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君に愛を乞う  作者: 京町ミヤ
第1部
58/204

第58話

夏季休暇が明け、九月に入った日の放課後。


いつも通り幸雄は陽羽と共に帰路を共にする。幸雄はチラッと横目で陽羽を見た。


連続無差別殺人事件の犯人。魔物のナハトを倒してからだ。陽羽を見ると心が締め付けられるような、けれど胸が暖かいと感じるようになったのは。


特に陽羽の笑顔を見ると、それは激しさを増す。


「もっと見たい」、「触れたい」とそう思うようになった。が、以前、澪に「触れていいのは好きな人にだけ」と言われてしまっている。


幸雄は必死にその衝動を抑えていた。しかし、幸雄と陽羽には週に一度の魔力の譲渡がある。嫌でも触れる(それもキスだ)事になる。


(やはり俺のせいで…)


陽羽にも迷惑をかけてしまっている。そう思うのに時間はかからなかった。


魔力の操作に上手下手はあるものの、訓練を積んだものならある程度は操れる。魔力の受け取り等、自分が「受け取る」という意思さえ持てば、半自動的に添人から魔力を受け取れるのだから、至極簡単なものだ。


しかし、それが出来ない幸雄だ。勿論理由はある。


ゼプテンバールが、幸雄が魔力を操るのを拒否しているのだ。ゼプテンバールの魔力を埋め込んだという事は、彼の意識が多少なりと幸雄の中にあるという事。


つまりは、ゼプテンバールが承諾しない限り、幸雄はキスでしか陽羽から魔力を受け取れないのだ。


何度か掛け合ってみたが、無残に切り捨てられてしまった。

ゼプテンバール曰く「ケツの青いガキに僕の魔力なんてくれてやるかよ」との事だった。


考え込んでいると、不思議に思ったのか、陽羽が幸雄の顔を覗き込んだ。


「長月君…どうしたの?」


「あ…いや…何でもない」


「そう?何でも言ってね…?」


あぁ、まただ。陽羽は優しいからすぐにそう言う。自分以外の者にもこう優しいのか、と思うと流石と思う反面、何故か胸がちくりと痛む。


(相談してみるか…)


一人で悩むよりかはいいだろう、と陽羽に相談しせんと声をかけようとした時だった。

二人の後ろからスマホを見ながら自転車を運転している男性が、陽羽のすぐ横を通過した。


「きゃっ!」


陽羽が身を引くと、足を縺れさせて体制を崩してしまう。幸雄は後ろから抱きかかえるかのようにして受け止めた。


「………」


自分よりも小さく、包み込めてしまえそうな小さな身体。柔らかくて、髪からはシャンプーかリンスかの心地よい匂いがする。


「びっくりした…。長月君…ありがとう」


(やっぱり離したくない)


自然と力がこもり、陽羽を更に抱き寄せる。


「えっ…」


このまま離さなければ、もう陽羽は怪我をしなくて…怖い目に合わなくていいのか。そう思うと離そうと思いながらも離せなかった。


「長月君、ちょっと…痛い…」


「!」


強く抱き締めすぎたらしい。慌てて手を離した。


「すまん…!」


「ううん。…大丈夫?」


幸雄と向き直って、陽羽は心配そうに眉尻を下げる。


(そうか…俺が壊してしまうという事も…)


今のようなごちゃごちゃな心のままでは、陽羽に迷惑をかけてしまうかもしれない。傷つけてしまうかもしれない。そう思うと自然と手から力が抜けていく。


「…あぁ、大丈夫だ。帰ろう」


「う、うん…」


その後。陽羽は何度か話を振ったが、いつものような明るい返答は帰ってこなかった。

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