【第49話】私、なんとかなったみたいです
大変お待たせいたしました( ˘ω˘ )
イケメンお兄様に、自分を守る魔法だと言われるのは、正直言って天にものぼる気分である。
挙動不審になるのも仕方がないことだと思う。
「養父様、頂いた杖に魔力を通してペンダントにするのを試してみてもいいでしょうか?」
「うむ。そうだね。魔力を持ったからには、いつでも携帯した方がいい。やってみなさい」
すると、端の方に控えていたお父様の従者がスススっとこちらに来て、箱を差し出した。
「預かっていた杖だよ。さぁ、杖が小さくなることを想像しながら魔力を流してみなさい」
「ありがとうございます」
お兄様は杖を箱から取り出すと、じっと杖を見つめた。
(魔法はイメージって、それよく言われるヤツ!)
イメージできたのか、そのまま集中するように目を閉じたお兄様の綺麗な睫毛をガン見する私。
淡く白い光が杖を包んだと思うと、見事に杖は、お兄様の手のひらに収まるサイズに変わったようだ。
実寸大で見えていた杖が、お兄様の手に収まったようで、こちらからは見えなくなったのだ。
「……できました。小さくなっても、やはりこの杖は美しいですね」
「うむ。一度で成功したね。魔力の操作も抜きん出ているかもしれないね、ユリシスは」
神はお兄様に、”この世界での美しさ“以外の全てを与えるつもりかな?と思いながら、それも悪くないなとニマニマしてしまう。
(それどころか私から見たら、見た目すら完璧なんだけどねっ!ふっふっふ!)
そんな優越感にひたっていた私の視界に入ったのは、お兄様の向こう側から、こちらに向かって歩いてくるカインの姿だった。
プライドの高い公爵家子息の事だ、何か嫌味でも言いにくるのかなと辟易していると、カインがお兄様に向けて手をかざした。
(……え?なに?)
お兄様は背を向けているし、お母様とお父様も、杖にチェーンを通すお兄様の手元を覗き込みながら会話しているので、妙な動きのカインに気がついていない。
混乱しながらもカインの様子をお兄様越しに伺っていると、かざした手から炎が小さく揺らめいた。
(ウッソでしょ?!まさかお兄様に?!)
思った瞬間、お兄様の後ろに向けて飛びこむ。
ボウゥ!
「なっ?!」
背中に当たる衝撃と、その衝撃でお兄様にぶつかった事、カインの驚いたような声が聞こえた事はわかったが、実際に何がどうなったのか分からない。
「ア……メリア?…アメリア?!」
「「アメリア!!」」
「「キャアアーーー!」」
「なんだ?!」
お兄様やお母様達の声が聞こえる。
周りの人の悲鳴や怒号もうるさいほどだ。
衝撃への驚きが落ち着いてくると同時に、激痛が襲って来た。
「う“ぐぅ………っ…!」
(痛いっ痛すぎる!!!背中、どうなっちゃった?!)
痛みを息を止めて堪える。
「どうしてっ?!何が起きたのっ?!」
「アメリアが……アメリアが…」
「炎か?!!」
もはや、痛みを堪える為に息をとめているのか、痛みで息が止まってしまっているのかすら分からなくなった。
お母様は悲痛な声をあげ、お父様は状況を把握しようと声を上げている。
(……痛いけど……)
家族が混乱した声をあげているが、大事な事を聞く。
「お兄様……っ、お兄様にっは、…当たっ…てっ、居ませんか?」
「アメリア……あぁ…アメリアがっ…」
「ユリシスは無事よ!!アメリア、聞こえる!?あぁっ!!こ、こんな大きな怪我…っ、待っていて!私が命を賭けてでも、なんとかするわ!!」
「ユリシスを庇ったのかい?!なんて事だ!!アリステア、頼むよ!痛みだけでも取ってやってくれ…!」
(……良かった。お兄様は無事か)
そこでやっと、痛みに閉じてしまっていた目をこじ開ける。
最初に目に飛び込んできたのは、私の目の前で床にへたり込んでいるお兄様の足。
そして視界の端には、毛先が縮れて短くなった自分の髪が見える。
「……!!アメリアっ!僕を庇ったの……?」
「アメリア、頑張るんだよ!すぐにアリステアが治してくれるからね!」
そう聞こえたあと、冷たく震える手が私の頬を包んだ。
視線を上げると、お兄様はハラハラと涙を流して居た。
小さく私の名前を呼び続けるお兄様に胸が痛む。
(あぁ…私の大切な人が泣いている……)
「だ…いじょうぶ……痛いけど、大丈夫ですよ」
「アメリア……アメリア…」
お兄様の顔が近づいて来て、私の額にお兄様の額が当てられた。
カッカと熱を帯びる自分の顔にヒンヤリと感じる、お兄様の手も額も心地いい。
そう思って目を閉じると、瞼の向こうが明るくなった。
(!?)
