【第44話】私、氷系男子も好物ですよ
お待たせいたしました( ˘ω˘ )
カインの婚約者候補を見事回避した私は、お兄様の10歳の誕生日を一週間後に控えて、ウキウキと準備をしていた。
この誕生日を迎えれば、お兄様は魔法を発現できる歳になるという事だ。
イケメン魔法使いの資格を得る。
イケメン要素については元々免許皆伝どころか始祖様みたいなものなので、正しくは魔法使いの資格を得る…だ。
免許皆伝とか始祖様とか脳内の中二病が暴走しても仕方がない。
なぜならば、目の前に王子様なお兄様があるからだ。
(我ながら、良い感じ……んはぁっ!)
私は今、アトリエに居るのだが、目の前のイーゼルにはかなり本気で描いているお兄様の絵が掛けられている。
今までは、漫画のワンシーンや表紙絵のようなものを描いてきたが、今回は趣向を変えている。
今回のお兄様は、王城に飾られている王族の絵のような雰囲気を目指してみた。
正に、王子様を王子様らしくキリリと描くのである。
重厚な感じも出したいので、水彩で厚塗りを目指す。
パソコンで描くのと違って、色彩調整や光度をお手軽にいじれるわけも無いので、全てが自分の手にかかってくる。
正直マジで苦労した。
完成した絵を想像して、自分の手でその色をつくる。
一度違う紙で色合わせしてから、色を乗せていった。
最終的にはデジタルより、少しだけぼんやりとはしてしまったが、かなり重みのある物に仕上がった。
深い色や光沢もつけられて明暗を出せたので、デジタルで描いた場合の想像図にかなり近づけられたと思う。
自分で描いておきながら、王族風のお兄様にゾックゾクする。
「王族だけにー!なんちゃって!」
集中し過ぎて疲れたからか、はたまた元からなのか、しょうもないギャグを言いながら、どんな額縁に入れようか考えていた。
完全に乾いて、手直しするところがなければ、額に入れてお兄様にプレゼントするのだ。
誕生日プレゼントを用意したくとも、私ができることは限られ過ぎていた。
侯爵家から私に当てられている予算で、プレゼント出来そうなものをお取り寄せするか、自分で何かするしかなく、私としてはファンアート一択だった。
そして、もう一つ今までに無かった特別な事を、と考えたのが、お兄様に晩餐に参加してもらい、家族だけで誕生日パーティーをしようという計画である。
私がお兄様の所に遊びにいったり、稽古の見学に行くようにはなっていたが、食事は今だに一緒に摂ることが出来ていなかったのだ。
この誕生日パーティーを機に、全ての食事を、皆で一緒に取れるようにしたいのが、この計画の最終目標だ。
明日には、アニーの弟のレイモンドが従者として侯爵家にやってくる。
従者がまともなら、お兄様も、もう少し屋敷の中を動きやすくなるので、それも最終目標にプラスに働くだろう。
一人で屋敷内を歩きまわるのは、自宅とは言え気が引けるものなのだ。
お母様もお父様も私も、基本一人きりなのは、自室でくつろいでいる時だけで、部屋を出ると、侍従か侍女が付き従う。
侍従がちゃんとした者であれば、自室と食堂の行き来も気軽にできるようになる…はずだ。
そうでなければ、お兄様が歩き回る事に嫌な反応を示した使用人は、私がバッタバッタと薙ぎ倒していく所存である。
そんなこんなで、記念すべきお兄様の10歳の誕生会のため、パーティーの時のメニューや飾り付けをお母様と相談しながら考えたり、お兄様とのペアルックも用意してもらい、後はこの絵を額縁に入れるだけというところまで来ている。
(どうしよう…お兄様にプレゼントするけれど、この王子様バージョンのお兄様を毎日拝みたい…)
◇◇◇◇◇◇◇◇
レイモンドが来る時間になった。
昨日はあれから、乾いた絵は満足の出来栄えだったので、額縁をオーダーしているところだ。
レイモンドが来る日には私も同席したいと頼んであったので、アニーの弟はどんな感じかと楽しみに思いながら、既にレイモンドが来ていると言うサロンへ向かう。
(レイモンドにはどんな癖があるのかなぁ〜)
忠誠心が振り切れているという癖があるアニーから、勝手にレイモンドにも何か面白い癖があるのではないかと考えてしまう私。
既に従者に内定はしているので、敬称を省いて呼んでいる。
(アニーがアニエスタの愛称だから、レイモンドはレイって呼べたらかっこよくない?…いや待てよ、こっちの世界でのめっちゃイケメンだったら、ふかふか体型で鋭い響きのレイってのも、なんかしっくりこないかも…?)
後ろにアニーを引き連れて、鼻歌を歌いながらサロンへの道を歩いていると、お兄様が見えた。
「お兄様!!」
「やぁ、アメリア。何だかご機嫌だね?」
私がご機嫌なことが嬉しいとでも言うように、ふわりと笑うお兄様。
(しゅてき…)
「それはもう!アニーの弟だと言うのも一つですが、お兄様にも真面目な従者が付けば、快適に過ごせるようになりますからっ」
「……そうだね。ありがとう。アメリア」
愛おしい者を見るかのような柔らかな視線を向けるお兄様に、私はのたうちまわりたくなった。
(そんな目で見ないでーーー!惚れてまうやろおおっ!)
相変わらずの私キラーなお兄様。
(私はショタコンではないぞ!決して違う!)
