすがに51サンチ砲は無理があるか……』
『紀伊の予備砲塔もあるし、搭載は不可能ではないだろうが復元性に悪影響が出るぞ? モニター艦としてならそれでも問題無いが』
『止むを得んか。原作だと副砲に36サンチを積んでいたから、そっちに統一しよう』
『扶桑の旧砲塔が余っていたはずだ。それを使おう』
原作では51サンチ3連装(!)という空前の巨砲を積んでいたが、さすがに無理があった。そもそも、仮想敵は駆逐艦がメインなバルチック艦隊なので火力が過剰過ぎる。
結果として、36サンチ4連装2基という艦体サイズ的に現実的(?)なレベルに落ち着くことになった。火力だけなら金剛級高速戦艦と同レベル。駆逐艦どころか、巡洋艦すら瞬殺しかねない凶悪な火力であった。
『対空火力にはボフォースを使うべきだろうな。現地の補給が捗るだろうし』
『ボ式としてライセンスしているから都合も良いしな』
『機銃もマドセンを使おう。こっちもマ式としてライセンスしているし』
中古品を流用した砲塔に対して、対空火力は全て新造された。
現地での補給の利便性を重視したというのもあるが、ライセンス品が性能を発揮するかテストする目的もあった。
『原作再現ならば、両舷に巨大タンクを作る必要があるな。見た目大事』
『あれは左右にローリングして流氷に閉じ込められるのを防ぐ役割があるからな。見た目だけじゃないんだぞ?』
『まぁ、でっかいバルジと考えれば良いだろ。中に燃料を入れれば魚雷防御に有利になる』
『なるべく抵抗が少なくなるように整形する必要があるな……』
原作小説で特徴的な船体中央部の両舷にあるバルジ(?)も再現された。
中には重油が充填されており、砕氷艦として必須のピッチローリング機能に加えて動揺減衰と魚雷防御の役割を持たされることになった。
『エンジンはどうするよ? さすがにトリウム溶融塩炉とか無理だぞ』
『砕氷艦ならディーゼルエレクトリック一択だろう。ロマンは追求するが利便性を失うわけにはいかんのだ』
『紀伊に使われてるやつをデチューンしよう。整備性は最悪だけど、コンパクトでパワーが出せる』
『アレを採用するなら交換を前提にする必要があるぞ。煙突回りの再設計が必要になるな…』
搭載される機関は、戦艦『紀伊』に採用されているターボ・コンパウンドデルティックにモーターを追加したものになった。いくら平成会のチートがあると言っても原作の原子炉もどきを再現することは不可能であるし、砕氷艦でディーゼルエレクトリックは実用的な選択肢と言える。
フィンランド海軍期待の砕氷戦艦は、1940年に建造が開始された。
1943年初頭に実施された進水式では式典に参加していたフィンランド大使から直々に『レンミンカイネン』と命名され、各種テストに供されたのである。
「出航用意! 抜錨!」
艤装委員長の命令での錨が巻き上げられる。
砕氷戦艦『レンミンカイネン』は、今まさに出航しようとしていた。
「レンミンカイネン出航! 前進微速!」
「前進微速! ヨーソロー!」
満載3万tに迫る巨艦が若狭湾をゆっくりと航行する。
レンミンカイネンは母国フィンランドを目指して遥かなる旅路についたばかりであった。
「どうしてこうなったぁぁぁぁ!?」
「別にフィンランドに行きたかったわけじゃないのに!?」
「人柱になんかなりたくないぃぃぃぃ!?」
甲板で喚くのは艦隊シリーズ愛好会のモブたちであった。
これが海兵ならば鉄拳制裁ものであるが、彼らは民間人なので手の出しようが無い。
『おい、なんか出航してるぞ!?』
『そんな馬鹿な!? 下ろしてくれー!?』
『試験に立ち会うとは言ったが、フィンランドまで行くなんて聞いてねぇよ!?』
情けない姿ではあるが、彼らには同情の余地はある。
半ばだまし討ちのような形で乗せられてしまったのであるから。