今度はなんだと目を開けると、お兄様が光って居た。
(……これ…は……)
どんどん輝きを強めるお兄様。
「「ユリシス?!」」
お父様とお母様の声と同時に、視界が真っ白になる。
目を開けて居られない光に瞼を閉じる。
少しして、瞼の中が暗くなってから目を開けると、私達の周りにチラチラと光の粒子が舞っていた。
「はにゃっ?!」
思わず変な声が出たが、それも仕方がないだろう。
私は今、どこも痛くない。
視界に入る自分の髪も、元の長く綺麗なプラチナブロンド。
(治ってる?!)
あんなに痛かった身体が、突然通常営業な感覚に戻ったので、頭がついていかなかった。
お兄様は私の全身をざっと見回した後、涙に濡れた瞳をギュッと閉じると「良かった……」と言って、私をかき抱いた。
「良かった…アメリア……良かった……。もう痛くない?」
「…どこも!痛くありません!」
「あぁ…良かった……!」
私を抱きしめるお兄様は震えて居た。
震えるお兄様の身体と、包まれる温もりが切なくて、涙が盛り上がって視界を潰す。
嗚咽が漏れそうになって、私もお兄様の背中に腕を回してギュッとしがみついた。
「……っふ、う、お兄様ごめんなさい。ありがとうございます」
「……なんでっ、アメリアが謝るの…っ」
「だって……、お兄様を泣かせてしまいました…っ」
さらに私を抱きしめる腕に力がこもった。
「そんなのはいいんだ……!いいんだよ……。でも、もう二度と僕を庇ったりしないで!!アメリアを……失ってしまうかと思った……絶対に、二度としないで!」
「……うぅ…」
さっきのも無意識だった。
咄嗟の時には身体が勝手に動いてしまうようなので、全くもって約束できそうに無い。
「はい」も「いいえ」も言えず声を漏らしただけになった。
「……ユリシスが治してくれたのかい…?」
「そうとしか思えないわ……。私はまだ治癒魔法を準備して居た段階だったもの……」
絞り出すかのような声で問いかけたお父様に、お母様が言う。
「やった事もないのに、勝手に申し訳ありません……。アメリアを失いたくないと思ったら……」
私を抱きしめる腕を緩めて、お兄様はお父様たちの方へ向けて頭を下げた。
「いや……実際治ったんだ。謝らなくていい。よくやってくれた!ユリシス!!」
「そうよ……!アメリアを助けてくれてありがとう。ユリシス!……私ではここまでの治癒は出来なかったと思うわ…」
言いながらお母様は、お兄様ごと私を抱きしめた。
「アメリア……本当に…無事で良かった。もう、どこも痛くないのよね?」
「はい!お兄様の魔法は凄いです!元通り、どこも痛くありません」
「そう…良かった……」
確認してお母様はやっと柔らかな笑顔を浮かべた。
「ユリシス…本当にありがとう。私が命を賭けようとも傷が残ってしまうのではないかって……とても…とても、不安だったのよ。髪まで元通りだなんて、アメリアに傷が残らなくて良かった……」
そう言って、もう一度ギュッと腕に力を込めてから腕を解いたお母様は、自分が纏って居たストールを私に纏わせると、立ち上がった。
そして、その顔に鬼の形相が浮かんだのを私は見てしまった。
思わずお父様をみると、お母様と目を合わせて頷き、こちらも鬼の形相へと変化した。
(……ひえぇっ)
お父様とお母様がブチ切れるところを、初めて見た。
自分に向けられて居るわけでもないのに、思わず私はゴクリと息をのんでしまった。
治ってそれで「良かったね」で済まないのは当然だった。
痛いやら、お兄様が泣いていたやら、信じられない完全復活で忘れかけて居たが、犯人がここに居るのだ。
(カインよ、震えて待て……!フォローはせん!激痛は忘れんぞ!!)
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