7-10 魔物の集落
幸助達が王都の中で戦いへの決意を改めている中、その王都から逃亡したランと博也は、襲撃犯たるフードの一団と共に行動している最中だった。
ラン達は今、自分達よりもこの世界に転移した先輩だと言い張る彼等と共に、中世ヨーロッパの世界観にはありえないはずの近未来的な鋭利なデザインの飛行船の中に身を寄せていた。
「この中世風な世界で飛行船を飛ばすなんてな。端から見たら相当目立つだろ、これ?」
「そこは大丈夫だ。お前も乗る時に目にした通り、この飛行船はストレス機能がある。俺達が空を飛んでいる事など誰にもバレはしない」
自信を持った台詞を口にする金目の青年。ランは彼の顔を横目にしつつ少し愚痴に近い言葉を吐いた。
「わざわざこんなものまで使って大規模に移動するとはな。あの場で説明するわけにはいかないのか?」
「言っただろう。あそこはまだ王都に近い。下手に事情を話して、万が一連中の兵士に聞かれでもすれば厄介だ」
金目の青年が話した理由には一応の説得力はある。だがランは彼等のこの行動に、自分達の姿を見たランと博也を逃がさないためなのだろうと思っていた。
(自分達の蜘蛛の巣の中に招いちまえば、逃げられないと踏んだんだろうな。どうにしろこっちとしても、この世界について情報は知りたい。しばらくは大人しくしておくか)
一団を乗せた飛行船はしばらく飛行を続けると、一見周辺に何もないだだっ広い草原の真上で一度停止し、直後にゆっくりと下降し始めた。
「もしかして、あそこがお前らの住処か? てことはあの草原も……」
ランが飛行船の動きを敏感に感じ取り、早速下を見ながら近くの人達に軽く問いかけると、金目の青年が素直に答える。
「お前の予想通りだ。あの周辺もこの飛行船同様、王都の連中に見つからないように飛行船と同じ細工をしてある」
飛行船が下降して数分、ちょうど船体が都心のビル並みに大きな木々の高さに来たところで、ラン達の下に見える光景が一変した。
中世ヨーロッパには似つかわしくない近未来的な建造物の数々。周囲の目から隠すためか、建造物の高さは低く、規模も小さいものであった。しかしこの立ち並んでいる建造物の列は、間違いなく人が住む集落だ。
「中世ヨーロッパの世界観に合わない町だなぁ。到着したらお前らの事、今度こそじっくり聞かせてもらうぞ」
「分かっている」
飛行船が着陸し、後ろでランが改めてここに来た目的を話す中、金目の青年が戦闘になってフードの一団は飛行船の搭乗口から降りていく。
すると集落に住んでいるらしき人達が飛行船を見た途端に周りに集まり、嬉しそうな顔を浮かべていた。
「帰って来た」
「皆が帰って来た!」
住民の囲いの中から子供が数人飛び出し、フードの一団に面々に抱き着いて来る。
「おかえり、ハルキ!」
「ツクシおかえり!」
見るからに子供達に懐かれている様子の青年達。ランは今の彼等の様子に、王都で転移者達を襲撃したのと同一人物だとは思えなかった。
(こっちの集落では慕われているのか。王都でやらかいた事とはえらい違いだ)
ランが青年達に対する認識を少し改めかけたその時、子供たちに続いて複数人の少女が、民衆の囲いをかき分けて姿を見せた。背格好は子供達より大きく、女子高生くらいと言った風貌だ。
だがランと博也が現れた人達に対し一番目を向けたのは、角や獣耳、毛皮など、個体ごとにそれぞれ違うながらも、明確に自分達の知る人間とは違う風貌についてだった。
(人間……じゃねえな。次警隊にとっては今更だが、この世界の奴らがこいつらを人間カウントするなら、ニタンの事が説明付かなくかる。)
ランの思考が回る中、金目の青年に、褐色の肌に尖った耳をした美少女の方が、ホッとした様子で話しかけた。
「ハルキ……良かった無事で」
「当然だ。お前を残して負けないさ」
ハルキと呼ばれた金目の青年を始めとし、一団はそれぞれに近付いて来た美少女に話しかけていく。各々がタッグを、というよりはそれぞれでカップルが出来ているように思えた。
少女と青年達が戻って来た事で話に花を咲かせようとしている彼等だったが、空気になる前にランが口を挟む。
「男女間の個人的なお話は後にしてもらっていいか。そいつらには、俺にこの世界の事情を話す先約があるんだ」
ランの大き目の声を受けて我に返った一団は、彼の方を振り返って返事をした。
「そうだったな。場所を用意してやる。ついて来い」
ランと博也は金目の青年の案内に従って移動し、集落の中心にある広めの家屋の中にへと入った。
家屋の中ではランと博也が中心に立ち、フードの一団はもちろん、彼等の傍らの少女達、果ては始めてきた人間に対し警戒や興味を持っている住民達が周りを隙間なく取り囲んでいた。
「何だこの四面楚歌状態」
「それだけ余所者が来るのが珍しいという事なのだろう。ここで抵抗しても意味はないようだしね」
博也がしれっと手に持っている『吊るされた男』のタロットカードを見せて来た。
「また占い……タロットカードもあるのか」
