プロローグ
――暗闇の中から、意識が浮上してくる。
……そう、か……今日も起きることができたか。
なら、何をしようか。ここ最近はずっと臥せっていたから、何もできていない……今日は体が楽な気がするから、少しは研究ができるだろうか。
さて、目を開けて……
「……どこだ、ここは」
いつもの見慣れた天井ではない、不思議な色合いの夜空が広がっている。色とりどりの星など見たことがないが……あれは、極光か? 知識でしか知らない、極地で見られるという現象が美しく輝いている。極光というのは、黄金に輝くものだっただろうか……
他にも、宙に浮いた大樹や、燃え盛る炎の塊のようなもの。あれは……鳥の群れ? いや、魚か? それにあれは……誰かの彫像? 下半身でよくわからないモノが蠢いているが……
意味のわからないモノが、星々と共に大量に空に浮かび上がっては消えている。
……悪夢だな……
何ともいい難い光景を眺めながら、自分が馴染みすぎたベッドではなく、床に直接横たわっていることに気付く。寝具が何もない。それに、いつの間に私は屋外に出たのか。混乱する頭を押さえながら、ゆっくりと体を起こしてみる。
ふと見ると、地面も見慣れたものではなく、黒曜石のような滑らかな黒色の床が見渡す限り広がっている。一体何の素材で作ればこのような継ぎ目のない床が張れるのか。王都の職人でもこんな仕事はできないだろう。
そういえば、ここ最近ずっと付きまとっていた倦怠感や体の痛みもない。自力で持ち上げるのすら困難だった腕が、すんなりと動くことに違和感を覚え、自分の身体を見る。
「いつの間に着替えたのだ、私は」
懐かしい制服に袖を通している。これは、まだ私が現役だった頃の、宮廷魔術士だったときのものだ。あの頃が最も研究に熱が入っていたことを思い出す。
そういえば、自分の声がいくぶん若いような気がする。少なくとも、最近の、あの嗄れたものではない。それこそ、現役の頃のようだ。
「どうなっている……」
周囲には、暗い空間が広がっている。しかし、暗いが、明るい。星明りだろうか、自分の身体や床は見えるのに、周囲にあるものは何も見えていない。
……いや、何もないのか?
「ここは何処だ……?」
夢ではない気がする。意識がはっきりし過ぎていて、明晰夢ではないように思えた。
しばらく辺りを見回していると、星が二つ、こちらに近づいて来ているような気がした。先ほどより明るく、大きく見える星がある。白い星と、黒い星だ。黒い方は、近づいたことで黒色に輝いていることがわかった。流れ星ではない。明らかにこちらに接近してきている。
周囲に比較物がなかったので距離感がよくわからなかったが、人間一人分くらいの大きさに見えるまで近づいた時、光がそれぞれ形を変え始める。
ヒトの姿になったそれらは、見覚えのある姿形をしていた。たっぷりとした布をふんだんに使用した豪奢な衣服に身を包み、様々な装飾品を身にまとったその姿は、神殿に通っていた頃によく目にしたものだ。二人の頭の上に、うっすらと光の輪が見える。
「「おめでとう、イオ」」
二人は、異口同音に口にする。懐かしい響きだ。改名して以来、その名で呼ばれたことはない。
「は――」
思わず跪いて首を垂れる。そうしたくなる威厳が二人にはあった。
……いや、二柱、と言うべきだろうか。
「そう畏まらずともよい。楽にせよ。我々は其方を祝いたいのだ」
白い装束を身にまとった壮年の男性が、私を祝うという。その言葉に共感したかのように、夜空の星々が瞬いた。
「何か、祝っていただけるようなことがありましたか?」
ここしばらくは寝てばかりで碌な研究もできていないし、そもそも他者と関わっていない。弟子としか会話らしい会話もしていないのだ。
「其方は偉業を為しました。それを祝うために、ここへ来ていただいたのです」
黒い装束の女性が柔らかな微笑みを浮かべ、手を差し伸べてくる。白い男性もそうだが、この世のものとも思えない、美術品のような端正な顔立ちだ。思わずその手を取って額に近づける。格上の存在に対する敬礼だ。その手は、存在していないような、空気を掴んでいるような、不思議な感触だった。
