【第57話】君と出会う前のこと
お待たせしました。
今回はセレスト視点です。
めちゃくちゃ難産だった上に、長くなりました。
わりとシリアスなので、辛くなったらごめんなさい。
2026/06/10追記
お久しぶりです。
とても長い時間が経ちました。
申し訳ありません。
現在、続きに取り掛かるべく、読み返しと練り返し?をしています。
続きを書く前に、この57話の終わりがけの王子のお直しを、当時書いた時から考えていたので、少し改変と追加がされています。
すでに読んだ方も、気になる方は読んでみてください。
よろしくお願いします。
ーsideセレストー
「殿下、お勉強中失礼致します。此度の洗礼式で面倒事があったようでございます」
何があったのか、ノイマンが持っていたのは、重要事項用の装丁がされた報告書だった。
「面倒ごとねぇ…」
王族教育を受けているをところに報告書が舞い込む事はよくある。
世情を知る事も、王族として当然しなければならない事だからだ。
いくら10にも満たない歳でも、何も知らないでは居られないのが王族というものだ。
だが、洗礼式での出来事で報告書が来るとは珍しい。
しかも重要事項だ。
受け取った報告書に早速目を通す。
「ふぅん…神聖特性とは珍しい。…な?!その上、魔力量9だと?!」
「……はい。現存のリヴィア王国での最高魔力量保持者が代わりました」
「……そういうことに、なるな…」
報告書に書かれていたのは、洗礼式後の診断中に起きた傷害事件についてだった。
マルセール公爵家のカインが、ハワード家のユリシスに炎魔法を放ち、それを幼い義妹が庇い重傷を負ったという事件のあらましと、それぞれの人物の詳細や証言が纏められていた。
ユリシス・ハワードが診断された後、家族との歓談中に、背後から近付いたカイン・マルセールが炎魔法を放ち、それに唯一気が付いた6歳の義妹が、飛び出して庇った…か。
「かなりの重症だったようだな…いたましい……。これに6歳の少女が耐えられるものなのか?生きているだけでも奇跡だ」
「治癒魔法使いが命を削ってもなお、治せるかどうかという重症だったにも関わらず、妹御は意識を保っていたそうですから、想像を絶っしますな……」
読むだけでも目を背けたくなるような重症だったアメリア・ハワードについて口にすると、孫を持つ侍従のノイマンは、傷ましげに目を伏せた。
「ふむ…。目撃者の証言によると、意識を保っていたどころか、義兄を気遣って居たようだぞ。……信じられんほどの精神力だな」
「衝撃が大き過ぎると、痛みがわからない事もあるとは聞きますが、どうであったかは……」
「…あぁ、だが痛み以前に、炎魔法の前に飛び出す時点で敬服するよ……」
しかも、恐ろしい思いをしてまで庇った兄は、実の兄では無い。
それどころか義妹自身こそが直系。
しかも義兄は……醜い容姿だという……
(……義兄の方が義妹を庇うならわかるが)
嫌悪されるはずの容姿の義兄を、ここまでして庇うのは…理解に苦しむな。
(……まさか嫌悪していないとでもいうのか?!そんな人間が兄上以外にそうそう居るものか!!)