ちなみに、この船には正規の軍人は乗艦していない。
元海軍軍人が艤装員として乗り込んではいたが、身分は民間人扱いに過ぎない。
このようなことになったのは、カレリア地峡をめぐる戦いが秒読み段階に入ったからに他ならない。フィンランド政府の要請によって、レンミンカイネンは急ぎ帰国することになったわけである。
最短最速で戻ろうとするならば、北極海航路を使うしかない。
どのみちテスト航海はするつもりだったから都合が良いというわけで、不測の事態に備えるためにも技術者を乗せたまま出航することになった。巻き込まれてしまったモブたちは誠にご愁傷様と言えよう。
「艦長……おっと、艤装委員長。本艦……いえ、本船は津軽海峡を抜けました」
「副長じゃなかった艤装員、お互いに苦労するなぁ」
レンミンカイネンの艦橋では、艤装委員長と艤装員が情報交換していた。
二人は退役軍人であり、現役時代は戦艦『扶桑』の艦長と副長の関係であった。
旧海軍では建造中の艦艇の乗員予定者のことを艤装員と呼称していた。
これは史実21世紀の海自になっても継続している。
しかし、この船はフィンランド海軍に引き渡す途上であった。
フィンランド海軍から派遣された人間が艤装員になるべきなのに、帝国海軍の退役軍人が艤装員になっているのは何故なのか?
『我が軍にあれだけの巨艦を指揮出来る人間はいないぞ!?』
『いや、日本が海軍の軍事顧問団を送ってくれるそうだ』
『なるほど、現地で船員の教育をしてくれるわけか。至れり尽くせりだな』
その理由は乗船している日本人船員が軍事顧問団扱いされていることにある。
現地で教育を施してから帰国することになっていたのである。
本来ならば、フィンランド海軍が日本に人材を派遣するべきであろう。
それが一番後腐れが無い。
しかし、人材層が厚い英国と日本の世界2大海軍とフィンランド海軍は比較するだけでもおこがましい。フィンランド海軍が日本に人材を派遣すると組織が回らなくなる恐れがあったのである。
「む、艦の行き足が止まったか?」
「そのようですね」
若狭湾を出て22日目。
北極圏のカラ海を航行していたレンミンカイネンは流氷によって足止めを喰らうことになった。
レンミンカイネンは80cmの厚さの氷を連続砕氷出来る能力があった。
当時の砕氷艦としては画期的な性能であったが、その程度の厚さの氷など冬期のカラ海ではいくらでも存在する。北極海航路は甘くない。
「全速後進! 全速後進だっ!」
スクリューのピッチがリバースに切り替えられる。
4万馬力のパワーにモノを言わせて、船体はゆっくりと後退していく。
「チャージっ!」
充分距離を取ったら全速前進をかける。
この機動力は、さすがはディーゼルエレクトリック艦と言うべきであろう。少なくても蒸気タービン艦に出来る芸当ではない。
「もういっちょ!」
原作を再現したナイフのような船首が目の前の氷山を破砕する。
目の前に細い道のような航路が広がっていく。
カラ海を突破したレンミンカイネンは、バレンツ海を抜けてスカンジナビア半島西岸を航行。北海、バルト海経由でフィンランド湾奥の工業都市ヴィープリに到着した。
総航海距離は1万5千km以上。
航海日数35日の大航海であった。
「なんでぇ!? 俺ら帰れるんじゃないのか!?」
「日本食が食いたい。フィンランド飯はまずくないけど、俺は和食が食いたいんだっ!」
「フィンランドの姉ちゃんは美人だけど、とてもナンパする気分にはなれないぞ!?」
盛大な歓迎式典が終わり、閑散としたヴィープリ港。
その片隅で艦隊シリーズ愛好会のモブたちが喚き散らしていた。
帰国どころか義勇兵として引き続き乗艦することになったら、約束が違うと言いたくもなろう。しかし、今回の件は完全にモブたちの自業自得であった。
『あれって、外泊証明書じゃなかったのか!?』