黒い女性の手がするりと離れ、軽く頭を下げたまま、私はその場に立ち上がる。
「……それで、偉業、とは何のことでしょうか?」
「ふむ、自覚はないか。其方の研究のことだ。世界の外側へと至っただろう?」
白い男性が腕を組みながらそう言った。
いや、だがあれは……
「は……しかし、アレはまだ完成していませんが……」
私の研究内容まで知っているのか。たかだか人間一人のことなど、この方々には些事だろうに。
「もう魔法陣は完成していたでしょう。それに、必要な物もわかっていたのではなくて?」
「そうですが、実際に試すことはできていません」
苦々しい悔しさが心にわだかまっている。仕方がないが、中々割り切れない。
私の研究は、結局のところ時間が足りないのだ。理論としては完成していたはずだが、必要となる魔力や素材を集めるのに、どう計算しても百年以上は必要で、実際に試す段階に至れるとは思えない。
「大丈夫ですよ。あの魔法陣は其方のいた場所では最善のものです。発動できていれば、ここへと至れました」
……な、に……ここ、だと……
「……大変恐れ多いのですが、いくつか確認したいことがございます。お尋ねしてもよろしいでしょうか」
「畏まらずともよいというのに。何でも申してみよ」
「恐れ入ります……では、まず、この場所についてなのですが……『外側』……なのでしょうか?」
声が震えそうになるのを抑えながら、最も気になった部分を尋ねてみる。ここが『外側』であるのなら……
「そうだ。この場所こそ、其方が至った世界の外側に他ならない。其方にはこの光景が夜空のように見えているであろう。それが、世界の外側に広がる『混沌』だ。正確には、ここは内側と外側との境界線だな。そら、足元にあるのが、其方が今までいた『世界』だ」
「本来、其方にはこれらを直接『視る』ことはできません。ですが、今の其方であれば、認識に合わせて視えるようにできます。其方や、わたくし達の姿も同様です」
黒い女性が、世界に住む者の認識の外ですから、と微笑む。
そうか、ここが『外側』か……とうの昔に来ることを諦めた場所だ。どれだけ計算しても打開策が見つからなかった、研究者としての決定的な挫折を味わったあの日。後世に託すしかないと、自分の目で見ることは叶わないと思っていた。それが、叶う時が来るとは……まあ、この際、夢でも構うまい。
最期まであがいてみるものだな。欲をいえば、自力で来たかったが。
そうと解ると、悪夢めいていた景色も絶景に思えてくる。私も存外、現金なものだ。
「ここに呼んでいただいたこと、どれほど感謝しても足りません。私の夢は叶いました。もう思い残すことはございません」
再び跪く私に、白い男性が呆れ顔で声をかけてくる。
「それは何よりだが、そう一々跪かれては話が進まぬ。まだ問いたいことがあるのであろう?」
「はい。それでは、お言葉に甘えて」
立ち上がり、再び私は問いを口にする。『外側』の世界をもっと見ていたいが、まだまだ確認しなければならないことがある。
「貴方様方は、神々、でよろしいでしょうか」
「そうだな。其方らと我らの認識には差異があるように思えるが」
何ということもないように、白い男性が答える。差異、というところに僅かに苛立ちが含まれているように感じられる。
「では、貴方はルーメナウス様、貴女はノクスニゲラ様、ですね?」
神殿の神像と同じであるなら、これで合っているはずだ。何より、降臨した際の光が、それぞれを象徴する色に輝いていた。
「そうです。其方の世界では、このような姿で伝わっているのでしたね。皆、色々と考えること」
楽しそうに自分の姿を見ながら、黒い女性、闇の神ノクスニゲラが笑う。本当に、絶世の美女という他ないが……
「このような姿、ですか? 本来は違うと」
「わたくし達に定まった姿形はありません。其方の認識するわたくし達の姿を投影しているだけです。性別という概念もありません。其方の認識するわたくし達が、このようなものだということです。言語も元来わたくし達には不要ですから、其方の使用していたものに合わせて、わたくし達の意思を認識させているのです」
