6-40 別部隊の影
ラン達が戦闘を終え、駆け付けた六番隊によってビル内の調査が行われているその時、そこから遠く離れたとある建造物の高所階の中から、RAIDER基地を見ている人の姿があった。
「あ~あ、三体全部やられちゃったよ。ま、いいや。収穫としては予想以上に手に入ったし」
簡単なおもちゃが壊れた程度の感覚で兵器獣の全滅について言及するその男。ビル内の床に転がってのんびりする彼だったが、近づいて来る足音に声をかけた。
「おや、こちらに何か用でも? ユウホウの副リーダー殿」
男の元に現れたのは、戦闘での負傷を止血したノバァだった。表情は普段とほとんど変わらないものの、目つきから明らかに怒っている事が分かる。
「やはり見ていたのですね。仕事は人に押し付けておきながら、何のつもりですか」
「何のって、ちょっと進捗が気になったんで」
軽口を叩く男に苛立ちを思えつつ、ノバァは経緯から説明した。
「今回の件、本来貴方方がするはずだった後始末を私達が請け負いました。重要資料を回収し、事に関わった連中を始末する手筈。そこに即席の兵器獣の実験を急遽増やされた」
「ああ、そうでしたね」
「だからボス格の男に薬品を打ち、兵器獣を生成しました。それに私達は襲われないという話だったはず」
ノバァの怒りの原因は、兵器獣化させたバズが幸助達ごと、ユウホウの隊員であるリサートを取り込んだ事だ。ランのおかげで救助されたものの、一歩間違えればリサートはバズに吸収されていたのは間違いない。
「即席の兵器獣の被害に、こちらの隊員が巻き込まれました。まずはこれが濃いか偶然か聞きたいのですが?」
ノバァの真剣な問いかけに、男は何処か気の抜けた様子で返答した。
「偶然に決まってるじゃないですか。即席で作った兵器獣はコントロールが難しいんですよ。激戦地の中じゃ誰が誰かの判別なんて細かい事はとても」
「視覚が共有されているのに、ですか?」
ノバァの台詞に男の台詞は止められる。
「まさかと思いますが、資料事私達をも始末するつもりではないですよね」
「失礼な、何を根拠にそんなこと言うのです?」
ノバァは眉にしわを寄せ、ハッキリと口にした。
「貴方達にとって、私達ユウホウが邪魔だから」
男はノバァの顔を見て彼女の怒りを受け止めると、寝転がっていた身体を立ち上がらせて返答した。
「そんなまさか、ユウホウは同じ星間帝国の仲間ですよ。故意で仲間を攻撃する奴などいませんよ。
確かに兵器獣とこちらの視覚は共有されていましたよ。しかし所詮は即席。視力は弱いしピントも合いにくいのです。もしかすれば、そのせいで敵と間違えて取り込んでしまったのでしょう」
まるで信用が出来ない軽い言葉にノバァは拳を強く握りしめる。しかし彼女は男を攻撃することはしない。男はそれを分かった上で彼女のすぐ隣にまで歩いて来た。
「また今回の件は謝ります。お互い特殊部隊同士、これからも仲良くやりましょう」
男はその言葉を最後に去っていった。残されたノバァははらわたが煮えくり返るような思いになり、つい声にこぼしていしまう。
「何が仲間だ。立場が上だからと調子に乗って……」
一方で男の方も、ノバァに対しての心情を吐露していた。
「そこらの成り上がり風情が、うるさい事だなぁ……」
男はその流れでブレスレットを操作し、何処かに連絡を繋げる。
「どうも、今回の実験、大量の収穫がありましたよ。
この世界のゾンビ、元いその技術を応用した即席兵器獣の生成と運用。
人間の一時的な操作技術の試験。
次警隊、隊長格を含めた敵との戦闘データ」
話をしていく中で、男の口角は自然に上がっていく。だが明るいというよりは、明らかに悪だくみをしているといった印象だ。
「特に一番隊隊長の戦闘データを手に入れられたのはよかった。モグラ君がここにいるという情報を流しましたが、まさか隊長が直々に来てくれるとは思ってませんでしたので。
ええ、当のモグラ君でしたら既に異世界に移動済み。情報の受け取りはまた貴方様が落ち着いた時にと思っております」
男はここでふと足を止め、周辺に誰もいないことを確認してからブレスレットに顔を近づけ、ここまでよりも小声で報告した。
「それと、これまた思わぬ大きな収穫が……」
同時刻、ゾンビの世界とは違う別の世界。フラフラと町中を歩いている青年のブレスレットに、着信音が響いて来る。青年『コク ゴース リベリオル』はすぐにこの着信に反応し、通話を始めた。
「どうしたノバァ。突然連絡を寄こすなんて」
「貴方が本来行くはずだった仕事で酷い目に遭いました。そのことについて、説教前に報告をしておこうかと」
ノバァはコクにも怒っていた。今回のゾンビの世界での仕事、本来であればコクが請け負っていたものだったらしい。
コクは面倒臭そうな顔になりつつも、ここで話を聞かなければ後が大変になると、大人しく話を聞くことにした。
「何があったの?その声色だと相当酷い目に遭った用も思うけれど」
「ええ、その酷い目のせいで、リサートがやられかけました」