『義勇軍扱いになるとか聞いて無いぞ!?』
迂闊に外泊証明書にサインをするのが悪い。
その分、危険手当とボーナス込みでお手当は相当なものになったのであるが。
1943年11月某日午前10時25分。
カレリア地峡における両国の衝突は一発の銃声から始まった。
『俺は、生きる! 生きて新○本○尊の模型を作るんだぁ!』
『共産党のバカヤローっ! こうなったのもおまえらのせいだ!?』
『いやもう、なんでもいいから帰りたい……』
フィンランド海軍義勇軍にジョブチェンジした彼らは、今日も艦砲射撃で赤軍を吹き飛ばす。彼らが日本に帰還出来る日が何時になるかは、誰も知りようが無かったのである。
「進め進めっ! この地を同志スターリンに献上するのだっ!」
空に向けて拳銃一発。
督戦隊として派遣されていたGPU(内務人民委員部附属国家政治局)の将校は、その瞬間にどこからか飛来した弾丸に頭部を撃ち抜かれた。
「だから、やめておけと言ったのに……」
「どうします?」
「督戦隊の同志殿は勇敢に我々を鼓舞して死んだ。それだけだ……邪魔だから放り出せ」
「「「Да!」」」
先頭を進むT-32の砲塔から身を乗り出したまま死んだGPUの将校の死体が放り出される。たちまちのうちの後続のT-32の専用カーペットとなり果てた。
『ぎゃあっ!?』
『ぐわっ!?』
『いったいどこから!? がっ!?』
外から聞こえてくるタンクデサント兵たちの悲鳴。
甲高い銃声が、彼らの断末魔からだいぶ遅れてやってくる。
彼らに死をくれていたのは、フィンランド陸軍の狙撃大隊であった。
日本から輸入したスコープ付き38式小銃を装備しており、300mの距離から確実にタンクデサント兵を狩っていた。
「……」
腕利きが集められた狙撃大隊の中でも別格の働きをしたのが、シモ・ハユハ兵長であった。スコープの反射で位置を悟られるのを嫌った彼は、スコープ無しにも関わらず400m以上の距離からロシア兵を射殺していた。
何よりも恐ろしいのはその射撃速度であろう。
他の兵士がじっくり狙って狙撃するのに対し、ハユハは4秒に1発という有り得ない速射でロシア兵の頭部を撃ち抜いていた。
しかし、狙撃大隊がいくらタンクデサント兵を射殺しようとも押し寄せる鋼鉄の津波は止めようが無い。このまま蹂躙されてしまうのか――もちろん、そのようなことがあるはずも無かった。
「なんだぁ!?」
T-32の車長は異常事態に首をかしげる。
外から軽い炸裂音がしたかと思ったら、急に戦車が進まなくなる。エンジン出力を上げても空転しているような音しか聞こえてこない。
「おい、何がどうなってる!?」
車長が外部スピーカーで呼びかけるが返答はない。
当然だろう。同乗していたタンクデサント兵は全て狩られていたのだから。
「誰か外を見てこい!」
「「「えぇ……」」」
部下たちは車長の命令に戸惑う。
外に出たらどうなるか分かり切っていたからである。
「原因が分からないと、ここから動けんぞ!? 外は夜で吹雪だ。ちょっと様子を見るくらいなら大丈夫だ。とっとと行って来い!」
怒れる車長に怖気づいたのか、無線手がハッチを開けて外に出ていく。
そして5分も経たずに雪まみれで戻ってきた。
「キャタピラが切れています。修理しないとどうにもなりません」
「なんだと!?」
埋設された九三式戦車地雷によって、T-32のキャタピラは破壊されていた。
こうなると戦車は単なる棺桶に過ぎなくなる。
「こんなところにいられるか!? 俺は逃げるぞ!」
真っ先に逃亡を選択したのは、なんと車長であった。
ハッチを開けると戦車から飛び出していく。
「「「「……」」」」
残されたクルーが困惑したのは言うまでも無い。
しかし、このままだと確実に死ぬのは全員が直感的に理解はしていた。
「俺も逃げるぞ!」