だから、私の世界にあった神像と同じ姿なのか。あくまで、私が認識する神々の姿形である、と。
「我らは、言うなれば魂のみの存在だ。確固たる形を持たず、ただ役割が与えられているのみ。故に、其方ら世界の者たちが考える、信仰の対象としての神という偶像とは違うのだがな」
白い男性、光の神ルーメナウスがそう淡々と語る。我らはただ管理しているだけだ、と。
「其方の国では、信仰の篤い者が少ないのであったな。イオ、其方も信心深い、という訳でもないであろう」
「恐れながら、そのとおりです。神学は修めましたが、信仰とは無縁でした」
包み隠さずそう話す。神々が相手では、嘘など不可能だろう。私の幼名まで知られているのだ。世界全体を観ているのだろうに、私のいた国の事情から、一個人の情報まで知っている。隠し事は無意味だ。
「その神学だって、魔術のためでしたでしょう。本当に研究熱心ですね」
ノクスニゲラが感心したように頷いている。
実際そのとおりで、魔術の研究に属性と神々の関係が重要だと思ったから履修したのだ。信仰心からではない。
だが、神々にはそのことが殊の外好評のようだ。信仰の対象になるのが、そんなに嫌なのか。神官たちが聞いたら卒倒するな……いい気味だ。
「では、先ほどから空に瞬いている星は、一つ一つが神、なのですか?」
うむ、とルーメナウスが頷く。
「本当は、皆出てきたいのだ。そうあることではない故。だが、大勢で押し寄せてもな。よって、我らが代表して其方と話をすることになった」
一人相手に数百集まっても埒が明くまい、とルーメナウスが言う。
そうならなくてよかった、本当に。数百柱の神だと……頭がおかしくなりそうだ。
「それほどおられましたか。神殿で伝えているのは、八柱の主神と、その従属神が幾柱かでしたが」
教会の聖典に載っている世界創生の神話には、八柱の主神と幾柱かの従属神が出てくる。それ以外にも、数多くの神々がいるということだ。聖典は人が書いたものなのだから、その内容は眉唾物だとは思っていたが。
「わたくし達は、事象の数だけいるのです。それぞれに異なることを司って。新たな概念が生まれれば、新たな神も生まれます。それに、主従、という関係もないのですよ」
皆、同等なのです、とノクスニゲラが言う。
それもまた、衝撃の事実だ。……神が生まれる? 神学の通説がひっくり返るな、これは。
「新事実に、眩暈がしそうです。……それで、今回私がここに呼ばれたのは……」
私の研究は、未だ完成していない。魔法陣を組み終えた時ではなく、また、必要となる魔力の量や各属性の素材の算定を終えた時でもない。それらの事実をもって『外側』へ至ったとみなすのなら、もっと早く呼ばれているはずだ。
では、何故、今なのか。それは……
「イオ、其方は、今生での役目を終えました。其方の成したことは、わたくし達が祝うに値するものです。ですので、次の世に向かう前に、ここに来ていただいたのです」
「……」
ああ、そうか。私は……死んだか。
これ以上、研究が進むことはない。だから、『今』呼ばれたと。
そろそろとは思っていたが、存外あっさりと訪れるものだな。覚悟はしていたが、先ほど思い残すことはないと言ったばかりでもあるが、少しばかり辛いな……最期がそれほど苦しくなかったのが救いか。
残してきた者のことを想う。弟子のエドワードには、研究の全てをそのまま残すことになってしまった。彼には、まだ荷が重いだろう。せっかく他の誰も見向きもしない研究に興味を持ってくれたのに、私が生きている間に引き継げるほどにはしてやれなかった。
家族と呼べる者は、もう彼以外にいなかったが、かつての友人たちの姿が脳裏に浮かぶ。先に逝った者もいるが、まだ生きている者たちは私という研究バカの死を、どう思うだろうか……
「大丈夫ですか、イオ。わたくし達には寿命というものがありませんから、死というものが貴方たちと同じようには理解できません。転生していく其方達を見てきていますから、次の生が始まるだけ、と思えてしまいます」
ノクスニゲラが慰めるようにそう声をかけてくる。
神々の視点からなら、そうだろうな。
