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【第29話】僕の大切な妹

引き続きユリシス視点です。

長くなってしまいましたが、お付き合い頂けると嬉しいです。



ーsideユリシスー



一人で来た僕は、自分で控えめなノックをして来訪を告げる。

直ぐに侍女がアメリアに伝えて、ドアを開けてくれたが、今更足が前に出ない。


(動け……!)


なんとか足を動かして室内に入ると、信じられないくらいに綺麗なアメリアが見えたけど、すぐに視線を床に落とした。


(綺麗だよ、アメリア……)


もう少し着飾った妹が見たいけれど、ぐっと堪えて、不躾な目線を送らないよう……そして僕の顔が少しでも隠れるよう、床を見たまま進む。


「おにぃ……さま!お兄様……なんて尊いのでしょう……」


アメリアの詰まったような震える声が聞こえた。

尊いという言葉を僕に対して使うのは、よく分からないが、もしかしたら養母の用意した衣装の事かもしれない。


そのまま静かになったのが気になって視線を上げると、アメリアは目をつぶっていて、その目尻には涙が滲んでいた。


(やっぱり、ダメだったのかもしれない……)


分かっていても、少し期待をしてしまっていたのか……アメリアからの拒絶の悲しみを(こら)えながら、挨拶をする。


「…………ご機嫌ようアメリア。……その涙は……僕が怖いから?」


(意地悪だっただろうか?……僕って性格悪いのかな)

 

つい、本当のことが聞きたくて、怖いからか?と尋ねてしまった。


アメリアは衝撃を受けたような顔をしてから、必死に否定した。

そして、自分の失敗を嘆いて泣いたんだと言い募った。

それから促されて話したアメリア話に、今度は僕が衝撃を受けた。


(かっこよくて綺麗?……この子は何を言っているんだろう……?)


涙を滲ませるアメリアを見ながら混乱していたら、アメリアがこちらを見つめ直したことで目が合ってしまい、慌てて顔ごと目を逸らした。

それきり何ていったら良いのか分からず、無言になってしまう。


(あんなこと言われたことないから、なんて言えばいいのかわからないよ……)


顔を逸らして固まっている僕を、アメリアが物凄く見ている気がする。

こんな視線は感じたことがないけど、とにかく物凄く見られている気配がする。


(どうしよう……どうすればいいの)

 

なにか空気が動く気配がして、アメリアの方を見たけど……


ーーーー?!!!!


何が起きたのか、分からない。

アメリアが近づいて来るのが見えたけど、何もできなかった。

腕を広げて迫って来たアメリアを認識はしたけれど、ゆっくり見えるそれを、腕を出して止める事も、横にずれる事もできず……

結果、捕まえられるようにして抱きしめられていた。 


もちろん抱き止めるなんて大胆な事は出来なかったので、アメリアがどこかぶつけて怪我でもしていないかと、オロオロする事しかできない。


「ア……メリア、な……に…してるの」


実の両親以来の他人からの抱擁に、心臓がバクバクとうるさい。

とにかく状況を把握しようとなんとか(たず)ねる。


「何でしょう……?お兄様が帰ってしまうかと思って引き留めている?」


アメリアの答えに、なるほどと思ったけど、疑問系だったのが、引っかかった。

それをさらに問いかけると、「自分でもよく分からない」といって謝って気まずそうな顔をしていた。


(僕は小さな妹を問い詰めるような事をして、何をしてるんだ……逃げるつもりなんかないって、言ってあげれば良いだけじゃないか!手紙に書いてあった事全部、僕は叶えに来たんだから!)