実年齢と続柄的には問題なくとも、精神年齢的にはまずいので、必死に心の中で否定する。
「もう先にサロンに来て待っているそうだよ。一緒に入ろうか」
「はいっ!楽しみですね!アニーも、会うのは久しぶりじゃない?」
そう言ってアニーを振り返ると、キリリとしたアニーは「お眼鏡に叶うと良いのですが」と真面目な返事をした。
私の最優先がお兄様であることを、言わずとも知っているアニーは、お兄様の従者に選ばれた弟には“何としても職務を全うするように”という言い含めを固く誓っていたので、責任感に溢れた顔になっているようだ。
サロンへ入ると、既にお母様とレイモンドが向き合っていた。
お母様がソファに掛けていて、レイモンドがその前にスッと立っていた。
そう…スッとである。
この意味がわかりますか?
(イケメンきちゃああああああああっ!!!!!)
「アメリア……」
(はい、バレました。すぐバレました)
流石に3人目ともなると、私がイケメンに過剰反応していることは即バレしてしまった。
「は、はい。ふふふ…」
「その笑いは何かな?……もう…」
私がイケメンにはしゃいでしまうのを、お兄様はあまりよく思ってないようなので、表面にそれを出さないように努めねばならないのだ。
自分にはしゃがれる分には黙認してくれる様なので、そんな嫉妬のような態度も私は勝手に楽しんでいる。
(イケメンの嫉妬に見える態度まで提供してくれるスーパーお兄様には、感謝しかないっ!)
それにしても、この世界の神は私へのイケメンの供給を怠らないらしい。
神に話が及ぶのには理由がある。
普通は世に出るのを躊躇うイケメンが、外に出て働くのは、非常に優秀…どころか、天賦の才レベルの優秀さだからこそ出来ることだ。
ウェイバー卿然り。
前世で言うイケメンが産まれた貴族家では、運よく結婚できて当主になれれば、社交は夫人に任せて領政に励む。
ただこれは稀な事だ。
結婚できず当主になれなかったり、次男以降の場合は、実家で籠る様にして過ごす場合が多く、なんなら長男であるにもかかわらず、その見目のせいで継承権を下げられて、こもって過ごす場合も多い。
……これが、家庭教師達からの情報収集で得てきた事実だ。
つまり、その天賦の才レベルの優秀さを持ったイケメンが、今ここにいると言う事だ。
(これが神の所業でないとすれば何なのだ?!)
「ユリシス、アメリア、来たわね。レイモンド、長男のユリシスと長女のアメリアよ」
「は。お初にお目にかかります。アニエスタの弟、ホーク家三男、レイモンドと申します」
まさにクールな従者然とした所作で頭を下げるレイモンド。
(かっけええええええ!従者服似合い過ぎじゃなぁい?!声もイイっ!!)
どうやらホーク家は黒の色調が多い家系な様で、アニーもそうだが、黒髪だ。
アニーは瞳がグリーンだが、レイモンドはまさかの黒髪黒目である。
顔が洋風だと、黒髪黒目でも、全然アジア人には見えない。
(ただ、四六時中一緒にいる従者となると、お兄様はどう思うかな…?)
「ユリシスだ。とても優秀だと聞いているよ」
「妹のアメリアですわ。是非お兄様に尽くしてくださいませ!」
「は。不肖ながら、誠心誠意お仕えさせて頂きます」
貴族家出身の者は、前任のお兄様の従者もそうだったが、どこか上位貴族に媚びたところがあるか、仕える事に対して薄っすらと反抗心が透けて見える場合があるが、レイモンドにそれは一切見当たらない。
まるで生まれながらの従者なのかと思うほど……なんなら圧を感じるほどの従者感である。
(従者なのに、主人公オーラを出している!すげえ!これぞ従者の中の従者!本物だ!)
「少し話してみたのだけれど、私は彼、とてもいいと思うわ。ユリシス、彼で決定でいいかしら?」
「養母様は話されて良いと感じたなら、僕も問題ないように思います」
流石お母様は理性の人なので、優秀なところを買って、彼に完全に決定しても良いと考えているようだ。
そしてお兄様も、従者にあえてこの世界のイケメンを置きたがると言うこともなく、レイモンドで決定で良いようだ。
自分と同じタイプだからと、嫌悪感が皆無なわけではないと思うので、少し不安だったが大丈夫なようだ。
「アメリア、貴女の推薦だったけど、安心して任せられそうよ。ありがとう」
「いいえ!流石アニーの弟ね!既に従者の鏡のようではありませんか!」
少しはしゃいでしまったが、冷静にこちらを見るだけで、表面上はノーリアクションなレイモンド。
「…恐縮です。それでは、本日からお仕えすると言う事でよろしいでしょうか?」
「来たばかりだけれど、大丈夫かしら?荷物の整理もあるでしょうし、明日からでいいのよ?」
「いえ、荷物などはさして御座いませんので鞄を置いたら直ぐにでもお付き出来ます」
(ぐおおおお!無表情でやる事だけやる!つよい!尊い!)
「では、部屋へ案内だけさせますから、その後準備ができ次第という事でいいわ」
「承知いたしました」
これは、氷系男子な癖を持った従者がやって来たということで間違いなさそうである。
お兄様の生活も向上しそうだし、私も眼福だしで、神に感謝したい。
(これからもイケメン供給、お待ちしておりますっ!出来れば嫁ぎ先候補もお願いしまぁぁあっす!!!)
調子に乗って、嫁ぎ先のイケメンも頼んでおいた。
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