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6-39 大好きって事なんだ

 床に落ちていた勇者の世界と、口に含んでいた吸血鬼の世界。二つの異世界の結晶を手元に戻して収納したランは、一息つく間もなく走り出した。


「どこに行く?」

「来た道を戻る。ユリが心配だ」


 激戦が終了してすぐでありながら一目散に走るラン。彼の背中を見たジネスは、肩で息をして独り言を溢した。


「アイツ、俺以上にばてているはずなのに。底抜けの愛妻家だな」


 ジネスもランを追いかける形で来た道を戻っていく。バズの攻撃によって出来た文字通りの直通路を駆け抜け、二人は幸助とユリがいる広間にまで戻って来た。


「ユリ、大丈夫か!?」


 真っ先にユリの心配をするラン。声をかけつつ周囲を見ると、暴走していたはずのスタッフ達が一人残らず気絶してい倒れており、中心に困惑している二人と、怪物との戦闘を終えたスフェーの姿があった。

 ユリもランと、その後ろにいるジネスの存在に気付き、反応して来た。


「ラン! それにジネスさんも」

「あの怪物は、倒したのか?」

「まあな。それよりこれは?」


 幸助の質問には一言で返答を終えつつ、ランは広間で起こっている惨状を問いかけた。


「俺達も分からない。ついさっきまで暴れててユリアーヌ隊長と共に対処してたのが、いきなり倒れて」

「まるで、何かの電源が切れたみたいな感じ」

「電源が切れた」


 ランとジネスに宛があった。ついさっき、おそらくはバズを撃退したタイミングと見ていいのだろう。ウイルスでの暴走にしては的確過ぎる状況。事の黒幕は同じとみるのが自然だろう。


(何が目的化が分からず仕舞いだが、この場での戦闘は終わったとみていいのか?)


 ランが疑問を受浮かべると、各方向からそれぞれ別の人物の声が聞こえて来た。


「ラン君!」

「お前ら、無事か?」

「皆、揃ってる……」


 声の正体は各所で暴走するスタッフを止めていた南、大吾、零名の三人だ。全員が同じタイミングで集合したことを見るに、おそら三人共ここと同じ状況になったのだろう。


「全員ここと同じ感じか?」

「まあな。突然襲い掛かってた連中が操り糸が切れたみたいに倒れおった」

「でも全員生きてた。ウイルスに感染していたのとは、別って事だよね」


 南が勘のいいことを言い、ランも頷いた。


「怪物三体が撃退された事で、手を引いたのかもしれないな」


 結晶の回収、ジネスの救出。残る目的は、このビル内にいると情報が入っていた裏切り者『ラウス ゾーム』の捜索だけだ。


「後は裏切り者の捜索だけだが」

「いない。お前たちが来るまでの間にビル内は見回ったが、姿は見当たらなかった」


 ランの台詞に、即刻スフェーの不機嫌な返答が来た。

 実際この混乱した状況下では、少し頭の回る人物ならば騒ぎに紛れて逃げたと見る方がいいだろう。次警隊の中でも優秀な人材が集まる一番隊の隊員となれば、なおさらだ。


「だったら、俺達に出来ることはもう何もないな。引き上げるぞ」


 ランの素早い判断に南がすぐに質問して来た。


「待ってラン君! 倒れているこの人達はどうするの? まさか放っておくなんてことは」


 全員とは考えにくいが、一部は確実に人間を怪物に変える実験に加担していた人達。それでも南は人染みが出かねない判断は反対なのだろう。お人好しな彼女らしい言い分だ。

 もちろんランはこれも考慮していた。というより、既にそこの手はずは済んでいた。


「そこら辺は、大吾」

「ま、俺達の方で処理やろうなぁ。幸い連絡は通じた。さっき報告はしといたから時期に隊員達が来てくれるやろう」

「ホント、仕事は出来るよな」


 ランが大吾の手際の速さに改めて感心していると、そこにスフェーが目を血走らせて迫って来た。


「それはそれとして、だ! 貴様、責任を取る覚悟は出来ているんだろうな?」

「責任……あれの事か」


 ランの目線がユリに向く。スフェーの言う責任とは、戦闘にユリを巻き込み、彼女に怪我をさせてしまった事だろう。


「貴様、自分の仕事がマリーナの護衛であることを分かっていないようだな! 何があってもまずマリーナの身を守り、必要があれば命をも差し出すこと! それが三番隊の役目であるはずだろ!

