勇者襲撃 その3
いい加減、ケリを付けましょうw。
オリュンポス山脈の南に開けるゼルビット地方。そのさらに南端部に巨大半島がある。
その地の殆どを魔の森が占めていた。
人々は恐れと畏怖を込め、白紙委任の森と呼んでいる。
申し遅れました。ワタシはその地そのものである触手の王と呼ばれる存在なのです。
「カムイ様、ご報告いたします!」
「うをっ!」
「きゃぁ!」ガシャーン!
キャミィが皿を割った。銅製の皿なんだが、どうやったら落とすだけで割れるのか教えて欲しい。
これで、神殿から全ての食器が消えてしまった。美術品などとっくの昔だ。
こいつは、白紙委任の森を経済の面から崩壊させる気なのかもしれない。
もといして……。
驚いた!
ジレルがオレの背後に、音も無く降り立ったのだ。完全に気配を断っている。北部三次元センサーを総動員した警戒網を、彼女はいとも簡単に潜ってみせたのだ。
「勇者一行は、東の古都平野を真っ直ぐこちらへ向かっています。構成は、勇者本人の他、ギオウ流の戦士1。精霊魔法使い1。ユエタイ教の僧侶1。ブシン流格闘家1。コア王国王室付き賢者1。計六名で構成。勇者以外、全て女性です」
構成員が全て女性。以前に増して女性が増えている。
その事実に、勇者が二度目の復活を遂げた事以上に、悪の気配をビンビンと感じるのである。今度こそ、連中を撃ち漏らしてはいけない。特に賢者が仲間に加わったのが許せない! 世界の男子のために、こやつを撃ち漏らしてはいけない!
ハーレム勇者撲滅委員会副委員長見習い心得としての立場が許さない!
「よし、では計画通り中央山脈へ誘導を頼む」
「はっ! 命に代えて!」
バシュッ!
ジレルの姿が消えた。オレの超感覚から綺麗に消え去った。いったいどんな技を使ったのか? 味方にしておいて良かった。
これは、ゼフの村が開村して数ヶ月後の事である。
予想はしていたものの、恐れていた事態が起こるべくして起こった。
過去、二度、完膚無きまでに叩き伏せた勇者が再々来した。
初回は肉片にした上で高熱処理をした。だのに蘇ってきた。
二回目は肉片にした上で高熱処理をした上で、陽子と電子レベルまで分解した。
だのに、勇者は仲間と共に復活しやがった。いったいどういうシステムなんだ?
神は勇者に何をさせたいのだ?
……あの神のことだ。ちょっとしたお遊びで勇者を作ったのかもしれない。いやまて、何かに影響されたのかもしれない。もしくは、何かの失敗を尻ぬぐいさせる為だけに創造した可能性も捨て切れない。いずれにしても、しょうもない理由に違いなかろう。
視線を現実に戻そう。
ヤツらに火は通用しない。いや、力業が通用しないと見て取るべきだろう。
何度殺しても復活してくる。
ゆえにオレは対勇者戦法を大きく変更することにした。
今回、幸いにも白紙委任の森に進入される前に気づくことができた。ゼフの民による早期警戒システム(行商)が役に立った。
連中がコアの都にある大教会を出立した時点で、動きを掴んだのだ。これはゼフの民のお手柄である。事が済めば、塩販売の卸し量を増やしてやろう。
時間があるので迎撃の準備ができる。
オレはゼフ一族が作り出した時間を使って、配下の魔獣共を勇者の進撃コースに配備していく。時間は無限ではないので結構忙しい。
今回はオレも出撃する事にしている。
なんとか迎撃態勢が整ったころ、勇者達は計画通り中央山脈より白紙委任の森へと進入を果たした。
ジレルにとって、その程度の働きは片手間物だったのだろう。彼女一人で任務を遂行してみせた。
彼女の手口はこうだ。
勇者一向の戦力を分析したジレルは、足りない物を見つけた。それは女盗賊。
彼女は、無理なく勇者の仲間に入った。そして、言葉巧みに中央山脈へ誘導したのだ。
オレは集まった魔物達を前に、号令を発さんと身構える。ちなみに集まった魔族共は各種族のチームリーダーであるから、知的能力値が高い。みよ、この理知的な瞳を!
「よし、では手筈通り、勇者無力化作戦、暗号名ユ3号作戦、発動する!」
「いてまえー!」「ぶっ殺してやる!」「おやっさんの仇じゃー!」
……目を血走らせた魔物リーダー達が散っていった。
しかし……、勇者の復活はコア帝国の大神殿で行われていたのか……。
だいたいの筋書きが見えてきた。
勇者の定義とは何であろうか?
それは、勇者とはこの世を悪の手から救う者の事である。
それだけの力を持った救世主である。
それは、王や皇帝を凌ぐ存在。
ならば、王は、勇者に跪かなければならない。勇者が王に跪いてはいけない。
王には王の思惑があろう。それを勇者に押しつけることもあろう。
勇者ならばこの森や魔王に手を出す前に、やることが山積みだろう? オトリッチ王国国民を苦しめている海賊に手を出すとかさ!
