6-41 壊滅の後で
リコルの様子が落ち着き、立ち上がったすぐ後。ラン達の元には六番隊のクオーツ達が合流して来た。
「ビル内に行った人達は全員確保しました。こちらの回復隊員のおかげで既に複数人が意識を回復しており、既に何人かを尋問しております。人数が多いので、残りは基地にてじっくりやろうと思っていますが」
「来てくれて助かったよクオーツ隊長。俺達だけじゃ本当に大変だった」
「いえいえ、以前貴方には迷惑をかけてしまいましたので。お役に立てまして良かったです」
ランがクオーツと話をしている中、南が同じく戻って来た黒葉と話をしていた。幸助は黒葉と共にいた女性隊員に挨拶している。どうやら以前からの知り合いらしい。
「久しぶり、南」
「黒葉君、活躍は聞いてるよ。仕事に組織内の決闘に次々大活躍だって」
「大活躍……どっちかというと色々巻き込まれている感じなんだけど」
南は褒めたつもりだったのだが、黒葉の表情が何処か暗くなる。何とも苦労しているのが伝わって来た。
「そ、そうなんだ。大変なんだね」
「いや、南達の方が規模大きいし、大変なんだろうけど」
二人が暗い雰囲気になりかけていると、突然傍に立っていたクオーツの手を叩く音で我に返った。
「はい。お話はその辺で。まだまだお仕事はありますので、戻りますよ」
「あぁ、すみません隊長」
(この人また急に出て来た! 入間隊長といい、突然現れる人多過ぎ)
幸助の方も話を切り上げ、クオーツ達六番隊は自分の基地のある世界へと戻っていった。
一つ区切りがついたところでなのか、障壁となるクオーツ隊長がいなくなったからなのか、一人真っ先にランを睨んでくる人物が飛んで来た。
「さて貴様! 今回の件の責任を取って隊長の職を辞職する準備は出来たのだろうな!」
抑え込んでいたものが決壊する勢いで変顔染みた怒り顔を見せるスフェー。間に幸助と南が立って抑えようとするも、それでもランにギリギリまで詰め寄っていた。
「お前もしつこいな。俺は辞める気ないって言ってんだろ」
「いいやダメだ! 今回の件で明確にマリーナに怪我を負わせた! それは本来何度切り裂き痛みを与えても決して償えない大罪! それを辞職で済ませているだけ温情に思え!」
「だから、事の原因を作った一人が何言ってんだか」
「黙れ! 貴様ごときが何を弁解しようが我が大切な妹を危機に合わせた事実は変わらないのだ! 甘んじて罰を受け入れマリーナを我らの元に戻して!」
「お兄様うるさい!」
ランの言葉は全くスフェーの耳に届かない。結局彼を止められるのは一人だけだ。実際、外野から聞こえて来た一声でスフェーは黙り込んだ。
「お兄様、そこまで言うんだったら、自分の仕事を終わらせてからにしてください。結局一番隊から抜け出したっていう裏切り者の隊員。見つからなかったでしょ」
「そ、それは……」
可愛い妹に早速痛い所を突かれるスフェー。ランは彼女のおかげでようやくまともに話が出来るとばかりに付け加えた。
「正直色々やばいと見た方がいいだろ。一度ユリがジネスを追った時に現れた怪人二体。あれもバズと同様、即席で作った兵器獣の可能性が高い。
何より奴らはユリを真っ先に狙っていた。その裏切り者が情報を渡した連中が動いたのだとすれば、お前が行く先に絡んでいる可能性が高いだろう?」
ランの言う事は最もだ。今ユリをスフェーが連れて行こうものなら、ランといる以上の危機に巻き込みかねない。
「ユリの正体が知られたかもしれない以上、事は急ぐ。それもお前が行かなければだろ」
「それは……」
それでも妹の身が心配でたまらないスフェー。そんな彼をユリは優しく握り、背中を押した。
「大丈夫ですお兄様。ランはたよりになるわ。それに今私の周りにいるのはランだけじゃない。幸助君や南ちゃんだって!」
振り返って見られた幸助と南が緩んでいた気を引き締める。
「お兄様が私の事を心配してくれているのは嬉しい。でも、だからこそお兄様には、お兄様の仕事をして欲しい! 次に会うときは、凄く強いお兄様の勝利の話、ゆっくり聞きたいから」
「マリーナ……」
スフェーはユリの言葉にかなり揺らぎながらも、それでもやはり不安な部分がぬぐいされなかった。だが、そこに大吾と零名が両隣から囁いて来る。
「ほらほら、当の妹ちゃんがこう言ってんねんで」
「お兄ちゃん、かっこいい所、見せるべき」
二人の言葉にスフェーが眉にしわを寄せると、ユリが繋いでいた手を更に強く掴み、スフェーの目を真っ直ぐ見て話して来た。
「お兄様、頑張って!」
瞬間、スフェーの脳裏にユリの言葉が繰り返された。
『頑張って!……頑張って!……頑張って!……頑張って!……頑張って!……』
ユリが手を放すと、スフェーはドーピングしたようにあからさまにテンションを上げて叫び出した。
「よーし! やるぞぉ! マリーナ、安心して待っていてくれ。この兄が、全て解決してきてやるからな! 行くぞぉ!」
スフェーは何処かに向かって全速力で走り出し、すぐに豆粒程度にまで遠くへ行ってしまった。
「アイツ、手掛かりもなしに行っちまったぞ」