ノバァの言葉にコクの調子が止まる。目付きが鋭くなり、声色が変わっていた。
「それで、リサートの容体は?」
「現在治療中。命に別状はないみたいで」
「ならひとまずそっちはよし。やったのは?」
「攻撃自体は次警隊でしょうが、酷くしたのは奴らの兵器獣」
コクは少し考えこむように黙り込む。
「そうか……連中、予想以上に俺を舐めているみたいだなぁ」
「仕方ないって訳じゃないですが、そんな嫌がらせが出来てしまう連中だというのが」
星間帝国、皇帝の息子であるコクが率いる『ユウホウ』の隊員をかなり下に見ている扱い。余程の権威がなければ無理な事だ。
「俺もすぐに戻る。今回の件といい、連中はまだこちらに仕事を押し付ける気かもしれないからな」
「拒否権のない……ですね……」
ノバァの言葉遣いにコクも彼女のいつもとは違う怒りを感じ取った。
「今回の仕事はもう終わり。帰ってゆっくり休んでくれ」
「……はい。ああ、それと」
通話を切りかけたタイミングに言葉を付け加えて来たノバァにコクも反応する。
「ん? なんかい言忘れてた事でもあった?」
「今回の騒動の渦中に、零の風来坊の一派が」
「……へぇ」
「個人的にながら、南と呼ばれていましたか……彼女には少々再戦を望みたい気持ちになりました」
ノバァの声が再び少し感情的になったのを感じて、コクはさっきまでの面倒臭そうな表情を崩し、何処か楽しそうな様子ともとれるものになっていた。
「いいね。俺と同じになったわけだ。それじゃあ切るよ、また後で」
コクはノバァとの通話を切ると、その場で独り言を溢し始める。
「まさかノバァとリサートの行った世界に風来坊達がいるとわね。ユウホウが行く先々にいるなんて、驚くほどの巡り合わせだなぁ」
コクは今しがた自分が口にした台詞にふと違和感を感じ、顔つきが再び硬くなった。
「今回の件は、本当に偶然か?」
今回のRAIDER基地内での騒動、コク達ユウホウに仕事の指示が回って来たのは、本当に急場の事であった。
そのためコクは他にあった仕事に向かうという名目で、ゾンビの世界での騒動から逃れていたのである。
(何で他部隊に雑務を頼るようなことを? 元々の仕事をそっちのけにしてでもやらないといけないことが出来たとか?
風来坊達の中に、そんな重大要素があるのだとすれば……)
コクは自身の脳裏に、吸血鬼の世界にて出会って以降のラン達との交流を思い返していく。すると、一つ思い立った事があった。
吸血鬼の世界にてランと同じくコクが出会い、戦闘時にはランが庇う動作までしていた少女、『ユリ』の事についてだ。
「そういえば、風来坊の嫁だったか彼女だったか……忍者の世界ではどこにも見当たらなかったな。非戦闘員だから引っ込んでたのか?」
忍者の世界にて幸助と戦闘し、ランと再会した時には一切会わなかった。だがそれならば火中に飛び込むラン達に彼女がいることに矛盾しているところを感じていた。
(考え過ぎかな? 人の家庭に土足で踏み込むのは、あの風来坊君が一番嫌いそうだしやめとくか)
「でもあの子、どうにも匂うんだよねぇ……連中の事といい、調べてみようかな」
コクはすぐにブレスレットをかざすと、目の前の空間を割って何処かへ消えていった。
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時は少し進み、戦いを終えてRAIDER基地から離れていったラン達。彼等からビル内での騒動を聞いたリコルは、涙を流さないながらもやはり何処か思うところがある様子だった。
「そう……父は、奴らに怪物にされて、貴方とジネスに」
「身柄の確保は出来なかった。すまない」
出来るだけ逮捕に留めるように努めている次警隊として、何より父を失った娘に対しての最低限の配慮として、ランはリコルに頭を下げた。
リコルは彼の態度、そして自身の父の所業を知っているため、責めるようなことはしなかった。
「いいの。父は許されない事をした。何人もの人をゾンビにして、よりたくさんの人を傷つけていた。それは、紛れもない事実だから」
リコルはランをなだめたが、その声は自分の悲しみを吐き出して誤魔化しているように見えた。
このことにはジネスとて彼女を慰めることは出来ない。寄り添うことが出来るのは、その先頭に関与しておらず、彼女と似た立場であるユリだけだった。
「リコルさん」
ユリは自ら歩んでリコルに寄り添い、上がっていた肩に触れた。名を呼ぶ以上の声は出さないものの、その優しい目はリコルの思いを表に出すには十分なものがあった。
リコルは膝を崩し、手で顔を覆い泣き叫ぶ。ランもジネス目を逸らさざる負えない中、ユリはゆっくり暖かく彼女を抱きしめた。
誰も触れられない空間。だから気が付けなかった。ユリの左腕、ランに包帯を巻かれていた部分の裏に、それまではなかったはずの赤い紋様が怪しく光った事に。
そしてリコルが涙が続いている合間に、紋様は消えて何もなかったかのように戻った事に。