次に飛び出したのは装填手であった。
もちろん、帰って来なかった。
「俺も逃げる。ここにいたら死んでしまう」
「この吹雪なら逃げられるだろう」
砲手とドライバーも逃亡を選択した。
残されたのは無線手のみとなった。
「……嫌だ、死にたくない」
無線手は広くなった車内で震えていた。
それは一人になった恐怖であったし、単純に寒さによる震えもあったことだろう。
「!? 戻ってきたのか!」
しかし、無線手の恐怖は長くは続かなかった。
ハッチが開いて仲間が戻ってきたと早合点した彼は、投げ込まれた閃光手榴弾で失神。そのまま捕虜となってしまった。
深夜に吹雪くカレリア地峡では、同様の光景があちこちで見られた。
擱座したT-32の乗員が、あらゆる手段で無力化されたのは言うまでも無いことであろう。
そういう意味では、五体満足で捕虜となった件の無線手は非常にラッキーなケースと言える。車内に手榴弾を投げ込まれてミンチになったり、車内に宇治式短機関銃を突っ込まれて9パラのシャワーでミンチにされたのが大半だったのであるから。
「暗くて作業しづらいぜ」
「しょうがないだろ。この時期は日の出が遅いからな」
11月のカレリア地峡の夜明けは遅い。
朝7時を過ぎたというのに、外は真っ暗であった。
「キャタピラの修理終わったぞ!」
「動かすぞ。轢き殺されたく無かったら離れていろ!」
鹵獲されたT-32は、フィンランド軍兵士たちによってキャタピラの修理が施された。壊れたのはキャタピラだけなので、手慣れた人間がやれば短時間で済む。
鹵獲兵器を扱いまくっているフィンランド軍兵士は、この手の作業は大得意であった。一両、また一両と修理が終わったT-32が動き出す。
カレリア地峡への赤軍の奇襲攻撃は完全な失敗に終わったが、ソ連が失った戦力は微々たるものであった。鋼鉄の津波の第2派、第3派が引き続きカレリア地峡に押し寄せることになるのである。
「大統領閣下。落ち着いて聞いてくださいますか?」
「わたしはいつだって落ち着いているさ。どんな凶報でも聞く覚悟は出来ているから、遠慮なく報告してくれたまえ」
1944年1月3日。
松の内だというのに、マンネルヘイムは大統領官邸を訪問していた。
「結論から申し上げますと勝利しました」
「はぁ?」
バカ面で気の抜けた返事をしてしまうリュティ。
マンネルヘイムが何を言っているのか理解出来なかったのである。
「コミュスト共は大多数の装備を失って敗走中です。こちらが何もせずとも勝手に壊滅してくれるでしょう」
「マンネルヘイム君が言うならば嘘では無いのだろうが……」
マンネルヘイムが嘘を言っているとは思っていない。
しかし、未だに現実感が湧かないのも事実であった。
「お気持ちは分かりますが事実ですぞ」
そんなリュティの心情を知ってか知らずかマンネルヘイムは苦笑する。
立場が逆だったら、同じような反応をしたに違いない。
およそ1か月前にカレリア地峡に侵攻してきた赤軍であったが、現在は散り散りになって潰走していた。そのうちのいくらかは、ヒグマの餌になったことであろう。
「要塞線の建設が間に合ったことに加えて、冬期だったことが優位に働きました。我が軍は寒いほど強くなりますからな」
マンネルヘイムはパイクリートを使用した戦術に自信を持っていた。
彼にとって冬の寒さは強力な味方であった。
『マイナス50℃程度では暖冬ということで延期していたサバイバル訓練をフィンランド軍が再開し始める』
『マイナス70℃になると、コスケンコルヴァが凍結するために屋外で保管できなくなり、フィンランド人はいらいらし始める』
ちなみに、史実のフィンランドにはこのようなジョークがあったりする。
冬の寒さはフィンランド人にとって友の如く身近なものなのであろう。
「日本から購入した対戦車地雷のおかげでもありますな。あれのおかげで戦車の鹵獲が大いに捗りました」