「……大丈夫。逃げないよ。ちゃんとパーティーに参加するし、”話“もきくよ」

「ありがとうございます!」


こんな事で嬉しそうに返事をしてくれるアメリア。


僕の胸に頬を押し付けているアメリアには、このうるさい心臓の音が聞こえているだろう。

 

(恥ずかしい……)


逃げないと言えば、離れてくれるかなと思った小さな希望は暫く叶わなかったけど、何だか満足そうな顔をしたアメリアを引き離す気にはなれなかった。


どれだけそうしていたのか、ようやくアメリアが離れたが、そのまま両腕を取られてまた戸惑う。

だけど、席へと可愛らしく引っ張るアメリアを見て思い出す。


(そうだ、僕は大事なことをまだ言ってない。ちゃんとアメリアに言わなくちゃ)


「遅くなったけど、誕生日おめでとうアメリア」

「……ありがとうございます!お兄様!」


目を見ていうと、アメリアは静かに大興奮しているかのように、目をキラキラとさせて頬を染めていた。


(こんなに喜ばれるなんて……遅くなっちゃったけど、言えてよかった……)


用意された席に近づくと、あまり見慣れないものが並べてあった。


(絵画?……ーーっ??!!!)


僕だった。

僕の絵が飾られていた。

いつ描かれたものなのか、モデルになった記憶はない。

おそらく、想像して描かれたものだろうが、どう見ても僕だと分かる絵だ。

しかも、鏡を見たり肖像画に描かれた僕は、自分でも嫌悪感が湧くのに、なぜかここに描かれた僕には、嫌悪感がほとんど湧かないようなのだ。


(……すごいっ!)


初めての経験に驚いて、絵から目が離せない。


(アメリアはこんなに素晴らしいものを用意してくれていたんだ!?)


一応本当に自分か確かめたくて、アメリアに訊く。


「もしかして……これは、僕……?」

「そうですっ!私が描きました!!」

「え……?」


頭がついていかなかった。


(……確かに養母(はは)が、アメリアが準備を頑張っていると言っていたが、アメリアが描いただなんて……)


「私、絵を描くのが好きなのです!そんな私が、大好きなお兄様を描くのは当然の流れではありませんかっ!」


手間を惜しまないという意味でも、絵の出来が凄いという意味でも、信じられない思いで絵を見ている僕に、元気なアメリアの声が届いた。


(じゃぁアメリアは、あの時少し見ただけの僕を思い出して、これを描いてくれたってこと……?)


ほとんど会ったことのないアメリアに、大好きと言われても、”信じられない“と普通は思うだろう。

だけど、この絵を見てそんな事が思える冷たい人間は、そうそう居ないだろう。


こんな風に笑う僕を想像してくれて、温かな光で大事に(つつ)むように描かれてる……。

鋭く威厳を感じさせる僕や、穏やかに眠る僕。

そして……アメリアを抱きしめて微笑んでいる僕。

腕の中のアメリアは幸せそうで、アメリアが僕と過ごしたいと言った事が、嘘ではないのだと実感する。


描かれているのが自分なのに思ってしまう……

 

(なんて綺麗なんだろう)

 

「……アメリアには……僕がこんな風に見えているの?」


思わず声に漏らしてしまったのを、アメリアが拾う。

そうですよ!と胸を張るアメリアは、僕が美しく見えているのだと言い張るので、またわけがわからなくなってしまう。

またも疑問をぶつける僕に、アメリアはゆっくり話そうと席を勧めてくれた。

そう言えば、席を用意してくれていたのに、いつまでも立ちっぱなしにさせていたことに気がついて、謝る。


「あ……ごめんね。アメリアをいつまでも立たせたままだった。つい見入ってしまったよ。アメリアは絵が上手なんだね」


謝った勢いで本音を漏らすと、アメリアは全然言えてない可愛らしいお礼を言っていた。


(なんだろう、今の。すっごく可愛い)



それから席についたあと話してみると、アメリアはまるで大人と会話しているように感じられるほどに、受け答えがしっかりしていて驚いた。

そう思って褒めると、可愛げがないという意味にも聞こえたらしく、しゅんとするアメリアに、必死で僕は謝った。


(アメリアがしゅんとすると、僕が泣きそうになるんだけど……何だろうこれ)