 それを貴様はあの程度の怪物共に苦戦し、マリーナを負傷させた。言い逃れは出来ない失態だ!」

「あぁ、それについては……」


 この件に関してはスフェーの言う通り、ランに言い逃れは出来ない。言葉に詰まったランだったが、そこに幸助と、当のユリ本人が助け舟を出した。


「俺が悪いんです! あの場で負傷したから。ユリちゃんは、俺を回復させるために姿を見せて」

「お兄様、私は三番隊の隊員。隊員の危機を助けるのは副隊長としての務めです!」


 二人の言い分を聞いてもスフェーの調子は変わらない。寧ろ余計に機嫌を悪くした様子だ。


「名目上の話だろう。手傷を負った上に護衛対象に助けられるなどあっていい話ではない。そしてそれを未然に防げなかった隊長。監督責任を追加だな」

「そんな」

「お兄様……」


 癇癪が収まらないスフェー。このままでは一方的にランが責任を取らされる形になるところだったが、ここでランは一つ別件を口にした。


「随分一方的に責め立ててくれるもんだな。お前だって人の事言えないだろ。少し前まで気絶していたくせにな」

「何!?」


 ランはスフェーが食いついた対応を見て、話を続けることにした。


「そもそもこちとらお前がの逃がした裏切り者の捜索で働いてやってんだ。お前がへまをしなければそもそもユリが怪我をする事はなかっただろうが」

「ラン、アンタまで何を!」


 ランとスフェーの目つきに殺気がにじみ出る。


「貴様、話を変えて誤魔化す気か?」

「それはお前だろう。根幹はお前のミスのせいだ」


 お互いに拳を握り、あと一歩前にでも踏み出せば戦闘が始まりかねない空気になる。


「やる気か?」

「ここで処分を受けたいのなら、いいだろう」


 ランはブレスレットに手を触れ、スフェーも小球を手に持つ。二人は完全に一戦交えるつもりで構えようとした。

 ユリが止めなければと飛び出しかけたが、彼女が瞬きをしたとき、その場にいなかったシスター服の女性が突然姿を現し、一言声をかけた。


「おイタはいけませんよ、二人共」


 ランとスフェーはもちろん、この場にいる全員が突然ほんの少しも身体を動かせなくなった。動かそうものならば即座に身が引き裂かれるようなプレッシャー。ランとスフェーは闘争心を強制的に抑え込まれてしまう。

 幸助や南は、目の前の女性から出て来る余りのプレッシャーに恐怖を通り越して抵抗力がなくなる思いだった。


(あの人は一体? 何だ、この圧)

(声が、出ない……)

「おっと、やり過ぎましたかね」


 女性が軽く手を叩くと、今の今まで存在したプレッシャーが嘘のように消え、彼女以外の全員が汗を流し、ようやく息が出来る思いになった。


「ハァ……ハァ……息、出来るな……」

「何だったの、今の?」


 回りが困惑する中、間近で圧を受けていたランとスフェーは大きく息をついてからその女性に話しかけた。


「まさか、貴方が来るとは」

「直々に登場とは驚いた。次警隊六番隊『マザー クオーツ』隊長」


 名を呼ばれた『マザー クオーツ』は、大人びた少し笑って返事をして来た。


「フフフ、以前私の基地で会った以来ですねラン坊」

「坊や呼び止めてくれ」


 振り返るクオーツ。幸助が目を凝らして見たその女性は、白銀職の美しい髪を腰まで伸ばし、シスターに似た服装を着込んだ物腰柔らかな大人な女性といった印象だ。


「皆さんも申し訳ありません。この二人の仲については知ってましたので、止めるために少々脅しをかけさせていただきました」

(軽く脅しただけで、あれ?)