「いや、クオーツ隊長が尋問して裏切り者が何処にいったんかは聞いとるらしいで」
「そこは抜け目ないのか。アイツホントユリの為なら恐ろしく頑張るな」
「お前が言うな」
「似た者、同士」
スフェーの件も一旦話が付いたが、まだこの場には大きな懸念が残っている。RAIDERが裏で生成し、今もこの社会の中に潜んでいるであろうゾンビの対処についてだ。
表向き討伐によって治安維持をしていたRAIDERが壊滅し、更に元々がワクチン接種という名目で種をまいた存在。
そのためゾンビはこの社会の中、何処になる得る人物がいて、いつ覚醒するのかも分からない存在となっている。
「ゾンビの危機は去った訳じゃない。ワクチンを接種した人達の登録名簿があれば、良かったんだが」
「おお、登録名簿な。あるで」
「ああ、そんな都合のいいもんある訳……え?」
全員が大吾の方に注目した。あまりに都合が良すぎる話に空耳かと疑いかけた全員だったが、大吾はそのまま言葉を続けつつ、手元を操作する。
「資料館でチビと戦った後、アイツが何の資料を探して単価が気になってな。怪物が来るまでの少しの間に調べ取ってん。ほんで見つけたんが」
大吾が取り出したのは、中々の分厚さのあるファイル。広げて書かれていたのは、この世界の文字での人名ばかりだった。
「これ!」
「お望みの名簿ってとこやろうな。赤服の奴、これで後々ゾンビ化する奴らを連れ去ろうとでもしとったんかもな。丸ごと兵器として利用するために」
「ランに負けじと抜け目ないな。お前」
一緒に行動していた幸助ですら気付かなかった手際の良さ。そこに零名が付け加える。
「大吾、本当に仕事は出来る。実績だけは、普通の隊員、比じゃない」
「でもそれ以外が問題あり過ぎて、隊長格になれないって事か。本人のなる、ならないの問題じゃないなこれ」
「その通り、お姉さん、幾分、マシ」
幸助と零名が話をしている中、ランは大吾から資料を受け取ってページをめくり、確認する。
「こいつがあるのなら、話が格段にはやくなる。すぐに基地に回して、ここにかかれている人達の捜索だな」
ランやジネス、リコルはこれをとてもありがたく思っている中、ふと南は疑問を浮かべていた。
「それにしても、どうしてそんな重要資料が紙媒体で保存されていたんだろう? パソコン内で保存して、デジタル管理した方が良かったんじゃ」
「普通の資料なら、そっちの方が便利だからいいわね」
南の疑問に回答したのは、機械系統に強いユリだ。
「でもあれは漏らしたくない最重要機密。下手にデジタルで取り扱えば、ハッカーに付け狙われデータを奪われる可能性がある。
こういう見られたくないものは、アナログで保存していた方が一番安全なのよ」
南がユリの説明で名簿の事について納得がいく中、今度は話をしていた当のユリが少し気になっている様子だった。
「最も、私の発明品の他にも資料館に入れたのだとしたら、赤服にも相当な技術者がいるのだろうけど」
資料館に侵入していた『ユウホウ』の構成員には、ユリに負けない技術者である『ハグラ』がいる。最も三番隊の面々とは対面していないため、そこまで詳しくは知るよしもない。
だがこれにより、ゾンビの問題についても大きく前進出来た。後始末の規模は今まで幸助達が見た中で一番大事になりそうだったが、次警隊の規模はRAIDERより圧倒的に大きい。任せても問題ないだろう。
され、こうしてゾンビの対処についても話が付いた。これで残る問題は、あと一つになった。今回の騒動の中心になった、ジネスとリコルの今後についてだ。
この世界での大きな事件はほとんど解決方向に向かったとはいえ、そのために二人共、この世界での居場所を失ってしまった。それも二人揃って頼れる親戚もいない。今後行く宛がないのだ。
「お前達は、これからどうするつもりだ?」
「さあな。俺の復讐は終わったが、結果的に俺はそれまでの職や暮らしをすべて捨てることになった。まあ、俺の事はいい。問題は、俺の大切な人達の今後についてだ」
ジネスは自分の事は二の次に考えている。彼にとってはそのことよりも、リコルと妹『ファンス オルド』の事が心配だった。
「ファンスは今も寝たままだ。それも急がないといけない。今回の騒動が何処かに漏れれば、病院内のアイツの身がどうなるか分からない」
元々ジネスとファンスは本人達も気づかない間にRAIDERに監視されている身の上だった。
それが大元であるRAIDERが壊滅し、ジネスが組織の闇を知った。この情報がビルにいなかった残党勢力に伝われば、彼女の身に危機が迫る。
「ここまで問題が解決しかかっているのに、こんな事を言ってすまない」
「いや、当然の心配だ」
「だが今から行ってファンスを病院から助け出したとしても、その後はどうするかだ。寝たっきりのアイツを置ける場所なんて、俺達には」
「あるぞ」
ジネスの言葉にランが割って入る。ジネスとリコルに不安なかおがぬぐえない中、残りの面々はランの言いたいことが何となく理解できた気がした。
「ラン、それってもしかして」
代表して幸助が問いかけると、ランはすぐに回答した。
「ああ、俺達の組織、次警隊だ」