「この兄妹の関係が気になるな…」
「兄の方は今回の事で神殿と王城へ召喚される予定ですので、機を見て殿下がお会いになる事は、比較的容易かと存じます」
「ふむ、では兄の方はそれとなく手配してくれ」
「かしこまりました」
早速とばかりに、ノイマンが部屋から出て行った後も報告書を手に、思考に沈む。
妹の負傷を、その場で兄が治癒しきったそうだが、これにも驚くばかりだ。
しかも、これだけの重症の治癒を施した後もピンピンしていた上、封印の魔法まで使って平気でいるとは…魔力量9とは途方もないな。
魔力量の数値は一段階上がる毎に、大きな差がある。
数多いる貴族の全てを10段階に割り振るので、当然一つの段階毎の敷居が高いのだ。
魔法特性は完全に血統に依存するが、魔力量については遺伝だけでなく、神の采配が大きい。
だが、それでも神の采配以前に、魔力量の多い者を家系に取り込む事が、手っ取り早く血統の強さを維持する方法だ。
公爵家という王家近い血筋で、魔力量6を排出するのがやっと。
魔力量7や8を必死に維持している王家。
魔力量9など尋常ではない。
女性だったなら、王太子である長兄の嫁候補に上がっただろう。
(まぁ実際は男で、では王女にとなったところで、まず容姿でひっかかるだろうがな…)
このユリシス・ハワードの診断が下るまで、現存する中での王国最高の魔力量保持者は、魔力量8で王太子だった。
王太子である長兄は、僕が最も尊敬し、唯一慕っている人だ。
今年20歳を迎えた長兄は、正に神に愛されたような男で、容姿は王国一と謳われ、その内面も慈悲深く理性的で聡明だ。
長兄は僕と違って、それはもう王国一と呼ばれるに相応しい容姿なのだ。
体は雄大で包容力の塊。
なだらかな鼻梁、柔らかで質量のある頬、それに押し上げられるようにして常に微笑んでいるかのような双眸…そして柔らかく広がる優しげな眉。
肌もで綺麗で、非の打ち所がないのだ。
「美しい」とは、長兄の為にあるような言葉だと思う。
そんな誰もが焦がれる容姿の長兄は、幼い頃からその片鱗をみせ、それはもう周囲全てから愛されていたし、勿論今も愛されている。
長兄は物心ついた頃から、貰った愛情をそれ以上に周りに与えるような人だったらしい。
そんな人格者でもある長兄は、洗礼式後、リヴィア王国が誇る王太子となった。
僕は長兄の立太子後に産まれた、三番目の王子だったが、産まれて1年が経つ頃には、その容姿が問題視されるようになった。
王族は王族だからこそ、長兄ほどとはいかずとも、容姿と魔力量に優れるのが当然だ。
だからこそ、成長するにつれ醜悪さを増す僕の容姿は、王族である家族にとってこそ、受け入れ難いものだったようだ。
特に幼い兄妹達にとって、初めて間近で見る醜悪な容姿の人間である僕。
それを見て嫌悪感を抑えることは、とても難しいに違いない。
自分ですら鏡を見る事に慣れるのに時間がかかったのだから、容易に理解できる。
兄妹どころか産みの親である母上ですら、僕を前にすると、青い顔になんとか笑顔を張り付けて接するのが精一杯なほど、僕の容姿は極まっていたのだ。
僕が歩き回れるようになると、両親と次兄と長女は、僕を離宮に遠ざけた上で隠そうと言い始めた。
それが僕の為だと言っていた。
実際僕も、嫌悪感を我慢しているのを見るのは、辛く悲しく思っていたから、僕の為だと言うのも、嘘ではなかったんだろう。
でも、嫌悪を抑えるのが辛かったのも理由の一つだったんじゃないかと思う。
まだ幼いながらに衝撃を受けたから、よく覚えている……
そんな中長兄だけが、自分が愛された分を分け与えるかのように僕を気にかけ、僕の離宮送りに反対し、孤軍奮闘してくれた。
長兄だけが僕の心の支えだった。
長兄の慈悲深さが、如何に王族といえども生涯軟禁状態もあり得た僕を守ってくれた。
王城内でかろうじて立場を失わずにいられたのだ。
その長兄あってこそ、王城内で表立って私に悪い顔をしてくるものが少なく済んでいる。
感謝しても仕切れない。
兄上こそ、神に愛されるに相応しい。
ーーそんな王族である長兄の魔力量を超えるとは、ユリシス・ハワードは、どれだけ神に愛されているというのだろう。
…しかも、僕のように醜悪な容姿で。
……そして、アメリア・ハワードは、兄上のように嫌悪感に打ち勝つ慈悲深さの持ち主なのだろうか?
(気になる…全てが気になる……)
義妹については、噂程度の情報が入って来てはいたが、信憑性に欠ける話しだけだった。
(早くユリシス・ハワードに会ってみたい!)