「大丈夫です。少々驚きましたが……お心遣い、感謝いたします。それで、私の姿も本来視えないということなのですね。私自身も魂だけがここにいると……」
だから、私が認識する私、最も想像しやすい私――現役時代の、最も充実していたときの自分の姿で視えているということなのだろう。
「それにしても、神々にとって私は、イオ、なのですね。最期まで見守っていただけたようですが、アイオーン、という認識ではない、と」
「誕生した際に付けられた最初の名が真名だ。名が変わることもあることは承知している。其方が後の名の方がよいのならそちらで呼ぼう」
動揺を隠すためにした何気ない会話に、真面目に答えてくださった。
……すいません。心の中で謝罪する。口にするのはバツが悪い。
「それで、次の世に向かうとのことでしたが……」
「全ての魂は循環している。其方も次の世で新たな生を受けることになる、が」
そこで言葉を切られると不安になる。
「……何ですか?」
「其方には、大いに見込みがある。どうだ、今後も研究を続けたくはないか」
にやり、とルーメナウスが笑う。
……これは……なんだろう、この悪巧みに巻き込まれているような感じは……
「それはそうですが、私は死んだのですよね? 転生してしまっては記憶が……」
「方法があるのですよ。そのために、ここに呼んだのです」
ノクスニゲラがニッコリと笑う。その笑いには、威厳よりも悪戯をする子供のような雰囲気がある。何なのだ、神々が揃いもそろって。
「わたくし達は、この世界の始まりのときから、其方のように世界の外側へ出てくる者を待っています。そして、そういった見込みある者たちに、本来ならば転生で消えてしまう記憶を、保持したまま、転生することを推奨しています」
「記憶を……」
そんなことができると。それなら確かに研究を進められる。願ってもないことだ。しかし、疑問もある。
「外側へ出てくる者を待っている、と仰せられましたが、そのように導くことはできないのですか? その、このように婉曲な手段を取らずともよいのでは」
「そうできればな。導こうにも、世界の住人へ干渉することは禁じられている。我らは実力で突破してくる者を待っているのだ」
ルーメナウスが顔を顰めながら髭のあたりをさすっている。神々にも儘ならないことのようだ。
禁じられている、か。そういえば、先ほども、役割を与えられている、と言っていたな。
「記憶を残すことに同意していただいたとしても、その措置を取り消すことも可能ですからね」
「取り消す、というのは?」
「記憶の保持は、取り消さない限り永遠に続きます。この世界がある限り。ですので、中には永い生に疲れてしまう者もいるのです」
それは、そうかもしれない。肉体は死滅するものの、記憶を引き継げるならそれは不死であることと変わらない。何百年、何千年と生きれば、元々がヒトである私たちには耐えられないかもしれない。
「それで、どうする? 記憶を残して転生することに同意するか?」
それを踏まえた上で、か。取り消せるというのであれば、ひとまず好きなだけ研究をしてみるのもいいかもしれない。まだやり残したこともあるしな。だが。
「それは、何の条件もないのですか? 代わりに神々の勅令を賜る、というような……」
「特にないな。強いていえば、引き続き研究ができるのだから、次は自力でここに来るように、といったくらいか」
「条件など、ありませんよ」
期待に応えていただけるのでしょう、とノクスニゲラが微笑む。
まあ、そんなところか。神々との会話を思い返せば、恐らく何らかの目的があるのだろう。だが、それを言うつもりはないみたいだし、研究を進めることが期待に応えることになるだろう。それは、元より私の目的とも合致する。
「で、あれば。同意いたします。記憶を残したまま、来世への転生をさせていただきたく存じます」
「承知した」
ルーメナウスが笑いながら、重々しく頷く。すると、私の頭の上で何かが光った。
「それがあれば記憶が消えることはないし、程よいところで全てを思い出せるであろう」
頭上に神々と同じような光輪が浮いている。
思い出せる? どういうことだ?