日本製の対戦車地雷は戦車を吹き飛ばすのではなく、履帯だけ切って擱座させた。最小限の破壊に留まるので、鹵獲するのにうってつけであった。
『キャタピラだけ直せばよいから楽だな』
『よくもこんなものを考え付くよなぁ』
『日本人を敵に回さずに済んで良かったぜ。敵に回ったらとんでもないことをやってきそうで怖い』
鹵獲されるT-32は現在進行形で増えていた。
破壊箇所は最小限なので、すぐさま復帰出来る。
『日本の戦車も悪くは無いのだが……』
『乗るなら断然コッチだろ』
『大口径砲は正義。はっきり分かんだね』
鹵獲戦車だけで1個大隊を編成出来る見通しが既に付いていた。
フィンランド陸軍初の本格的機甲師団の誕生まで秒読み段階であった。
「忘れてはならないのが戦艦による支援でしょう。レンミンカイネンのおかげでコミュスト共に痛打を与えることが出来ました」
今回の紛争の影の殊勲者と言えるのが砕氷戦艦『レンミンカイネン』であった。
『艦隊シリーズ愛好会』の酔狂の産物だったはずが、貴重な支援火力として八面六臂の活躍をしてみせた。
レンミンカイネンが搭載する火力は45口径36サンチ砲8門である。
これは金剛級高速戦艦と同等の火力であった。
フィンランド湾に展開したレンミンカイネンは、弾薬庫が空になる勢いで主砲を撃ちまくった。その威力は凄まじいものであり、工業都市ヴィープリに近づく赤軍は36サンチ砲の猛打で壊滅的な損害を受けて潰走していた。
「あの戦艦は本当に素晴らしいですぞ。凍結したフィンランド湾を砕氷艦の如く動けますからな」
マンネルヘイムがレンミンカイネンを絶賛したのは火力だけでない。
北極海航路を踏破出来る砕氷能力も高く評価されていたのである。
「……とまぁ、こんな感じです。怖いくらいに順調でした」
「確かに出来の悪い三文小説の如しではあるな」
いつの間にかにテーブルには酒とつまみが並ぶ。
大統領官邸の執務室は二人だけの祝勝会の会場と化していた。
「「フィンランドの未来へ。乾杯!」」
喉を流れ落ちるコスケンコルヴァが心地よい。
勝利の美酒はひたすらに美味かった。
カレリア地峡への赤軍の攻撃は頓挫することになった。
このことにスターリンが激怒したのは言うまでも無いことであろう。
しかし、予備兵力を抽出して再攻撃をする必然性があるかと言われると否であった。これ以上、目の前のドイツ帝国に隙を見せるわけにはいかなかったのである。
以下、今回登場させた兵器のスペックです。
T-32-85
全長:5.76m(車体のみ)
全幅:3.00m
全高:2.60m
重量:32.5t
速度:50km/h
行動距離:340km
主砲:55口径85mm戦車砲
副武装:7.62mm機銃×2(車体&砲塔)
装甲:20~90mm
エンジン:4ストロークV型12気筒液冷ディーゼル改 550馬力
乗員:4名
T-32の改良型。
この世界におけるT-34-85に相当する。
3人乗りの新型砲塔を載せるために車体のターレットリングが拡大された。
無線が砲塔側に移設されてことに加えて、ペリスコープが装備されたことで車長が指揮に専念しやすくなっている。
1943年の夏ごろからウラル山脈の東に移転した兵器工場で大量生産が開始されている。例によって例の如くヘンリー・フォードが全面的に関わっており、彼の偏執狂的な生産効率の追求によって最盛期には月産2500台を達成している。
※作者の個人的意見
史実のT-34-85は距離を詰めればティーガーを撃破することも不可能ではないので、この時点で大量生産出来れば相当な脅威となるでしょう。まぁ、この世界のドイツ帝国陸軍は一筋縄ではいかないでしょうけどw
Il-2 シュトルモヴィク
全長:11.65m
全幅:14.6m
全高:4.17m
