第57話
「…陽羽が消えたって聞いた時…。胸が苦しかった。心配で心配で…怖くて、自分の不甲斐なさを呪った。お前の傷を見て、目の前が真っ赤に染まった。俺は……」
「…長月君…?」
「…俺は…」
「………怒って…くれたのね…」
「……?」
陽羽は幸雄を見上げ、頬に触れた。
「長月君が来てくれて…嬉しかった。勿論、睦月さん達が来てくれたのも嬉しかった。
でもそれ以上に…長月君が来てくれて凄く安心したの」
「嬉しい…?」
「うん。私の身を案じてくれたんだ、って。…私からは…怒ってるように見えたよ…?」
ゆっくりと幸雄の目が見開かれていく。
───そうか。あの胸の焼けるような。頭が締め付けられるようなあの感覚が。
陽羽を傷付けたナハトを見た時に湧き上がった熱いものが"怒り"なのか。
「…そうか…」
「…?」
「…そうなると…俺は陽羽に何かが起こる度に怒らなくちゃいけないな…」
「…っ…!」
遠くから洋子の声が聞こえる。幸雄は陽羽を抱き上げ歩き始めた。
「わっ」
「掴まってろ。…絶対離さないから…離れないから」
最後に念を押すように陽羽を見つめた。陽羽は幸雄の服を掴み、ゆっくりと頷いた。
「…うん…。長月君…重くない?」
「重くないが?」
「…ごめんね…ありがとう…」
夜空に広がる星空が、二人の上に広がっていた。
満天の星以外に、建物の屋上から二人を見下ろす影がある事には誰も気が付かなかった。
赤い絨毯と黒い壁。沢山の本棚に囲まれた部屋の一室に、その男はいた。
漆黒の髪にエメラルドのような瞳。尖った耳にはピアスがつけられていた。
その男の向かいに立つ、深緑の髪の男もまた、尖った耳を持ち合わせていた。
「───以上。ナハトが殺られたそうです」
関西弁の訛りがかかった喋り方で、深緑の髪の男は述べた。
「ほう。それで?」
「珍しい魔力を持った少女がいるそうです」
「珍しい魔力…」
ふっ、と漆黒の髪の男は笑った。見る人が見れば、それに恐怖すら感じるだろう。
「…人間界にいる魔物に伝えろ。その娘を捕らえろ、とな」
「ほんなら、その少女を…?」
あぁ、とその男は笑みを深めた。
「……御意」
関西弁の男は深々と頭を下げ、部屋を後にしたのだった。