そして程なくして、ユリシス・ハワードに会う機会を得た。
ユリシス・ハワードと顔を合わせた瞬間、僕は笑顔の奥に隠しながらも、驚愕した。
実は僕は、自分が世界で一番醜悪な容姿なんじゃないかと思っていたんだ。
だけどユリシス・ハワードは、そんな僕ですら及ばない程の、醜悪な容姿だったから……
鏡で自分を見慣れているからこそ、お首にも出さないでいられただけ。
そんな出会いのお陰で、神に愛されてるだとかそんな事は、その瞬間吹き飛んでいってしまっていた。
ユリシス・ハワードという男は、少し暗くて、とても控えめで穏やかな人物だった。
この容姿なら、卑屈で捻くれていてもおかしくはないのに、そういった歪さはあまり感じられない。
……それが不思議でならない。
長兄に守られた僕でさえ、正直…どこか歪んでいる自覚があるから。
だがユリシス・ハワードは、義妹の話をする時はその雰囲気をガラリと変える。
執着というべきか、崇拝というべきか…とにかく尋常ではないほどに、義妹を大切に思っているという事が、次第にわかって来た。
…これは言い過ぎかもしれないが、いっそ義妹の為に生きているのではないかとすら思える話しぶりだった。
そんなユリシス・ハワードに、僕は次第に親近感を覚えるようになっていった。
そして、ユリシスを呼び捨て、砕けた会話が出来るようになってきた頃には、アメリア・ハワードに会いたくて仕方がなくなっていた。
ーーーだって彼女は、嫌悪感を克服しているのではなく、醜悪な容姿が好きなのだと聞いたから。
少し前に聞いた、信憑性がないと思っていた噂話が、事実だっただなんて……
(あぁ、早く会いたいな、アメリア・ハワード…)
そして、頃合いを見計らって、ユリシスに招待状を預けたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ノックの音で顔を上げると、ノイマンだった。
「殿下、ハワード家のご兄妹が参りました」
「ああ」
読むともなく開いていた報告書を閉じて立ち上がる。
この報告書は、6月末の洗礼式後の傷害事件について書かれたもので、事件直後には僕を含む城内の要人に回されていたものだ。
これから会う兄妹を待つ間の暇つぶしに眺めていたのだが…
(記憶に没入してしまっていたんだな……)
事件当事者兄妹の内、ユリシス・ハワードとは既に何度も会っていて、砕けた会話ができる程度にはよしみを結んでいるが、義妹のアメリア・ハワードは今回の招待が、待ちに待った初対面になる。
報告書では、幼いながらに聡明だと書かれていただけだが、ユリシスから聞けば聞くほど気になる存在で、招待状を送ってから今日を迎えるまでが、長く感じたのだ。
「…嫌悪を克服して見せるどころか、あえてそれが好きだなどど、前代未聞だ。想像もつかないな」
内心の期待を抑えつけるように呟くと、その独り言にノイマンが反応した。
「…殿下、直前になって不安になられたのですか?」
そう問われると、確かに不安がないとは言えないが……それとは別に、こうも思う。
「………いや、どうかな…。“不用意に期待するな”と、釘をさして欲しいのかもしれないな…」
そう言いながら、先ほどまで眺めていた執務机の上の書類に目をやる。
僕のしてきた期待というものの裏側には、いつも絶望が隠れていた。
「その期待はお前を裏切るぞ」と、待ち構えるように。
それなのに、今回ばかりは……”期待はずれなんだろう?“と思いながら、“期待を超えてくれ”と願ってしまう。
そんな、期待と不安の区別がつかないような、表裏一体な感情が渦巻いて、自分で自分の気持ちが整理できないでいる。
「……」
ノイマンは少しの間のあと、やれやれと首を振るに留めた。
マントを羽織り、身だしなみを整える。
ノイマンの手直しを軽く受けた後、私室を後にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇
兄妹を招待した、茶会室の扉の前に立つ。
「第三王子、セレスト殿下の御成です」
この扉の向こうに、アメリア・ハワードがいる。
(やっと、やっと会える……)
読んで頂き、ありがとうございます( ˊ̱˂˃ˋ̱ )
あまりに久しぶりに活動を再開するので、違和感なくお直しできてると良いのですが…
とにかく書くことを再開したいと思いますので、がんばります!
ブックマーク・☆評価・イイね!して頂き、ありがとうございます。
とても励みになります( ˘ω˘ )g
書け次第投稿していきますので、不定期更新ですが次回もよろしくお願いします(*´꒳`*)




