【第31話】私、願望に忠実ですので
やっとユリシスとの時間が増えてきそうです。
部屋に入ると、お兄様は一人だった。
「ご機嫌よう養母様、アメリア」
「ご機嫌よう。今いいかしら?少しお願いがあって来たの」
「大丈夫です」
お母様に合わせて挨拶した私は、静かに待機する。
お母様は、お兄様の返事を聞いてすぐに自分の侍女に目配せする。
それを受けて、マーサと私の侍女のアニーが、応接間のテーブルにお茶を用意し始める。
「……ありがとうございます」
「いいのよ、突然来たのはこちらだもの。さぁみんなでお茶にしましょう」
お茶の準備を手配したお母様に、少し気まずそうにお礼を言うお兄様。
突然来たとはいえ、本来は迎えた側の侍女などがお茶の場を準備するが、お兄様は普段から使用人がそばに居ないのかもしれない。
お兄様自身の意思で使用人を側に置いていないというのもあるとは思うが、女主人がやってきたのに、直ぐに呼べるところに侍従が待機していない時点で、私の中でお兄様の侍従に×を付ける。
お兄様の対面に私とお母様が座り、お茶の準備が整った。
ドキドキしながらお母様がお兄様へお願いを切り出してくれるのを見守る。
お兄様は、一瞬私に目で微笑んでくれた。
(んぎゃおっ!なにそれ、さり気なさがカッコ良すぎる!)
お兄様は、お母様に顔を見せる事はさほど抵抗がない様子だったので、内心ほっとした。
思えば、お兄様が他の家族と一緒にいるところを見るのも初めてだったのだ。
「早速本題でごめんなさいね。お願いというのはね、アメリアに触りだけでもいいから文字を教えてあげて欲しいという事なの」
「なるほど。構いませんよ」
「そう?助かるわ!ユリシスもいつも時間が取れるとは限らないだろうけど、アメリアの語学の教師が決まるまででいいから、お願いするわね」
「はい、喜んで。うまく教えられるかは分かりませんが、精一杯努めさせて頂きます」
言いながらこちらにニッコリ笑ったお兄様に、私の心臓はノックアウトである。
(ハートとかノックアウトとか、私古っ!)
「良かったわね、アメリア」
「はいっ!ありがとうございます!お兄様、お母様!」
脳内で自分にツッコミを入れつつ、お兄様と、お願いしてくれたお母様にお礼を言う。
お母様は、お兄様が私に向ける笑顔を微笑ましそうに見ていた。
(ニッコリなお兄様に、お母様もニッコリで良きかな!)
それからは、お兄様に足りないものはないかと、お兄様の世話を焼くお母様に、お兄様がわたわたする時間を過ごし、私はニマニマしながらそれを見守った。
お茶を一杯飲み終わる頃、お母様が大事な事を切り出してくれた。
「私はもう行くけど、ユリシス、今日からアメリアをお願いしていいかしら?予定がない日からで良いのだけど」
「はい。剣術の師匠が来るまで用事は有りませんので、今日からでも大丈夫です」
「そう?ではアメリア、しっかり学んでちょうだい。ユリシス、ありがとう。それでは先に戻るわね」
「はい!」「はい」
お母様が部屋から出ると、アニーが私の斜め後ろに控えて居る以外は誰もいなくなった。
(うおおお!嬉しいけど、緊張するぅー!昨日の最後の方の記憶ないしっ!)
とりあえず、昨日のフォローをしておかねばと口を開く。
「昨日に引き続き、お勉強会も引き受けて頂いてありがとうございます!お兄様。……ところで、昨日どうやって帰ったのか記憶がないのですが……私、失礼な事をしませんでしたか?」
「ふふふっ。大丈夫だよ、アメリア。今日からよろしくね。会いに行くのはまだ気が引けたから、会える理由が出来て嬉しいよ」
(え、かっこいい……。かっこいいが過ぎるぅ!)
イケメンの「会える理由が出来て嬉しいよ」に、胸を詰まらせる。
「わっ私の方が嬉しいです!大丈夫だったなら良かったです!」
「うん。とても可愛らしかったから、いつまでも見ていられそうだったけど、21時にはアメリアの侍女を呼んで、帰りを見送ったから安心して」
「そ、それは本当に大丈夫だったのでしょうか……」
(なんか不安しかないけど……悪くは思われてないっぽい)
「もちろん。さぁ、今日は基本文字の書き取りからでいい?」
「はい!よろしくお願いします!」
お兄様の反応から見るに、多分暴走していたんじゃないかとは思うが、ここで掘り起こしても藪蛇な気がするので、深く聞くのはやめた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
(最高の時間だった……)
そろそろ剣術の師匠が来ると言うので、筆記用具を片付けながら、隣にお兄様が座って教えてくれるという幸せな時間を振り返る。
「じゃぁ僕ももう行くから、一緒に出ようか」
(はっ!!まって!まってええ!私にはもう一つ叶えたい願望が!!!)
「あっ!あのっお兄様!私も……私も一緒に行って、剣術のお稽古を見学してはいけませんか?!」
今まで隠れてやっていた稽古だろうから、ダメかもしれないが、頼んでみないことには始まらない。
昨日の今日で図々しいことだが、イケメンの剣術の稽古が見たくてたまらない。
「うーん。アメリアは参加できないから、見てるだけでは詰まらないかもしれないけど……それで良ければ、いいよ」
「っわあああ!ありがとうございますっ!」
(っしゃああ!流石お兄様、優しい!)
「だけどアメリア、僕の剣の師匠は……その、僕と同じタイプの見た目の人だからね、そこだけ覚えておいてね?」
ーーーーー!!!!?
(ま じ か ? !)
それはつまり、お兄様の師匠はイケメン騎士そのものということではないだろうか?!
目を見開いて固まる私に、私の美醜観を思い出したお兄様は、ちょっと意地悪な顔をして言った。
「そうだったね。アメリアは僕みたいな顔が好きなんだった。ダメだよアメリア、師匠は年が離れすぎてるからね!」
(えっ!えっ?!嫉妬ですかあああ??!!!って言うか、今のちょっと悪い顔もう一回見せてっ……!)
少しずつ見せてくれる、増えていくお兄様の表情に、私はヘロヘロになりそうだ。
「そ、そんなに節操なしではありませんよ!あくまでも、お兄様の見学ですっ!」
ーーーそう思ったはずだったんだけどね……。
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