疑問を口にする前に、何かを思い出したようにルーメナウスが問いかけてきた。
「ところで、今まで其方がいた世界だが、マナが希薄だったであろう? 大きな歪みもあったはずだ」
『マナ』は、世界に遍在する魔力のことだ。空気のように存在し、個人の持つ魔力『オド』とは比べ物にならないほど大量に存在するが……確かに、今まで生きた世界は、所々マナが枯渇しているような場所もあった。しかし、希薄だったと言われても比較対象がないのだから、確認のしようがない……足りないとは思っていたが。
それと、歪みか。こちらは思い当たる節がある。
「マナが希薄だったのですか? 私は今までいた世界しか存じませんので……それと、『歪み』とは、属性のことでしょうか。古い文献と現状が一致しないことに違和感がありましたが」
「そのとおりです。とある魔術士の計らいで、其方のいた世界では、属性の在り方が歪んでいました。本来、『命』という属性は直接創造できるものではないのです」
あの者の才覚も素晴らしいものだったのですけれどね……とノクスニゲラがなんとも複雑な表情で目を伏せる。
属性は、マナやオドの方向性だ。今までは基本となる属性を、『土』、『水』、『火』、『風』、そして『命』の五つであると思っていた。だが、古い文献の中には、八つの属性が書かれたものがあった。どうやっても再現できないので、偽書かと思っていたのだが。
「基本となる属性は八つ。『光』、『闇』、『木』、『火』、『土』、『金』、『水』、『風』だ。我ら神の総代たる八柱が司るものでもある」
そう、それなのだ。神学を学んだ理由がそこにある。古文書の知識と照らし合わせて考えると、属性の在り方が神々と関係しているのではないかと思ったのだ。それで神学を履修したのだが、結局作り出せない属性があり、解明するには至らなかった。やはり、それで合っていたのか。
「次に其方が向かう世界は、こちらで選定しておいた。マナも豊富でそういった歪みもない。存分に研究を進めるがよい」
「ありがたく、精進させていただきます」
神々に一礼すると、ノクスニゲラが、そろそろですね、と私を見つめる。
「それでは、また会いましょう、アイオーン。其方が再びここに来るときを楽しみにしていますね」
「待っておるぞ」
一方的に会話を終わらせてそう言うと、神々はまた元の光に戻る。眩い光となった神々が夜空へと去っていく。尾を引いて飛んでいく白と黒の光。やがて、それぞれが空の一点で止まると、そのまま他の星々と共に瞬きはじめた。
まだ色々と聞きたい事もあったのだが……まあ、十分か。死んでしまったのは残念だが、天命だ。覚悟もあった。それに――
「次があるのだ、是非もない」
これがただの夢でなければ、次の人生にこの記憶を持ったままいける。神々は成果を認めてくれたが、あの研究は完成していない。
やはり、外側には自分の力で到達したい。
「神々にも何か思惑があるようだしな」
単に研究を進めさせる、ということではない。その先で何かを私に期待している。それが何なのか、再びここに来ることができれば教えてくれるだろうか。
ふと見ると、自分の身体が透けてきている。これか、そろそろ、というのは。
次に行く時間ということだろう。この姿ももうこれきりだ。名残惜しいが、更なる研究の日々が待っている。
「さあ、行くか――」
声も薄れ、搔き消えていく。
万色の夜空が、霞がかったように見えなくなってゆき……
アイオーンという名の魂は、再び世界の中へと沈んでいった。