重量:6050kg
翼面積:38.5㎡
最大速度:410km/h
実用上昇限度:7000m
航続距離:680km
武装:23mm機関砲×2 7.62mm機関銃×2(翼内)
12.7mm機関銃(後部旋回)
装甲:12mm(操縦席背面 後部銃座)
8mm(操縦席側面)
6mm(エンジン前部と側面)
エンジン:ミクーリン AM-38F 液冷V型12気筒 1700馬力
乗員:2名
史実の赤軍ではパンの如く必需品扱いされた地上攻撃機。
T-32-85と同様に大量生産キチガイが全面的に関わっており、史実の大祖国戦争末期の性能向上型に相当する機体として完成している。
スケールメリットと量産効率を追求したことにより、構造材にはジュラルミンをケチらずに採用。浮いた100kgの重量が全て装甲に回されたことにより、後部銃座にも充分な装甲が配されている。
その重装甲はドイツ機の7.92mmでは豆鉄砲で20mmでさえ撃墜は困難。
この世界で無双しまくるドイツ帝国空軍でさえ手を焼いている。
T-34-85と同様にウラル山脈に移転した兵器工場で月産1000機という驚異的なペースで生産されている。
撃墜の困難さと相まってドイツ側からは最大の脅威とみなされており、これまでさんざんに煮え湯を飲まされたルフトヴァッフェに対するソ連の回答と言うべき機体となった。
※作者の個人的意見
史実以上の重装甲なので撃墜するのは相当に苦労するはず。
ごく一部のチート級エースには意味が無いでしょうけどw
九三式戦車地雷
種別:対戦車地雷
直径:170mm
全高:50mm
重量:1450g
作薬量:890g
作動荷重:140kg
戦車の履帯の破壊だけを目指した異色の対戦車地雷。
この世界でも同様のスペックで生産されている。
中国大陸での使用を前提に大量生産されたものの、大陸撤収によって余剰在庫と化してしまった。フィンランドからの武器輸出の打診に、これ幸いとばかりにバーゲン価格で売りつけることに成功している。
九三式戦車地雷はフィンランド軍に大好評であった。
敵戦車を最小の破壊で無力化出来るために鹵獲しやすいのが最大の理由である。
他国の対戦車地雷と比較しても圧倒的に小型で安価。
対人用にも使用可能ということで、フィンランド軍向けの兵器としては最も売り上げを記録した兵器となった。
※作者の個人的意見
鹵獲兵器大好きなフィンランド軍からすれば、九三式戦車地雷はうってつけでしょう。T-32を鹵獲しまくる未来しか見えませんねw
レンミンカイネン級砕氷戦艦
排水量:23000t(基準)
全長:138m
全幅:30m(水線幅)
吃水:8.0m
機関:ターボコンパウンド・デルティック8基+モーター8基4軸推進
最大出力:40000馬力
最大速力:21ノット
航続距離:10ノット/17000浬
乗員:620名
兵装:45口径36cm4連装砲2基
50口径ボ式10.5cm連装両用砲8基
56口径ボ式4cm連装機関砲4基
60口径マ式2cm単装機銃16基
連続砕氷能力80cm
輸送ヘリ2機運用可能
装甲:舷側220mm(最厚部)
甲板35~60mm
主砲塔200mm(前盾) 50mm(側盾)
司令塔240mm(最厚部)
フィンランド海軍期待の海防戦艦――もとい、砕氷戦艦。
艦名はフィンランド創世叙事詩『カレワラ』に登場する若者の名前に因む。
フィンランド海軍の砕氷戦艦というとんでもオーダーに、艦隊シリーズ愛好会のモブたちが全力で応えた結果生まれた産物。金剛級高速戦艦に匹敵する砲力に加えて、北極海航路を踏破出来る本格的な砕氷能力を兼ね備えたチート艦である。
艦容は某艦隊シリーズに登場する砕氷戦艦に可能な限り似せられている。
尖ったような独特の形状の艦首も再現されている。
独特の艦首形状のせいで、主砲を前に向けて撃つことはほぼ不可能であった。