そして、パーティーの始まりを告げる乾杯をした。




アメリアから聞いた話は、とても驚くべき事だった。

なんと、アメリアは男性に対してだけ、美醜の感覚を逆に感じてしまうというのだ。

アメリアは順序立てて話してくれるので、とてもわかりやすい。

それを信じられるか……と言われると、まだ完全には無理だと思う。

だけど、アメリアの真剣な目。

キャンドルの光をキラキラと反射しながら、僕から全く逸らされない真っ直ぐな瞳が、”嘘なのでは“と疑わせてくれない。

本当に綺麗なものを観るように、僕を見て来るのだ。


(こんなの、信じたくなってしまう……)


しかもアメリアは僕と話すのも好ましいと言ってくれた。

話してみても、好ましいと言われたのも初めてだ。


隠しきれないと言わんばかりの好意を僕に示してくれたのは、母だけだった。

父は、僕がこんな造形になったのは自分のせいだと、僕に負い目を感じていたようで、遠慮がちな愛情を示していた。

養父母(りょうしん)も僕に好意を寄せてくれていると分かるが、僕が受け止められてなかった。

だからそれを配慮して、少し遠巻きに見守ってくれているように思う。


そこにアメリアは、好きな人に好きって言って何が悪いのだ!僕が受け止めきれなくたって、一緒に持ってやる!と言わんばかりの勢いで、僕に好意を示してくれるのだ。


(なんて無茶で……でも、あったかいんだろう。一目惚れってなんだよ……バカだなぁアメリア……)


一目惚れだなんてバカな事を言うアメリアが、愛おしくて可愛い。


(だから僕も返したい)


一生懸命説明してくれたアメリアの話を、僕は信じることにする。

そしてアメリアが見たいのなら、この醜い顔もアメリアにだけは見せる努力をすると約束した。

それだけで、アメリアはぴょんぴょんと嬉しそうに弾んでお礼を言って来るのだ。

嬉しくて思わず初めてアメリアに笑顔をむけて「こちらこそ」と返すと、びっくりするくらい(とろ)けたような顔になっていた。

ちょっと心配するくらいの顔だったので、どうやら本当にアメリアには僕が美しく見えているようだ……。



飾っている絵をプレゼントしてくれると言うので、アメリアのクルクル変わる表情や、爆発するかのような僕への気持ちを聞きながら、絵の説明をして貰った。

結局、最初から気になっていた、僕がアメリアを抱きしめている絵を選んだ。


(言葉だけじゃなくて、なにか他に僕にできる事でも、アメリアを祝えないかな?絵のお礼もしたいし……)


そう思ってアメリアに、僕にできる事はないかと訊ねると、また凄く動揺しながら喜んでくれた。

そして、アメリアが選んだ誕生日プレゼントの内容に、僕は絶句した……。


(プレゼントがおやすみのキスって何だろう……)


今日絵を選んでいる時くらいから思っていたが、アメリアは少し……ぶっ飛んでいるような気がする。

言葉は悪いが、ちょっと変な子なのかもしれない。


(だけど、それがアメリアの可愛いところだよね)


言葉を失った僕を見て、必死で取り消し要求をして泣きそうになるアメリア。

 

(こんなの、僕が恥ずかしいってだけで断っちゃダメでしょ……アメリアが望むなら、僕は叶える)


決心した僕はドキドキしながら、人がいない事を確認して、アメリアにおやすみのキスを贈った。


その後アメリアは……なんと言うか壊れたおもちゃのようになってしまったので、少しだけ後悔した。


だけど、どう見ても幸せそうなアメリアに僕は笑顔が溢れてしまう。



僕は今日から、この少しぶっ飛んでいて、とても可愛らしい妹を、一生大事にしようと誓ったのだった。


読んで頂き、ありがとうございます( ˊ̱˂˃ˋ̱ )


ブックマーク・イイね!して頂けると、大変励みになります( ˘ω˘ )g

書け次第投稿していきますので、不定期更新ですが次回もよろしくお願いします(*´꒳`*)


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