勇者は、独りよがりな圧力を撥ね除ける意思と力と知恵を持ってなければならない。
毒酒を飲み干し、騎士団を急性アルコール中毒で倒し、魔術師の一団を振り子の様に煙に巻く。
あらゆる力の頂点に立つ戦士。
そのような勇者が現れれば、我ら魔族も安心というもの。この星の行く末を人類に任せ、我ら魔族は優雅な隠居生活がおくれるというもの。
まだだ。まだまだだ。
まだハーレム勇者なんぞにタマ取らせるわけにはいかねぇ!
さて……。
ユ3号作戦は、ジレルのタイミングで発動することになっている。
充分、森深くに入ってから、ジレルが動いた。
斥候に出るといって、勇者達より離れたのだ。
これが襲撃の合図。
魔獣共が勇者に襲いかかる。
それは手加減のないもの。全力でぶつかっていく。
勇者達はその全てを返り討ちとする。
ここまでは過去2回と同じ。
触手は攻撃に参加しない。魔獣による攻撃に限定している。
手傷を負った者は深追いせず、後ろへ下がる。第二グループが勇者に取りかかる。控えの魔獣は、順番が回ってくるまでじっと待機している。
ローテーション攻撃である。勇者を仕留める事が目的ではないのだから……。
チマチマとした連続攻撃を続けること72時間。
攻撃に参加した魔獣の総数は120万匹。順繰りで勇者に当たるため、一匹の戦闘回数は一回だけ。順番待ちの魔獣が50万匹いるから、二巡目は明後日の昼からとなる。
これだけの物量を文字通り休み無くぶつけ続けたのだ。勇者グループに休む間など無い。眠るどころか、休憩もできない。飯を食べるどころか、水の一滴すら飲めない。
それでも72時間、三日間よくぞ戦い続けた。
体力も魔力も尽きようとしているだろう。万が一、それらが残っていても問題ない。
ワレラの目的はただ一つ。勇者一行の集中力を奪うこと!
さあ、攻撃本隊の出撃である。
今まで勇者達に取りかかっていた魔獣を引き下がらせる。変わって現れたのは小柄なコボルドと巨体のオーガーを主とした混成部隊。
一斉に襲いかかる。
勇者達の視線が上へ下へと忙しく動く。
第二弾として投入したのは、スライム軍団。攻撃の隙を突いて、待機していた高い枝より急降下攻撃。
このスライムはオレの分身ではない。分身は分身なんだが、意思がない。いわば自立して動き回るだけの存在。
この中に、気配を消したオレが紛れ込んでいる。
勇者達はザッパザッパと魔獣を切りまくる。オレは早い目に切られておく。
浅い切り傷がポイント。死んではいないが、戦意を喪失したフリをしてプルプル震えている。
対して勇者達は、戦闘に参加しない最下層の魔獣へ手を出す余力が無い。
バラバラにならないよう、狭い空間で固まっているのはさすがだ。でもそれがオレの狙い目でもある。お前らの戦法はすでに解析済みだ。
オレは戦いから逃げる体を装って、こそこそと移動して時機をうかがう。
狙いは僧侶。パーティの回復役である。
と、目の前にその僧侶が飛び出した。おあつらえ向きに背を見せている。
「プスッ」
クラゲ式触手より、髪の毛の20分の一の細さを誇る毒針を発射した。狙い違わず、僧侶の肉感的なお尻に命中。
僧侶は声も上げずに倒れ込む。そこをすかさずコボルトの一隊が拾い上げ、逃走する。
誘拐である。
勇者達はこの事に気づいていない。
次に狙うは回復のスペルを持つもう一人のメンバー、賢者である。
賢者に突撃を敢行するコボルトの中に忍んでいるオレ。
「プスッ!」
隙だらけの首筋に毒針を発射。
そのままコボルトが回収して走り去る。
同じように魔法使いを仕留める。
ここまでしてようやく勇者が異変に気づいた。だが遅い!
木の上からプスリ! 格闘家が倒れた。
オーガーの背からプスリ! 戦士が倒れた。
残るは、魔力が底をついた勇者のみ。
広域魔法が使えない勇者など、ただの剣士にすぎん!