これが日英海軍ならば大問題になったであろうが、フィンランド海軍はそこまでガチでないので問題化していない。むしろ、カッコいいとまで言われる始末であった。
戦争中は海軍の貴重な戦力としてだけでなく、陸軍の火力支援や航路啓開など多種多様な任務に投入されている。その運用実績の良好さから、早くも2番艦の建造打診が平成造船にいったとかいかないとか。
※作者の個人的意見
旭日の艦隊の砕氷戦艦『天手力男』を再現してみましたw
原作小説ではそれなりに活躍しているんですけど。OVAじゃコミックでは、ほぼ無かったことにされてる不遇なヤツなので拙作では活躍してもらいたいですねぇ(*´ω`)
三八式歩兵銃
種別:軍用小銃
口径:7.7mm
銃身長:797mm
使用弾薬:三八式普通実包(史実九九式普通実包)(7.7mm×58)
装弾数:5発
全長:1258mm
重量:4100g(弾薬除く)
発射速度:射手の腕によって変化
銃口初速:740m/s
有効射程:1700m
名前こそ三八式であるが、実際は史実の九九式小銃である。
平成会の技術陣の技術提供によって開発された。
当時採用されていた小銃としてはトップクラスの性能であったが、特筆すべきは部品の規格化による互換性の確保である。この世界のイギリスを例外とすれば、世界で最も早い採用例であり、本銃を生産するためにイギリスから治具や加工機械を輸入している。
帝国陸軍では八〇式自動小銃への置き換えが進められているが、同じ実包を使用しながらも反動が軽く命中率に優れるために三八式を好む古参兵は多い。その命中率から、狙撃銃として今後も生き残ると思われる。
後にフィンランド陸軍に全面採用されて大量に輸出されている。
1943年の冬戦争(第2次冬戦争)で猛威を振るっており、希少なスコープ付きは狙撃師団に全て回されて腕利きの狙撃兵によって多数のタンクデサントが狩られることになった。
特にシモ・ハユハ兵長はスコープ無しにも関わらず400m以上のロングキルを軽々と成功させており、4秒に1発というチート染みた速射で1個中隊分のタンクデサントを全滅させている。
※作者の個人的意見
史実の九九式実包は対物狙撃も考慮されていたのでソフトスキン目標に有効なのはもちろんのこと、タンクデサント兵の装備に命中してしまってもそのまま貫通させることができるでしょう。そんなものがフィンランドのチート兵士の手に渡ってしまったら、鬼に金棒どころじゃないわけで…(ノ∀`)アチャー
平成銃器 九八式短機関銃/宇治式短機関銃
種別:短機関銃
口径:9mm
銃身長:260mm
使用弾薬:9mm×19mm(9mmパラベラム弾)
装弾数:20・25・32・40・50発
全長:470mm 650mm(ストック展開時)
重量:3800g
初速:410m/s
発射速度:600発/分
有効射程:200m
平成銃器が開発した新型短機関銃。
その見た目と名称は史実イスラエルが開発した短機関銃に極めて酷似しているというか、そのまんまである。
なお、名称については平成会鳥取県人会出身の技術モブが関わっているからとされている。開発拠点があった鳥取県岩美郡岩美町の宇治から命名されたと社史に記載されていたりするが、事の真偽は不明である。
旧式化したス式短機関銃を置き換えるべく開発されており、1938年以降は順次置き換えが進んでいる。
フィンランドにも大量に輸出されており、タフな構造と扱いやすさから現地では高評価を得ることになった。この世界のシモ・ハユハ兵長のショートキル武器として有名であり、カレリア地峡にロシア兵の死体の山を築くことになった。
※作者の個人的意見
某艦隊シリーズの丸パクリじゃありません。
あっちは京都の宇治。こっちは鳥取県の宇治ですっ!( ゜д゜ )クワッ!!