(隊長格、皆とんでもなさすぎる)


 幸助と南が自分達の組織の底の深さに圧倒されている中、大吾が前に出てクオーツに話しかけた。


「事情は言った通りです。生きてるスタッフから情報は絞っときたいんで、救命、救助をよろしくお願いします」

「はい、人数は率いてきましたので、ご安心を」


 クオーツの台詞を聞いた上で、幸助はふと思うところがあった。


「ん? 六番隊ってことはもしかして」

「幸助! 南!」


 後ろから聞こえた覚えのある声に振り返ると、そこには共に入隊試験を勝ち抜いた『春山 黒葉』の姿があった。彼の後方には三人程の女性隊員が控えており、おそらく黒葉の仲間なのだろう。


「黒葉、やっぱり来てたか!」

「お久しぶり……って程でもないか。前に会ったし」


 以前にあった出来事を振り返っていると、クオーツの方から言及があった。


「春山隊員。積もる話は仕事が終わってからにしてくださいね」」

「え? あ。はい! すみません隊長。てことだから幸助、南、また後で」


 黒葉は仲間達と共にクオーツの元に向かっていき、逆にランは戻って来た。


「とりあえず、俺らに出来ることはここまでだな。後は六番隊に任せてここを離れるぞ」

「おい、風来坊」


 終わりかけた会話に介入して来たジネスに開きかけた明るい顔が鎮まるラン。


「何だ? 言いたい事があるなら」

「そいつら、というかほとんど全員、誰だ?」

「あ……」


 ラン達はここに来て気付いた。他の面々は皆揃って顔見知りの中、ジネス一人だけが面識がなく、完全に蚊帳の外に置かれていた事に。


 その後、連絡を受けてやって来た六番隊の働きによって生存しているスタッフ達は全員保護され、RAIDER(レイダー)基地ビル内にて起こった、次警隊と赤服による戦いは、ひとまず次警隊の勝利という形で幕を下ろした。


 ランは変身を解いたジネスにこの騒動に関わった自身の仲間達を紹介。ビルを脱出後、一人待たせていたリコルの元に向かっていた。


「しっかし疲れたで。あんな大事になるとは思わへんかったわ」

「同じく、それに赤服の行動。謎多い」

「それでも、目的のほとんどは果たせた。それでよかったって事に」


 各々が言葉を溢す中、ジネスは顔を俯かせて黙っていいる。ランはそんな彼を見かねて問いかける。


「不安か? リコルに会うのが」


 ジネスは、ランの問いかけに対し震える声で答えた。


「俺は今まで、アイツを利用し続けていた。それを今更大切に思っているだなんて、都合がいい事だと思ってな」

「それがどうかしたか?」

「あ?」


 ランからの予想外の返しに困惑するジネス。


「俺だって自分の都合でユリを縛っている。それでもアイツは」


 ランが話を進めかけたが、ここで彼の肩に乗っていたユリが変身を解き、後ろからランに抱き着いた。


「こうして一緒にいてる。私が一緒にいたいから」


 後ろでまた目を血走らせるスフェーを幸助達が抑える中、ジネスは呟いた。


「そういうもんなのか」

「ええ、そういうものよ」


 そして辿り着いた一行。リコルはジネスの姿を見た途端に表情が崩れ、大粒の涙を流し始めた。

 駆け出してジネスに抱き着くリコル。ジネスはゆっくりと彼女の背に手を回し、受け止めた。


(ああ、分かった……これが、大好きって事なんだな)


黒葉が重症になった件につきましては、『PURGEMANパージマン』の方を読んでいただけると分かります。よろしければぜひ一読お願いします!


PURGEMANパージマン https://ncode.syosetu.com/n9975ki/

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