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6-38 復讐の終わり

 気を抜けば吸い込まれかねない引力の中。ジネスはランが策を思いついたという言葉に目を向けた。


「思いついたのか! 一体どうする?」

「どうにしろ、まずはこの吸い込みを何とかしないとだが」


 ランが吸い込まれないように力んで耐え続けていたが、ここで二人にとって一つ幸運な事態が起こった。突然バズの力が弱まり、吸い込みが止まったのだ。


「止まった? どうしていきなり」


 二人はすぐにバズの様子を観察。彼は腕を広げた構えを解いており、生物兵器故に汗や呼吸の乱れは見られないものの、後ろに下がる動作に気体の疲労が見えた。


「ジネス、一つ分かったぞ。アイツ、さっきの吸い込みを長時間維持出来ない」

「どうして言い切れる!」


 ランはバズの吸い込みの技を、幸助が発動していた風の魔法の応用であることを知っていた。

 しかし幸助が発生させた技はあくまで呼吸を止めない程度の小さいもの。それを大規模に拡大するのは、弾丸を砲弾に肥大させるが如く無理のある行為だ。


 それでも事実この場で吸い込みの技を発生させたことには、兵器獣としての卓越した力のおかげなのだろう。それでも無茶であることに変わりはない。強引な技の発動は、失敗時に酷く消耗する弱点を抱えている。今バズには、これが起こっていた。


「詳細は省く。あの攻撃は耐えれば免れれるって事だ。これなら俺の算段がより確実になった」

「そうか、なら従う」


 ランは最初に会った時と違い、随分と素直に言う事を聞くジネスにむず痒さを感じていた。


「随分素直になった事だな。ついさっきまで噛みつく奴だったのに」

「あの怪物相手ならお前に従った方が得策だろう」

「ああ……まあこっちも、毎回毎回アドリブなんだがな」


 納得したラン心置きなくバズへの戦いに集中し始める中、ジネスは一瞬だけランに視線を向けて口にはせずに言葉を浮かべていた。


(それに、お前には返しきれない恩が出来たからな)


 すぐにジネスも視線を前に戻し、ランに問いかける。


「それで、俺は何をすればいい?」

「とにかく動き回れ、この狭い空間で追いかけっこをする」

「追いかけっこ?」


 字面だけ読むと子供臭い考えだが、ランはその後にジネスにだけ聞こえる程の小さい声で詳細を話した。


「なるほど、随分捨て身だな」

「これでもまだマシだ。俺が家内に怒られるのはな」

「ああ、あの女に……て、家内!?」

「今そこ驚かなくていいだろ、決まったなら即行動だ。行くぞ!」

「おう!」


 ランの指示にジネスも乗り、二人は左右にばらける形で走り出した。バズは二人の行動に対し、まずはジネスの方向に走り出した。元々の目的の一つである、ジネスの吸収をする気なのだろう。


 だがこれは二人も予想済み。ジネスはバズの手が自分の身体に触れる直前に足の動きを速め、バズの攻撃を空振りに終わらせた。

 バズは見失ったジネスを探していると、視線の先で足を止めているランが挑発の態度を示す。


「こっちだ来いよ。雑魚の肉が待ってるぜ」


 兵器獣に挑発をしても意味はない。しかしこれは兵器獣を操っている謎の人物には効果があったのだろう。バズはランに一目散に駆け出し、一瞬で間合いにまで詰めた。


「おら、捕まえてみろ」


 こんな危機的状況で尚もランはバズを挑発し、バズもこれに乗って素早く腕を伸ばす。

 普通ならば素早さを前に捕まえられて終わりのところ、しかしランは腕の動きを視覚より先に音で聞き分け、複数買い物攻撃を紙一重で回避した。


「どうした? ただ単純に速いだけじゃ、鬼ごっこには勝てないぞ?」


 さらなる挑発の台詞。バズはならばこれならどうかと目からビームを放ち、ランの回避先の選択肢を減らした。身体が曲がり、動作が難しくなる瞬間、バズはランの回避が間に合わなくなったところをついて捕えかけた。


 だがランは捕まる直前、その身を移動し続けていたジネスによって回収され、距離を離された。またしてもすんでのところで攻撃を回避されたバズは、次の動きに戸惑ってしまう。


 ジネスは一度足を止め、抱えていたランを降ろす。


「どうも」

「俺が来るのも織り込み済みか。しれっと利用してくれる」


 ジネスが少しだけ文句を溢す中、バズは壁に一度押し付けてしまう企みか、目に見えない風圧を飛ばして来た。ところがこれも、耳のランによって音で感知されてしまう。


「風圧だ、横に動け!」


 ジネスもすぐに従い、二人は再び左右に広がって風圧を回避する。

 バズはこれに自身が高速で移動しながら風圧や光線による発射地点や攻撃範囲もバラバラな連撃を仕掛けたが、ランは耳で感知し、ジネスは足で素早く動いて全て回避してみせた。


(いくら強力な異能力とはいえ、やはり即席で用意した個体。複雑な技を使うまではいかないな)


 高速移動、目からの光線、風圧による衝撃攻撃。バズは現時点での持てる手札のほとんど退けられてしまった。


(さて、あらかた対処しつくした。こうなれば奴がしてくるのは)


 ランは次にバズがどんな行動をするのかも、ある程度予想はしていた。

 直後、バズは今いる空間の丁度中心位置に陣取り、両腕を広げて構えを取った。


(来たか。作戦通りだな)