珍しく主役不在の本編となりました。
彼(彼女)の行動はしばらくは自援SSで描写することになるかもしれませんね。なるべく早く復帰出来るように祈ってあげてください(ぁ
>「素人は黙っとれ!」
これを言われると大抵の日本人は黙らざるを得ないでしょう。
この世界のロシアで通用するかは分かりませんがw
>貴様らに足りないものは……
クーガー兄貴おっすおっす(=゜ω゜)ノぃょぅ
>鈴木喜三郎
拙作で弄られた(笑)歴代総理の中でも極めつけの人物。
中身も実績も完全に別物と化しました(酷
>海防戦艦
ぶっちゃければ、貧者の戦艦もどき。
旧式化した戦艦を海防戦艦に艦種変更したケースは割とあったりするけど、わざわざ新造艦として作ったのはおそらくフィンランドだけのはず。
>長門級戦艦の購入を打診されたらしい。
実現していれば、横須賀海軍工廠の5号ドックで転がっていた戦艦を修理して売り飛ばす予定でした。実現しなくて良かったですね(メメタァ
>カレリア地峡は朝5時でも深夜の如く暗い。
AIによると10月末のカレリア地峡の日の出は8時過ぎ。日没は17時前になっています。
>ハンマーでぶっ叩いてもびくともしない。
史実だとハンマーどころか至近距離で拳銃弾を喰らっても傷すらついていなかったりします。
>パイクリートの融点は15℃前後
ただし、-15℃以上だとたわむことがあります。運用するには寒いに越したことは無いわけです。
>九三式戦車地雷
キャタピラのみの破壊を目指したスマートな対戦車地雷。
フィンランド軍にはピッタリな兵器と言えるでしょう。ちなみに、そのサイズと色から旧軍では『アンパン』呼ばわりされていましたw
>艦隊シリーズ愛好会
初出は自援SS『変態日本海軍事情―ヴァルター潜水艦開発編―』だったりします。今後も荒巻先生の作品の火葬艦を登場させるために暗躍することでしょうw
>フュルスト・ビスマルク
この世界における元祖砕氷戦艦。
もちろん、完成度においてはレンミンカイネンのほうが圧倒的に上です!( ゜д゜ )クワッ!!
>36サンチ4連装2基という艦体サイズ的に現実的(?)なレベルに落ち着くことになった。
原作だと主砲が51サンチ3連装砲塔1基で副砲が36サンチ3連装砲塔1基とかありえない武装だったので、割と現実的(?)な武装に修正されましたw
>トリウム溶融塩炉
史実21世紀だと中国が力を入れている分野だったりします。
最近では中国製の熔融塩実験炉がトリウムからウランへの転換を達成したとかしないとか。
>砕氷戦艦『レンミンカイネン』
名前の由来はフィンランド創世叙事詩『カレワラ』に出てくる若者の名前。
男前で武術も魔法の腕も超一流で女たらし。わがままで身勝手で、あちこちで騒ぎを起こして災難にも会うというトラブルメーカーに相応しい艦名となっております(マテ
>艤装員
一部では艦の艤装を装着する人扱いされていますが、本来の意味は建造中の艦艇の乗員予定者のことを指します。旧海軍からの伝統で海自にも受け継がれています。
>少なくても蒸気タービン艦に出来る芸当ではない。
どこぞのお隣海軍では、ガスタービン艦のくせに蒸気タービン艦に追随出来なかったという無能を晒していたりしますw
>工業都市ヴィープリ
史実21世紀ではロシア領で『ヴィボルグ』になっています。
この世界ではまだフィンランド領なのでヴィープリのままです。カレリア地峡にあるフィンランド第2の工業都市なので、これを渡せと言われてぶち切れたフィンランドは残当でしょう。
>「あれって、外泊証明書じゃなかったのか!?」
傭兵部隊に飛ばされて借金で縛られるよりはマシですよね(酷
>GPU(内務人民委員部附属国家政治局)
この世界だと組織改編されずに継続しています。
戦争に明け暮れていたせいで組織再編する余裕が無いのです。
>コスケンコルヴァ
フィンランドの伝統的な蒸留酒。
当初はジャガイモを原料として作られていましたが、現在では大麦を原料としているとのこと。