「俺が一番愛用する占い、明確に状況は分からない分即席で出来る方法さ。俺の異能力を知って貰った今なら、これで十分だろう」
ランは、占いであれば何でもできるのではないかと博也に対して若干呆れてしまう。だがすぐに真面目な表情に顔を戻すと、転移者達に対し本題の質問に入る。
「ようやくそちらの土俵に入ったんだ。いい加減、こっちの質問に答えてもらおうか?」
ここまで待ち続けているランの急かす台詞に、金目の青年が問いかけて来た。
「それを話すにはお前達の今の状況を知りたい。お前達は王都で、この世界がどういう状況だと聞いている? 名前と共に答えてもらおうか」
質問に質問で返されたランだったが、ここで焦る事はせず、素直に説明した。
「将星 ラン、風来坊だ」
「平塚 博也。占い師……と自称しておこうかな?」
「この世界は、魔王率いる魔物達によって侵略されかけている。それを倒すため、いくつもの異世界から魔王を倒した経験のある勇者を召還した……要約するとこんなもんだな」
「やはりそう聞かされていたか。俺達の時と同じだな」
金目の青年の返答に、ランの方もやっぱりかと言いたげな顔になった。
「あの姫さんの説明は定型文だったわけか」
「ああ、それも嘘八百のな」
金目の青年が付け加えた言葉にランの眉が動いた。彼の言葉が途切れのを見て、金目の青年は自己紹介から始める。
「俺は『満下 ハルキ』。そこにいる茶髪の一部が白くなっている奴は『富家 ツクシ』。目元が髪で隠れている奴が『明原 フルタ』。そして癖毛で少し髪が跳ねている奴が『ナイズ フィート』だ。
俺達は数か月ほど前、お前らと同じように王都に召喚され、魔王討伐のために戦っていた転移者だ。ある時まで、王都を守るために戦っていた」
「あるときね……」
金目の青年ことハルキの自己紹介を聞き、ランが口を挟んでくる。
「聞きたいのはそこからだ。何故お前達は王都を出た挙句、襲撃を仕掛けたんだ?」
「王都を出たのは、そうしなければ俺達の命が奪われていたからだ。ある時偶然、俺達は王都の秘密を知ってしまい、それが故にあの王女に冤罪をでっち上げられた!」
ハルキの声色が徐々に怒り交じりになっていく。他の青年達も、ハルキと同様に顔色を変化させていた。
「王都の秘密だ?」
「正確に言えば、本当の目的と言った方が良いか。そもそもの話、この世界に魔王なんてものは存在しない」
「何だと!」
ここに来て出て来た大きな情報に、ラン達は目を見開いた。ハルキは二人の反応を目にしつつ、説明を付け加える。
「正確に言えば、存在していた魔王が倒されたらしい。だが、王都の連中の暴虐はそれに留まらなかった。生き残った魔王の手下はもちろん、それとは関係のないただの亜人種でさえ、奴らは一方的に差別した!」
ハルキの説明に、彼等の周りにいる魔物達の目線が下がる。彼等は衣服こそ綺麗なものを身にしているが、その内にある肉は細く、栄養を十分には取れていないように見えた。
「あの王都は、この世界の人間、貴族連中が中心となって作った巨大な家。連中は裏でこいつらと同じ魔物を奴隷として散々な目に扱い、自分の贅沢の為ならば他人を駒にする。そんな連中の集まりだったんだ!」
「それを知ってしまい、他の転移者にバレる前に口封じをされたって事か」
追放に至るまでの最後の経緯をランがハルキよりも先に口走り、ハルキはこれに頷いた。ランはこの説明に納得の顔を示す。
「なるほどな。魔物に襲われてひっ迫しているはずの国が、どうやってあんなに贅沢なもてなしを出せるのか不思議に思っていたが、引っ掛かりが一つ解けた。
んで、そこにいるニタンは連中に取っ捕まったって事か?」
ランに話題を振られたニタンは一瞬驚く反応をしつつ、冷静な顔に戻って返答した。
「私はそもそも、探し物のために王都に潜入していたの。だけど、調査の途中で王都の兵士に見つかってしまって……」
「そこに俺がたまたまエンカウントしたって事か。筋書きは繋がった。単身敵地に乗り込むなんて、随分と無茶しやがる」
「そうまでしてでも見つけたいものだったから」
「探し物? まさかそのために何度も王都に襲撃をかけて来たのか? 転移者共を容赦なく倒してまで」
ランの棘のある言葉に、青年達の周りにいる魔物達が険しい表情を浮かべる。これをハルキたちが諫める中、代表してニタンが話し出した。
「それでも、欲しいものがあったから。私達魔物も、ハルキ達転移者達も、皆を救うために」
「俺達が追放されるきっかけになった物でもあるがな」
「皆を救う? 自分達じゃなくてか?」
すぐに指摘を入れるランにニタンの表情に動じる様子はない。ランの言葉を聞き入れた上で、自分の側の言葉を返した。
「皆よ。あの『魔剣』が手に入れば、必ず願いが叶えられる」
「魔剣?」
唐突に口に出された『魔剣』のいう単語に、ランも博也も反応した。
まさしく王都内に隠されているあの魔剣。本人達はまだ知らない事実だが、ランと幸助が共に同じキーアイテムを知った瞬間だった。