 実はここまでのバズの動きの流れは、ランが思い浮かべたシナリオ通りに進んでいた。バズ、というよりその裏にいる黒幕に、あの大技を使わざる負えない状況を作ったのだ。

 バズを中心として周囲を吸いこもうとする力が働き始める。躍起になっているのか、その引力は一発目のとき以上に強くなっていた。


「発動したか。しかも、さっきより強力と来たか!」


 ジネスが爪を地面に深く刺してどうにか吸い込みに耐える中、ランは動きが遅れてしまい、剣を地面に刺すも浅くなってしまう。

 せめてもの抵抗と出血も恐れず剣の刃を両手に持って吸引を耐えようとするランだったが、やはり準備が足らず、床に刺さった剣ごと引き抜かれた上で、ランの身体は剣を手から放して宙に浮いてしまった。


「空中にまで持ち上げられるとは! クソッ、体の自由が!」


 如何に器用なランといえど、浮遊した状態で瞬時に踏ん張りが効かせる事は出来ず、一気にバスの元にまで引き寄せられてしまった。

 ランは抵抗しようと出血している右拳を前に出すが、それも虚しくバズの右手に捕まってしまい、身体が取り込まれ始めた。


「ラン!」

「すぐに引っこ抜く!」


 ランの身体は咄嗟に右腕を引っこ抜こうとしたのか、左腕をも突撃させた。だが効果は悪あがきにもならず、より体の体積を取り込まれる形になっていた。


 右腕のほとんどと左腕の一部を取り込まれるラン。ジネスは下手に攻められなくなり、バズは動きを止めたジネスに狙いを定めた。

 バズが足を踏ん張らせ、次の突撃でジネスも取り込もうとしたところだが、ここですぐ隣から騒ぎ声が突然止んだ。


 バズを操る人物が不思議に思ったのか、バズの首を横に回す。するとさっきまであれほど暴れていたランが、落ち着いた様子のランが口を開いた。


「ピンチごっこはこんなもんか」


 次の瞬間、突然バズは頭の天辺から足のつま先まで全く動けない金縛りが起こった。何が起こっているのか分からない敵側に、ランは自分から説明し始めた。


「なんで身体が固まったか分からないってか? 簡単な話だ。俺の腕を取り込んだ時に、異物を混ぜた」


 ランが話を進めていると、彼の口の中から小さな石が見え隠れしているのが分かった。まさしく異世界の結晶だ。


(効果てきめんだな、吸血鬼の結晶。感謝するぞ、ドS令嬢)


 ランが加えていたのは、以前カルミから貰った『吸血鬼の世界』の結晶。その効果は、出血した自身の血液を操作する事だった。

 バズは出血したランを取り込んだことで、彼の血までも取り込んだ。全身に広がった血液は体のいたるところで固定され、肉片の一つも飛ばせないように身動きを止められてしまったのだ。


「お前自身が吸収したおかげで固まった。自分の異能力が仇となったな。ジネス!」


 ランに叫ばれた事で、逃げも防御も出来ないバズに対しジネスは改めて面と向かう。その右拳には、ランが咥えているものとは違う、別の結晶が握られていた。

 これはランが抱えられたところから降ろされるとき、自然流れで渡していた『勇者の世界』の結晶だった。


 全てがランのシナリオ通り。バズの肉片からの再生をさせず、尚且つ周りに被害を出さずに倒す方法。それは内部から身体を固定した状態で、一気に全身を跡形もなく破壊するしかなかった。

 そこでランは抱えらた身体を降ろされる際、ジネスに『勇者の世界』の結晶を渡していた。彼にトドメを差してもらうために。


「本当にやるぞ。いいんだな!」


 ジネスの右手には七色の光が輝いている。ランは結晶の効果が表れている事を確認し、ジネスの問いかけに答えた。


「大丈夫だ。脱出の算段はある」


 根拠のない台詞。だがジネスはランの答えを聞きいれ、もう聞こえもしないのであろうバズに対して話しかけた。


「ようやくだ。父さんの仇、母さんの仇、俺の復讐……これで、終わらせる!」


 ジネスは真正面から飛び込み、雄叫びを上げながら力の籠った右手を広げ、バズの胸元を貫いた。結晶を床に落としつつも、付加された過度なエネルギーは瞬く間にバズの全身を巡り、口や目元から光を溢していく。

 そして全身が光り輝き、ジネスが身を引くと同時に小規模な爆発を起こした。


 襲い来る火の手。ジネスは紙一重でこの炎から逃れることが出来た。だがジネス以上にバズの傍にいたランは、敵と共に爆炎に包まれてしまった。


 ジネスはすぐにランの無事を確認しようとした。しかし爆破によって発生した火災と煙で眼前は包まれ、何も見えない。何より音が聞こえてこなかった。


「クソ……アイツ、このギリギリに虚勢を張ってたっていうのかよ。自己犠牲なんて真似、俺は……」


 ここにきて恩人を殺してしまったのではないか。ジネスは自分に対する疑念ではらわたが煮えくり返りそうになったが、そのとき、彼の耳に微かながら声が聞こえて来た。


「誰がお前の為なんかにそんな真似するか。俺は家内の為にしか体張る気はねえんだよ。あと、結晶を落とすな。それ大事なもんなんだ」


 声の聞こえてきた方向に目を向けるジネス。爆煙から堂々とランが姿を現した。


「お前、どうやって!」

「血を操る能力を使ってたんでな。接触直前のタイミングに、腕を包む血の膜を作っておいた。後は爆発直前に手袋を脱ぐ要領で外れればいい」

「直前のタイミングって……どんな紙一重のタイミングを見定めたんだ」

「こんくらいやんないと、俺の立場がないんでな」


 目の前にいる男の凄さが垣間見え、ジネスは改めて得体のしれない味方に驚き、同時に喜ばしく思った。

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