「やっちめー!」
「ウワー!」
控えの5万匹が一斉に襲いかかった。全身にオレ特製の毒針を仕込んだ着ぐるみを着た魔物が5万匹だ。
勇者の意識はそこで途絶えたという。
さて、魔王城……いや間違えた。大神殿の玄関広間に勇者達が転がっている。
毒針に仕組んだのは、ドラゴンでさえ十日は眠るという麻酔薬に、アサモドキや芥子モドキやコカノキモドキだとかの抽出凝縮成分をブレンドした凶悪な一品である。
この毒素を専門家の指導の元、適正量点滴しつつ、装備を剥いでいく。自動で毒消しのアイテムが発動すると台無しになるから毒素を等間隔で注入しているのだ。
念のため、石化のブレスを吐くコカトリスも人数分を待機させている。
「勇者とはいえまだ若い男。仰々しすぎませんか?」
ジレルが靴底で勇者の顔を踏みつけている。
「ご苦労だったなジレル。勇者の仲間に潜り込むのは大変だったろう?」
「いえ……」
ジレルは否定しつつ、口だけで笑った。
「ブリッ子で近づいたら、コイツの方から仲間入りを勧められました。いわゆるナンパですか? お尻触らせるだけで機嫌が良くなるんだから、軽いったらありゃしない。オホホホホホ!」
ジレル、この十年の間に何があった?
「うっ、くっ! ジ、ジレル。君は無事だっ『プス』の、か……?」
勇者が目を覚ましかけたので、一本いっといた。
テトロドキシンを主成分とした麻痺剤だ。
こいつまだ何か隠してやがるな。オレは勇者の体をまさぐった。
こ、これは!? こいつ、こんなところにキュアポイズンの無限回廊魔水晶を隠し持っていたのか。変態め!
「ジレル君、勇者を侮ってはいけない」
「はっ! 以後気をつけます」
勇者とは殺しても殺しても復活してくる生物。
要は、殺すから蘇ってくるんだ。ならば殺さなければよい。
防具を含めた装備はもちろん、服や下着まで剥ぎ取った。もちろん、仲間の女性もだ。
おっと、通報はよしてくれたまえ!
勇者がとてつもない場所にアイテムを隠していた以上、仲間の女性も大変な所に小物を隠している可能性が高いのだよ。専守防衛的観点から、その可能性を一つずつ、じっっっっくりと潰しているだけなのだよ。
触手を使ってアッチをほじったり、こっちをまさぐったりの作業が続く。滑りが悪いので、粘液の分泌量を割り増しにしておくか?
ええっ? まさかここにこんな太くてゴツゴツした魔晶石を隠していたとは!
けしからん! 実にけしからん!
おっと、勘違いはよしてくれたまえ!
スライムの体に、皆さんご期待の機能は存在しない。よって、裸にひん剥いて膝を曲げて大股を開かせる行為に、何ら下心は無い。過去人間であったとか、転生したとかそんなんじゃなきゃ、興奮するわきゃないっしょ?
魔水晶に画像を保存しているのは、あくまで記録目的で、それ以外の目的に使用はしないんだからね! ここに誓約書もあるんだからね!
やっぱいっぱい出てきた。身体検査して正解である。
このまま勇者パーティを眠らせ続けるのも一興だが、それではだめだ。魔族仲間に芸が無いと馬鹿にされる。
相談するにも、ここにはコカトリスしかいない。鳥頭と何を相談せよというのか?
さてどうしよう?
こうしよう。
「ご主人様、ご主人様! 変な銅像が玄関ホールに立ってるですよぅ!」
翌朝一番、エルフのメイド、シャミィが騒ぎ立てていた。
「気にするな。お前が壊しまくった高価な美術品を補充する形で運び込んだ美術品だ。ちなみに、それは銅像ではなく彫像な」
大理石「風」の白い彫像が6体。若い男が一人。後の5つは若い女の像。ただっ広いだけだったホールに飾られていた。
それぞれ格好いいポーズを取らせてある。もちろん裸だ。
美術品だから許されるが、全て素っ裸というのはいかがなものか? けしからん! 実にけしからん!
「でもぉ、この銅像、触ると柔らかいですよぅ」
「彫像な。うむ、シャミィが知らない新素材を使っているからな」
「おっと、じろじろ見てやるな。恥ずかしがるだろう!」
「銅像が恥ずかしがるはずないですよぅ。銅像に意識はないんですよぅ」
「彫像な。う、うむ、そうだな意識なんかあるはずないか、ハハハハ……」
「この銅像、時々鼓動の様な音がするんですよぅ」
「彫像な。ああ、約1年で10万回音がする仕様になっている。どうだ珍しいだろ?」
「意味がわからないですぅ」
「ハッハッハッ! シャミィ君にはまだ早かったかな?」
シャミィは、そういうものかと丸呑みで納得したようだ。
「ではシャミィ君、掃除は任せるが、くれぐれも手荒に扱うんじゃないぞ」
「わかりましたですぅ。丁寧に掃除しておくですよぅ」
納得いったのか、パタパタと足音を立て、台所へ入っていった。
美術品はシャミィに任せよう。……いくらなんでも、これは壊れないだろう、ハハハ……。
オレは不安を払拭する為、外に目を向けた。
玄関から差し込む朝日が視神経を刺激して心地よい。
「ああ、良い朝だ」
オレは軟体の体を真っ直ぐ上に伸ばして背伸びをするのだった。
今回は短いシリーズでした。
早くも次回が最終話。
「転生者 前編」
お楽しみに!




